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その後の日常-デート- おまけ※
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※このお話は「その後の日常-デート-※」のおまけです。初めてのデートでラブホに入り、「電車ふう」の部屋を選択した二人は……。
〈倉知編〉
電車風の部屋は、一見すると普通に見えた。
バスルームの照明がピンク色だったり、いかがわしいアイテムの自販機があったりするので「ラブホ感」はあるが、「電車感」はどこにもない。
「あれ? 全然電車じゃないですね」
トイレを開けて確認していると、加賀さんがのんびりした声で言った。
「まあ別に、いいじゃん普通で。先にシャワーする?」
ジャケットを脱いだ加賀さんが、ベッドに腰かけている。前髪をかき上げ、俺を見た。突然色気を放出され、目が泳ぐ。
「か、加賀さん、イヤそうだったのに、やる気満々じゃないですか」
「ここまで来たらヤるしかねえ。ていうか、倉知君とのセックスが嫌なはずないじゃん」
「セッ……、あの、嬉しいです」
前屈みになる俺を笑って見ていた加賀さんが、腕を広げた。
「おいで」
胸が高鳴り、身震いが起きた。俺は加賀さんの「おいで」が大好きだった。
いそいそとベッドに片膝をついた瞬間、加賀さんが「あ」と声を上げて俺の背後を指差した。
「あっちまだ見てないよな」
「え?」
加賀さんの指の先を見た。入口と反対方向にもう一つ通路がある。
「あそこが電車風の部屋じゃない?」
「見落としてました。きっとそうですね」
ベッドの上の加賀さんににじり寄る。
「見に行かないの?」
「先にちょっと、キスだけいいですか?」
「はいはい」
加賀さんが顔を寄せてくる。位置がずれた雑なキスなのに、気持ちよかった。
もう、電車風の部屋とか、どうでもいい。
このまま押し倒そう。
襲いかかる。伸ばした両腕が、虚しく空振った。するりと俺をすり抜けた加賀さんが、ベッドから飛び降りて、さっさと奥へと消えていく。
膨らんだ股間を鷲づかみにして、肩で息をした。頭の中がエロで覆い尽くされている。
「倉知君、どしたー? おいでよ倉知くーん、面白いよ?」
加賀さんの声が俺を呼んでいる。股間を見下ろしてから天を仰いだ。
「今行きます」
電車風の部屋を選ばなければ、今頃加賀さんを裸にしている。
悶々としながら通路を覗き込むと、見慣れた電車のドアがあった。屋内にそぐわない光景に、思わずテンションが上がる。
「えっ、すごい、電車のドアだ」
「中もすげえぞ。よし、入るか」
加賀さんと並んでドアの前に立つ。うんともすんとも言わない。
「あれ、どうやったら開くんだろう」
「手動だって」
ドアの窓ガラスにステッカーが貼られている。二人で笑いながらドアをこじ開け、中に入った。
中もちゃんと電車になっている。思っていたようなおもちゃ臭さはない。つり革も座席シートも荷物を置く棚も、天井までもが本物クオリティだ。
「すごい、電車だ」
全部のつり革を無意味に揺らしてみたり、シートに座って跳ねてみたり、へえ、わあ、ふうん、とキョロキョロ見回した。
「加賀さん、見て、なぜかここにティッシュの箱が」
荷棚にポツンと置き忘れられたティッシュの箱を指差した。
「面白いですよね、なんでティッシュの忘れ物?」
加賀さんは黙っている。視線を感じて目を上げた。目が合った。正しくは、鏡に映る加賀さんと目が合った。本来外の景色が見えるはずの電車の窓が鏡張りになっている。鏡の中の加賀さんが笑って俺を見ていた。
入口のドアにもたれて立つ加賀さんを振り返って、頭を掻く。
「あ、あの、すごい、電車ですね」
「うん、すごい電車だな」
加賀さんがにこにこ笑顔だ。はしゃぐ俺が面白かったらしい。頬が熱くなる。
「加賀さん」
「うん」
「と、とりあえず」
