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1201
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※この話は「加賀×倉知」のリバ要素を含みます。
具体的な性描写は「裏1201」でUPします。
行為前ではありますが、リバを匂わせる雰囲気が駄目だという方は読まないことをオススメします。
〈倉知編〉
『生まれてきてくれてありがとうございます。誕生日おめでとうございます』
日付が変わると同時に、メールをした。
すぐに電話がかかってきて、「ありがとう、おやすみ」と優しい声でそれだけ言うと、切れた。
メールとは別に、どうしても、朝一番に顔を見て「おめでとう」を言いたかった。
だから今日は早く起きて加賀さんが出る時間目がけて、アパートを訊ねた。
「誕生日おめでとうございます」
「なんか、来るような気がした」
うざすぎる俺の言動を笑って許してくれる。
「あと五分あるから、とりあえず、キスしていい?」
俺を中に入れ、玄関のドアに押しつけて抱きついてくる。
「あの、軽めでお願いします。勃起しちゃうんで」
「うん」
笑って、ちゅ、と触れるだけのキスをされた。
「もう終わりですか?」
「夜、もっとすごいやつするから」
上目遣いでじっと見てくる。可愛い、と素直な感想が口をついて出そうになる。
「夜ご飯、俺が用意しますからね」
「ん、そうだったな。火、気をつけてね」
「はい」
「何作ってくれるの?」
「ハンバーグです」
「可愛い」
加賀さんが俺の頭を撫でてもう一度触れるだけのキスをする。
「最近すごいいろいろ作れるようになったんですよ」
「うん、偉いな」
母に教わって、レパートリーも増えてきた。ハンバーグは作り続けてやっと先日免許皆伝になった。母は満足げに、お店が出せるレベル、と喜んでいた。
「また今度カレー作ってよ。すげえ美味しかったあれ」
「わかりました、任せてください」
「あー」
加賀さんがギュウ、と力一杯抱きしめてくる。
「会社行きたくない」
「えっ」
仕事人間の加賀さんが言った科白だと思えない。空耳だろうか。
「ていうかお前を離したくない」
「加賀さん」
嬉しくて舞い上がる俺の唇に、再び軽いキス。
「あの、小出し作戦ですか?」
「こういうのなら勃起しないだろ?」
そう言って下半身を擦りつけて、俺の股間を探ってくる。
「うっ、それ、気持ちいいから駄目です」
「お前、こういう勃ちやすい体してたら、学校で大変じゃない?」
加賀さんが動きを止めて訊いた。
「もし加賀さんが同級生で、前の席とかだったら大変だったかもしれません。授業中ずっとうなじ見てます」
「うん……、そうか、俺限定勃起だったな」
「はい」
ニコッと可愛い顔で笑ってまたキスをされる。頭がクラクラする。
「加賀さん、生まれてきてくれて、本当にありがとうございます。大好きです」
抱きしめて、心からの感謝を告げる。加賀さんは俺の胸に顔を埋めて小さく「うん」と呟いた。
「そろそろ出るか」
俺の体を離して、加賀さんが腕時計を見る。昨日お父さんに貰ったと言っていた、三百万円超えのロレックスを着けている。
「それ、着けてくんですね」
「ん、親父が着けろって言ってたし、家に置いておくより安全かなと思って」
確かにそうだ。誘拐でもされない限り、安全だ。
「誘拐されないでくださいよ」
アパートから出て、駅に向かう。
「はは、歩く身代金」
暢気に笑っている。
「なあ、ちょっと気、早いけど、クリスマスどうする?」
「一緒に過ごしたいです」
「うん」
ちら、と俺を見てくる加賀さんと、目が合う。
「なんか欲しい物ない? プレゼントあげたい」
「サンタさんですか? うーん、欲しい物……」
少し考えてみたが、何も思い浮かばない。
「俺、今すごく満たされてるんで、物欲ないです」
「代わりに性欲すごいよね」
「はい」
淀みなく答える俺を、加賀さんが目を細めて見てくる。
「お前成長したな」
「そうですか?」
「うん、ちょっと前まで童貞丸出しだったのに、余裕を感じる」
「余裕は今でも全然ないですよ? なんなら童貞より童貞っぽいと思います」
加賀さんはニヤニヤして口を閉ざす。駅のホームで電車を待つ間、周囲の警戒を怠らない。以前加賀さんを見ていた女子高生が、同じ場所に立っている。
そして、やっぱりこっちを気にしている。
見ないでください、というわけにはいかないし、敵はこの子一人じゃない。
俺だって、散々盗み見てきた。それなのに、他人が見るのは許せないというのは傲慢だ。
そもそも見られている本人が気にしていない。俺がどうこう言うのは筋違いだ。
わかっている。でも、見せたくない。
「俺、全然成長してないです」
