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第一章 イギリスお嬢様とメイド

13話「先輩は某聖杯戦争のセイバーに似ている!」

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「お……おま、お前達が一体何で……じょ、女子寮のしかも隣の部屋から出てくるんだ!!」

 偶然にも二人と鉢合わせになって膠着状態であった月奈が我を取り戻したのか、そのまま一樹に掴みかかる勢いで望六の横を通り過ぎていく。
 それはまるでさっき教室で見たシルヴィアと同じ光景のようだ。
 
 だがその光景を見て望六は胸を撫で下ろしているのも事実。

 彼はてっきり最初に月奈から「ここは男子禁制の場所だっ!」とか言われて鉄拳制裁でも食らうのかと思っていたのだ。
 しかし見た限りそのまま一樹へと向かって行った事から恐らく眼中にないのだろう。

「ちょっ月奈! 待ってくれ! これには海より広い理由があるんだ!」

 望六の背後からそんな言葉が聞こえてくると一樹はどうやら言い訳でもするみたいだ。 
 そのまま望六が振り返って何が起こっているのか確認すると一樹は両肩を抑えられていて、月奈の声色と雰囲気を察するに相当怒っているのだろうと予想出来た。

「ほう? その海より広い理由とは何だ。言ってみろ」

 月奈は声を低くさせて一樹に真実を吐かせようとしている。
 もはやそれは一種の脅しにすら見えるほどだ。 

 そして望六からは月奈の後ろ姿しか見えないが、これだけは痛切に伝わってくる。
 この言い訳、一歩でも間違えたら一樹は生きて帰れないだろうと。

「そ、それは……」

 一樹が震える唇で言葉を捻り出そうとすると……、

『ぐぅぅぅぅう!!』

 その音は余りにも突然大きく望六の腹から鳴り響く。

「あっ……」
 
 彼は思い出した。今日は朝食を食べてなく時間的にもうお昼頃だという事を。
 この緊迫した雰囲気を破壊するかのように鳴った空腹を知らせる鐘は当然、あの二人にも聞こえている筈だ。
 
「なあ。取り敢えず皆で食堂に行かないか? 詳しい話はそれかでも……」
「そ、そうだな。腹が減っては話は出来ぬと言うしな!」

 二人はそう言って望六の方を見てくると月奈は肩を掴んでいた手を離して、一樹は溜息を漏らして命拾いした様子だった。

 しかし不思議な事に何故か月奈の目は凄い泳いでいる。
 急に先程までの修羅の態度からしおらしい態度の変化に望六は疑問を抱くが、きっと二人は自分の空腹を気遣ってくれたのだろうと考えるのを辞めた。
 
 だけどもしかしたら一樹の場合はそれを利用して、話を先延ばしにして何か言い訳でも考えるつもりなのかも知れないと邪な考えが望六の中でふと湧いたのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「さて、やっと食堂に来れたな!」
「ああそうだな。だけど、お昼真っ只だからか女子がめっちゃ居るな……」
 
 パンフレットの地図を見ながら歩いていると三人は学園の食堂へとたどり着く事ができた。
 見ればこの食堂は一年から三年まで、果ては教員までもが自由に利用しているようだ。
 しかも時間的にちょうどお昼なので席は殆どが埋まっている状態。
 
 望六はちゃんと席に座って自由で解放された食事が出来るかどうか心配していると、

「いいからさっさと食券買って席に座るぞ。私は早く話の続きがしたいからな」

 ここに来るまで手をモジモジとさせてしおらしかった月奈だが食堂に着いた瞬間にいつもの雰囲気に戻っていた。一体さっきまでの彼女はなんだったのだろうか。

 もしかして月奈は自分と同じく腹の虫が鳴っていたのかと望六は適当に憶測を立てるが、だとしたら相当恥ずかしい思いをした事になると鼻で笑った。

「おーい。望六も早く食券買えよー」
「まったく、他の女子でも見て呆けていたのだろう。これだから望六は……」
 
 彼がそんな事を考えて棒立ちしていると、いつの間にか二人は食券を買い終えていたようだ。

「おっと済まない! 直ぐに買ってくる!」

 この学園は食券制度を採用しているので好きなメニューを選んでボタンを押すだけだ。
 彼は食券機を食い入るように見始めると、そこには見た事もないような値段の食券が上部にずらっと横一列に並んでいる事に気が付いた。