「うん」
「並んで座って写真撮りますか?」
「お、おう。いいけど、そこ綺麗かな」
「え? 見た感じ綺麗です」
「若干抵抗はあるな。シートにいろいろ染み込んでそう」
「あ、そういう、体液的な……、あっ、このティッシュの箱って、そういう?」
「うん、多分。エロいことするための空間だからね」
そうだった、ここはラブホテルだ。そういうことをする用の電車なのだ。よく考えると意味がわからない。
「まあ、せっかくだからここでする?」
加賀さんが両方の手でつり革をつかみ、体重をかけてギリギリと音を鳴らす。
「えっ、ここで?」
「電車でセックスしたいから電車風の部屋選んだんだろ?」
セックスはしたいけど、電車でしたいなんて変態的な願望は持ち合わせていない。でもしたくないと言えば嘘になる。というか、むしろ朝の再現をするためにスーツと学ランで来たかった。かといって別に、毎朝の電車で加賀さんに発情しているとかじゃないし、満員電車で抱きたいとか非常識な欲望は持ち合わせていない。本当だ。俺はただ純粋に、シチュエーションはどうあれ加賀さんを抱きたい。
今考えたことをそのまま口にしたらとても気持ちが悪い。気持ち悪さを緩和させるために、頭の中を整理した。そして、単純明快な回答を思いつく。
「いえ、ただ電車が好きなんです」
「ふうん?」
加賀さんと目が合った。つり革にぶら下がり、下から俺を覗き込んでいる。
「ひえっ……」
あまりのカッコよさに、息をのんで顔を覆う。
「何その悲鳴」
「あの、俺、その」
顔を覆ったまま、うめく。
「緊張して……、駄目です……」
「電車だから?」
「違います、かっこ、よすぎるんです……」
力が抜け、その場にしゃがみ込む。
いつもカッコイイけど今日は本当に、どうかしているくらいキラキラだ。
「つむじ」
頭の上に加賀さんの声が降ってきた。頭頂部をツンツン弄られている。
「倉知君のつむじ、初めて見た」
ぐるぐると円を描く動きは滑らかで、優しかった。加賀さんに触れられている。意識すると股間が熱くなってきた。
「なんか可愛いな、つむじ」
「そう、ですか?」
「倉知君のつむじだから可愛いのか?」
うずくまった体勢で、舞い上がる。胸を押さえ、「加賀さん好き加賀さん好き」と口中でつぶやいた。
「人のつむじなんてどうでもいいもんな。つむじに着目したの人生で初めてだわ。あ、つむじつむじ言いすぎてゲシュタルト崩壊してきた。つむじだっけ? つむじで合ってる?」
「……加賀さん、面白い」
「倉知君、今勃起してる?」
体が勝手にビク、と反応した。
「ガッチガチ? つむじでイク?」
「それは、さすがに……ないです」
と言いつつ、髪に指が絡む感触が気持ちよくて、爆発しそうだった。
「立って。なんかめちゃくちゃ倉知君の勃起チンコ見たくなってきた」
「さっき見たじゃないですか、トイレで」
「何回でも見たいんだよ。お前だって俺のチンコ無限に見たいだろ」
「無限に見たいです」
「見せてやるから立て」
立て、の「た」で立ち上がっていた。加賀さんが笑いながら、無造作に自分のベルトを外す。躊躇うことなくさらけ出した下半身は半勃起状態だった。
「ありがとうございます」
「うん、触って」
俺の手を導いて握らせると、はあ、と官能的な吐息が漏れた。手のひらで徐々に硬くなり、大きくなるペニス。唾を飲み込んだ。ゴクリ、と車内に音が響き、加賀さんが軽く吹き出した。笑いながら上目遣いで「手、動かして」と軽く腰を揺する。
「は、はい」
おそるおそる右手を動かした。加賀さんが俺のベルトに手をかける。細長い指が、焦らすようにゆるゆるとベルトを外した。
もう、限界だった。
「あっ……、あの」
「ん?」
「ちょっと待って」
両手で加賀さんの体を押し返す。後ろは座席シートで、逃げ場がない。
「うん、どうした」
加賀さんは待たない。ズボンのボタンを外した指が、ファスナーに触れる。
