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第四章 イタリア少女の闇
15話「少年の課題とイタリア少女の闇」
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「流石に嘘を付いた状態でグラウンドで堂々と練習する訳にもいかんしな。……となれば人気のない定番の場所しかあるまい」
望六は教室を出たあと校則を破ることに多少の危機感を募らせつつも、廊下を走り抜けるとそのまま誰にも邪魔されずに尚且つ目立つこともない場所へと向かう。
「問題は鍵が開いているかどうかだが……まあこういう時は大抵開いている筈だ」
廊下を走り終えて息を乱れさせながらも彼は顔を上げると、目の前に続く階段を見据えて右足を乗せると反動をつけて勢い良く駆け上がっていく。
そう、望六が魔法の練習に選んだ場所とは学園や学校には必ず存在する場所で、そこは通常”屋上”と称されている場所である。
だが近年では安全管理の為に屋上へと続く扉には鍵が掛かっている事が殆どであり、彼は少なからずその部分を心配しているのだが、いざという時は魔法を使って破壊しようとすら思っている。
……がしかしそんな事をしてしまっては無論だが損害請求や諸々の面倒事が起きるのは目に見えて分かることであって、出来る限り破壊という行為はしたくないのが望六の本音である。
それに誰の目にも入らずに存分に特訓が行える場所は限りなく少なく、絶好の場所だというのは存外捨てがたいものであるのだ。
「よーし、屋上へと通ずる扉前に到着だ。あとは鍵が掛かっているかどうかだが……」
色々と思案しているうちに最上階まで到着すると彼の視界には深緑色をした扉が閉じられていて、それは一見しただけでは施錠されているのかどうかは分からなかった。
「い、いくぞ……。てか頼むぞマジで。ここが駄目なら後はトイレぐらいだからな」
最悪の場合を想定しつつも望六は意を決してドアレバーを汗ばむ手で握ると、ゆっくりと下げ始めたが意外にも途中で止まるような事はなく、しかも施錠されているような様子すらも感じられずに案外あっさりと屋上へと続く扉は開放された。
「うぉ……なんだよ。この学園不用心かよ」
意図も簡単に開いてしまった扉を見ながら彼は呟くと変に力んでいた自分が馬鹿みたいだと思い、笑みが込み上げてくると何事もなかったかのように屋上へと足を踏み入れた。
するとこの場所は学園で二、三番目ぐらいに高い場所という事もあり中々に景色は良くて時折吹く潮風が何とも心地よく、一瞬だけ魔法の練習なんかどうでもいいと望六には思えてしまうほどであった。
「……っといかんいかん! 本来の目的をしっかりとやらないとな!」
頭を左右に振って気持ちを整理すると共に頬を数回叩いて意識を集中させると、彼はデバイスの入っている専用のケースを肩から下ろして中から宵闇月影を取り出した。
「まあ俺の場合は身体強化の魔法を長時間維持する為の特訓だしな。派手に動き回る必要もなく、斬撃を放つ訳でもないしな」
右手にデバイスを握りながら望六は呟くと、屋上を選んだ理由にこれらが含まれていてグラウンドで行うような特訓をしないからである。
要は身体強化の魔法を両足や両手もしくは全身に施して持続時間を伸ばす為の練習をするだけであり、あとは魔力の微量調節を予備の練習課題としているだけなのだ。
「んじゃまぁ時間が惜しいから、さっそくやっていくか。術式展開【All status・up】!!」
詠唱を行い即座に体の内に流れる魔力の調節に入るとそれは準備運動のようなものであり、ある程度の流れを維持出来ると次に部位強化ではなく全身に無属性の魔力を張り巡らせようと彼は意識を研ぎ澄ませた。
「はぁぁぁぁっ!!」
屋上に望六の叫び声が木霊し始めると体は物凄い熱量を感じていて、もはや体の内側に溶岩を直接流し込まれているような錯覚すら覚えると額から湯水のように汗が流れ出した。