呟くと、加賀さんが寒そうに身を竦めて「そうか?」と言った。
あの女子高生が、俺がいないときも毎日このホームで加賀さんを見ていると思うと、腹の底から黒い物がどろどろと溢れる感じがする。
「嫉妬深くて嫌になります」
「丸ごとお前のもんなんだから、どんと構えてりゃいいんだよ」
笑いながらそう言うと、ポケットに突っ込んでいる俺の右手を、握ってくる。加賀さんの手は冷たかった。
「寒いな。雪降るかな」
「あの、いいんですか?」
「何が?」
人のポケットに手を突っ込んでいる様子は目立つと思う。隙をついてこっちを見てくる例の女子高生が一瞬ギョッとした顔になった。
「ばれますよ」
「え、寒いとき人のポケットに手ぇ突っ込むよね?」
「突っ込みませんよ」
「そうかあ。でも温かいし離せなくなった」
俺のポケットの中で、親指を動かして、手の甲を撫でさすってくる。
「それ、やばいです。勃ちそう」
加賀さんの耳に顔を寄せて囁いた。
「全身性感帯なの?」
誰に触られてもこうはならない。加賀さんだからだ。
電車が着いて乗り込むと、加賀さんを隅に追いやって壁になる。
過剰反応かもしれない。でも、この人は俺だけのもの。
俺だけ。
この中で、俺だけが、今日はこの人の誕生日だと知っている。
こんなことで優越感に浸ってどうする、と思ったが、自分が特別な存在だと自覚できた。
加賀さんがじっと俺を見上げていた。
電車の中は、暖房が効いて暑かった。見られている相乗効果で汗が滲む。
慌てて目を逸らす。美しすぎて、可愛すぎて、見ていたら頭がおかしくなる。
見たいけど、見られない。じりじりと葛藤していると、加賀さんの降りる駅に着いた。
「今日早く帰るから」
そう言って電車を下りて手を振る。
「はい、いってらっしゃい」
手を振り返し、ふと視線を感じた。さっきの女子高生だ。
彼女の中で、俺と加賀さんはどういう関係なのだろう。
毎日ではなく、たまに同じ駅から電車に乗り、ポケットの中に手を突っ込むほどの仲で、一緒に住んでいるような言葉を掛け合う。
俺が思っている以上に、この子が加賀さんを好きだったら、多分そのうち問い詰められる。何年何組かは知らないが、制服から同じ学校だとわかる。
もし、関係を訊かれたら、どう答えればいいのか。
俺のだから、と言ってしまいそうで怖い。
電車が止まり、ドアが開くと、逃げるように外に出て、駆け出した。
俺が女だったら、堂々と言えるのに。
そんな根本的なところで悩んでも仕方がない。
気持ちを切り替えることにした。
今日は悩まない。悩んでいられない。ずっと笑顔でいる。大切な日だ。
大好きな人の誕生日。
生まれてきてくれて、ありがとう。
〈加賀編〉
帰宅して、ドアを開けると、いい匂いがした。
料理を初めて二ヶ月ほど経つだろうか、上達が早い。多分、センスの問題だ。
「ただいま」
「あっ、おかえりなさい」
エプロン姿の倉知が菜箸を持って飛び出してくる。なんだか、新婚の気分になった。料理中の嫁がかいがいしく出迎えに飛んでくる、という感じだ。
「どうせなら裸エプロンがよかった」
「えっ」
倉知の動きが止まる。
「脱ぎます」
「こらこら、冗談だから」
本気で脱ごうとする倉知を止めてから、軽くキスをした。
「本当に、帰るの早かったですね」
「んー、職場の連中、誕生日って知ってるから早く帰れってうるさくて」
「めぐみさんと若菜さんと高橋さんですか」
律儀に全員の名前を挙げる倉知の頭を撫でた。
「で、ご飯できた? なんか手伝う?」
「大丈夫です。あとハンバーグ焼くだけです。座って待っててください」
着替えを済ませ、ソファに座って携帯を出す。
数件お祝いメールが来ていた。簡単に返信を済ませ、電源を切る。
仕事の電話が掛かってくるかもしれないから、基本的にいつでも電源は切らないし、持ち歩くようにしている。でも今日は、邪魔されたくない。
テレビを点けて、眺めるふりをしながらキッチンの倉知を盗み見る。ニコニコ笑って手を動かしている。
なんだこの幸福感は。満たされすぎて怖い。
「駄目だ、可愛い」
倉知が可愛くて仕方がない。見ているだけで顔がにやける。ソファにうつぶせになり、脚をばたつかせる。
「何してるんですか?」
倉知がテーブルに皿を置きながら訊いた。
「バタ足の練習」
「なんか可愛いですね」
可愛いのはお前だよ、と内心で叫んで座り直す。
「お、なんかすげえじゃん」
もっと素人っぽいハンバーグを予想していたのに、デミグラスソースで付け合わせもちゃんとしている。
「チーズインハンバーグです」
「お前、才能開花したんじゃない?」
「母の手伝い、昔から好きだったんです」
テーブルに次々並べられる料理に本気で驚いた。
「このポトフ、母からです」
「あ、そうなの? ありがたや」