「あ、だめ、動かさないで。自分で、自分でしますから」
「これで感じるの?」
完全に楽しんでいる。ファスナーを上げ下げする刺激で、体が震え、声が漏れる。
「ん……っ、うっ……」
「え、イク? イッた?」
ワクワクした目で俺を覗き込んでくる。顔を背けて射精感に抗う俺の腹を、加賀さんが押した。座席シートで体が弾む。
他人の体液、というワードがよぎったが、すぐに考えなくなった。
脱いだ下着とズボンを床に投げ捨て、加賀さんが俺に跨った。ズボンの中に手を突っ込まれ、引きずり出された俺のペニスは、先端が濡れていた。
「ちょっとイッた?」
ぬるぬるした先端を弄られ、「あっ」と情けない声が出る。加賀さんが腰を寄せ、二人のペニスをくっつけた。体を揺する。裏側が、こすれ合う。
加賀さんが俺の首に腕を回す。密着した下腹部がこすれ合い、俺の口からは情けない喘ぎが漏れる。
「はあっ、だめ、加賀さん、気持ちい……」
加賀さんが俺の口を塞ぐ。チュッと音を立てて唇を吸った。至近距離で微笑まれ、ついに昇天してしまった。
「わ、もう出た」
体の動きを止めて、精液で濡れた手を俺に見せてきた。恥ずかしさで顔が火照る。
「すいません、あの、拭いて、そうだ上にティッシュが」
早口でまくし立てると、加賀さんが「落ち着け」と笑って俺からどいた。荷棚に手を伸ばしてティッシュを取る加賀さんのむき出しの股間。目が釘付けになった。
口に、含みたい。
ゆっくり丁寧に舐めて、舌を這わせたい。
咄嗟にそんな願望を抱いてしまい、自分のはしたなさに驚愕する。
両手で顔を隠して息を殺していると、太ももを撫でる感触。続いてペニスをつかまれた。ハッと指の隙間から覗くと、加賀さんが俺のペニスにコンドームを装着していた。
「えっ、いつの間に」
「うん、今。ベッドの枕元のやつ、一応二個とも持ってきた」
二個で足りるだろうか。一抹の不安がよぎる。
「二個じゃ足りないよな」
「やはり?」
加賀さんが俺のおでこをパチンと打つ。
「この、絶倫チンコめ」
「はい、任せてください」
向かい合う形で再びまたがって、尻に先端をあてがった。腰を下ろす。中に、入っていく。
「狭い……」
思わずうめくと、加賀さんが俺の頬を撫でた。
「ん……、すぐイク?」
「いえ、がんばります」
次はもっと、長持ちさせてみせる。全部中に入ると、二人で息をつき、唇を寄せた。キスをする。舌を絡ませながら、腰を揺する。
ギシギシと、座席シートのスプリングが鳴いた。本当に電車でしているみたいで、若干の罪悪感がある。誰もいない電車に、二人の呼吸とスプリングの音が響く。
加賀さんが、俺の上で跳ねている。首にしがみついてきて、顔は見えない。でもずっと、堪えた喘ぎ声が耳をかすめている。服の中に手を入れて、腹を撫でる。胸を揉む。俺の手の動きに合わせて、加賀さんの体がビクッと揺れる。
最高だった。
気持ちいい、好きです、と必死で訴えた。
加賀さんがイッたのを見届けて、安心して中で果てる。
二回戦は、慌ただしく幕を開ける。今度は立ったまま、ドアに手をつかせて後ろから挿入した。窓ガラスが鏡になっているせいで、表情がよく見える。
目が離せない。
鏡を凝視して、夢中で抜き差しを繰り返した。
無防備に喘ぎをこぼす加賀さんが、鏡越しの俺の視線に気づき、一瞬、すごく照れた。それを見て激しく興奮を覚え、俺は無言で達してしまった。
「……終わった?」
しばらくして加賀さんが訊いた。うなだれた首の裏が赤い。
「はい、でも、加賀さんは一回しかイッてないですよね」
「普通は一回で充分だから。抜いて。シャワーしてくる」
素直に腰を引く。抜け出たペニスの先に精液が溜まっているが、角度は果てしなく鋭角だ。
「マジかよ、めっちゃ勃ってんじゃん。ほんっと元気だな」
加賀さんが俺のペニスを人差し指で押し下げてくる。ぱっと指を放すと元の位置に起き上がる。跳ね上がるペニスで遊ぶ加賀さんがなんだか愛しくて、胸がキュンと鳴った。
