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その後の日常ー冬休みー
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〈加賀編〉
携帯のアラームで目が覚めた。
手探りで、隣を確認する。肉塊に手が触れる、と思ったのに、そこにあるのは冷えたシーツだけ。
一緒に寝たはずなのに、消えている。
先週の金曜から、倉知が泊まりにきている。
今日は月曜だが、冬休みに突入したから昨日も泊まった。と思う。
寝ぼけているのだろうか。
ベッドから下りて、寝室を出ると、いい匂いがした。
「あ、おはようございます」
エプロン姿の倉知がテーブルの上に朝食をセッティングしている。
「ご飯できたんで、顔洗ってきてください」
輝く笑顔が眩しい。
目を細め、はあ、と息を吐いて、その場にしゃがみ込む。
「え、どうしたんですか?」
「やべえ、新婚みたい」
にやける顔を覆って呟いた。平日に泊まったときは、俺が先に起きて朝食を用意する。子どもの世話をしている感覚だったのが、突然の嫁の出現に、頬が緩む。
「しん、こんですか」
倉知がうわずった声で言った。
「顔洗ってくる」
「はい」
立ち上がって洗面所に向かう。
俺より早く起きて、朝食を準備する。
ただそれだけのことなのに、倉知がやるとどうしてこうも可愛い?
可愛い。
エプロンが可愛い。
かいがいしくて可愛い。
なんだこの幸福感は。
顔を洗ってリビングに戻り、味噌汁をよそう倉知の腰に抱きついた。
「う、わ、こぼれた」
「ごめん。だがしかし、抱きつきたい衝動に駆られたのだ」
「なんですかそれ」
「俺の嫁」
広い背中に頬をすり寄せて、胸をまさぐる。
「なんつー逞しい嫁だよこれ」
「どうしたんですか。テンションおかしくないですか?」
「ん、俺が嫁か?」
「え、俺が嫁ですよね?」
自ら嫁だと認めるとは。
「よし、飯食うか」
「はい」
席について、手を合わせ「いただきます」と声をはもらせる。
「今日仕事納めで挨拶回りだけだから、帰るの早いわ」
「わかりました」
倉知が嬉しそうに微笑む。
「部活もないし、部屋の大掃除でもしてます」
「え、何それ。すげえ悪い」
「やりたいんです。駄目ですか?」
「やりたいならいいけど。宿題とかないの?」
「ありますけど、一日で終わらせるんで余裕です」
「お前何気にお勉強できるよな。ていうか味噌汁すげえ美味い」
ついこの間までまともに料理をしたことがなかった奴が、熟練の味を出すから怖い。
「よかったです。母直伝です」
「こういう自然な味の出汁って愛を感じるな」
「そうですね、愛はもう、すごい入ってます」
「おう」
照れ臭そうに、満足そうに、笑っている。
この幸せな温かさ慣れると、まずい、とも思う。
一人になったときがつらい。俺も、倉知も。
あと一年。卒業するまでに一年ある。一緒に暮らすまで、あと一年。
まだ、高校生なんだよな、と改めて倉知の顔を見る。
図体はでかくても、あどけない少年の顔だ。
「可愛いな」
「えっ」
「あ、声に出てた。今の心の声」
「そ、そうですか」
いつまで経っても反応が初々しくて、可愛い。
「俺、今日お前のこと何回可愛いと思っただろう」
「何を言い出すんですか。可愛くないです」
倉知が狼狽して俺から顔を背け、白米を掻き込む。そういう言動も可愛いんだけど、と言おうとしてやめた。
「今日、夜ご飯何が食べたいですか?」
玄関を出るとき、倉知が訊いた。
「うーん、カレー?」