「あと、五月と六花が力を合わせてバースディケーキ作りました」
ブッと吹き出してしまった。
「マジでか。そういうことするキャラじゃないのに、なんか申し訳ないな」
「一応練習してて、作るの三回目なんですけど、見た目一番マシです」
「いやいや、気持ちが嬉しいよ。よし、食べよう」
向かい合って座り、一緒に手を合わせる。
「加賀さん」
「ん?」
「誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
合掌したまま、頭を下げ合った。そして、いただきます、と声を揃えて箸をつける。
ハンバーグを割ると、中から溶けたチーズが出てきた。
「お前、すごいな」
「そうですか?」
一口食べて、もう一度「すごいな」と誉めた。
「めっちゃ美味い」
「よかったです」
嬉しそうに言ってから、「あ」と思い出した顔をする。
「ビールどうします?」
「今日はいいよ。お前の料理を堪能する」
余計なもので味を壊したくない。この完成度には感動すら覚える。俺のために練習したんだと思うと、なおさら美味い。
「やべえ、幸せだわ」
「俺もです。成功してよかった」
「まあ、失敗してもそれはそれで」
しょうがねえな、と言って不味い料理を食べてやるのも愛だ。
「で、今日は泊まってくんだな?」
俺が言うと、倉知の動きが止まった。さっきクローゼットを開けたら学ランが掛かっていた。倉知がハンバーグを口に入れて、小さく頷いた。
「なあ、俺、抱かせてって言ったけど」
「うっ、は、はい」
慌てて飲み込んで顔を赤らめる。
「別にいいよ? 無理すんなよ?」
「え、やっぱり冗談ですか?」
「いや、すげえ抱きたいけど」
倉知の指から箸が転げ落ちる。うめいて体を丸めてから、背筋を伸ばして顔を両手で叩いた。
「無理してません。俺もう腹決まってるんで、今更やめるっていっても遅いです。準備だってしてきたんですから、何がなんでも抱いてください」
「お、おう」
変なところで男らしい。
このあとのことは一旦忘れよう、と思った。
話題を変えて、食事の時間を満喫した。人に作って貰ったものを、自分の部屋でのんびりと食べられることに、幸せをひしひしと感じる。
食べ終えて食器を片付けた後で、五月と六花の合作ケーキが登場した。
形がいびつでいかにも手作り、という感じがなんとも可愛らしい。チョコのプレートに「加賀さん 誕生日おめでとう」と描いてある。
「かっわいいことするよね」
「まあ、あの二人がこういうことするって俺も驚きました」
「切るのもったいないな。ちょっと写真撮るか。お前の携帯貸して」
「加賀さんの携帯は?」
「電源入れたくない。邪魔されたくないんだよ」
倉知が照れ臭そうにスマホを差し出してくる。カメラを起動させて、ケーキを撮る。
「一緒に撮るか」
「ケーキとですか?」
「うん、こっち来て」
カメラをインカメラに切り替え、倉知と肩を組み、ケーキとのスリーショットを撮った。
「可愛い」
「可愛いですね」
「お前がな?」
「加賀さんがですよ」
「……バカップルか?」
「……ですよね」
咳払いをして倉知にスマホを渡す。
「その写真、送っておいて。ありがとうって」
「わかりました」
倉知がうつむいて操作しているのを見て、ケーキに包丁を入れる。
「なんか喜んでます、写真」
「ん、もう送ったの?」
「家族でグループ登録してあるんですけど。会話見ます?」
倉知からスマホを受け取った。
五月『写真げっとおおおおお!!!でかしたあああああ』
六花『ラブラブごちそうさまです』
五月『加賀さんかっこかわいいいいい』
六花『二人ともクッソカワ』
父『壁紙にしました^0^/』
母『お父さん私もしたいけどどうやってやる?』
六花『となりにいるんだから直で聞けw』
五月『それりっちゃんもだよね?』
母『どうやってやるうどうしたらやれるう』
六花『わかったわかったwww』
おそらく同じ空間にいるのに、スマホ内で会話を繰り広げている。微笑ましい。
「仲良しだなあ」
「あ、忘れるところだった」
倉知が立ち上がり、寝室から包装紙に包まれたものと、薄っぺらい本を一冊持ってきた。
「これ、父からです。DVDだって言ってました」
「え、うわ、お父さんから? うわー、どうしよう」
受け取って、恭しく頭上に掲げる。
「あと、これ。六花が、本出来たから読んでって」
「え、これって」
本の表紙を見て、まさか、とギクリとする。電車のつり革に捕まるスーツの男と、椅子に座る学ランの男。相変わらずの画力だ。
「電車の男?」
「俺、もう読んだんですけど、正直怖いです」
「もしかしなくても、俺ら二人の漫画?」
「はい、です」
ケーキを食べることも忘れて、ページをめくる手が止まらなかった。
倉知の言う通り、怖くなってきた。