「おー、はは、すげえ。ゴム外れねえ」
「加賀さんもまだ勃ってる」
「ああ、うん。すぐ治まるから」
加賀さんが俺の脇をすり抜けて、シャツを脱ぎながら電車を降りていく。コンドームを外して口を縛り、裸の後ろ姿を追った。脱衣室で急いで全裸になり、バスルームに飛び込んだ。
「加賀さん」
「んー?」
頭からシャワーを浴びる加賀さんを、背後から抱きしめた。
「俺ばっかり気持ちよくて、ごめんなさい」
「え、なんで、俺もよかったよ?」
「でも俺、勝手に何回もイッちゃって」
「勝手にって。イケばいいじゃん、好きなだけ」
加賀さんが面白そうな声で言って、俺の手の甲に手のひらを重ねた。
「俺はイキすぎだと思うんです」
ぶっは、と加賀さんが吹いた。
「うん、まあ、うん、否定しないけどな」
「加賀さんを、もっともっと、気持ちよくさせたい」
シャワーの音に紛れて、はあ、とため息が聞こえた。
「お前は健気で可愛いな」
加賀さんが俺を振り仰ぐ。見つめ合ってから、キスをした。
再燃する欲望が、加賀さんの尻をつついている。
加賀さんが笑って、俺の首に手を回す。
「もっと気持ちよくして?」
そんなことを言われたらどうなるか。
お察しの通りだ。
〈おわり〉
〈倉知編〉
電車風の部屋は、一見すると普通に見えた。
バスルームの照明がピンク色だったり、いかがわしいアイテムの自販機があったりするので「ラブホ感」はあるが、「電車感」はどこにもない。
「あれ? 全然電車じゃないですね」
トイレを開けて確認していると、加賀さんがのんびりした声で言った。
「まあ別に、いいじゃん普通で。先にシャワーする?」
ジャケットを脱いだ加賀さんが、ベッドに腰かけている。前髪をかき上げ、俺を見た。突然色気を放出され、目が泳ぐ。
「か、加賀さん、イヤそうだったのに、やる気満々じゃないですか」
「ここまで来たらヤるしかねえ。ていうか、倉知君とのセックスが嫌なはずないじゃん」
「セッ……、あの、嬉しいです」
前屈みになる俺を笑って見ていた加賀さんが、腕を広げた。
「おいで」
胸が高鳴り、身震いが起きた。俺は加賀さんの「おいで」が大好きだった。
いそいそとベッドに片膝をついた瞬間、加賀さんが「あ」と声を上げて俺の背後を指差した。
「あっちまだ見てないよな」
「え?」
加賀さんの指の先を見た。入口と反対方向にもう一つ通路がある。
「あそこが電車風の部屋じゃない?」
「見落としてました。きっとそうですね」
ベッドの上の加賀さんににじり寄る。
「見に行かないの?」
「先にちょっと、キスだけいいですか?」
「はいはい」
加賀さんが顔を寄せてくる。位置がずれた雑なキスなのに、気持ちよかった。
もう、電車風の部屋とか、どうでもいい。
このまま押し倒そう。
襲いかかる。伸ばした両腕が、虚しく空振った。するりと俺をすり抜けた加賀さんが、ベッドから飛び降りて、さっさと奥へと消えていく。
膨らんだ股間を鷲づかみにして、肩で息をした。頭の中がエロで覆い尽くされている。
「倉知君、どしたー? おいでよ倉知くーん、面白いよ?」
加賀さんの声が俺を呼んでいる。股間を見下ろしてから天を仰いだ。
「今行きます」
電車風の部屋を選ばなければ、今頃加賀さんを裸にしている。
悶々としながら通路を覗き込むと、見慣れた電車のドアがあった。屋内にそぐわない光景に、思わずテンションが上がる。
「えっ、すごい、電車のドアだ」
「中もすげえぞ。よし、入るか」
加賀さんと並んでドアの前に立つ。うんともすんとも言わない。
「あれ、どうやったら開くんだろう」
「手動だって」
ドアの窓ガラスにステッカーが貼られている。二人で笑いながらドアをこじ開け、中に入った。
中もちゃんと電車になっている。思っていたようなおもちゃ臭さはない。つり革も座席シートも荷物を置く棚も、天井までもが本物クオリティだ。
「すごい、電車だ」
