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第一章 全てをやり直す

23話「クラス代表となり惨劇を回避する」

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 クラス代表を決めることとなるとサツキは当然として、まさか他の者までもが勇者の証を持つとして衝撃を受けると、これは恐らくやり直しの影響が少なからず出ていて、過去を少しでも変えると副作用としてイレギュラーなことが起こるのだろうと、自分なりに答えを導き出した。

「もしくは俺が一組に入り込んだことで、そもそもの世界線から一脱した可能性もあるな」

 そう一人で考察しながら呟くが、今はメアリーが本当に勇者の証を持つ者かどうか知らなければならない。あまり嘘を口にしているような印象は見受けられないが逆に確信と言える証拠もない。

「だったらよぉ、何処にそんな証拠があるか見せてくれよ」

 そして丁度いい時に平民の男子が椅子をだらしなく座りながらメアリーに話し掛けた。
 するとそれを聞いて周りの平民達が一斉に、

「お、そうだそうだ! 証拠見せてくれよ!」
「勇者の証がなければ話にすらなんねぇよ」
「まずはそっからだな。サツキ様のように体の何処かにあるんだろ?」

 などという尊厳も威厳もなにもないような口調で貴族に対して口を開いていた。
 だがやはり俺が貴族を倒した影響は根深いようで、何故か平民達は勝手に大柄な態度を見せているが、奴らはただ試合を見学していたに過ぎず何もしていない気がするのだがな。

「ええ、もちろん構いませんわ」

 しかしそこへメアリーは席を立ちながら何一つ臆する様子もなく言葉を返すと、矢継ぎ早にベリンダとサツキに声を掛けて呼んでいた。そして呼ばれた二人が彼女の元へと集まると、メアリーは耳打ちするように周囲に聞こえない声量で何かを伝えていた。

「ふむ、どうやら人には見せられないような箇所に勇者の証があるようだな」

 遠目からだが大体の話の内容を想像することが出来ると、その想像を裏付けるものとして耳打ちされた二人が急に人目を気にするように周囲へと視線を向けていることだ。

 あとは単純に分かりやすいものとしてベリンダが時折、横目でメアリーの体の一部へと熱い視線を向けているということぐらいだ。

 これが殆ど答えを明かしているようなものなのだが、どうやら向こうでは動きがあるようでベリンダが待機を全員に命じると三人はそのまま教室を出て行った。

 恐らく勇者の証が本当にメアリーに刻まれているかどうか確認を行うのだろう。
 ということは人目に晒せないような部位に証があるという説は濃厚だ。それにベリンダの熱い視線が向けられていた部位は……まあ答えは多分だが後ほど分かると思う。

「チッ、あのメアリーとか言う貴族は本当に勇者の証を持ってんのかぁ?」
「なんか怪しいよねぇ」
「注目を集めたいだけで嘘なんじゃないの~?」

 三人が教室を後にしてから五分程が経過すると痺れを切らした平民達が相変わらず態度を大きくしてメアリーのことを疑うように言い合いを繰り広げていた。

 しかし当の本人達は漸く戻ってきたようで扉前に複数の人影が映ると、次の瞬間に扉が勢い良く開かれて妙に興奮した様子のベリンダを筆頭にメアリー達が姿を現した。

 どうやら彼女の体にはしっかりと勇者の証が刻まれているようである。
 なんせサツキが仲間を見つけたような何処となく嬉しそうな表情を浮かべているからだ。

 きっと同じ証持ちとして初めて気兼ねなく話せる友人を得た瞬間なのだろう。 
 だが相変わらずメアリーに関しては凛としていて他の貴族と違い静かな印象を受ける。 
 もっとも今の一組は貴族と平民の力関係が崩壊していることから何とも言えないが。

「あ、あの皆さん聞いてください! 確かにメアリー=オルコットさんには勇者の証がありました! それは私とサツキさんが一緒に見たので事実です!」

 教卓の前へとベリンダが立つと、そこで両手を叩いて注目を集めたあと全員に向けて彼女は疑いようもなく証持ちだということを説明した。
 そしてサツキも同様に自分の席へと戻り椅子に座ると両腕を組みながら、

「ああ、確かに勇者の証が刻まれていた。しっかりと太ももになっ!」

 納得するように頷きながらメアリーに刻まれていた証について言葉を口にしていた。
 すると彼女の話を聞いて周囲の平民や貴族達は一斉に彼女の太ももへと視線を向けるが、よくよくしっかりと見てみるとメアリーは黒タイツを履いていることから外部からは確認出来ない。

「ふっ、通りで教室を出てサツキとベリンダだけに見せた訳だな」

 これでメアリーが態々二人を呼んで教室を出たことの理解が出来た。
 確かに人目の多い教室で自らがタイツを脱いで証を見せるとは、見方によればただの痴女にしか思えんだろうからな。

「サツキ様とベリンダ先生がそこまでいうのなら本当だったのか……」
「……疑って悪かったな」
「ご、ごめんなさい! メアリーさん!」

 先程まで嘘つき呼ばわりしていた者たちが総じて頭を下げて謝罪の言葉を述べ始めると、なんとも都合の良い連中だとは思うが下手に関わりたくもなく気に留めることはない。

「いいえ、別に気にしていないので謝らなくて大丈夫ですわ」

 いつの間にか自分の席に腰を落ち着かせていたメアリーが受け流すように返事をする。

「そ、それでは改めて話をクラス代表へと戻しますっ!」

 場を仕切り直すようベリンダが声を出すと、現状としては勇者の証を持つ者が二人ということになるが、この世界の運命がこれ以上変わることなく逆に整合性を正しくさせようと動くのであれば、サツキが一度目の世界線の時と同様にクラス代表となるだろう。

「だが幾度もイレギュラーが発生している時点で整合性を信じるのは愚策かも知れん」 

 最早この世界はやり直しという行為が加入した時点で、ある程度の綻びが生じている状態であろう。だが大筋が変わらなければ大した問題ではないのだ。
 仮に問題があるとすれば、その大筋がちゃんと機能するかどうかである。

「だがまあ、このまま仮にサツキがクラス代表となれば悪夢が再来することとなるだろう」

 この先の未来を生半可に知り得ているからこそ危惧すべきことは多く有り、故にこの分岐点とも言える場面である程度の運命を変えなければならない。
 ならば自身がすべきことは明白であり、

「ベリンダ先生、俺もクラス代表に立候補する」

 この先に待つとされている悲劇を食い止める為に自らを使うのみ。

「えっ!? ブ、ブラッド君もですか!?」

 すると当然の如くベリンダは目を丸くさせて驚いていた。

「「「おおおおっ!」」」

 そうして彼女の驚きに続くようにして周りからも驚愕の声が木霊する。
 しかしメアリーの時のように文句を言い放つ者は誰ひとりとして居なく、逆に今度は貴族たちから意味有りげな視線を数多く向けられていた。

「な、なにっ!? ブラッドもクラス代表になりたいのか!?」

 唖然とした顔を見せながらサツキが声を荒げて反応を見せる。

「まあな。というかお前は無理やり推薦されたのだから、この際辞退しても誰も文句は言わないと思うぞ」

 立候補者が二人も現れたのだから今更推薦枠の者が辞退したところで些細な問題はないと言える。寧ろ俺としては悲劇を事前に避けられるかも知れないとし、今ここで辞退してくれた方のが素直に嬉しい。

「ふふっ、わたくしもブラッドさんの提案に賛成致しますの」

 そして意外な所から援護が飛んでくると、それはメアリーであり彼女は微笑みながらサツキに辞退を促していた。
 それから当の本人でもあるサツキは顔を俯かせると――――
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