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第二章 イタリア少女と中国少女

32話「女先輩からの贈り物は怖い」

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 望六と一樹が夜風を浴びて気分を落ち着かせたあと二人は寮へと戻ったのだが、その途中で廊下には一組の女子達が大勢で動きやすそうな薄着の格好をして佇んでいたのだ。

 その光景に望六は何事かと思い女子の様子をじっと見ると、その中の多くの女子は何やら手をもじもじとさせたり頬を赤く染めたりとして何処か落ち着かない様子であった。

「ど、どうしたんだ皆?」

 一樹がその光景に耐えかねたのか戸惑いの声を出して訊ねていた。
 もうすぐ消灯だと言うのに大勢で、しかもまるで待ち伏せしていたかのようなこの状況に望六は疑問しか浮かばない。

「あ、あのね? 広報ボードを見たら望六くんと一樹くんの好きなのがこういうのだって書いてあったから……その……ね?」

 そう言って一人の女子が緊張した様子で口を開くと、そこから語られたのはあの捏造だらけのWM広報ボードに書かれていた二人のフェチの事であった。

 そこで望六は改めてその場に居る女子達に視線を向けると、そこにはノースリーブの服を着た女子と髪を纏めてポニーテールを作りうなじが見えやすくなっている人達が大半であった。

 つまりあの捏造だらけの広報ボードを見て、実践したという事だろうと否応なしに望六は納得せざる得なかった。

「あ、でもごめんね望六くん! 運動後の腋ってどうしても恥ずかしいし……今日は練習試合のあとだから皆もうお風呂に入って汗を流しちゃったから……」

 クラスメイトの言葉を聞いて一樹が唖然としていると、再び女子が口を開いて赤面したまま望六の方に視線を向けて途轍もない事を言い出した。
 それに対して望六は自分がかなりの変態であることは自覚しているが、これだけは言わなければならなかった。

「い、いや気にしなくて大丈夫だ。……というよりあの広報ボードに書かれている事は嘘だぞ? 俺は確かに腋は好きだがそんなマニアックなのはちょっとな」

 そう、まずはあの広報ボードが捏造していることを伝えることであり、次に自分がそんなマニアックなフェチを持っているわけではないという嘘をつくことであった。

 実際は運動後の蒸れた腋は彼にとって興奮するものであり生で見たい光景なのだ。
 ……しかしそんな過度なフェチが一組以外で広まったら、いよいよ二つ名が【腋好き候補生】になってしまうと望六は危機感を抱いたのだ。

「お、俺もうなじは好きだけど、そんな無理にしなくても大丈夫だぞ! あれはラーメンとかを食べてる時に自然と行う仕草だからこそ良いからな!」

 望六が喋り終えたあと一樹が唖然としていた状態から我に返ったのか、彼と同様にやんわりと無理にそんな事をしなくていいと言っていた。そして女子達が二人の言葉を聞くと、

「そ、そうなの? ……だ、だよね二人がそんな変態なわけないもんねっ! で、でも私達は月奈さんやナタリアさんのようにもっと深く二人と仲良くなりたいから……っ!!」

 そう言って一人の女子が望六達の目の前に駆け寄ってくると周りにた女子達も一斉に距離を縮めに来た。その突然な出来事に望六は驚いて身動きが取れないでいると、隣の一樹も目を丸くしているだけで体は動かないようだった。

「ちょ、ちょっと!?」

 なんとか声だけでも望六は出すと周りに集まった女子達は皆一様に口を揃えてこう言ってきた。

「「「「お願いっ! 二人の連絡先教えてっ!!」」」」

 それを聞いた瞬間、望六はこの女子達は練習試合後の疲れた体を動かしてまで何をしているだろうかという至極真っ当な考えであった。
 しかしこれは些かまずい事態でもある事は彼とて直ぐに理解出来た。

 なんせ一組の女子の大半がこの場に騒ぎながら居るのだ。
 つまりナタリアや月奈がこの騒ぎを聞いて駆けつけてきたら、間違いなくこの場で何かを勘違いした二人に殺られると望六は分かったのだ。