全部のつり革を無意味に揺らしてみたり、シートに座って跳ねてみたり、へえ、わあ、ふうん、とキョロキョロ見回した。
「加賀さん、見て、なぜかここにティッシュの箱が」
荷棚にポツンと置き忘れられたティッシュの箱を指差した。
「面白いですよね、なんでティッシュの忘れ物?」
加賀さんは黙っている。視線を感じて目を上げた。目が合った。正しくは、鏡に映る加賀さんと目が合った。本来外の景色が見えるはずの電車の窓が鏡張りになっている。鏡の中の加賀さんが笑って俺を見ていた。
入口のドアにもたれて立つ加賀さんを振り返って、頭を掻く。
「あ、あの、すごい、電車ですね」
「うん、すごい電車だな」
加賀さんがにこにこ笑顔だ。はしゃぐ俺が面白かったらしい。頬が熱くなる。
「加賀さん」
「うん」
「と、とりあえず」
「うん」
「並んで座って写真撮りますか?」
「お、おう。いいけど、そこ綺麗かな」
「え? 見た感じ綺麗です」
「若干抵抗はあるな。シートにいろいろ染み込んでそう」
「あ、そういう、体液的な……、あっ、このティッシュの箱って、そういう?」
「うん、多分。エロいことするための空間だからね」
そうだった、ここはラブホテルだ。そういうことをする用の電車なのだ。よく考えると意味がわからない。
「まあ、せっかくだからここでする?」
加賀さんが両方の手でつり革をつかみ、体重をかけてギリギリと音を鳴らす。
「えっ、ここで?」
「電車でセックスしたいから電車風の部屋選んだんだろ?」
セックスはしたいけど、電車でしたいなんて変態的な願望は持ち合わせていない。でもしたくないと言えば嘘になる。というか、むしろ朝の再現をするためにスーツと学ランで来たかった。かといって別に、毎朝の電車で加賀さんに発情しているとかじゃないし、満員電車で抱きたいとか非常識な欲望は持ち合わせていない。本当だ。俺はただ純粋に、シチュエーションはどうあれ加賀さんを抱きたい。
今考えたことをそのまま口にしたらとても気持ちが悪い。気持ち悪さを緩和させるために、頭の中を整理した。そして、単純明快な回答を思いつく。
「いえ、ただ電車が好きなんです」
「ふうん?」
加賀さんと目が合った。つり革にぶら下がり、下から俺を覗き込んでいる。
「ひえっ……」
あまりのカッコよさに、息をのんで顔を覆う。
「何その悲鳴」
「あの、俺、その」
顔を覆ったまま、うめく。
「緊張して……、駄目です……」
「電車だから?」
「違います、かっこ、よすぎるんです……」
力が抜け、その場にしゃがみ込む。
いつもカッコイイけど今日は本当に、どうかしているくらいキラキラだ。
「つむじ」
頭の上に加賀さんの声が降ってきた。頭頂部をツンツン弄られている。
「倉知君のつむじ、初めて見た」
ぐるぐると円を描く動きは滑らかで、優しかった。加賀さんに触れられている。意識すると股間が熱くなってきた。
「なんか可愛いな、つむじ」
「そう、ですか?」
「倉知君のつむじだから可愛いのか?」
うずくまった体勢で、舞い上がる。胸を押さえ、「加賀さん好き加賀さん好き」と口中でつぶやいた。
「人のつむじなんてどうでもいいもんな。つむじに着目したの人生で初めてだわ。あ、つむじつむじ言いすぎてゲシュタルト崩壊してきた。つむじだっけ? つむじで合ってる?」
「……加賀さん、面白い」
「倉知君、今勃起してる?」
体が勝手にビク、と反応した。
「ガッチガチ? つむじでイク?」
「それは、さすがに……ないです」
と言いつつ、髪に指が絡む感触が気持ちよくて、爆発しそうだった。
「立って。なんかめちゃくちゃ倉知君の勃起チンコ見たくなってきた」
「さっき見たじゃないですか、トイレで」
「何回でも見たいんだよ。お前だって俺のチンコ無限に見たいだろ」
「無限に見たいです」
「見せてやるから立て」
立て、の「た」で立ち上がっていた。加賀さんが笑いながら、無造作に自分のベルトを外す。躊躇うことなくさらけ出した下半身は半勃起状態だった。
