気まぐれで世界最強の大賢者は弟子の娘と旅をする。

R666

文字の大きさ
49 / 54
第二章

24話「大賢者は民の視線を浴びる」

しおりを挟む
「おや? 随分と大勢の人達が私たちと同じ方角に向かって歩いていますね」

 国王専用の黄金に塗装された馬車に全員が乗車して城を出発すると、コロッセオへと向かう為に暫くヒルデの街を進んでいたのだが、そこでアナスタシアが大勢の人が同じ方向へと進んでいる事に疑問を抱いたらしく首を傾げていた。

「ああ、本当だな。……おい国王よ。お前何か余計な事をしたのではあるまいな?」

 彼女に言われてジェラードは馬車の窓から周囲を確認すると、やはり周りには大勢の人が馬車と同じ方向へと歩いていて、そこでふと嫌な予感を唐突に感じると民達に手を振りながら挨拶をしている国王へと苛立ち混じりの声を放った。

「ひょぇっ!? な、なんでしょうかジェラード様!」

 急に声を掛けられた事で驚いているのか国王は変な声を出して何処か怯えていた。

「ひょぇっではないぞ。この大勢の民達のはどういう事なのかと聞いているのだ。次に質問以外の言葉を吐いたら、お前の髭を燃やすからな」

 彼の変な声を真似しつつ質問をすると返答次第では国王自慢の長髭を燃やすとして脅すと、次の言葉を待ちながら右手に火属性の魔力を徐々に宿らせ始めた。

「は、はいですぞ! ……えっとこれには深い事情がありましてのう」

 髭を燃やされる事は嫌なのか言葉を詰まらせながら返事をすると、両手の人差し指を合わせながらモジモジするような仕草を見せて深い事情と口にしていた。

「構わん話せ。時間はまだ幾らか残っているからな」

 だが馬車がコロッセオへと到着するにはまだ暫しの時間が掛かると思い、ジェラードは魔力を宿らせた右手を自身の前に出すと手のひらから炎を具現化させて火柱を揺らめかせ始めた。
 それは些細な脅し行為であり、深い事情とやらを早急に話すように促している。

「……じ、実は娘がジェラード様と戦うということで少々興奮してしまいましてのう。そこで大臣達や騎士達に頼んで一夜のうちに”若き剣聖”と”王都の大賢者”の世紀の対決という見出しの紙を街に配布しましたのじゃ……」
 
 目の前で揺らめく火を目の当たりにして国王は重たそうな口を開くと、その話では一夜のうちに二人が試合を行うという宣伝をヒルデの街中で大々的に行ったらしく、結果的に周囲を歩く大勢の人は試合を見に行く観客達であるという事が判明した。 

「……チッ、そういうことか」

 事情を聞いて否応なしに納得させられるとジェラードは右手を握り締めて炎を消し、目の前で視線を泳がせて冷や汗のような雫を流している国王は親馬鹿が過ぎるとして遺憾であった。

「ジェ、ジェラード様! 本当に申し訳ございません! この馬鹿夫が余計な真似をしてしまいまして……。私から後でしっかりとお灸を据えて起きますので、この場はなんとか……」

 そして彼から苛立ちの雰囲気を感じ取ったのか女王が国王の頭を鷲掴みにしながら急いで謝罪の言葉と共に頭を下げると、この場はなんとか穏便に済ませたいという意思が垣間見えた。

「ふむ、女王の顔に免じて今回だけは特別に許してやる。だが二度はないから覚悟せよ」

 女王が咄嗟に見せた謝罪の行為に免じて勝手に宣伝して決闘の事を街に広めた事を許すと、ジェラードは両腕を組みながら国王を睨みつつ二度目は無いと言い切り話を終わらせる。

「は、はいですぞ!」

 彼は自らが犯した事の重大さに漸く気づいたのか、女王の鷲掴みから開放された途端に背筋を正して焦りの篭った声で返事をしていた。

「……あっ、あれがコロッセオですか!?」

 そんなやり取りをしている間にコロッセオが見えてきたらしくアナスタシアが妙に浮き立つ声を出しながら窓に頬を密着させる。

「ん? ああ、どうやら下らない会話をしている間に到着したようだな」

 確かにジェラードの視界にもコロッセオの入口部分が見えていて国王夫妻とのやり取りは時間を潰すのにはちょうど良かったことを実感した。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 それから馬車が人気のない脇道へと入っていくとそこは王家の者しか立ち入れない場所であり、ジェラードとアナスタシアは特別扱いで入る事が許されると馬車は暫く進んだあと停車してその場で全員が下車することとなった。

 そしてアナスタシアや国王夫妻はコロッセオを一望出来る特等席から戦いを見物するとして去っていくと、その場に一人残されたジェラードは若い騎士に声を掛けられてコロッセオ内部を案内して貰うこととなった。