「ぐッ……やはりデイヴィス先輩から教えて貰った筋トレと併用して練習しないと、俺の体はまだ不可に耐えられないのか……ああぁぁっ!!」
全身が燃えるような感覚に襲われて両目に流れた汗が入り込んで痛みを伴うと、自身の体はまだ器にすらなっていないことを実感して身体強化の魔法を途中で解除すると、彼は背中からコンクリートの床に倒れ込んだ。
「はぁはぁ……こんな調子で一年魔導対決に間に合うのか? いや、間に合わせるしかない。最悪の場合は部位強化のみで乗り切るしか……」
右手を空に伸ばして握り拳を作りながら望六はありとあらゆる可能性を考える。だがどれを辿ったとしても、この与えられた魔法を自在に扱えるようにならないと魔術留学生という強敵達には到底太刀打ちできないという事を望六は深く理解していた。
何故なら自分はつい最近まで平凡なアニオタであり、ある日突然魔法適正が見つかり無属性という足枷を付けられたからだ。さらに幼い頃から訓練を積んできた属性付きの者達とは埋められない絶対なる練習時間量が存在していて、その差をなんとかしない限り勝利は壊滅的であると。
「はぁ……取り敢えず筋トレの課題は食後にするとして、今は身体強化の持続時間を伸ばす特訓を続けるか」
倒れていた体を起き上がらせて彼はデバイスを握り直すと再び詠唱を行い、そこから夕食の時間まで只管に魔法を発動しては倒れるを繰り返して彼は過ごすのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「うーむ、流石に汗まみれで食堂に行く訳にもいかんな」
練習を終えてナタリア達と遭遇しないように自室へと帰ってくると、望六は特訓の証とも言える汗を流す為にその辺に服を脱ぎ捨ててシャワー室へと入り込む。
「そう言えば一樹の姿が見えなかったが……アイツも自主トレとかしてんのか?」
部屋に戻った際に彼の靴が無くて部屋にも戻ってきた痕跡がないことから、望六は一樹の不在を何となく気に留めると自分と同様に特訓でもしているのかと考えた。
――だが魔法の特訓で予想以上にカロリーを消費していた彼は一刻も早く食堂に向かいたく頭を乱暴に洗い終わって汗を流すと、急いで体を適当に拭いてジャージをラックから取り出して着替えるとスマホを手に取り部屋を後にした。
「……ん、なんだ? 一樹からメッセージが来ていたのか」
小走りで食堂へと向かう最中、望六はふいに左手に持っていたスマホへと意識が向いて足を留めると画面には数分前に一樹からメッセージが届いていることが表示されていた。
そこで彼は深く考えずとも先に食堂で待っているというメッセージなのだろうと何となく察すると、内容を確認しないまま画面から視線を外して再び小走りを再開させるのであった。
――――そのまま彼が腹を空かせて食堂へと到着すると左側のテーブル席に、いつものメンバーが勢揃いしている事に気が付いて席へと近づいていく。
「おお、遅かったな望六。てか何でジャージ姿なんだよ?」
すると一樹が彼の存在に気が付いたようで首を傾げながら服装に対して疑問を抱いているようであった。
「まあ色々とあってな。だがそれよりも飯にしよう! 飯に!」
本当の事を言うわけにもいかずに望六は適当に言葉を濁すと夕食を食べる事を勧めだす。
「お、おう。そうだな」
その勢いに彼は若干戸惑いながらも頷いて返事をしていた。それから全員が各々の夕食を食べながら軽い雑談を交えると、その中には実技授業での出来事などを話したりして、あっという間に全員が夕食を食べ終えるとお茶や炭酸を飲みながら一息ついていた。
「ふぅ……取り敢えず満足だな」
腹も満たされて望六がそう呟くと無料で飲めるお冷を一気飲みして喉と胃を落ち着かせる。
「取り敢えずってなんだよ……。まだ食べる気かぁ?」
それを見ていたのか翠嵐が目を細めながら呆れたような口調で声を掛けてきた。