「ありがとうございます」
「うん、触って」
俺の手を導いて握らせると、はあ、と官能的な吐息が漏れた。手のひらで徐々に硬くなり、大きくなるペニス。唾を飲み込んだ。ゴクリ、と車内に音が響き、加賀さんが軽く吹き出した。笑いながら上目遣いで「手、動かして」と軽く腰を揺する。
「は、はい」
おそるおそる右手を動かした。加賀さんが俺のベルトに手をかける。細長い指が、焦らすようにゆるゆるとベルトを外した。
もう、限界だった。
「あっ……、あの」
「ん?」
「ちょっと待って」
両手で加賀さんの体を押し返す。後ろは座席シートで、逃げ場がない。
「うん、どうした」
加賀さんは待たない。ズボンのボタンを外した指が、ファスナーに触れる。
「あ、だめ、動かさないで。自分で、自分でしますから」
「これで感じるの?」
完全に楽しんでいる。ファスナーを上げ下げする刺激で、体が震え、声が漏れる。
「ん……っ、うっ……」
「え、イク? イッた?」
ワクワクした目で俺を覗き込んでくる。顔を背けて射精感に抗う俺の腹を、加賀さんが押した。座席シートで体が弾む。
他人の体液、というワードがよぎったが、すぐに考えなくなった。
脱いだ下着とズボンを床に投げ捨て、加賀さんが俺に跨った。ズボンの中に手を突っ込まれ、引きずり出された俺のペニスは、先端が濡れていた。
「ちょっとイッた?」
ぬるぬるした先端を弄られ、「あっ」と情けない声が出る。加賀さんが腰を寄せ、二人のペニスをくっつけた。体を揺する。裏側が、こすれ合う。
加賀さんが俺の首に腕を回す。密着した下腹部がこすれ合い、俺の口からは情けない喘ぎが漏れる。
「はあっ、だめ、加賀さん、気持ちい……」
加賀さんが俺の口を塞ぐ。チュッと音を立てて唇を吸った。至近距離で微笑まれ、ついに昇天してしまった。
「わ、もう出た」
体の動きを止めて、精液で濡れた手を俺に見せてきた。恥ずかしさで顔が火照る。
「すいません、あの、拭いて、そうだ上にティッシュが」
早口でまくし立てると、加賀さんが「落ち着け」と笑って俺からどいた。荷棚に手を伸ばしてティッシュを取る加賀さんのむき出しの股間。目が釘付けになった。
口に、含みたい。
ゆっくり丁寧に舐めて、舌を這わせたい。
咄嗟にそんな願望を抱いてしまい、自分のはしたなさに驚愕する。
両手で顔を隠して息を殺していると、太ももを撫でる感触。続いてペニスをつかまれた。ハッと指の隙間から覗くと、加賀さんが俺のペニスにコンドームを装着していた。
「えっ、いつの間に」
「うん、今。ベッドの枕元のやつ、一応二個とも持ってきた」
二個で足りるだろうか。一抹の不安がよぎる。
「二個じゃ足りないよな」
「やはり?」
加賀さんが俺のおでこをパチンと打つ。
「この、絶倫チンコめ」
「はい、任せてください」
向かい合う形で再びまたがって、尻に先端をあてがった。腰を下ろす。中に、入っていく。
「狭い……」
思わずうめくと、加賀さんが俺の頬を撫でた。
「ん……、すぐイク?」
「いえ、がんばります」
次はもっと、長持ちさせてみせる。全部中に入ると、二人で息をつき、唇を寄せた。キスをする。舌を絡ませながら、腰を揺する。
ギシギシと、座席シートのスプリングが鳴いた。本当に電車でしているみたいで、若干の罪悪感がある。誰もいない電車に、二人の呼吸とスプリングの音が響く。
加賀さんが、俺の上で跳ねている。首にしがみついてきて、顔は見えない。でもずっと、堪えた喘ぎ声が耳をかすめている。服の中に手を入れて、腹を撫でる。胸を揉む。俺の手の動きに合わせて、加賀さんの体がビクッと揺れる。
最高だった。
気持ちいい、好きです、と必死で訴えた。
加賀さんがイッたのを見届けて、安心して中で果てる。
二回戦は、慌ただしく幕を開ける。今度は立ったまま、ドアに手をつかせて後ろから挿入した。窓ガラスが鏡になっているせいで、表情がよく見える。