 ――すると案内された場所は中々に広い空間であり、全体的に薄暗い印象を受けるが壁際には松明が幾つか備えられていて視界が確保出来るぐらいの明るさはあった。

「ん……あれは……」

 何気なくジェラードが視線を周囲へと向けると、この場所には松明の他にも鉄製の剣や木製の盾や先の尖った物が幾つも付いている鉄球のような武器までもが無造作に置かれていて、見たところ自由に使用して良いような雰囲気が出ていた。

「ああ、なるほど。差し詰めファイター達がここで武器を選んで戦うのだな」

 憶測で答えを導き出して彼は独り言を呟くと、近くに設置されていた薄汚い木製の椅子に腰を落ち着かせた。

 どうやらヒルデのファイター達は物を大事に扱う習慣がないのか、この空間に置かれている様々な物は何処かしらが傷んでいたり、地面には木屑や埃がそこかしこに積もっていて衛生面は最悪の場所であった。

「大変申し訳ないのですがジェラード様は暫くこちらで待機していて下さい。今から国王陛下による、民衆への演説がありますので……」

 そこへ若い騎士が急に頭を下げながら謝り出すと試合の前には国王から民衆へと軽い演説のようなものがあるらしく、恐らくそれは会場を盛り上げて民衆の観戦意欲を高める事にあるのだろうと彼は何となくだが分かった。

「皆まで言わなくとも理解している。それに回復した国王を一目見るだけでも民達にとってそれは生きる糧になるだろうからな」

 だがその演説には他の意味も含まれている事をジェラードは感覚的に悟ると、民達の中には国王が元気に両足を地に付けて立っている姿を自らの視界に収めたい者もいるであろうことを考察していた。

「お、お察しのほど感謝致します……」

 すると若い騎士は声を詰まらせながら再び頭を下げて小さく呟いた。
 ――それから二人の間に暫し無言の間が訪れると唐突に外から民衆の沸き立つ声が響き聞こえてきて、

「あっ、国王陛下の演説が終わったみたいですね。それでは会場へと案内致しますので、恐れ入りますが自分の後を付いて来て下さい」

 どうやら国王による演説が終わったらしく若い騎士が視線を合わせながら自身の後に付いて来てくるように言っていた。

「ああ、分かった」

 短く返事をしてからジェラードは腰を上げて立ち上がると言われた通りに彼の後ろを黙って付いて歩いて行く。
 ……そうして歩き進むと数分が経過すると道幅の狭い場所へと入り、

「この奥を進んで頂くと会場へと出ます。そして試合開始の合図は巨大な銅鑼の音ですので、お忘れなく」

 若い騎士が突然立ち止まると振り返りながらこの先は一人で行くように促してくると共に試合開始の合図のことも細かに教えてくれた。

 けれどこの道幅の狭い通路は先程の薄汚い空間と違い松明と言われるような灯りは一切なく、辛うじて存在する光源は正面へと続く道の一番奥に差し込んいる陽射しぐらいである。

「ほう、銅鑼の音とは中々に良い趣味をしているなヒルデは。……だが案内ご苦労であった。感謝するぞ、若き騎士よ」

 手を顎に当てながらジェラードは銅鑼の音を想像して気が少し緩むと、顔を彼へと向けてここまでの案内に感謝の言葉を与えた。

「は、はいっ! 光栄の極みであります!」

 突然感謝の言葉を掛けられた事に若い騎士は動揺している様子ではあったがしっかりと最高位の敬礼を見せると、彼はそれを数秒目の当たりにして騎士から視線を外すと王女と戦う為に暗い一直線の道を歩き始めるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん
SF
気がつけば、そこは“男女の常識”がひっくり返った世界だった。 男は極端に希少で守られる存在、女は戦い、競い、恋を挑む時代。 現代日本で命を落とした青年・文哉は、最先端の学園都市《ノア・クロス》に転生する。 そこでは「バイオギア」と呼ばれる強化装甲を纏う少女たちが、日々鍛錬に明け暮れていた。 しかし、ただの転生では終わらなかった―― 彼は“男でありながらバイオギアに適合する”という奇跡的な特性を持っていたのだ。 無自覚に女子の心をかき乱し、甘さと葛藤の狭間で揺れる日々。 護衛科トップの快活系ヒロイン・桜葉梨羽、内向的で絵を描く少女・柊真帆、 毒気を纏った闇の装甲をまとう守護者・海里しずく…… 個性的な少女たちとのイチャイチャ・バトル・三角関係は、次第に“恋と戦い”の渦へと深まっていく。 ――これは、“守られるはずだった少年”が、“守る覚悟”を知るまでの物語。 そして、少女たちは彼の隣で、“本当の強さ”と“愛し方”を知ってゆく。 「誰かのために戦うって、こういうことなんだな……」 恋も戦場も、手加減なんてしてられない。 逆転世界ラブコメ×ハーレム×SFバトル群像劇、開幕。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...