「な、何なんだ……このA五ランク肉のステーキと言うのは……。値段が六万五千円ってブッ飛びすぎだろ!? 学生が食べる気軽な昼食の値段じゃねぇ!!」

 望六は余りの値段の高さに目が飛び出しそうになったが、何とか冷静さを保つと視線を横にずらした。するとステーキの隣には高級エスカルゴと言う名前が書かれていて値段は二万五千円で既に売り切れ状態だった。

 という事はこの値段の品物を普段から食べているお金持ちがこの学園には居ると言う事になるのだろうか。だとしたら恐るべし第一WM学園。
 まるで平民と貴族が混ざったような学校だと望六は場違い感を覚えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ――あの後なるべく値段の安い牛丼定食の食券を選んで望六は買うと、一樹達と共に食券を食堂のおばちゃんに渡して料理が乗ったトレーと交換して貰い、そのまま運良く空いていた席へと腰を下ろした。

 そして望六は二人に気を遣われたお礼にと月奈と一樹を対面するように座らせてあげた。
 これでしっぽりと話の続きができるだろうと。望六はしっかりと受けた礼は返す主義なのだ。

 そのまま三人は「頂きます」を言うと各々のが買った料理を食べ始めた。
 月奈はうどんを三口ほど食べたあと一樹の方をじっと見て、一樹はその視線に気付いたのか箸の進むペースが明らかにぎこちなくなった。

「それでさっきの話の続きなのだが、今度こそしっかりと訳を話して貰うぞ」
「……は、はい」

 月奈のジト目の視線に一樹はいよいよ観念したのか、箸を置くとこれまでの事情を全て話し始めた。望六はそれを横で聞きながら牛丼が冷めない内にどんどん食べ進めている。

 一樹がざっと月奈に話している内容は木本先生から女子寮だと言われた事とシルヴィアと対決になったことだった。
 もちろん、それを聞いた月奈の反応は望六の想像を軽く凌駕していた。

 目は一切の瞬きをせず口は大きく開き、持っていた箸は手からするりと抜け落ちて床に落ちた。
 だが箸が床に落ちた音を聞いて月奈はハッっとした表情で正気に戻っていた様だ。

「――という訳なんだ。実際、俺もまだよく状況が分かってないんだよ」

 一通り話し終えると一樹は焼き鮭を食べ、それを味噌汁で胃に流し込んでいる。
 味噌汁はさっきまで湯気が立っているぐらい熱そうだったのに、今ではすっかり湯気も消えて冷め切った印象だ。

 しかし、そんな事よりも月奈が思った以上に冷静さを保っていることが望六は不思議でならない。てっきりシルヴィアの話が出て来た辺りで怒りを顕にするのかと思っていたのだ。

「この話を聞いて月奈は意外と怒らないんだな?」
「いや怒っているぞ? この箸で一樹の両目をえぐり取りたいぐらいには。だがまあ……一周回って変に冷静だ」

 望六の言葉に月奈は静かにそう返すと箸を一樹にちらつかせて脅していた。
 だが反応に困った望六は取り敢えず苦笑い的なのをして誤魔化す事にする。

「ああ、そう……」
 
 それから案の定、三人のテーブルだけ凄く気まずい雰囲気が流れ始めると望六はそれに耐えかねて視線を周りへと向ける。

 すると凄く見覚えがあるの女子達が窓側の日当たりの良い感じ場所で昼食を食べているのに気が付いてしまった。

「ま、まじっすか……」

 これはどうするべきだろうか。正直にあの二人がシルヴィアとメリッサだと言う事を月奈に伝えるべきかだろうか。……いや、今下手にここで伝えるべき事ではないだろう。
 
 確か決闘の日程がどうのこうのと言っていた事から、また教室に乗り込んで来るかもしれないからだ。それらの事を一瞬にして脳内で分析すると望六が導き出した答えは、
 
「よし、ここは関わらないと言う手段を取ってスルーするに限るな」

 そう呟くと彼は変に緊張したせいか喉が乾いて、お冷を飲んで落ち着こうとした。
 だがしかし――

「あっ! あそこに座って食べているのが、さっき話したシルヴィアさんとメリッサさんだぞ!」

 一樹は望六の視線の位置で気付いたのか月奈に向かって言い放っていた。

 そこで望六はなぜ一樹は自らの首を絞めるような事をするのだろうか。
 本当に能天気で何も考えていないのだろうかと、三年間ずっと一緒に過ごして居るがこれだけは永遠の謎なのだ。