ある程度馴れ初めを話したにしても、やり取りがあのときのままで、どこかで見ていたんじゃないかと思うほどだった。
それに、漫画っぽく美化されているにしても、俺と倉知が似すぎている。倉知に至っては言動も思考もそのままだ。
倉知がベンチで告白したところで終わっていたが、その再現度の高さに本気で寒気がした。
「怖い」
「はい」
「六花ちゃん、見てたんじゃない?」
「俺もそんな気がしてきました。この、最後のベンチのやり取り、ここまで詳しく言ってないんです」
倉知が告白のページを指差す。
「倉知君の行動パターン、全部わかってるから、想像できるんだろうな」
それにしても、あのとき着ていた服まで似ている。それを指摘すると、倉知が頭を掻く。
「俺が言いました。スーツとのギャップで可愛くて仕方なかったって」
なんだよ、結局喋ってんじゃねえか、と呆れた。
「これってやっぱり売るんだよね?」
「続きも描きたいし、売りたいけど、加賀さんが嫌ならやめておくって言ってました」
「お前はどうなの?」
倉知は考える素振りを見せてから、包丁でケーキを取り分け始めた。
「俺は、どっちでも」
「嫌ではない?」
「六花の描く加賀さん、そのまんまっていうか、すごいカッコイイし、続きちょっと見たいかも……って」
「いつから腐女子になった」
ケーキの皿をフォークと一緒に俺の前に置いた。
「そういうんじゃなくて」
「まあ、こういうの読むのって一部の女の子だもんな」
「俺と加賀さんを知ってる人なら気づくかもしれませんね」
前畑あたりが読んだらのたうち回るだろう。
「うーん、マージン取るか」
「マージンって?」
倉知が首を傾げる。笑って、なんでもない、と言いながら手を合わせる。
「よし、食うぞ」
「はい」
いただきます、と再び手を合わせる。一口食べて、意外にも普通に美味しくて驚いた。
「見た目はあれだけど、美味いな」
「そうですね、食べられます。もっとひどいかと思った」
倉知が感心しながらバクバク食べている。
「六花ちゃんに、描いていいって言っといて」
倉知が不安そうな目で俺を見る。
「客観的に自分の恋愛を見るのもいいかなって」
「加賀さんは本当に心が広いですね」
「そうでもないよ。極端に狭い部分があるだけ。誕生日に毎年母親から電話かかってくるんだけど」
俺の科白に倉知の背筋がすっと伸びた。
「一回も出たことない」
悲しそうに、倉知の目が陰った。俺は笑ってケーキにフォークを突き刺した。
「でも今年は、出てもいいかなって思ったよ。お前、生まれてきてくれてありがとうって言っただろ。俺を産んだのは、あの人だから。電話に出て、ありがとうって言おうと思ったんだ」
電源を切ったから、もうそれも叶わない。母は、完全に拒絶されたと感じるだろう。
一生、許さない。それは変わらない。憎悪が嫌悪に格下げになったくらいで、許すつもりはない。母も、許されるとは思っていない。
倉知と長く一緒にいれば、そのうち「許す」という言葉が口をついて出る気もする。心のどこかで、許したがっている自分もいる。
それができたときに初めて大人になるのかもしれない。
突然、抱きしめられた。倉知がいつの間にか隣にいて、俺を包み込むように抱きしめている。
何も言わなかった。ただ、黙って俺を抱きしめて、頭を撫でている。
「なあ、俺は今、すげえ幸せだよ。お前のおかげで」
「加賀さん、大好きです」
「うん、ベッド行く?」
倉知の体が面白いくらいビクッとなって、心臓の音が速くなるのが聞こえた。
「でも、ケーキが」
出しっぱなしだと悪くなる。二人の好意を無駄にしたくない。俺は黙ってケーキを胃に詰め込んだ。
「あ、あの、残り、冷蔵庫入れておきます」
倉知が立ち上がり、残ったケーキを箱に戻し、席を立つ。冷蔵庫にケーキを入れるだけなのに、なかなか戻ってこない。
様子を見に行くと、倉知が冷蔵庫を抱きしめるようにして立っていた。
「何してんの?」
「えっ」
「浮気?」
「え、いや、え? 冷蔵庫です、これ」
「知ってるけど」
一歩近づくと、倉知が向きを変えて冷蔵庫に背中をくっつけて硬直する。
「怖い?」
「こ、怖いより、恥ずかしくて」
「電気消してやるから。おいで」
手を差し伸べると、おずおずと握ってくる。
「優しくするから大丈夫だよ」
倉知の頬を撫でると、顔を背けて口元を覆い、よろめいた。それから倉知は何も言わずに、抵抗することもなく、フラフラになりながら手を引かれるままついてきた。
寝室のドアを開け、ベッドに座らせる。暗い部屋で、羞恥に震える倉知の体を抱きしめた。
「倉知君、ありがとう」
今日、一緒にいてくれて、ありがとう。
誕生日に、幸せを感じることができた。
偉業とも言える。そんな日はこないと思っていた。
ありがとう、ともう一度囁き、優しくキスをした。