 恐らくナタリアからは光を失って濁った瞳を向けられて吸血されるという展開。そして月奈からは変態がどうのこうの言われて一樹を巻き添えにしたと勘違いされて鉄拳制裁という無慈悲な展開だ。

「あ、ああ。それぐらいならお安い御用だが……」

 取り敢えずこの場を抑える為に望六はスマホをポケットから取り出す。
 すると隣では一樹も慌てながらスマホを取り出して準備万端のようだ。

「ありがとうね二人ともっ!! これで授業の事とか魔法についての事とか色々と相談できるよ! それにこの連絡先さえあれば……ふふっ」

 二人がスマホを通信状態にして周りに居る女子達と連絡先を交換していくと、微かに不穏な言葉が聞こえた気がしたが望六は特に気に留める事はなかった。
 主にナタリアのせいでそういう事に鈍くなってしまっているのだ。

「これで全員大丈夫かな?」

 一樹がスマホを弄る手を止めると全員に顔を向けて連絡先の交換を終えたか確認していた。
 そして望六はその間に一気に女子達のアカウントが増えた某トークアプリを見ながら手が震えていた。

 今まで中学の頃の悪友や妹達や月奈達だけで友達一覧の数字が一桁だったのに今では二桁でしかもその多くは同級生の女子だ。これは夢にも思わない事であり、望六は心の中で嬉し涙を流した。

「大丈夫だよ! 連絡先渡ったみたいっ!」

 そう言ってカチューシャを身につけた女子が手を上げて知らせてくれた。

「よし、じゃあ皆は試合で疲れた体を癒すようにな?」
「明日は休日だからゆっくり休もうぜっ!」

 そのまま望六が喋り出すと後に続いて一樹が親指を立たせていつものイケメンスマイルを添えながら皆に顔を向けていた。
 
 それから女子達が笑顔で手を振りながら各自の寮部屋へと戻っていくと、手を振る際にノースリーブの服を着た女子達の腋が顕になり望六は最後に良いものが見れたと満足であった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 


 あれから望六と一樹も自分達の部屋へと戻ってくると、そのまま他愛のない話をして消灯時間を迎えた。その際に某トークアプリの通知音が何度もなっていたが明日確認すれば良いだろうと無視して望六は掛け布団に包まった。

 静かに目を閉じて今日の練習試合について色々な考えを纏めていると、中々に寝付けずに時間だけが過ぎていった。
 彼の体や精神は試合を終えて披露しきっていると言うのに何故か寝れない。

 やがてそれは苛立ちへと変わると望六はいっそ朝まで起きてやろうかと言う精神になり時計へと視線を向けた。すると時刻は既に深夜二時頃となっていて見なければよかったと彼は後悔した。

「はぁ……。ったくなんだよ。寝たい時に寝れないって一種の拷問じゃねえかよ」

 そんな事を呟くと望六は唐突にも思い出した事があった。
 それはずばりデイヴィス先輩が何かをポケットに入れてきた事だった。

「そう言えば今の今まで忘れていたが、デイヴィス先輩は一体俺に何を渡したんだ?」

 色々と考えて見るが当然答えは出るはずもなく手っ取り早く現物を確認したほうが早いとなると、望六は寝ている一樹を起こさなようにクローゼットを開けて礼装のポケットを調べ始めた。

「んー……おっ! あったあった、これだな」

 ポケットに手を入れて探し始めると思いのほか直ぐに見つかり、指先には何か小さいプラスチックの塊が触れる感触が伝わり望六はそれを掴んで取り出した。
 するとそれは――――

「あー? なんだこれ、USBメモリか?」

 全体的に黒色をしていて横には爪を引っ掛ける部分があり、それを押し出すようにすると中からUSBの端子が出てくるのだ。しかもご丁寧な事にこれはUSB3.0のタイプの物ようだ。

