上 下
24 / 28
第一章 全てをやり直す

24話「魔王は連戦する」

しおりを挟む
「いや……私は決して自体しない。折角みんなが推薦してくれたのだ。その気持ちを無下にすることはできない」

 凛とした表情でサツキはそう言い切ると、どうやら彼女の中では下手に注目を浴びる事よりも、クラス連中から向けれた期待を裏切る事の方が堪えるらしい。

 少し前でのサツキであれば、そんな目立つ事は絶対にやらないと首を大きく左右に振りながら答えていたことだろう。つまりこれは良くも悪くも僅かばかりの成長ということだ。

 だがこれで本当に一度目の世界線と同様に彼女がクラス代表となる確率が増したと言える。
 ならば俺としても、それを全力で阻止しなければならない。例えサツキに嫌われようとも。

 しかし今更ながらに思うがメアリーの言葉は多分だが援護ではなく、ただの煽りなのかも知れないな。敢えて辞退という言葉に乗るように差し向けて、サツキの気持ちを焚きつけるという。
 
 ……ふっ、だとすれば詰まるところ俺を利用したということか。実に賢いやり口だな。
 伊達に貴族令嬢という身分ではないという訳か。
 しかしこれで尚の事クラス代表という席を賭けた戦いに身を投じなければならない。

 その理由としては単純なものだ。仮にサツキとメアリーだけとなると必然的に、どちらがクラス代表となり来るべき日に凄惨な死を迎えることとなる。なんせ7代目魔王の狙いは勇者の証を持つ者を殺すことだからだ。

 だからここは敢えて俺自身がクラス代表となることで惨劇を回避する必要があるのだ。
 まあメアリーに関しては助ける通りも救う義理もないのだが、仲間が死ぬとサツキが悲しむからな。これは致し方ないことであろう。

 けれどこの世界線では幾つものイレギュラーが既に発生していることから、7代目襲撃も一度目の時と同様に行われるかどうか不確定な部分はあるがな。

「うーん、三人ですと多いですからね。どうやってクラス代表を決めましょうか……」

 ベリンダが眉を顰めながら軽く首を傾げると代表の決め方について思案している様子であった。

「それでしたら、わたくしに良い案がありますの。手っ取り早く実力で決めるのはどうでしょうか?」

 するとそこへメアリーが静かに右手を上げて彼女に視線を向けながら妙案を伝えていた。

「それは……つまり決闘ということか?」 

 だがベリンダよりも先にサツキが両腕を組みながら口を開くと確信に迫るような事を聞き返していた。

 確かに決闘ならば己の力量で全てが決まるが故に単純明快であろう。
 だが仮にも俺は貴族三人の腕を軽く捻った者なのだがな。
 
 その事実を承知の上で決闘の提案をするものか普通? 
 まったく、やはり貴族の考えることは理解に苦しむ。

「そうですの。その方がこの場に居る全員が納得できる手段かと。なんせ実力が高くなければクラス代表には相応しくありませんから」

 手の甲を顎に当てながらメアリーが貴族らしく優雅に微笑むと、その表情の奥からは何処か余裕な雰囲気が感じ取れた。しかし彼女の口振りから察するに、やはり昨日俺が貴族連中を完膚なきまでに倒した事実を知らないように見受けられる。

 仮にその事実を知り得ていたならば決闘などという無謀なことは提案しないであろう。
 だがそれと同時に違和感も覚える。
 このクラスに在籍していて、その事実を知らないというのは如何せん無理がある気がするのだ。

 なんせ休み時間ごとに平民の連中が自慢気に恰も自分が手を下したかのように語るからだ。
 ならばその話を耳にした上で何か俺に勝つ秘策があるとでも言うのか?

