廃墟に行ったら呪われて死の宣告をされた件。~俺の幼馴染は朝と夜で性別が変わる~

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第一章

5話「幼馴染は呪いで性別が変わる」

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「守護者というのはね。名のある悪霊払いの家系に就いて”主を守り共に戦う者”の事を言うんだ。そしてこの御巫家は代々犬鳴家に仕えているんだよ」
「そ、そうだったのか。……ああ、だからあの時、幽香はあんなにも謝っていたのか……」

 幽香が守護者の役目をついて話してくると優司は廃墟で助けられた時の謝罪の言葉が蘇った。
 その守護者の使命こそが自分を守る事なら、その時の幽香は完全にあの悪霊に敗北した事になるだろうと。

「うん……本当にごめん。だけど今度こそ守りきるよ。僕は優司の守護者で幼馴染だから! それにこれが御巫家に生まれた者の責務だと思っているから」

 幽香は力強く自分の胸に拳を添えて言い切ると、その言葉には覚悟と決意が込められていると今の優司には自然と理解できた。
 
 これでも彼は幽香と幼い頃に一緒に過ごした仲なのだ。
 幽香が一度そう決めたのなら、それは絶対に揺るがない事ぐらい知っていて当然だろう。

「ああ、きっとこれから先は幽香の力が必要になると思う。だから俺は全力で頼りにさせて貰うぜ!」

 優司は出来る限りの笑顔を作って親指を立てながら向ける。

「まったく……頼られるのは別に悪い気はしないけど、少しは自分でも何とか出来るようにしてくれよ?」

 すると幽香は目を細めながら呆れている様子だった。
 
「もちろんだ。俺はもう目の前で何も出来ない何て経験はしたくないからな……」

 確かに親友達を救うのは結局の所彼自身なのだ。
 だからあの悪霊に対抗できるような力を得なければならないだろう。
 しかしそれは一体どうするべきかと――

「あーん”ん”っ! 話を終わらせようとしている様だが、まだ幽香は優司君に伝えてない事があるんじゃないか?」

 突然鳳二が態とらしく咳払いをしてくると幽香はまだ何か話してない事があるらしい。

「お、お父さん……それは……その」

 だが幽香は鳳二の言葉に戸惑った様子をしている辺り、それは彼女にとって嫌な部分なのだろうと優司は察した。

「ちゃんと話さないとそれは積もり積もって、やがて枷となり自分を苦しめる事になるよ?」
「……わ、分かりました。ねえ優司、僕が今から話す事を聞いても幻滅しないで欲しい……んだ」

 鳳二が幽香を諭すと先程までの穏やかな表情は一切なく、彼女の顔には影が色濃く写っているようだった。その表情の変貌ぶりが、これから話す事に深く関わっていると思うと優司は緊張感を持って聞くことにした。
 
「実は御巫家には希に呪いを持って生まれてくる子が居るんだ。それは僕達の先祖が退治した悪霊の呪いだと言われている。そしてその呪いとは”朝と夜とで性別が変わってしまう”呪いなんだ……。だから優司を助けた時は夜で……ぼ、僕が女体化していた時なんだよ!」

 優司は幽香から現実離れした話を聞かされると、危うく考えるという初歩的な事を放棄しようしてしまった。が、しかしそれと同時にずっと気がかりだった事が一つ解消されたのも事実だった。

「つまりなんだ……。あの巨乳の巫女さんが夜の幽香で、今俺の前に居る美少女の幽香は男だと言うのか!?」
「巨乳って言うなっ! 結構気にしているんだぞ! ……まあ後は優司が言っている通りであってるよ。今の僕は男さ」

 そう言って幽香は両手を広げてアピールしていたが、彼の視界には到底男とは見えない美少女がハグをしようとしている仕草にしか見えなかった。
 
 恐らく普通の人なら男と言われるまで気づくことはないだろう。
 それほどまでに幽香は可憐で美しいのだ。

「いやぁ、まさかそんな事がなぁ……。まあでも悪霊とか見たあとだし妙に納得してしまうな」

 まさかこうして現実にアニメや漫画の世界のような出来事が起ころうとは、しかし優司は自分でも意外と思う程にこの状況を飲み込むのが早い気がした。
 多分だが元々彼がその手のアニメをたまに見ていた事が影響しているのだろう。

「よし、これで一通りの話し終わったね。あと残っていると言えば……その優司君の右腕に刻まれている”呪印”についてだね」
「この不気味な痣の事ですか……?」

 鳳二に腕の痣の事と言われると彼は反射的に右腕を皆に見せるように前へと突き出した。
 そしてその右腕を鳳二や幽香がじっと見始めると、

「うむ、やはりこれはあの悪霊が付けていった目印。所謂”呪印”という物で間違いない」

 鳳二の重たそうな口から呪印という言葉が語られる。

「あ、あの呪印って一体何ですか? これは危険な物なんですか……?」

 彼は先程まで収まっていた恐怖という感情が再び全身を包んでいくのが分かった。
 しかも鳳二は呪印とやらをじっと真剣な眼差しで見ていて、これは優司が思っている以上に深刻なのかも知れない。