「いやいや待て待て。なんでUSBメモリなんかを俺に?」

 そこで望六は改めてUSBメモリをじっくり見ると益々訳が分からなくなった。
 しかし考えていてもしょうがないので、取り敢えずこれをパソコンに挿し込んで中身を確認する事にした。

「ではでは早速……中身を御開帳といきますか」

 物音を立てずに素早く椅子に腰を掛けると、そのまま流れるようにパソコン本体にUSBを挿し込む。あとはパソコン側に何かしらの反応が出るのを待つのみであった。

「お、よしよし。しっかりと認識したな。……んで? 肝心の中身はどうなってるかなっと」

 そのまま数秒が経過するとパソコンにフォルダを開示欄が現れて望六は躊躇するなくそれをクリックすると、メモリの中には【先に読め、でないと体が散る】と書かれた不穏なファイルと魔術コードの書かれたOSファイルの二つが入っていた。

 そこで望六はモニターを見つめながら一体これはどういう事だろうかと頭を悩ませる。
 魔術コードが書かれている物についてはデバイスにインストールするように変化されているから魔法だという事は理解出来た。

 ……がしかし、もう一つの”先に読まないと体が散る”とは一体どういう意味なのか。
 多少の恐怖感を抱きつつも彼は意を決してそのファイルを開いて画面に表示させる。

「……っ? え、なんだよこれ? ただのテキストじゃないか。んだよ……大層なタイトルしていながらそんな落ちかよ」
 
 頭を掻きながら呟くと彼の視界に映ったのはメモ帳のようなテキストであり、大量の文字がそこに書き込まれていた。しかも英語とかではなくちゃんと日本語でだ。
 これを渡してきたデイヴィス先輩は海外の人だが、その辺はしっかりしているらしい。

「まあ、それは良いか。問題はその内容だしな」

 望六は一番最初の方の行から読み始めると、それはこれと一緒に入っていた正体不明の魔術コードの書かれたOSファイルについての事だと分かった。
 それからメモ帳のテキストに書かれていた内容はざっとこんな感じである。

『よう、起きたか望六。まずは文面で済まないが先に謝っておくぜ。オレは手加減とかしないからよ。……んでだ。お前にこれを渡したのには理由がある。それはこれと一緒に入っていた魔法をお前に託す為だ。この魔法はオレが一年の頃に周りを見返す為に作った身体強化の魔法で、扱うのに多少の時間は掛かるかも知れないがな。……下手したら内蔵が圧縮されて全身の穴から血を噴き出して最終的に五体が弾け飛ぶかもだが。まあそんな事よりも託すのには理由があって、その力を使いこなしてオレとまた戦って欲しい。ま、理由としてはそんだけだな! 別に深い意味はないぜ。あーあと何か分からない事があれば三年の校舎に来い。それと最後に一応言っておくが、この魔法をデバイスにインストしたら消去して他言無用で頼むぞ。でないとお前を日本産のミンチ肉にし・ち・ま・う・か・ら・な』

 この全ての文に目を通すと最後の方の一文によって望六は内蔵が冷えるのを感じた。
 だがしかし、ここで試合の時に見て感じたデイヴィス先輩の圧倒的な力の正体を知る事が出来たのも事実。

「なるほどなぁ。通りであんな怪力技を何度も使える訳だ。まさか身体強化の魔法であそこまで力に差がでるとは……」
 
 望六はそう呟きながらテキストを閉じると、次に魔術コードが書かれているファイルにカーソルを合わせた。そして壁に立て掛けてあったデバイス収納ケースから宵闇月影を取り出すとケーブルを繋げてパソコンと接続させる。

「よしよし、あとはインストールだけだな。まあ例によって膨大な時間が掛かるから終わるのは朝なんだけどな」

 モニターに表示される相変わらずの予測完了時間に望六は肩を竦めて脱力すると、やっとここで再び眠気が襲ってきて素直にベッドへと入るとまるで沼に沈むようにして眠りに落ちるのだった。
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