「ほう……? あれが噂の婚約者か? なるほど結構美人ではないか。良かったなぁ一樹ッ!!」
「ぐあっ!?」

 月奈はシルヴィア達に視線を向けて姿を確認すると、再び視線を一樹へと戻してテーブルの下で何かひと悶着起こったらしい。
 
 そっと望六はテーブルの下を覗くと一樹は脛を手で抑えていたので月奈に思いっきり蹴られたのだろう。しかも月奈が履いているのはロングブーツだ。その痛みは想像を絶するはず。

「というか今の一樹の声で向こうには気付かれてないよな?」

 望六はシルヴィア達の方に恐る恐る顔を向けるが、どうやらこっちの存在には気付いていない様子だった。

 ――その後は月奈が怒りを孕んだ眼差しで只管に一樹を睨み続け、一樹はおどおどしながら昼食を食べていた。睨まれている影響なのか脛が痛いのか食べる速度が凄く遅い。

 それでもやっと昼食を終えると三人は空になった器や容器を返却して食堂から出た。
 これから学園の施設を見て回らないといけないのだ。

 今の所分かっているのは一年の校舎、体育館、寮、食堂、のみだ。
 パンフレットを見るに他には学生と職員が利用できるコンビニみたいな施設があるらしい。

「んじゃぁ、今から学園を見て回る訳だが……お二人はそんな距離感で大丈夫か?」
「気にするな。さっさと行くぞ」

 月奈と一樹は望六の後ろを隣同士で歩いているのだが、どうもまだ喧嘩気味のようで人ふたり分ぐらいの間隔が空いている。
 一樹に至っては先程から目が死んだ魚のようになっているのも印象的だろう。
 
「……はぁ」

 望六はこの状態をどう言う立ち位置で過ごせばいいのか悩むが、パンフレットを見ることで極力関わらない事を選択した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「で、ここの建物にコンビニが入っているのか?」

 望六はパンフレットに指示された通りの場所に着くと、そこに建っていたのは校舎の半分ぐらいの大きさの建物であった。
 もっと簡単に言うと一般的なコンビニよりかは遥かに大きいと言う事だ。

 まさかこの建物の中身が全部コンビニなわけが……っと彼の脳内でそんな言葉がよぎった。
 だがしかし、ここは個性派主義の第一WM学園。やろうと思えば普通にやりそうな雰囲気があることが怖いのだ。

「取り敢えず、どのコンビニ系の物が置いてあるか気になるし入ろうぜ」

 一樹は建物の入口を指差しながら二人に言うと望六も中がどうなっているのかと言う些細な好奇心に駆られて建物の中へと足を踏み入れるが、相変わらず月奈の表情はむすっとしていた。

「おお! これはまた凄い量の品揃え…………いや、これ普通にファ○マじゃねえか」

 建物の中は確かにコンビニみたいに数多くの商品を並べて販売しているようだが、この建物の大きさに対してコンビニ自体の大きさはそんなに無かった。
 
 寧ろ一般的なコンビニの半分の大きさと言えるだろう。
 なら何故こんなにもこの建物は大きいのだろう……そう答えは簡単であった。

 ここには学園専用の国際ATMや休日以外で外に出れない教員や生徒達の為にランジェリーや簡易的な服、さらには制服までもが売っている服屋みたいのが併設されているのだ。

 その服屋みたいな店の規模が普通に大きくて、この建物の八割を占めているようにすら感じられる。流石は女子が大半のWM学園。施設も女性に特化していると言う訳だ。

 ……だけど何だろうか。先程から周りに居る女子達からの視線が滅茶苦茶刺さってくるのを望六は感じていた。それはもはや視線が物理的に刺さる勢いでだ。
 それに対し彼は一体何事かと首を傾げているとこんな会話が耳に入ってくる。