「あぁ、その気になればまだいける。だが腹八分目と言うし食い過ぎは良くないな」
飲み干して空になったコップを机の上に置くと、食い過ぎはこの後の筋トレに響くとして彼は敢えて抑えているのである。
「……それとずっと気になっていたんだが月奈は何処に行ったんだ?」
だがそんな事よりもこの場に一向に姿を現さない彼女の事が気になり、望六は周囲に顔を向けながら全員に訊ねる。
「ふわぁ……それならアレだ。どうやら自分に合った魔法がイメージ出来たようで、工学科の咲の力を借りて魔法を組み上げているそうだ。だから寮に戻るのはだいぶ遅くなるとか」
そして一樹が欠伸をしながら彼の質問に答えていくと、月奈は自分の魔法を完成させる為に工学科に在籍している友人の神凪咲の力を借りているらしく寮へと戻るのにも時間が掛かるらしいのだ。
「おお、ついに特質属性の自作魔法か! ……っていうことは一年魔導対決の時に使用してくる確率が高いということだな」
それを聞いて望六は等々彼女が自分だけが扱うことの出来る魔法を作りだした事に妙な興奮を覚えると、その魔法は恐らく一年魔導対決という試合の場にてお披露目されるのではないかと感覚的に思う。
「……だがそれにしてもナタリアよ。またお前は階段から落ちたのか?」
この場に月奈が居ない事情を聞いて納得すると、彼は次に隣の席で幸せそうにケーキを食べて頬を緩ませている彼女へと顔を向けて正直に思った事を訊ねた。
「ふぇっ!? な、なんだい急に!」
何の前触れもなく声を掛けられた事で驚いたのかナタリアは体を僅かに跳ねさせて椅子を揺らすと、右手にフォークを握り締めたまま目を丸くさせて表情と体が膠着しているようであった。
けれど望六が階段から落ちたのかという質問をしたのには理由があり、それは彼女の腕や頬に包帯や絆創膏が幾つも見受けられたからだ。
それはゴールデンウィークに入る直前に見た時と同じような光景で、彼としてはその傷は人為的に付けられたものではないかと直感で悟ると、このまま放置しておいてはいけない問題だとしてナタリアの返答次第では直ぐに動こうと心に決めのであった。
望六は教室を出たあと校則を破ることに多少の危機感を募らせつつも、廊下を走り抜けるとそのまま誰にも邪魔されずに尚且つ目立つこともない場所へと向かう。
「問題は鍵が開いているかどうかだが……まあこういう時は大抵開いている筈だ」
廊下を走り終えて息を乱れさせながらも彼は顔を上げると、目の前に続く階段を見据えて右足を乗せると反動をつけて勢い良く駆け上がっていく。
そう、望六が魔法の練習に選んだ場所とは学園や学校には必ず存在する場所で、そこは通常”屋上”と称されている場所である。
だが近年では安全管理の為に屋上へと続く扉には鍵が掛かっている事が殆どであり、彼は少なからずその部分を心配しているのだが、いざという時は魔法を使って破壊しようとすら思っている。
……がしかしそんな事をしてしまっては無論だが損害請求や諸々の面倒事が起きるのは目に見えて分かることであって、出来る限り破壊という行為はしたくないのが望六の本音である。
それに誰の目にも入らずに存分に特訓が行える場所は限りなく少なく、絶好の場所だというのは存外捨てがたいものであるのだ。
「よーし、屋上へと通ずる扉前に到着だ。あとは鍵が掛かっているかどうかだが……」
色々と思案しているうちに最上階まで到着すると彼の視界には深緑色をした扉が閉じられていて、それは一見しただけでは施錠されているのかどうかは分からなかった。
「い、いくぞ……。てか頼むぞマジで。ここが駄目なら後はトイレぐらいだからな」
最悪の場合を想定しつつも望六は意を決してドアレバーを汗ばむ手で握ると、ゆっくりと下げ始めたが意外にも途中で止まるような事はなく、しかも施錠されているような様子すらも感じられずに案外あっさりと屋上へと続く扉は開放された。
「うぉ……なんだよ。この学園不用心かよ」