「またですか? クリスマスにしたばっかりですよ」
「うん、チキンカレーにして」
「わかりました。いってらっしゃい」
倉知が身をかがめて、唇にキスをしてきた。
まさかこいつからこんなアクションを起こすとは。
いってらっしゃいのキスをしよう、と決めていたのだろう。自然に出た、というよりおそらく狙っていた。倉知の顔から、やってやった、という達成感がありありと見てとれる。
「……いってきます」
頭を撫でて、外に出ようとしたところで、思い直してドアを閉めた。振り返ると、倉知が不思議そうに俺を見る。
「やべえ」
「え、どうしました? 忘れ物?」
「ムラムラしてきた」
「えっ」
鞄を置いて、倉知の胸ぐらを引き寄せる。唇を塞ぎ、性欲の赴くままに口の中を犯していると、倉知の膝がガクッと萎えた。
「勃っちゃったじゃないですか」
両膝をついて、顔を覆ってうめく倉知の耳が赤い。
「ちょっと、一発やっとく?」
「は、はい?」
「俺もこのままじゃ外に出られない」
股間を指差すと、食いつくように見てくる。
「あの、遅刻しますよ」
熱っぽい目で俺の股間を凝視している。いつもより三本遅い電車に乗ったとしても、遅刻はしない。腕時計で時間を確認してから、靴を脱ぎ、ベルトを外しながら倉知の体にのしかかる。
「五分でいかせて?」
「う、は、はい」
結局倉知が一分もしないうちに先にイッて、そのあと口で抜いてもらった。
身なりを整える俺をじっと見て、倉知が言った。
「電車、気をつけてください」
「ん? 撥ねられるなってこと?」
「そうじゃなくて、痴漢に気をつけてください。今、色気がハンパないです」
真剣な顔で忠告されると怖くなる。素直にうなずいた。
「うん、まあ、用心するよ」
「加賀さん」
「ん」
「痴漢されたこと、ありますね?」
倉知の目がキラリと光る。
「痴漢っていうか、痴女?」
「ちじょ」
「あ、遅刻する。いってきます」
「はぐらかしましたね?」
倉知が俺の肩を掴む。
「ほんと遅刻するから。離してお願い」
腕時計を見て早口で言うと、倉知が恥ずかしそうに訊いた。
「なんでいきなり欲情したんですか?」
「お前が可愛くて我慢できなくなったんだよ」
真っ赤になったのを見届けて、咳払いをしてから言った。
「今度こそいってきます」
「いってらっしゃい」
倉知の火照った頬にキスをして、アパートを出た。
手放したくない。
切実に、そう思った。
〈おわり〉
携帯のアラームで目が覚めた。
手探りで、隣を確認する。肉塊に手が触れる、と思ったのに、そこにあるのは冷えたシーツだけ。
一緒に寝たはずなのに、消えている。
先週の金曜から、倉知が泊まりにきている。
今日は月曜だが、冬休みに突入したから昨日も泊まった。と思う。
寝ぼけているのだろうか。
ベッドから下りて、寝室を出ると、いい匂いがした。
「あ、おはようございます」
エプロン姿の倉知がテーブルの上に朝食をセッティングしている。
「ご飯できたんで、顔洗ってきてください」
輝く笑顔が眩しい。
目を細め、はあ、と息を吐いて、その場にしゃがみ込む。
「え、どうしたんですか?」
「やべえ、新婚みたい」
にやける顔を覆って呟いた。平日に泊まったときは、俺が先に起きて朝食を用意する。子どもの世話をしている感覚だったのが、突然の嫁の出現に、頬が緩む。
「しん、こんですか」
倉知がうわずった声で言った。
「顔洗ってくる」
「はい」
立ち上がって洗面所に向かう。
俺より早く起きて、朝食を準備する。
ただそれだけのことなのに、倉知がやるとどうしてこうも可愛い?