「なんで男風情がこの学園に堂々と居るの?」
「あれ? あの男は確かこの前テレビ映ってた……なんだっけ?」
「バカっ! あれは男性の初のAランクを出した野蛮な男だよ! 私達の敵だよ!」

 本人達は小声で喋っているのかも知れないが望六からすれば普通に丸聞こであった。
 そして彼は変に絡まれたくないと思いその場からそれとなく移動すると一樹達が居るコンビニコーナーへと避難した。

 だが一瞬だけあの女子達が身に着けているネクタイリボンのカラーが”緑色”だった事が確認出来ると、望六は間違いなくあれは二年の先輩方だと確信した。
 あの発言から察するに、どうやら一年だけではなく先輩方からも敵視されているようだ。

「こ、これは!? このコンビニ限定の小豆アイスだと!」

 横から突然月奈の驚くような声が聞こえて来ると、望六は彼女がアイス好きだったことを思い出した。……するとそこへ徐に一樹が月奈に近づいてきて、

「小豆アイスが欲しいのか? 俺も食べたかったからついでに買ってくるぞ」

 颯爽と一樹は冷凍ケースから小豆バーを二本取り出すとレジへと向かって歩いて行った。
 月奈はその流れるような行動に戸惑った様子だったが直ぐに「わ、私は自分で払うからいいっ!」っと言って一樹を追いかけに行った。

「……なにこの幼馴染達めんどくせえ」

 望六はそんな二人の行動を見て気だるい感じで言うと、それはもう同じみの光景になりつつあった。三年ぐらい彼はこの二人を見ているが大体いつもこんな感じなのだ。

 喧嘩をしたと思ったら急にどちらかが優しくなったり、もしくは喧嘩そのものを忘れたんじゃないかと思うほどに態度が変わったりと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 あれからコンビニで小豆バーを購入した一樹と月奈は、望六から見るに仲良さそうに二人並んでアイスを食べている。
 先程まで空いていた微妙な間隔も今では人ひとり分ぐらいまで縮んでいるようだ。
 
 そして彼はそんな光景を見ながら二人とも単純過ぎないかと無粋な言葉が口から飛び出そうになったを必死に抑えた。

「えーっと。次で最後だな……ってあれ? パンフレットがない?」

 コンビニを出てから次の目的地を改めて確認しようと望六はポケットに入れていたパンフレットを取り出そうとしたのだが、手に紙の感触が伝わる事はなくただ布生地が擦れる感覚だけであった。

「どうした望六? パンフレット失くしたのか?」
「はぁ……。お前はすぐに物を失くす奴だな」

 小豆バーを片手に持ちながら一樹と月奈は彼に言い放ってくる。

「ああ、どうやらパンフレットを落としたみたいだ。お前達は持ってるか?」

 望六は全部のポケットを確認してから一樹達に言うと、二人はアイスを咥えながら首を横に振っていた。その首を振る動作すら見事に二人同時で若干の苛立ちを覚えたが、何故この二人は全て自分に任せてくるのだろうと望六は疑問に思った。

 そして今現在三人は学園の敷地内に設置されているベンチに腰を下ろして一旦寮に戻って一樹か月奈のパンフレットを取りに行くか、今日はここまでにして寮でのんびりするかの議論を繰り広げていた。





 ――しばらくして一樹達が小豆バーを食べ終えると、それと同時に望六は背後からで話しかけられた。

「あの、このパンフレットって貴方の落とし物ですか?」

 その声に惹かれて望六が振り返ると、そこに居たのは……まるで某聖杯戦争でエクスカリバー! と叫んでいそうな容姿をした女性が立っていたのだ。

 つまり髪は鮮やかな金色で瞳は宝石のエメラルドの様な色味をしていて、その表情からは人当たりが良さそうな雰囲気が伝わってくると言う事だ。

 望六は不審に思われない程度にまじまじと女性を凝視し続けると見れば見るほどそっくりであり、もしかしてあのキャラのモデルはこの人が元になっているのではと思えるほどに瓜二つであった。