〈裏につづく…〉
具体的な性描写は「裏1201」でUPします。
行為前ではありますが、リバを匂わせる雰囲気が駄目だという方は読まないことをオススメします。
〈倉知編〉
『生まれてきてくれてありがとうございます。誕生日おめでとうございます』
日付が変わると同時に、メールをした。
すぐに電話がかかってきて、「ありがとう、おやすみ」と優しい声でそれだけ言うと、切れた。
メールとは別に、どうしても、朝一番に顔を見て「おめでとう」を言いたかった。
だから今日は早く起きて加賀さんが出る時間目がけて、アパートを訊ねた。
「誕生日おめでとうございます」
「なんか、来るような気がした」
うざすぎる俺の言動を笑って許してくれる。
「あと五分あるから、とりあえず、キスしていい?」
俺を中に入れ、玄関のドアに押しつけて抱きついてくる。
「あの、軽めでお願いします。勃起しちゃうんで」
「うん」
笑って、ちゅ、と触れるだけのキスをされた。
「もう終わりですか?」
「夜、もっとすごいやつするから」
上目遣いでじっと見てくる。可愛い、と素直な感想が口をついて出そうになる。
「夜ご飯、俺が用意しますからね」
「ん、そうだったな。火、気をつけてね」
「はい」
「何作ってくれるの?」
「ハンバーグです」
「可愛い」
加賀さんが俺の頭を撫でてもう一度触れるだけのキスをする。
「最近すごいいろいろ作れるようになったんですよ」
「うん、偉いな」
母に教わって、レパートリーも増えてきた。ハンバーグは作り続けてやっと先日免許皆伝になった。母は満足げに、お店が出せるレベル、と喜んでいた。
「また今度カレー作ってよ。すげえ美味しかったあれ」
「わかりました、任せてください」
「あー」
加賀さんがギュウ、と力一杯抱きしめてくる。
「会社行きたくない」
「えっ」
仕事人間の加賀さんが言った科白だと思えない。空耳だろうか。
「ていうかお前を離したくない」
「加賀さん」
嬉しくて舞い上がる俺の唇に、再び軽いキス。
「あの、小出し作戦ですか?」
「こういうのなら勃起しないだろ?」
そう言って下半身を擦りつけて、俺の股間を探ってくる。
「うっ、それ、気持ちいいから駄目です」
「お前、こういう勃ちやすい体してたら、学校で大変じゃない?」
加賀さんが動きを止めて訊いた。
「もし加賀さんが同級生で、前の席とかだったら大変だったかもしれません。授業中ずっとうなじ見てます」
「うん……、そうか、俺限定勃起だったな」
「はい」
ニコッと可愛い顔で笑ってまたキスをされる。頭がクラクラする。
「加賀さん、生まれてきてくれて、本当にありがとうございます。大好きです」
抱きしめて、心からの感謝を告げる。加賀さんは俺の胸に顔を埋めて小さく「うん」と呟いた。
「そろそろ出るか」
俺の体を離して、加賀さんが腕時計を見る。昨日お父さんに貰ったと言っていた、三百万円超えのロレックスを着けている。
「それ、着けてくんですね」
「ん、親父が着けろって言ってたし、家に置いておくより安全かなと思って」
確かにそうだ。誘拐でもされない限り、安全だ。
「誘拐されないでくださいよ」
アパートから出て、駅に向かう。
「はは、歩く身代金」
暢気に笑っている。
「なあ、ちょっと気、早いけど、クリスマスどうする?」
「一緒に過ごしたいです」
「うん」
ちら、と俺を見てくる加賀さんと、目が合う。
「なんか欲しい物ない? プレゼントあげたい」
「サンタさんですか? うーん、欲しい物……」
少し考えてみたが、何も思い浮かばない。
「俺、今すごく満たされてるんで、物欲ないです」
「代わりに性欲すごいよね」
「はい」
淀みなく答える俺を、加賀さんが目を細めて見てくる。
「お前成長したな」
「そうですか?」
「うん、ちょっと前まで童貞丸出しだったのに、余裕を感じる」
「余裕は今でも全然ないですよ? なんなら童貞より童貞っぽいと思います」
加賀さんはニヤニヤして口を閉ざす。駅のホームで電車を待つ間、周囲の警戒を怠らない。以前加賀さんを見ていた女子高生が、同じ場所に立っている。
そして、やっぱりこっちを気にしている。
見ないでください、というわけにはいかないし、敵はこの子一人じゃない。
俺だって、散々盗み見てきた。それなのに、他人が見るのは許せないというのは傲慢だ。
そもそも見られている本人が気にしていない。俺がどうこう言うのは筋違いだ。
わかっている。でも、見せたくない。
「俺、全然成長してないです」
呟くと、加賀さんが寒そうに身を竦めて「そうか?」と言った。
あの女子高生が、俺がいないときも毎日このホームで加賀さんを見ていると思うと、腹の底から黒い物がどろどろと溢れる感じがする。
「嫉妬深くて嫌になります」
