廃墟に行ったら呪われて死の宣告をされた件。~俺の幼馴染は朝と夜で性別が変わる~

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第二章

7話「少年は危機的状況」

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「ふぅ……。B級程度の悪霊と言えど、前もってどの程度の等級か分かっていれば払うこと自体は容易いね」

 幽香が旧校舎へと入って暫くすると服や髪に青色の染料を付着させた状態で何か独り言を呟きながら戻ってきた。そして彼がそのまま優司の隣へと近づいてくると、青色の塗料みたいなのからは悪霊の霊力が宿っているように見えた。

「な、なぁ。その服や髪に付着している青色のって旧校舎内で払った悪霊の血だよな?」

 その青色の染料から伝わってくる妙な気配に優司はたまらず声を掛ける。

「ん? ああ、これか? そうだよ。僕が刀を使って払った時に浴びたんだ。別に人体に害はないからいいんだけど……余り気分はよくないね。はぁ、はやくお風呂に入りたい……」
 
 すると幽香は自身が悪霊を払った際に浴びた返り血だと言いながら、服に付いた悪霊の血を見て苦虫を噛み潰したような表情をして風呂に入りたいと項垂れていた。

 だが優司は返り血を浴びた事がないから分からないが、きっと気分的には全身を泥まみれにされたような不快感があるのだろうと勝手に予想した。

「よし、次は”犬鳴優司”お前の番だ。三大名家の一人として確実に払ってこい。無論だが無様にリタイアなんぞしたら私との個人授業が控えていると思え。いいな?」

 幽香との話を終えると直ぐに列の先頭から篠本先生の覇気混じりの声が聞こえてくる。

「は、はいっす……」

 優司は否応なしに返事をさせられると先生との個人授業という響きに色々な妄想が浮かんだ。
 ……がしかしそれは今考える事ではないと、隣から妙に睨んでくる幽香の威圧感を感じつつ優司は旧校舎へと向かって歩き出す。

「んじゃ、俺も幽香みたいに手早く払って戻って来るぜ!」

 足を進めながらも彼は僅かに振り返ってそう言うと、幽香は咄嗟の出来事に呆気に取られている様子だったが口元を緩ませると微笑みながら右手を小さく振っていた。 
 ――そして幽香の可愛い一面を見て優司は霊力を高めると、いざ旧校舎へと足を踏み入れる。

「前回はここで酷い目に遭ったからな。今回は真面な方で頼むぞ……」

 旧校舎へと入って妙に懐かしい気分に優司は浸るが、前回みたいに”裏の世界”に引きずり込まれないかという一抹の不安も同時に混在していた。未だに犯人は見つかっておらず先生方も捜索しているようだが、中々犯人の尻尾が掴めずに難航しているようなのだ。

「まあ……だけど流石に同じ手を二回も使うほど、相手も間抜けではないだろうし大丈夫だろ。……そんな事よりも今は悪霊を探すことの方が大事だしな」

 優司はそれをまるで自分に言い聞かせるようにして無理矢理にでも不安要素を押さえ込むと、この旧校舎の何処かに潜んでいる筈のB級程度の悪霊を探すべく探索を開始した。

 既に旧校舎内は先に入った者達が随分と派手に払っているせいで、廊下の天井や窓に血飛沫が大量に付着していて霊力を探ろうにも掻き乱されてしまう始末だ。
 恐らく先に入った幽香も自分と同じ状況下で苦労したのだろうと優司は予想出来た。

「さてさて、一階は隈なく探したがそれらしき気配も痕跡も無かったな。あるのは……大量の青色の血痕のみ……か」

 一階の探索を終えて優司は頭を乱暴に掻きながら呟くと、次は上の階を探索するべきかと二階へと通ずる階段を見上げながら思う。そして右足を上げて一段目に足を乗せると……

「……ッ!?」

 突如として優司の背後に悪霊そのものと言えるほどの霊力の気配が伝わってきた。
 それは一瞬にして彼の背中を覆うほどの霊力であり、下手に動くと殺られかれないと本能的に分かるほどである。

「ど、どうする……。悪霊に背後を取られた場合の対処を俺は知らないぞ……」

 緊張感からか冷汗が額に滲み出ると同時に鼓動も段々と早くなっていくのが優司自身実感出来た。だがこのままでは悪霊に主導権を握られて何も出来ない、ゆえに彼は打開策を講じる為にありとあらゆる行動を脳内で想像し、どれが最適解の行動が思案する。

