廃墟に行ったら呪われて死の宣告をされた件。~俺の幼馴染は朝と夜で性別が変わる~

R666

文字の大きさ
上 下
45 / 52
第二章

18話「悪霊の気配来たれり」

しおりを挟む
「んー……ねぇ優司くん? ちょっと質問いいかな?」

 椅子に座りながらカレーを食していた京一が顔を向けて唐突にも訊ねてくる。
 
「はい? 別に大丈夫ですけど……急にどうしたんですか?」

 その出来事に優司はカレーを乗せたスプーンを口元辺りで止めると、そのまま手を下ろして一旦皿に戻してから返事をした。そして優司の対面には幽香が座っていてサラダを小動物のように食べていたのだが、先輩が質問をしてくると同時に首を傾げて口が止まっていた。

 今現在彼らは食事を取るために居間へと来ていて、三人は幽香が時間を掛けて作り上げたカレーを食べながらこのあと戦うであろう悪霊についての話をしていたのだが、京一が唐突にも質問をしてきた事で中断したのだ。

「ああ、実はね。優司くんが……本当にあの三代名家の一つ”犬鳴家”なのかなって」

 京一は彼の顔を真剣な眼差しで捉えながら重々しい雰囲気を出して口を開くと、その中身は優司にとって気の抜けるものであった。

「ええ、まあ一応そうらしいですけど……。何ですかその質問は」

 真面目な雰囲気を纏いながら彼は一体なにを聞いてくるのかと緊張してみれば、優司はそんな肩書きだけの話には関心が無くどうでも良くて若干適当に返事をした。

「いやね? 三大名家というと生徒会長やキミたちの担任のように独特の重厚な覇気のようなオーラが出ているからさ。だけど優司くんにはそれがないなーって」

 彼の全体を確認するように下から上へと視線を動かすと、どうやら優司が三代名家の一つだと言うのに特有の雰囲気が全くないことに京一は気になっているようであった。

「まあ確かに篠本先生とかは雰囲気が一般の先生と違いますね。ですが……雰囲気がないのは多分生まれつき俺の影の薄さが影響しているものかと」

 学園に入るまで自身の家系が悪霊払いを生業としている事すら知らずに生きていた事が影響しているのか、優司は今でも自分が犬鳴家という名家であることを認めきれないでいる。

 それはもはや名前が一人歩きしている状態であって、彼は正直犬鳴という苗字を持っているだけで良い思いはしていない。
 それは学園で度々起こる面倒事の半分ぐらいは名前が関わって引き起こされているからだ。

「ははっ! 優司くんは急に面白いことを言い出すなぁ。だけど安心してくれ。キミはちゃんと学園内では”有名”だからね」

 何を思ったのか急に京一は笑い声を上げると、矢継ぎ早に何処か引っかかりのある言葉を放っていた。

「えっ……? そ、それは一体どういう意――」

 優司は当然その言葉の引っかかり部分が気になると直ぐに聞き返すが、

「さぁ、夕食を食べたら皆で”ONU”をやろうか! 悪霊がいつ出るのかも分からないから、暇つぶし用の物を沢山持ってきてあるんだ!」

 京一はいきなり話題を変え出すとカードゲームをやろうと言い出した。だがあまりにも急すぎる話題の変更ぶりに幽香は思うところがあったのか難しい表情を浮かべて静かに手を上げた。

 その様子を優司は目の当たりにすると、恐らく彼女は一体なにを言い出しているんだと先輩に対して注意するのではないかと優司には思えてならなかった。これでも幽香は曲がった事が嫌いで、しかも今回は悪霊を除霊しに来ているのであって遊びに来ている訳ではないと。

「ん、先輩……ONUって何ですか?」

 幽香は表情を変えずそのまま真面目な声色でそう訊ねた。
 その刹那、僅かな静寂の間が流れると優司は手元からスプーンが零れ落ちそうになった。

「……おっと、これは珍しい。まさかの未経験だとはねぇ。ちなみに優司くんはルール分かるかい?」

 京一も彼と同じく予想だにしていなかったのか幽香の言葉を聞いて呆気に取られている様子ではあったが、表情を緩ませるとそのまま顔を横に向けてルールの確認を問うてきた。

「あ、はい一応分かりますけど……それよりもさっきの質――」

 優司はONUを親友の三人と共に良く遊んでいたことからルールについては完璧なのだが、今はそれよりも気になる事を優先して再度質問しようとした。

「まあONUのルール自体は凄く簡単だから直ぐ覚えられるさ。だけどアレは地元によってルールが所々異なったりするから確認は大事だね」

 だが彼の言葉はまたしても京一が声を上から被せるよに出して掻き消した。そして京一はそのままカレーを掬って一口食べると、今度は地元特有のルールがあると何故か決め顔を見せなが言っていた。 

「そのONUってゲームには色々とあるのですね……。是非詳しい説明をお願いします先輩っ!」

 それを聞いて幽香は手に持っていたスプーンを皿の上に置くと、そのまま神妙な面持ちで思案するような素振りを見せてONUのルール説明を京一に頼み込んでいた。

「うんうん任せといて! ……てかさっきから話がコロコロと変わって申し訳ないんだけど幽香くんってそんなに女性っぽい体型だったけ? それに心なしか声も少し高いように聞こえるし……実は性別を偽っていたり?」