「丸ごとお前のもんなんだから、どんと構えてりゃいいんだよ」
笑いながらそう言うと、ポケットに突っ込んでいる俺の右手を、握ってくる。加賀さんの手は冷たかった。
「寒いな。雪降るかな」
「あの、いいんですか?」
「何が?」
人のポケットに手を突っ込んでいる様子は目立つと思う。隙をついてこっちを見てくる例の女子高生が一瞬ギョッとした顔になった。
「ばれますよ」
「え、寒いとき人のポケットに手ぇ突っ込むよね?」
「突っ込みませんよ」
「そうかあ。でも温かいし離せなくなった」
俺のポケットの中で、親指を動かして、手の甲を撫でさすってくる。
「それ、やばいです。勃ちそう」
加賀さんの耳に顔を寄せて囁いた。
「全身性感帯なの?」
誰に触られてもこうはならない。加賀さんだからだ。
電車が着いて乗り込むと、加賀さんを隅に追いやって壁になる。
過剰反応かもしれない。でも、この人は俺だけのもの。
俺だけ。
この中で、俺だけが、今日はこの人の誕生日だと知っている。
こんなことで優越感に浸ってどうする、と思ったが、自分が特別な存在だと自覚できた。
加賀さんがじっと俺を見上げていた。
電車の中は、暖房が効いて暑かった。見られている相乗効果で汗が滲む。
慌てて目を逸らす。美しすぎて、可愛すぎて、見ていたら頭がおかしくなる。
見たいけど、見られない。じりじりと葛藤していると、加賀さんの降りる駅に着いた。
「今日早く帰るから」
そう言って電車を下りて手を振る。
「はい、いってらっしゃい」
手を振り返し、ふと視線を感じた。さっきの女子高生だ。
彼女の中で、俺と加賀さんはどういう関係なのだろう。
毎日ではなく、たまに同じ駅から電車に乗り、ポケットの中に手を突っ込むほどの仲で、一緒に住んでいるような言葉を掛け合う。
俺が思っている以上に、この子が加賀さんを好きだったら、多分そのうち問い詰められる。何年何組かは知らないが、制服から同じ学校だとわかる。
もし、関係を訊かれたら、どう答えればいいのか。
俺のだから、と言ってしまいそうで怖い。
電車が止まり、ドアが開くと、逃げるように外に出て、駆け出した。
俺が女だったら、堂々と言えるのに。
そんな根本的なところで悩んでも仕方がない。
気持ちを切り替えることにした。
今日は悩まない。悩んでいられない。ずっと笑顔でいる。大切な日だ。
大好きな人の誕生日。
生まれてきてくれて、ありがとう。
〈加賀編〉
帰宅して、ドアを開けると、いい匂いがした。
料理を初めて二ヶ月ほど経つだろうか、上達が早い。多分、センスの問題だ。
「ただいま」
「あっ、おかえりなさい」
エプロン姿の倉知が菜箸を持って飛び出してくる。なんだか、新婚の気分になった。料理中の嫁がかいがいしく出迎えに飛んでくる、という感じだ。
「どうせなら裸エプロンがよかった」
「えっ」
倉知の動きが止まる。
「脱ぎます」
「こらこら、冗談だから」
本気で脱ごうとする倉知を止めてから、軽くキスをした。
「本当に、帰るの早かったですね」
「んー、職場の連中、誕生日って知ってるから早く帰れってうるさくて」
「めぐみさんと若菜さんと高橋さんですか」
律儀に全員の名前を挙げる倉知の頭を撫でた。
「で、ご飯できた? なんか手伝う?」
「大丈夫です。あとハンバーグ焼くだけです。座って待っててください」
着替えを済ませ、ソファに座って携帯を出す。
数件お祝いメールが来ていた。簡単に返信を済ませ、電源を切る。
仕事の電話が掛かってくるかもしれないから、基本的にいつでも電源は切らないし、持ち歩くようにしている。でも今日は、邪魔されたくない。
テレビを点けて、眺めるふりをしながらキッチンの倉知を盗み見る。ニコニコ笑って手を動かしている。
なんだこの幸福感は。満たされすぎて怖い。
「駄目だ、可愛い」
倉知が可愛くて仕方がない。見ているだけで顔がにやける。ソファにうつぶせになり、脚をばたつかせる。
「何してるんですか?」
倉知がテーブルに皿を置きながら訊いた。
「バタ足の練習」
「なんか可愛いですね」
可愛いのはお前だよ、と内心で叫んで座り直す。
「お、なんかすげえじゃん」
もっと素人っぽいハンバーグを予想していたのに、デミグラスソースで付け合わせもちゃんとしている。
「チーズインハンバーグです」
「お前、才能開花したんじゃない?」
「母の手伝い、昔から好きだったんです」
テーブルに次々並べられる料理に本気で驚いた。
「このポトフ、母からです」
「あ、そうなの? ありがたや」
「あと、五月と六花が力を合わせてバースディケーキ作りました」
ブッと吹き出してしまった。
「マジでか。そういうことするキャラじゃないのに、なんか申し訳ないな」
「一応練習してて、作るの三回目なんですけど、見た目一番マシです」
