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第四章 イタリア少女の闇

4話「やはり百合は学園にて」

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「ンだよ。そんな下らない質問如きで重苦しい雰囲気を漂わせるんじゃねェよ」

 望六の質問を聞いてデイヴィスが面倒臭そうに後ろ髪を掻いて視線を外す。

「おっと、それは侵害デース。私と付き合っている事はデイヴィスにとって下らないこと何デースか?」

 その隣では耳を数回小刻みに動かしてしっかりと聞いていた事を主張しているのかオリヴィアが人差し指を自身の顎に添えて尋ねていた。

「……ッ別にそういうことじゃねェよ。オレはただ望六ちゃんの雰囲気を言ったまでだ」

 突然の彼女の含みのある言葉にデイヴィスは頬を若干引き攣らせると言い訳というよりかは弁明に近いことを口にしていた。

「ふーん、まあ良いデース。深くは聞きませんデース。それと望六ちゃん? そういう事だから貴方の思っている事が正しいデース! 流石は噂の一年デースね、洞察力が素晴らしいデース!」

 小悪魔っぽい表情を浮かべながらオリヴィアが彼女から視線を外すと矢継ぎ早に今度は望六の方へと向いて、何故か”ちゃん”付けで呼ぶと同時に”噂の”という意味深な言葉を使いながら褒めていた。

 だがその一瞬の出来事で幾つもの疑問が望六の中で駆け巡ると、一体なにを先に聞いたらいいのかと訊ねる順番にすら疑問を覚えて脳内に警告音が鳴り響く始末であった。

「いや、お前が腕を組んできている時点で誰でもある程度は分かると思うけどなァ。あと何でお前までコイツの事を”ちゃん”付けで呼んでんだよ?」

 彼の思考が止まりかけている最中でもデイヴィスは目を細めながら冷静に言葉を返すと、望六が彼女に訪ねたかった事の一つを意図も簡単に聞いていた。

「ん、駄目デースか? デイヴィスがちゃん付で呼ぶ人は、大抵お気に入りの人だけだから私もそれに肖ってみたデース」

 片目を閉じて人差し指を立たせながらオリヴィアは言うと、それを目の前で見ていた望六は何となくだが彼女はデイヴィスを揶揄っては楽しんでいるように見えて、先程まで脳内を巡っていた疑問は全てがどうでも良くなっていた。

「別にィ……良いんじャねえか?」

 口を一の字にしながら嫌そうな表情をデイヴィスは見せる。

「ふふっ、素直じゃないデース」

 その反応が面白いのかオリヴィアは微笑みながら人差し指をそのまま彼女の頬へと近づけて軽く数回小突いていた。

「うるせェよ。……まァしょうもない雑談はこれぐらいにして少しばかし真面目な質問をするぞ」

 頬の小突きが鬱陶しいのか顔を左右に動かして振り払う仕草を取ると、彼女は場を仕切り直すように望六へと視線を合わせて覇気を込めたような声色で喋りかけてきた。

「は、はいっ!」

 彼女の突然の雰囲気変わりに望六は一瞬だけ反応が遅れるが、直ぐに返事の言葉を喉から捻り出す。

「お前は……もしかしてだがオレが与えた魔法の練習をしていたんじャねえか?」

 声色を整えてデイヴィスが訊ねてくると、それはとどのつまり彼が先程までしていた事の質問であった。

「うぐッ……それは……そのなんというか……」

 彼女が先程まで望六のしていたことを的確に見抜いて聞いてくると、流石は三学年の先輩だと望六は感心する一方でこの場をどうやって切り抜けるか考えていた。
 
 何故ならば渡された魔法を練習しようとして、あろう事かデバイスを地面へと放り投げるという失態を見せてしまっていたからだ。

 ゆえに理由が理由であり、彼は正直に魔法が使えませんでしたと言うのが怖いのだ。
 しかも相手がデイヴィスという如何にも気性の荒い人だと尚更である。

「ぷふっ、その反応は答えを言っているようなものデース」

 オリヴィアが口を開いて僅かに白い歯を見せてくる。

「ははっ……まあそんな感じです……ええ、はい」

 すると、いよいよ言い逃れが出来ない状況まで追い込められて望六は諦めて白状することを選ぶ。

「ふっ、だったら丁度い。少しだけお前の練習を見といてやるから今ここで使ってみろ。ほら、早くしろ」

 やはりと言った風な表情をデイヴィスは見せてくると、今この場でその続きをしろとはっきりと言い切った。

「ま、まじっすか……。それは有難いですけど先輩方の二人きりの時間を邪魔するのも俺的にはどうかと……」

 望六としては身体強化の魔法を開発した当の本人から直接扱い方を学べる機会は貴重だと考えてお願いしようとしたが、それよりも今この場で練習を見てもらってしまっては折角の貴重な時間を邪魔する形になるのではと童貞なりの気遣いが先に出た。

