上 下
500 / 637
第4章 魔術学園奮闘編

第500話 イドにはイドを!

しおりを挟む
「何っ? どうした?」
「ステファノが攻撃された?」
「それは反則」

 競技者への直接攻撃はルールで禁止されている。現に、ジェニーはステファノに何かをぶつけたわけではない。
 それなのにステファノは明らかにダメージを受けている。

「……精神攻撃か」
「あぁん? ジェニーがだと?」

 ありうべき答えはそれしかないと、スールーは頷いた。ジェニーが発している不思議な声。
 それはギフトの発動条件に違いない。

「彼女は精神攻撃系のギフト持ちだ。それ以外、この状況はあり得ない」

「……ァアアアアー」
 
 ステファノが苦しんでいる隙に、長い声を発したままジェニーは最前線に進み出た。弓に矢をつがえ、素早く引き絞った。
 落ち着いて放たれた矢はステファノの標的に突き刺さる。

 ステファノは目も開けられない光の中にいた。

 試合開始と同時に押し寄せた光の波に、体全体を飲み込まれたのだ。太陽のフレアにあおられたように、真っ白な光を体中で感じる。
 光はとめどなく押し寄せていた。許容量を超えた光に、ステファノの「第3の眼」が悲鳴を上げていた。

雷丸いかずちまる……。助けてくれ!」
「ピーッ!」

 ステファノの髪をかき分けて、雷丸が顔を出した。きょろきょろと辺りを見回していたが、ステファノが苦しんでいると気づいたのか、頭のてっぺんに這い上がり、四肢を踏ん張った。

 雷丸の全身を覆う針が逆立ち、黄金色に光輝いた。

「ピィイ――ッ!」

 ステファノを襲っていた光の波が、ぴたりと収まる。

(あの声――。精神攻撃の発動条件だ。音を通じて、俺の魔視脳にリンクした。ならば……)

「色は匂えど、散りぬるを――。(音も、光も、一瞬のものでしかない)」

 ステファノはギフト「諸行無常いろはにほへと」の成句を高らかに詠唱した。すべてを手放し、成句にのみ意識を集中する。

「我が世誰ぞ、常ならむ――。(世界は移り変わり、俺自身も常に変化する)」

「有為の奥山、今日越えて――。(俺の存在は物質界に止まらない)」

「浅き夢見じ、飢干ゑひもせず――。ん――。(宇宙は幻想。実相は永遠なるイデア界にあり)」

 ステファノは全身から「始原の赤」の光を放出した。存在の根源たる陽気である。
 陽気は広がり、押し寄せるジェニーのID波を飲み込んだ。

 ジェニーのギフト「レゾナンス」は希少な精神攻撃系能力だ。特定波長の声を対象に聞かせている間、魔視脳の機能を阻害できる。同時に頭痛やめまいをもたらすものであった。

 ギフトも魔視脳の働きによる能力である。その発現にはイドが発するID波が関与していた。

(イドにはイドを!)

 ステファノの陽気はジェニーのID波を圧倒した。陽極まれば、陰に転ずる。
 ステファノはあふれる陰気を、自分の標的に飛ばした。

「ステファノの名において命じる。虹の王ナーガよ、我が標的を守れ! ナーガの鱗!」

 トーマは見た。人の胴ほどに太い、大蛇が標的に巻きつき鎌首をもたげる姿を。
 ステファノの標的は既に2本の矢を受けていた。しかし、続いて飛んで来た3本目の矢はぬるりと標的を避けた。

「くっ! どうして矢が当たらない?」

 ジェニーは焦ったが、どうすることもできなかった。

 ステファノは腰に下げた小物入れに手を入れた。じゃらじゃらと一掴みの鉄丸を取り出す。

 手のひらに載せた鉄丸に、雷属性の魔力を籠める。土属性の魔力により引力を操り、さらに雷気による推進力で加速させた。電磁加速砲レールガンである。

土生金どしょうこん飯綱嵐いづなあらし!」

 バリリッ! ドンッ!

 まばゆい光と轟音を発し、鉄丸の群れは一直線にジェニーの標的を撃った。鉄丸は音速に達し、衝撃波とともに標的を穿うがった。
 あまりの高速に鉄丸の表面は空気との摩擦で赤熱し、標的の表面を焦がす。

「雷気開放!」

 標的にめり込んだ十数個の鉄丸が一斉に高圧放電し、大気をプラズマ化した。

 バァアアン!

 視界を真っ白に染める閃光を発し、ジェニーの標的が炎に包まれた。電流は手近な金属部である鎖に流れ、一気に焼き切った。
 吊り下げていた鎖を失った標的は煙を上げながら、どさりと地面に落ちた。

「そっ、それまでっ!」

 審判が致命傷を認め、ステファノの勝利を宣言した。

 対戦相手に礼をして競技エリアを去るステファノは、勝利者とは思えぬ厳しい表情を浮かべていた。

 ◆◆◆

「うーん、どうなんだあの顔は? 勝ったのに不満そうだったね、ステファノの奴」
「思い通りに行かなかったんだろうなぁ。精神攻撃は予想してなかったな」

 ステファノの勝利を喜びたいスールーであったが、去り際に見せたステファノの表情が気になっていた。

「ステファノの思い上がり。世の中予想通りに行かない」

 サントスのコメントは手厳しい。それはステファノが自ら痛感していることでもあった。

「勝ちは勝ちだからな。俺に言わせりゃ、それで十分だと思うぜ」
「トーマは志が低すぎ。小物感丸出し」
「良いじゃねぇか、小物でも。己を知るって奴さ」

「アレは『霹靂へきれきの杖』の真似だったね」

 トーマとサントスのやり取りを無視して、スールーはステファノが放った術について自分の感想を語った。

「デズモンドの聖遺物アーティファクトか……?」
「真似というより強化版」

 サントスの見立てでは、たま数、スピード、威力の全てにおいてステファノの術の方が勝っていた。

「デズモンドの雷撃は避雷針で防がれたが、ステファノの鉄丸は避雷針など撃ち抜いて標的を破壊する。それを十数発同時に放つなど、威力過剰」

 その通りであった。「不殺ころさず」にこだわるステファノが、なぜそこまでの威力で攻撃したのか?

「怖かったのだろうね」

 スールーが目を伏せながら言った。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第501話 いざとなったら全然役に立たなかった。」

 確かにステファノは恐怖した。魔術師でもないジェニーが精神攻撃系ギフト保有者とは思わなかった。

(油断していた)

 威圧や眠気、感覚異常等の精神攻撃なら、受けてからでも対応できると考えていたのだ。いきなり魔視脳まじのうの機能を阻害されるとは予想していなかった。

(魔視脳を遮断されて、慌ててしまった)

 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...