「いやいや、気持ちが嬉しいよ。よし、食べよう」
向かい合って座り、一緒に手を合わせる。
「加賀さん」
「ん?」
「誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
合掌したまま、頭を下げ合った。そして、いただきます、と声を揃えて箸をつける。
ハンバーグを割ると、中から溶けたチーズが出てきた。
「お前、すごいな」
「そうですか?」
一口食べて、もう一度「すごいな」と誉めた。
「めっちゃ美味い」
「よかったです」
嬉しそうに言ってから、「あ」と思い出した顔をする。
「ビールどうします?」
「今日はいいよ。お前の料理を堪能する」
余計なもので味を壊したくない。この完成度には感動すら覚える。俺のために練習したんだと思うと、なおさら美味い。
「やべえ、幸せだわ」
「俺もです。成功してよかった」
「まあ、失敗してもそれはそれで」
しょうがねえな、と言って不味い料理を食べてやるのも愛だ。
「で、今日は泊まってくんだな?」
俺が言うと、倉知の動きが止まった。さっきクローゼットを開けたら学ランが掛かっていた。倉知がハンバーグを口に入れて、小さく頷いた。
「なあ、俺、抱かせてって言ったけど」
「うっ、は、はい」
慌てて飲み込んで顔を赤らめる。
「別にいいよ? 無理すんなよ?」
「え、やっぱり冗談ですか?」
「いや、すげえ抱きたいけど」
倉知の指から箸が転げ落ちる。うめいて体を丸めてから、背筋を伸ばして顔を両手で叩いた。
「無理してません。俺もう腹決まってるんで、今更やめるっていっても遅いです。準備だってしてきたんですから、何がなんでも抱いてください」
「お、おう」
変なところで男らしい。
このあとのことは一旦忘れよう、と思った。
話題を変えて、食事の時間を満喫した。人に作って貰ったものを、自分の部屋でのんびりと食べられることに、幸せをひしひしと感じる。
食べ終えて食器を片付けた後で、五月と六花の合作ケーキが登場した。
形がいびつでいかにも手作り、という感じがなんとも可愛らしい。チョコのプレートに「加賀さん 誕生日おめでとう」と描いてある。
「かっわいいことするよね」
「まあ、あの二人がこういうことするって俺も驚きました」
「切るのもったいないな。ちょっと写真撮るか。お前の携帯貸して」
「加賀さんの携帯は?」
「電源入れたくない。邪魔されたくないんだよ」
倉知が照れ臭そうにスマホを差し出してくる。カメラを起動させて、ケーキを撮る。
「一緒に撮るか」
「ケーキとですか?」
「うん、こっち来て」
カメラをインカメラに切り替え、倉知と肩を組み、ケーキとのスリーショットを撮った。
「可愛い」
「可愛いですね」
「お前がな?」
「加賀さんがですよ」
「……バカップルか?」
「……ですよね」
咳払いをして倉知にスマホを渡す。
「その写真、送っておいて。ありがとうって」
「わかりました」
倉知がうつむいて操作しているのを見て、ケーキに包丁を入れる。
「なんか喜んでます、写真」
「ん、もう送ったの?」
「家族でグループ登録してあるんですけど。会話見ます?」
倉知からスマホを受け取った。
五月『写真げっとおおおおお!!!でかしたあああああ』
六花『ラブラブごちそうさまです』
五月『加賀さんかっこかわいいいいい』
六花『二人ともクッソカワ』
父『壁紙にしました^0^/』
母『お父さん私もしたいけどどうやってやる?』
六花『となりにいるんだから直で聞けw』
五月『それりっちゃんもだよね?』
母『どうやってやるうどうしたらやれるう』
六花『わかったわかったwww』
おそらく同じ空間にいるのに、スマホ内で会話を繰り広げている。微笑ましい。
「仲良しだなあ」
「あ、忘れるところだった」
倉知が立ち上がり、寝室から包装紙に包まれたものと、薄っぺらい本を一冊持ってきた。
「これ、父からです。DVDだって言ってました」
「え、うわ、お父さんから? うわー、どうしよう」
受け取って、恭しく頭上に掲げる。
「あと、これ。六花が、本出来たから読んでって」
「え、これって」
本の表紙を見て、まさか、とギクリとする。電車のつり革に捕まるスーツの男と、椅子に座る学ランの男。相変わらずの画力だ。
「電車の男?」
「俺、もう読んだんですけど、正直怖いです」
「もしかしなくても、俺ら二人の漫画?」
「はい、です」
ケーキを食べることも忘れて、ページをめくる手が止まらなかった。
倉知の言う通り、怖くなってきた。
ある程度馴れ初めを話したにしても、やり取りがあのときのままで、どこかで見ていたんじゃないかと思うほどだった。
それに、漫画っぽく美化されているにしても、俺と倉知が似すぎている。倉知に至っては言動も思考もそのままだ。
