進路相談――僕、泥棒になります。

藍染 迅

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閉ざされるドア

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「えぇ? そんなこと……」
「そのために、英語には力を入れましたよ。無料で参加できる外国人との交流会に参加したりもしたし。金さえあれば、世界中どこでも生きていけますよ」

 こいつ、日本を捨てる気か? そこまで覚悟を決めていると?

「ビザか永住許可が取れればいいんですが、それまではちょくちょく行ったり来たりするつもりです。世界は狭いですから」

 地方勤務くらいに考えているのか? わたしの時代では考えられなかった……。

「もう、なんと言っていいかわからん。先生に少し考えさせてくれ」

 良識ある教師として、大人として、止めてやるべきなのだろうが、止める言葉が思いつかなかった。

「そうですよね。急にこんな話をされても、困りますよね」
「ああ、すまんな。良いアドバイスができなくて」

 こんな調子で三者面談などできるのだろうか? まさか盗品横領を職業にしようとしているとは言えないだろう。

「できればもっと穏当な職業についてもらいたいものだが、たとえば官憲側に立って犯罪を取り締まるとか?」

 そういうと、初めて多田の目が険しくなった。

「それでは裁けない罪があり、届かない人間がいるからこういう道を選んだんです。失礼します」

 多田は席を立って、ドアまで進んだ。ドアノブを引いて扉を開けた。

「ああ、それにしてもなんだってこんな話を俺にしたんだ。秘密にしておきたい内容じゃないのか?」

 多田はぴたりと動きを止めると、背中を向けたままで言った。

「だって先生、生徒の個人情報を横流ししているじゃないですか。あれって、反社の資金源になっていることご存じですか? もうじき仕事を始めますので、開業前のご挨拶ですよ。――将来のお得意様への」

「おい!」

 わたしが声を掛けた時には既に多田の姿はなく、閉まりかけたドアがわずかな隙間を閉ざそうとしていた――。

 (完)
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