 力強く自身の胸を叩いて京一が主張して言うとまたしても話題を変え出したが、彼は喋りながら幽香の全身を興味深そうに眺め出すと今一番優司達が恐れている女体化の事実に少しつづ近づいているようであった。

「なっ!? そ、そそ、そんな事ないですよ! 僕は列記とした男ですよ! ただ生まれつき女性のような容姿なだけで……ははっ」

 スプーンの上に乗っていたカレーを皿に落とすと幽香はそれと同時に表情を忙しくさせて彼に女体化の事実を悟らないようにか、自らが嫌っている女性に見られがちの容姿を使ってまで誤魔化そうとしていた。

 今現在時刻は十八時を過ぎている事から既に幽香は女体化しているのだが事前にトイレで晒しを巻いていたらしく胸の大きさで見つかる事はないであろうと、優司は焦りが募っていく頭でも何とか考える事が出来た。

 だがしかし、どうにも隠せない声質や女性特有の雰囲気が顕となっていて非常に危険な状況下であることには変わりないのだ。

 そして優司が幽香のその確たる意思を目の当たりにして視界を凝らすと、彼女の右手が自然と握り拳を作り上げて小刻みに震えていることに気が付いた。
 つまり今の幽香は本来の自分を押し殺して堪えているのだと優司は心中で彼女の努力を称えた。

「あー……そうなの。なんか深いこと聞いちゃってごめんね? 任務が終わったらお詫びのしるしとしてコンビニで何か買ってあげるから」

 少なからず幽香から漂う異変を感じ取ったのか、京一はそれ以上話を深堀することなく両手を小さく合わせて謝罪をしていた。

「い、いえ別に大丈夫ですけど……」

 震えていた手を下げてスプーンを持つと幽香は再びカレーを掬って食べ始める。
 ――それから何とも言えない空気感が三人の周りを包み込むが、それでも夕食は続行されるのであった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 そして静まり返った中での夕食が終わって暫く食後の休憩を取ると、三人は除霊具や荷物が置いてある部屋へと集まって悪霊が出現するまで例のゲームをやり始めていた。

「くっ……なぜ僕だけ一方的に手札が増えていくんだ……」

 だがそのONUゲームも終盤へと近づくと幽香は大量のカードを持ちながら苦悶とした声を上げた。

「そりゃあ幽香が初心者だからだな。悪いが俺はゲームの勝負で一切の手加減はしないっ! そしてこのラストカードを叩き込めば俺の勝ちだぜ!」

 優司は残り一枚のカードを指の間に挟みながら揺らすと、自身の勝利を確信して最後のカードを勢い良く叩き落とそうとした。
 ――――だがそこで京一が唐突にも右手を出してそれを防いでくる。

「おっと優司くん? 何かお忘れではないかね?」

 彼はそのまま口元を緩ませると僅かに白い歯を見せながら余裕のある笑みを見せた。

「な、何を……はっ!? し、しまったぁぁ! 俺とした事が”ONU”と言うのを忘れていたぁぁあぁ!」

 一体この期に及んで何の抵抗をしてくる気なのかと優司は思ったが、直ぐに”とある単語”が脳裏を過ぎ去っていくと両手を畳に付けて崩れ落ちた。

「はーい、ペナルディだから二枚引いてね~」

 京一は余裕綽々のままそう言ってくる。

「く、くそぉ……」

 優司は大人しくルールに従って山札からカードを引取ろうと手を伸ばす。

 ……がしかし彼がカードを引こうとした瞬間に背筋に悪寒のようなものが駆けて手が止まると、その数秒後に突如として外の方から禍々しい霊力の反応が出現した。

 その霊力をこの場に居る三人は瞬時に感じ取ると京一は持っていた手札を置いて、

「やっとお出ましのようだね。悪いがゲームはここまでだ。二人とも今すぐに除霊具を装備して出るよ」

 腰を上げて立ち上がると優司達に顔を向けて直ぐに準備して外に出るように指示を出した。

「「はいっ!」」

 優司と幽香は同時に覇気の篭った声で返事をすると、事前に準備しておいた除霊具を装備する為に急いで動き出すのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大地のためのダンジョン運営

あがつま ゆい
ファンタジー
剣と魔法が息づき、そしてダンジョンを造るダンジョンマスターと呼ばれる者たちがいる世界。 普通の人々からは「地下にダンジョンを造って魔物を召喚し何か良からぬことをたくらんでいる」と思われ嫌われている者たちだ。 そんな中、とある少女がダンジョンマスターの本当の仕事内容を教えてもらい、彼に協力していく中で色々と巻き込まれるお話。 「ダンジョン造りは世界征服のため? 興味ないね、そんなの。俺たちは大地のために働いているのさ」 初回は3話同時公開。 その後1日1話朝6:00前後に更新予定

処理中です...