倉知がベンチで告白したところで終わっていたが、その再現度の高さに本気で寒気がした。
「怖い」
「はい」
「六花ちゃん、見てたんじゃない?」
「俺もそんな気がしてきました。この、最後のベンチのやり取り、ここまで詳しく言ってないんです」
倉知が告白のページを指差す。
「倉知君の行動パターン、全部わかってるから、想像できるんだろうな」
それにしても、あのとき着ていた服まで似ている。それを指摘すると、倉知が頭を掻く。
「俺が言いました。スーツとのギャップで可愛くて仕方なかったって」
なんだよ、結局喋ってんじゃねえか、と呆れた。
「これってやっぱり売るんだよね?」
「続きも描きたいし、売りたいけど、加賀さんが嫌ならやめておくって言ってました」
「お前はどうなの?」
倉知は考える素振りを見せてから、包丁でケーキを取り分け始めた。
「俺は、どっちでも」
「嫌ではない?」
「六花の描く加賀さん、そのまんまっていうか、すごいカッコイイし、続きちょっと見たいかも……って」
「いつから腐女子になった」
ケーキの皿をフォークと一緒に俺の前に置いた。
「そういうんじゃなくて」
「まあ、こういうの読むのって一部の女の子だもんな」
「俺と加賀さんを知ってる人なら気づくかもしれませんね」
前畑あたりが読んだらのたうち回るだろう。
「うーん、マージン取るか」
「マージンって?」
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「よし、食うぞ」
「はい」
いただきます、と再び手を合わせる。一口食べて、意外にも普通に美味しくて驚いた。
「見た目はあれだけど、美味いな」
「そうですね、食べられます。もっとひどいかと思った」
倉知が感心しながらバクバク食べている。
「六花ちゃんに、描いていいって言っといて」
倉知が不安そうな目で俺を見る。
「客観的に自分の恋愛を見るのもいいかなって」
「加賀さんは本当に心が広いですね」
「そうでもないよ。極端に狭い部分があるだけ。誕生日に毎年母親から電話かかってくるんだけど」
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悲しそうに、倉知の目が陰った。俺は笑ってケーキにフォークを突き刺した。
「でも今年は、出てもいいかなって思ったよ。お前、生まれてきてくれてありがとうって言っただろ。俺を産んだのは、あの人だから。電話に出て、ありがとうって言おうと思ったんだ」
電源を切ったから、もうそれも叶わない。母は、完全に拒絶されたと感じるだろう。
一生、許さない。それは変わらない。憎悪が嫌悪に格下げになったくらいで、許すつもりはない。母も、許されるとは思っていない。
倉知と長く一緒にいれば、そのうち「許す」という言葉が口をついて出る気もする。心のどこかで、許したがっている自分もいる。
それができたときに初めて大人になるのかもしれない。
突然、抱きしめられた。倉知がいつの間にか隣にいて、俺を包み込むように抱きしめている。
何も言わなかった。ただ、黙って俺を抱きしめて、頭を撫でている。
「なあ、俺は今、すげえ幸せだよ。お前のおかげで」
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「うん、ベッド行く?」
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「でも、ケーキが」
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「あ、あの、残り、冷蔵庫入れておきます」
倉知が立ち上がり、残ったケーキを箱に戻し、席を立つ。冷蔵庫にケーキを入れるだけなのに、なかなか戻ってこない。
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「何してんの?」
「えっ」
「浮気?」
「え、いや、え? 冷蔵庫です、これ」
「知ってるけど」
一歩近づくと、倉知が向きを変えて冷蔵庫に背中をくっつけて硬直する。
「怖い?」
「こ、怖いより、恥ずかしくて」
「電気消してやるから。おいで」
手を差し伸べると、おずおずと握ってくる。
「優しくするから大丈夫だよ」
倉知の頬を撫でると、顔を背けて口元を覆い、よろめいた。それから倉知は何も言わずに、抵抗することもなく、フラフラになりながら手を引かれるままついてきた。
寝室のドアを開け、ベッドに座らせる。暗い部屋で、羞恥に震える倉知の体を抱きしめた。
「倉知君、ありがとう」
今日、一緒にいてくれて、ありがとう。
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