目が離せない。
鏡を凝視して、夢中で抜き差しを繰り返した。
無防備に喘ぎをこぼす加賀さんが、鏡越しの俺の視線に気づき、一瞬、すごく照れた。それを見て激しく興奮を覚え、俺は無言で達してしまった。
「……終わった?」
しばらくして加賀さんが訊いた。うなだれた首の裏が赤い。
「はい、でも、加賀さんは一回しかイッてないですよね」
「普通は一回で充分だから。抜いて。シャワーしてくる」
素直に腰を引く。抜け出たペニスの先に精液が溜まっているが、角度は果てしなく鋭角だ。
「マジかよ、めっちゃ勃ってんじゃん。ほんっと元気だな」
加賀さんが俺のペニスを人差し指で押し下げてくる。ぱっと指を放すと元の位置に起き上がる。跳ね上がるペニスで遊ぶ加賀さんがなんだか愛しくて、胸がキュンと鳴った。
「おー、はは、すげえ。ゴム外れねえ」
「加賀さんもまだ勃ってる」
「ああ、うん。すぐ治まるから」
加賀さんが俺の脇をすり抜けて、シャツを脱ぎながら電車を降りていく。コンドームを外して口を縛り、裸の後ろ姿を追った。脱衣室で急いで全裸になり、バスルームに飛び込んだ。
「加賀さん」
「んー?」
頭からシャワーを浴びる加賀さんを、背後から抱きしめた。
「俺ばっかり気持ちよくて、ごめんなさい」
「え、なんで、俺もよかったよ?」
「でも俺、勝手に何回もイッちゃって」
「勝手にって。イケばいいじゃん、好きなだけ」
加賀さんが面白そうな声で言って、俺の手の甲に手のひらを重ねた。
「俺はイキすぎだと思うんです」
ぶっは、と加賀さんが吹いた。
「うん、まあ、うん、否定しないけどな」
「加賀さんを、もっともっと、気持ちよくさせたい」
シャワーの音に紛れて、はあ、とため息が聞こえた。
「お前は健気で可愛いな」
加賀さんが俺を振り仰ぐ。見つめ合ってから、キスをした。
再燃する欲望が、加賀さんの尻をつついている。
加賀さんが笑って、俺の首に手を回す。
「もっと気持ちよくして?」
そんなことを言われたらどうなるか。
お察しの通りだ。
〈おわり〉
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※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
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なにこれ、尊い。
尊い。
最高、最アンド高。
もっとください。
でも社会人編の最終話読んでしまった。泣きたい。でもおめでとう。主人公のお二人、ご家族の皆様、永遠に幸せでいてください。
仕事あるのに、昨日見つけて、朝8時まで読んでしまいました。眠いです。でも幸せ。
続きを楽しみに待っています。
見つけてくださりありがとうございます^^
朝まで読んでくださって恐縮です。お仕事差支えなかったでしょうか?おつかれさまです…!
社会人編の番外編で、一応の完結を迎えました。たまに書きたくなって書いてしまうのですが(笑)、更新するときは近況ボードでお知らせしまうのでチェックしていただければと思います。
リバが最高!と思った作品は初めてです!
七世君も加賀さんも最高!!!(♡>艸<)
ありがとうございます^^
うれしいです!
本編読了後に急いで番外編にやってきました!
本当に最高の一言に尽きます。
らぶらぶいちゃいちゃで周囲から見てたらイタいくらいのバカップルぶりなのに、、
この2人だから、嫌味じゃなく自然と幸せそうだなぁと心から思います。
素敵な作品をありがとうございます。
同棲編も楽しみます!
引き続き番外編をお読みいただきありがとうございます。
じつはこのシリーズ、130万字を超えていまして…ここからが非常に長いです。
休憩しつつ、お時間に余裕のあるときにぜひお読みくださいませ。
ご感想ありがとうございます~😊