可愛い。
エプロンが可愛い。
かいがいしくて可愛い。
なんだこの幸福感は。
顔を洗ってリビングに戻り、味噌汁をよそう倉知の腰に抱きついた。
「う、わ、こぼれた」
「ごめん。だがしかし、抱きつきたい衝動に駆られたのだ」
「なんですかそれ」
「俺の嫁」
広い背中に頬をすり寄せて、胸をまさぐる。
「なんつー逞しい嫁だよこれ」
「どうしたんですか。テンションおかしくないですか?」
「ん、俺が嫁か?」
「え、俺が嫁ですよね?」
自ら嫁だと認めるとは。
「よし、飯食うか」
「はい」
席について、手を合わせ「いただきます」と声をはもらせる。
「今日仕事納めで挨拶回りだけだから、帰るの早いわ」
「わかりました」
倉知が嬉しそうに微笑む。
「部活もないし、部屋の大掃除でもしてます」
「え、何それ。すげえ悪い」
「やりたいんです。駄目ですか?」
「やりたいならいいけど。宿題とかないの?」
「ありますけど、一日で終わらせるんで余裕です」
「お前何気にお勉強できるよな。ていうか味噌汁すげえ美味い」
ついこの間までまともに料理をしたことがなかった奴が、熟練の味を出すから怖い。
「よかったです。母直伝です」
「こういう自然な味の出汁って愛を感じるな」
「そうですね、愛はもう、すごい入ってます」
「おう」
照れ臭そうに、満足そうに、笑っている。
この幸せな温かさ慣れると、まずい、とも思う。
一人になったときがつらい。俺も、倉知も。
あと一年。卒業するまでに一年ある。一緒に暮らすまで、あと一年。
まだ、高校生なんだよな、と改めて倉知の顔を見る。
図体はでかくても、あどけない少年の顔だ。
「可愛いな」
「えっ」
「あ、声に出てた。今の心の声」
「そ、そうですか」
いつまで経っても反応が初々しくて、可愛い。
「俺、今日お前のこと何回可愛いと思っただろう」
「何を言い出すんですか。可愛くないです」
倉知が狼狽して俺から顔を背け、白米を掻き込む。そういう言動も可愛いんだけど、と言おうとしてやめた。
「今日、夜ご飯何が食べたいですか?」
玄関を出るとき、倉知が訊いた。
「うーん、カレー?」
「またですか? クリスマスにしたばっかりですよ」
「うん、チキンカレーにして」
「わかりました。いってらっしゃい」
倉知が身をかがめて、唇にキスをしてきた。
まさかこいつからこんなアクションを起こすとは。
いってらっしゃいのキスをしよう、と決めていたのだろう。自然に出た、というよりおそらく狙っていた。倉知の顔から、やってやった、という達成感がありありと見てとれる。
「……いってきます」
頭を撫でて、外に出ようとしたところで、思い直してドアを閉めた。振り返ると、倉知が不思議そうに俺を見る。
「やべえ」
「え、どうしました? 忘れ物?」
「ムラムラしてきた」
「えっ」
鞄を置いて、倉知の胸ぐらを引き寄せる。唇を塞ぎ、性欲の赴くままに口の中を犯していると、倉知の膝がガクッと萎えた。
「勃っちゃったじゃないですか」
両膝をついて、顔を覆ってうめく倉知の耳が赤い。
「ちょっと、一発やっとく?」
「は、はい?」
「俺もこのままじゃ外に出られない」
股間を指差すと、食いつくように見てくる。
「あの、遅刻しますよ」
熱っぽい目で俺の股間を凝視している。いつもより三本遅い電車に乗ったとしても、遅刻はしない。腕時計で時間を確認してから、靴を脱ぎ、ベルトを外しながら倉知の体にのしかかる。
「五分でいかせて?」
「う、は、はい」
結局倉知が一分もしないうちに先にイッて、そのあと口で抜いてもらった。
身なりを整える俺をじっと見て、倉知が言った。
「電車、気をつけてください」
「ん? 撥ねられるなってこと?」
「そうじゃなくて、痴漢に気をつけてください。今、色気がハンパないです」
真剣な顔で忠告されると怖くなる。素直にうなずいた。
「うん、まあ、用心するよ」
「加賀さん」
「ん」
「痴漢されたこと、ありますね?」
倉知の目がキラリと光る。
「痴漢っていうか、痴女?」
「ちじょ」
「あ、遅刻する。いってきます」
「はぐらかしましたね?」
倉知が俺の肩を掴む。
「ほんと遅刻するから。離してお願い」
腕時計を見て早口で言うと、倉知が恥ずかしそうに訊いた。
「なんでいきなり欲情したんですか?」
「お前が可愛くて我慢できなくなったんだよ」
真っ赤になったのを見届けて、咳払いをしてから言った。
「今度こそいってきます」
「いってらっしゃい」
倉知の火照った頬にキスをして、アパートを出た。
手放したくない。
切実に、そう思った。
〈おわり〉
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