「ちょっとお父さん! 優司が怖がって全身が震えてるよ!」
「あ、ごめんごめん。そんなに怖がるとは思っていなかったよ。えーっと、まずは”一応”大丈夫とだけ言っておくね」

 幽香は彼が怖がっている事に気づくと直ぐに鳳二に声を掛けて辞めるように言っていたが、事はそんな冗談っぽい感じでやり過ごして良い事なのだろうかと優司の中で更に恐怖感が増す。
 
「い、一応ってどういう事ですか……」
「んーそうだねぇ。呪印とは色んな種類があって効果も様々なんだけど、取り敢えず優司君が受けた呪印は徐々に”生命力を奪っていく”ものだね」

 優司の疑問に鳳二は軽い感じで返してきた。しかしそれが本当なら彼はやがて生命力を奪い尽くされて死んでしまうのではないだろうか、なのにそんな呑気にしていて良いだろうか。徐々に焦りを募らせていくと優司は額からは冷や汗らしき雫が頬を伝って落ちていくのを感じた。

「そ、それってかなりやばい状況なのでは……?」
「ん? ああ、生命力を奪うと言っても一気にとか直ぐに死ぬわけじゃないよ。まあそのままではいずれ死んでしまうけど」

 優司は鳳二から死ぬという言葉を聞かされると全身から力が抜けいき再び床へとへたり込んでしまった。

「ちょっとお父さん! いい加減にしないと僕も怒るよ」
「あ、ごめん幽香……。別に脅すつもりで言ったわけではないんだよ。その呪印は対象者から生命力を完全に奪い切るのに”一年は掛かる”筈なんだ。だからその時は優司君の”友人達”のタイムリミットとほぼ”同じ時期”になると思う」

 幽香が再び怒りを孕んだ声色で注意すると鳳二は新たな事実を彼に教えた。
 それ即ち優司の命と親友達のタイムリミットが大凡同じだと言うことだ。

「という事は俺がその悪霊を一年以内に払わなければ、アイツらと共に死ぬという事ですか……」
「大丈夫だよ優司。僕も協力するから一緒に悪霊を見つけ出して払おう。絶対に」

 命のタイムリミットが自分にも存在するという事実を知ると不思議な事に優司は少しだけ救われた気がしたのだ。それは、ただ自分だけがあの惨劇から生き残ってのうのうと生きていく何て親友達に顔向け出来ないからだ。

「あ、ああ。本当に世話になるな幽香」

 そして幽香の口振りで大体は分かると思うが、あの悪霊は既に廃墟にはおらず逃げ出した後だと言う。何でも優司と幽香が廃墟から脱出したあと外に居た何人かのお坊さんが悪霊を払いに廃墟へと入ったのだが、既にそこに悪霊の姿はなく居たのは意識不明の親友達だけだったらしい。

「呪印についての話はこれぐらいになるね。あとは……「ちょっと待ってください!」」

 話が一段落ついた所で鳳二が口を開くと優司は透かさずにもう一つ気になっている事を聞く為に割って入った。

 ここまで来たのだ。
 きっと鳳二ならあの悪霊が言っていた言葉の意味が分かる筈だと彼は確信しているのだ。

「ど、どうしたんだい?」
「ゆ、優司……?」

 二人は彼が話に割って入ると急な事に戸惑っている様子だ。
 しかし聞くなら今しか絶好のタイミングは無いだろう。
 ああ、これはきっと聞かねばならない事だと優司の中の直感が告げている。

「実は、あの悪霊は俺にこんな音……いや言葉を残して言ったんです。”いちねんごくう”という事を。もしかしてそれはこの呪印と関係しているんですか?」

 優司はあの悪霊が発していた言葉を鳳二に尋ねる。

「ふむ……悪霊が人語を解するのか。ならば奴は相当な生命力を一気に奪っていったのだな。そして優司君、君が言っている事は合っているよ。さっきも言ったがその呪印を腕に刻んだ時点で奴は君をじわじわと弱らせて”来るべき一年後”に食らって完全な”復活”を遂げる気なのだろう」
 
 するとやはり最悪な展開を再確認するだけとなった。どうやらあの悪霊は生命力を少しづつ奪って、弱りきった一年後に彼を食らって再び復活を遂げようとしているらしい。
 簡単に言ってしまえばただの生き餌という事だ。

「そ、そうですか。ならば俺はあの悪霊と再び対峙しないといけないんですね……」

 どうあがいても結局の所、一年という限られた期間で悪霊を見つけ出し払わなければならないという事だ。
 当然これは変わりようのない事実で優司は親友達の命を救う為に全力を尽くすつもりだ。

「そうだとも! だから優司君には”悪霊払いの力”を身につけて貰う必要があるんだ。その力はきっと今後の君の運命に大きく関わってくる筈だからね」

 鳳二のその言葉には力が篭っているようだった。だけど悪霊払いの力とは一体どういう物なんだろうか。優司が見たのは幽香が御札らしき紙を使って悪霊を足止めしていたアレぐらいだ。

「よし、取り敢えず悪霊についての話しは終わりだね。次は優司君に力を身につけて貰う為に――」

 悪霊についての話しが終わると次に鳳二は今後の事を話し始めた。
 それは親友達、そして優司自身を救うための唯一の方法を。
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