意図も簡単に開いてしまった扉を見ながら彼は呟くと変に力んでいた自分が馬鹿みたいだと思い、笑みが込み上げてくると何事もなかったかのように屋上へと足を踏み入れた。
するとこの場所は学園で二、三番目ぐらいに高い場所という事もあり中々に景色は良くて時折吹く潮風が何とも心地よく、一瞬だけ魔法の練習なんかどうでもいいと望六には思えてしまうほどであった。
「……っといかんいかん! 本来の目的をしっかりとやらないとな!」
頭を左右に振って気持ちを整理すると共に頬を数回叩いて意識を集中させると、彼はデバイスの入っている専用のケースを肩から下ろして中から宵闇月影を取り出した。
「まあ俺の場合は身体強化の魔法を長時間維持する為の特訓だしな。派手に動き回る必要もなく、斬撃を放つ訳でもないしな」
右手にデバイスを握りながら望六は呟くと、屋上を選んだ理由にこれらが含まれていてグラウンドで行うような特訓をしないからである。
要は身体強化の魔法を両足や両手もしくは全身に施して持続時間を伸ばす為の練習をするだけであり、あとは魔力の微量調節を予備の練習課題としているだけなのだ。
「んじゃまぁ時間が惜しいから、さっそくやっていくか。術式展開【All status・up】!!」
詠唱を行い即座に体の内に流れる魔力の調節に入るとそれは準備運動のようなものであり、ある程度の流れを維持出来ると次に部位強化ではなく全身に無属性の魔力を張り巡らせようと彼は意識を研ぎ澄ませた。
「はぁぁぁぁっ!!」
屋上に望六の叫び声が木霊し始めると体は物凄い熱量を感じていて、もはや体の内側に溶岩を直接流し込まれているような錯覚すら覚えると額から湯水のように汗が流れ出した。
「ぐッ……やはりデイヴィス先輩から教えて貰った筋トレと併用して練習しないと、俺の体はまだ不可に耐えられないのか……ああぁぁっ!!」
全身が燃えるような感覚に襲われて両目に流れた汗が入り込んで痛みを伴うと、自身の体はまだ器にすらなっていないことを実感して身体強化の魔法を途中で解除すると、彼は背中からコンクリートの床に倒れ込んだ。
「はぁはぁ……こんな調子で一年魔導対決に間に合うのか? いや、間に合わせるしかない。最悪の場合は部位強化のみで乗り切るしか……」
右手を空に伸ばして握り拳を作りながら望六はありとあらゆる可能性を考える。だがどれを辿ったとしても、この与えられた魔法を自在に扱えるようにならないと魔術留学生という強敵達には到底太刀打ちできないという事を望六は深く理解していた。
何故なら自分はつい最近まで平凡なアニオタであり、ある日突然魔法適正が見つかり無属性という足枷を付けられたからだ。さらに幼い頃から訓練を積んできた属性付きの者達とは埋められない絶対なる練習時間量が存在していて、その差をなんとかしない限り勝利は壊滅的であると。
「はぁ……取り敢えず筋トレの課題は食後にするとして、今は身体強化の持続時間を伸ばす特訓を続けるか」
倒れていた体を起き上がらせて彼はデバイスを握り直すと再び詠唱を行い、そこから夕食の時間まで只管に魔法を発動しては倒れるを繰り返して彼は過ごすのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「うーむ、流石に汗まみれで食堂に行く訳にもいかんな」
練習を終えてナタリア達と遭遇しないように自室へと帰ってくると、望六は特訓の証とも言える汗を流す為にその辺に服を脱ぎ捨ててシャワー室へと入り込む。
「そう言えば一樹の姿が見えなかったが……アイツも自主トレとかしてんのか?」
部屋に戻った際に彼の靴が無くて部屋にも戻ってきた痕跡がないことから、望六は一樹の不在を何となく気に留めると自分と同様に特訓でもしているのかと考えた。
――だが魔法の特訓で予想以上にカロリーを消費していた彼は一刻も早く食堂に向かいたく頭を乱暴に洗い終わって汗を流すと、急いで体を適当に拭いてジャージをラックから取り出して着替えるとスマホを手に取り部屋を後にした。