「んなこまけェこと気にすんな。オレとしては与えた魔法を使いこなしたお前ともう一度戦ってみてェしよォ」

 空いている右手を小さく上げてデイヴィスは笑みを零しながら言うと、ずっと彼女と目を合わせていた望六は体の内側を擽られるような妙な感覚を味わっていた。

 その理由としてはデイヴィスの蒼き二つの瞳が何処か野性味を帯びていて、例えるならばライオンのメスであり、まるでその瞳は肥えた獲物を狩ろうとしている気すら感じさせれるほどであるからだ。
 
 つまり自分が身体強化の魔法を扱えるようになって再戦した時に物理的に食われるのではないかと望六には一抹の不安が生まれてしまったのである。例えそれが飛躍しすぎた考えだとしても。

「私はデイヴィスが楽しいのなら別に二人きりの時間を”邪魔”されても一向に構いませんデース。ふふっ」

 自分達の時間を邪魔されても大丈夫だとオリヴィアは言うが、だとしたら邪魔という単語を呟いた時だけ強めの口調になったのは何故だろうと望六は額に滲んだ変な汗を拭いながら思う。

「は、ははっ……でしたらお、お願いし、しまーす……」

 汗を拭い終わって望六は二人の先輩を交互に見ながら頭を深々と下げると、不思議と言葉が途切れ途切れとなってしまい内心凄く恐怖を抱いているのだと自覚した。

 ――――それから三人は長椅子が置かれている近くの場所へと移動すると、望六は先輩達が椅子に座りながら見守られる中で改めて魔法を発動することとなった。

「はぁ……緊張するなぁ。これでまた失敗したら今度はどんな辛辣な言葉を言われるのやら……。ああ、滅茶苦茶気分が重たい」

 デバイスを右手に持ちながら独り言を呟くと望六は横目でデイヴィス達の方へと意識を向けるが、どうやら二人は何かを話し合っている様子であったが視線だけはしっかりと前を向いていた。

「ぐぬっ、やっぱりめっちゃ見られてる……。いや、まぁ見てくれる訳だし当たり前と言えば当たり前だけども……」

 先輩達から意識を外して望六は死刑執行を待つような囚人のような気持ちになると、一層のこと急用が出来たとか何とかでデイヴィス達が寮へと戻らないかと少し思ってしまう。

「おいッ。なにを悠長にさっきから立ち尽くしてンだァ? さっさと魔法を使ってオレに見せろ!」

 だがそんな彼の些細な願いは届かず等々業を煮やしたのか、デイヴィスは若干苛立ち混じりの声を出して急かしてくる。

「は、はいっ! 術式展開【All status・up】!!」

 これ以上待たせると別の意味で危険だと望六は即座に判断して早口で詠唱を行う。
 するとデバイスは瞬く間に白色の淡い閃光を放ち始めて、

「くがッ!? また……これだ……。一体どうすりゃぁいいってんだよ!」

 望六は柄を握っている手から再び魔力が逆流してくるような違和感と共に全身の温度が上昇していく体感を受ける。

「なるほどなァ。そんな初歩的な所で躓いていた訳か。よし、もういいぞ。一旦魔法を解除しろ」

 彼が魔法を発動して直ぐに何かを悟ったのかデイヴィスが魔法を止めるように言う。

「か、解除? わ、分かり……ました」

 体が燃えるような熱さに耐えながら返事をして指示に従う望六。

「はぁ……。お前に魔法を渡したのはオレの早とちりだったかも知んねェなぁ」

 魔法を解いてから両膝に手を付いて息を荒げる彼を見て、デイヴィスが溜息混じりの声でそう呟くと彼女の隣に座っていたオリヴィアも同様なのか首を左右に振って何とも言えない表情を浮かべていた。

「えっ? それはどういう意味で……?」

 デイヴィスの言葉がまるで期待外れとでも言っているかのように聞こえた望六は咄嗟に聞き返すのであった。
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