「決闘ですか……あまり気乗りはしませんが仕方ないですね。二人もそれで大丈夫ですか?」

 ベリンダは決闘という言葉が好きではないのか少しだけ表情を沈ませるが、そのあと直ぐに視線を合わせて意思確認を問うてきた。実際のところ解決策がこれしかないのが現状なのだろう。

 メアリーが先に実力証明という如何にも、このクラス連中が食いつきそうな餌を撒いたからだ。
 これで決闘は駄目と言おうものなら更なる面倒事に発展する事は違いないだろう。
 
 主に平民達が黙っていないだろうな。本当に俺が貴族を倒したばかりに今や下手な貴族共よりも質が悪いかも知れん。これは本格的に一度、全員に精神教育を施した方がいいだろう。今後のこともあるからな。

「分かりました。それで大丈夫です」

 サツキは最初こそ決闘という提案に戸惑いの色を見せていたが、皆の期待を裏切らないという意思で跳ね除けたのか戦う覚悟を示した。

 だがこれも平民達が間接的に彼女を苦しめていることに違いはないのだ。
 故に元を正せば俺のせいで今の状況が生まれているとも言えるだろう。
 とどのつまり、どう動いても世界は整合性を保とうとするということ。 
 
 そしてサツキが決闘に応じるのであるならば、俺の答えはとうの昔に決定している。

「ああ、俺もそれで問題ない」

 こう答えるしか最初から選択肢はないのだ。
 何が何でも運命を捻じ曲げて整合性という理すらも破壊して彼女を救うには。

「それではクラス代表は決闘で決めることとします。日程は……そうですね。早い方が良いと思いますので、今日の放課後とか大丈夫でしょうか?」

 俺達の返答を聞いたあとベリンダは眉間に手を当てながら考え込むと、クラス代表を決めるのは早い方がいいとして今度は全員に視線を交互に向けて尋ねてきた。
 けれどそれはこちらとしても嬉しい提案であり、悪戯に日にちを伸ばされるよりかは断然ましだ。

「ええ、大丈夫ですわ」
「私も問題ないです!」

 メアリーとサツキが同時に返事をすると、そのあと全員の顔が俺の元へと注がれた。

「二人と同じく問題ない。だが会場は用意できるのか? 昨日の決闘でさえ結構無理を通した気がするのだがな」

 とうの昔から決定していた返事を再度告げるが俺としては早急に決闘の場となる会場が用意できるかの方が気掛かりである。

 昨日の決闘ですら貴族共の融通で借りれたようなものだからな。しかもそれが一度ならず二度までも、短期間でこのクラスだけが独占するのは些か厳しいのではないだろうか。

「だ、大丈夫の筈です! なんとしででも闘技場の使用許可を貰ってきます!」

 そう言いながらベリンダは握り拳を胸元辺りで小さく作り上げて気合を見せていた。
 その姿は若干覇気に欠けるものだが、それでも彼女は曲がりなりにも1-Aというクラス担任だ。
 今はただベリンダという女性を信じるしかあるまい。

「あっ、そうだ。昨日の決闘という言葉で思い出したのですが、何故か色々と記憶があやふやで後ほど詳しいことを……」

 急に思い出したようにベリンダが両手を叩くと昨日の決闘という面倒な話題を持ち出してきた。
 恐らくこのままの流れでは事情聴取を受けることとなるだろう。
 なんせ今日は例の貴族三人は欠席だからだ。

 しかし昨日の決闘については俺としても話す訳にはいかない。
 というより寧ろ説明することすらも面倒であるが故に、

「話しは纏まったな。では放課後を楽しみにしているぞ」

 ベリンダが話の論点をすり替えたことで流れを両断した。そもそもクラス代表の件については放課後まで持ち越しなのだから、これ以上の話し合いは不要の筈だろう。
 そしてそれだけ言い残して自分の席へと戻るべく足を進めるが、

「あ、ちょっとブラッドくん! まだ話は終わっていませんよ!」

 背後からはベリンダの甲高い声が響き聞こえてくる。
 まあそれに反応しては元も子もないとして無視するがそれとはまた別に、

「それではサツキさん。同じ勇者の証を持つ者同士、悔いの残らない戦いが出来ることを願っています」

 メアリーが貴族特有の華麗な言葉遣いを使用してサツキと互いに健闘と称えていた。
 多分だがお互いに握手でもしているのだろう。

「ああ、こちらこそだ!」

 そしてサツキの活気に満ちた声が聞こえてくると同時に俺は自分の席へと腰を落ち着かせた。
 それから視線を前へと向けると、そこではやはり予想取りと言うべきだろうか、二人は互いに固い握手を交わしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

処理中です...