「……ん、なんだ? 一樹からメッセージが来ていたのか」
小走りで食堂へと向かう最中、望六はふいに左手に持っていたスマホへと意識が向いて足を留めると画面には数分前に一樹からメッセージが届いていることが表示されていた。
そこで彼は深く考えずとも先に食堂で待っているというメッセージなのだろうと何となく察すると、内容を確認しないまま画面から視線を外して再び小走りを再開させるのであった。
――――そのまま彼が腹を空かせて食堂へと到着すると左側のテーブル席に、いつものメンバーが勢揃いしている事に気が付いて席へと近づいていく。
「おお、遅かったな望六。てか何でジャージ姿なんだよ?」
すると一樹が彼の存在に気が付いたようで首を傾げながら服装に対して疑問を抱いているようであった。
「まあ色々とあってな。だがそれよりも飯にしよう! 飯に!」
本当の事を言うわけにもいかずに望六は適当に言葉を濁すと夕食を食べる事を勧めだす。
「お、おう。そうだな」
その勢いに彼は若干戸惑いながらも頷いて返事をしていた。それから全員が各々の夕食を食べながら軽い雑談を交えると、その中には実技授業での出来事などを話したりして、あっという間に全員が夕食を食べ終えるとお茶や炭酸を飲みながら一息ついていた。
「ふぅ……取り敢えず満足だな」
腹も満たされて望六がそう呟くと無料で飲めるお冷を一気飲みして喉と胃を落ち着かせる。
「取り敢えずってなんだよ……。まだ食べる気かぁ?」
それを見ていたのか翠嵐が目を細めながら呆れたような口調で声を掛けてきた。
「あぁ、その気になればまだいける。だが腹八分目と言うし食い過ぎは良くないな」
飲み干して空になったコップを机の上に置くと、食い過ぎはこの後の筋トレに響くとして彼は敢えて抑えているのである。
「……それとずっと気になっていたんだが月奈は何処に行ったんだ?」
だがそんな事よりもこの場に一向に姿を現さない彼女の事が気になり、望六は周囲に顔を向けながら全員に訊ねる。
「ふわぁ……それならアレだ。どうやら自分に合った魔法がイメージ出来たようで、工学科の咲の力を借りて魔法を組み上げているそうだ。だから寮に戻るのはだいぶ遅くなるとか」
そして一樹が欠伸をしながら彼の質問に答えていくと、月奈は自分の魔法を完成させる為に工学科に在籍している友人の神凪咲の力を借りているらしく寮へと戻るのにも時間が掛かるらしいのだ。
「おお、ついに特質属性の自作魔法か! ……っていうことは一年魔導対決の時に使用してくる確率が高いということだな」
それを聞いて望六は等々彼女が自分だけが扱うことの出来る魔法を作りだした事に妙な興奮を覚えると、その魔法は恐らく一年魔導対決という試合の場にてお披露目されるのではないかと感覚的に思う。
「……だがそれにしてもナタリアよ。またお前は階段から落ちたのか?」
この場に月奈が居ない事情を聞いて納得すると、彼は次に隣の席で幸せそうにケーキを食べて頬を緩ませている彼女へと顔を向けて正直に思った事を訊ねた。
「ふぇっ!? な、なんだい急に!」
何の前触れもなく声を掛けられた事で驚いたのかナタリアは体を僅かに跳ねさせて椅子を揺らすと、右手にフォークを握り締めたまま目を丸くさせて表情と体が膠着しているようであった。
けれど望六が階段から落ちたのかという質問をしたのには理由があり、それは彼女の腕や頬に包帯や絆創膏が幾つも見受けられたからだ。
それはゴールデンウィークに入る直前に見た時と同じような光景で、彼としてはその傷は人為的に付けられたものではないかと直感で悟ると、このまま放置しておいてはいけない問題だとしてナタリアの返答次第では直ぐに動こうと心に決めのであった。
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