「……よし、この動きしかないな。多少は怪我を負うが今はそれしか俺には出来ないッ!」

 彼の中で一つの最適解が生まれると、それを実行に移す為に短く深呼吸を行う。
 そして優司は決心すると体を思いっきり右側へと傾けると同時に懐から護符を一枚取り出した。

「キャパァァァッ!」

 だが体を傾けた際に優司の視界には悪霊の姿がしっかりと映り込んだ。その姿は日本妖怪で有名な”河童”の見た目をしていたのだ。全身が緑色をしていて頭部は皿のような物になっている。
 そしてその小さな体には似つかわしくない三叉槍を片手に握り締めているのだ。

「くそっ! まさかB級の悪霊の正体が河童なのかよ! 悪霊ってのは殆どが妖怪の類なのか!?」

 優司は自分が払う悪霊の姿を目の当たりにして愚痴らしき言葉を口走ると、取り出した護符の力を発動しようする。
 ――だがそれと時を同じくして河童は右手に持っている三叉槍を力任せのように投げ込んで来た。

「ぐあっ!? ……チッ、護符術発動【光明の導き】!」

 刹那、彼の左腕を三叉槍が掠めて皮膚の一部を裂いていくが、優司は痛みを気合で無理やり抑え込むと幽香から貸して貰った護符の力を行使した。すると護符は眩く強烈に発光しだして河童が光によって視界を封じられている隙に優司は拳銃を引き抜いて体制を整えた。
 
「ギャパパパパ……ッ」

 彼が体制を整えてすぐさま銃口を悪霊へと向けると、河童は目元を手で抑えながらも方向だけは確実に優司の元へと向いていた。恐らくだが河童も彼と同様に霊力を感じ取っているのだろう。

「すまんな悪霊。せこい手かも知れんが生憎とこの戦いにルールは決まっていないからな。さっさとケリをつけさせて貰うぜ」

 目の前の河童に対して多少の罪悪感を覚えながらも、優司は両手に構えた拳銃の引き金に指を添える。

「じゃあな。日本妖怪の伝説に名を連ねる河童さんよ」

 優司は最後に河童に向けて何処か称えるような言葉を向けると、引き金に添えた指を引こうとしたが――

「ギャァァァパパアパ!」

 河童は奇声を上げて右手を前に突き出すと、先程投げ込んで階段に突き刺さっていた三叉槍が瞬時に手元に戻ってきた。それはまるで磁石のように河童の手に吸い寄せられたのだ。

「なっ……び、びっくりさせやがって。そんな能力がお前にはあったのかよ」

 突然の奇声と河童が見せた力に驚く優司であったが、それだけの力なら特に驚異になりえないだろうと楽観的に捉えた。

「ギャパ……ァァ」

 がしかしその彼の楽観的思考が一瞬の気の緩みであったのか、河童は三叉槍を床に突き刺したあと両手を叩くと周囲には何処かともなく霧が現れ始めた。その霧は一瞬にして旧校舎の一年廊下を覆い尽くすと優司の視界はかなり制限された。

「霧までも出せるのか……。流石は伝説の妖怪だな。あの見た目に騙されてはいけないと言うことか」

 周りを警戒しつつ独り言を呟けるほどにはまだ彼には余裕が残っていた。けれど現状で優司の視界に見えるのは床と天井のみであり、その他は霧の濃度が高すぎて何も見えないのだ。

「はてはて……これは思いのほか時間が掛かりそうだな。一体どうやって幽香や裕馬は河童を払ったんだろうな」

 優司は先に旧校舎へと入って悪霊を払った二人の事を頭の片隅で考えつつも、いつ何処から河童が攻撃を仕掛けてくるか分からない状況に警戒心を高めて様子を伺う。
 ……暫くして僅かに左端の霧が動くと優司はその動きを見逃さずに、

「そこかっ!?」
 
 右手に構えた拳銃の引き金を引いて一発の銃弾を霧の中に撃ち込む。
 しかし銃弾は床にそのまま着弾したのか、木が割れるような軽い音しか響かなかった。

「チッ、さっきのは気のせいだったか。……いや、違う。あれは俺の隙を誘う為の罠だ!」

 銃弾を外した事で霧の動きは自身の気の迷いだとして優司は済ませようとしたが、良く考えるとそれは相手が態と隙を作らせる為の工作だったのではと新たな可能性が浮上してきたのだ。
 そして彼が一番今の状態で隙だらけになっているのは右側と背中側である。

「ギャパパ――ッ!」

 すると優司の考えていた可能性が見事に的中したのか高い奇声と共に、彼の右側からは三叉槍を両手に持ちながら突きを繰り出してくる河童の姿が見えるのであった。
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