 だけどあのキャラとは違う点が一つだけあった。
 それは目の前の女性の方があのキャラより圧倒的にのだ。

 仮にこれを口にしようものならファンから殴られそうだが、こっちはリアルで本物だから気にしにない精神で彼は強気な姿勢を保っている。

「あっそうです! さっき俺が何処かで落としたみたいで……ありがとうございます」
「いえいえ。私もたまたま拾っただけので感謝はいらないですよ」

 望六は頭を下げながらパンフレットを受け取ると、その女性は右手をひらひらと振ってその場から去っていった。
 去り際の一つ一つの行動まで美しく、彼は自然と彼女を目で追ってしまう。

「親切な人が見つけてくれて良かったな!」
「あ、ああ。そうだな」

 望六はその女性に完全に見蕩れていて一樹に声を掛けられるまで意識が遠くにあったような体感を受けていた。

 だがあれはどう見ても日本人の容姿をしていない。
 アメリカか、イギリスか、何れも日本人からしたら海外の方の区別はつかないだろう。
 これはきっと向こうから見たらアジア人の顔は皆一緒に見えるのと同じ現象だ。

 ……と言うよりあの女性は何故これがだと分かったのだろうか。名前なんて無論書いてなく、そもそも彼の他にここには一樹達も居た訳だ。
 
 それにも関わらず彼女の視線は彼に一点集中であった。
 これは少しばかり望六としては疑問を覚えるが偶然だろうとその場は思う事にした。

「おい一樹。お前は望六のようにあの二年の先輩を見て鼻の下を伸ばしていないだろうな?」
「えっ!? し、してないです……」
 
 月奈の唐突な疑いの言葉に一樹は焦り顔を晒して否定しているが、望六はさり気なく皮肉を言われたような気がしてならなかった。
 
 だけど月奈は入学式と自己紹介の時にだいぶ気落ちしていた様子だが、今のこれを見ている限りでは特に問題は無さそうだと望六は思えた。
 もともと学園を見て回るというのは彼女の気分転換も含まれていたのだ。

「よーし! 親切な先輩にパンフレットを拾ってもらたし、最後の場所見て回るぞ!」
 
 望六が意気揚々と声を上げると三人はその後も学園探索を続けた。

 ――それから一通り探索して粗方校内を把握すると、探索をしていた間に時刻は既に十八時を回っていたので三人は寮へと戻る事にした。

「それじゃまた明日な。何かあったら壁でも叩いて知らせてくれ」
「ふんっ、寝坊だけはするなよ。二人とも」
 
 各々の部屋の前へと着くと一樹が右手を小さく上げながら言って、月奈は相変わらず両腕を組んで強気な姿勢で返事をするとそのまま自分の寮部屋へと入って行った。

 それを見届けると望六と一樹も部屋へと入って早々にベッドの上で寝転んだり、スマホ弄ったりと休息を満喫し始めた。

 もちろん夕食はここに帰るついでに食堂で食べているので問題はない。
 あとはシャワーを浴びるぐらいしかやる事はなく、望六は今現在シャワーで疲れを癒している最中だ。差し詰めシャワーから放たれる雫は癒しの雨と言った所だろう。
 
 無論だがこの寮には銭湯みたいな大浴槽がちゃんと備わっている。
 だがしかし、ここは女子寮だ。ならば後はもう言わずとも分かるだろう。

 この二人に許されているのは部屋に付いているシャワーのみなのだ。
 男子寮に行けば普通に大浴場が使えるのだが、如何せん距離があるので望六は諦めている。

「おっ、もうすぐ消灯の二十三時だな。そろそろベッドに入って体を休めとくか」
「俺はもう寝る準備万端だぜ!」

 望六がシャワーを浴び終わって髪を拭きながら戻ると一樹は既にベッドのシーツと毛布の間に身を挟んで寝る気満々のようであった。
 ちなみに一樹は部屋に戻ってから早々にシャワーを浴びていたから問題ない。

 やがて寮内に七瀬の声で「消灯」という言葉が響くと部屋の電気が自動的に落とされた。
 望六はベットの上で横になりながら目を閉じると、今日だけ色んな事が起こったと改めて実感した一日であった。
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