飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

文字の大きさ
上 下
498 / 670
第4章 魔術学園奮闘編

第498話 サドンデスって何だい?

しおりを挟む
 イライザは長槍を投げつけ、デズモンドは雷を飛ばす。

 荷車を最前線まで押し上げたイライザは、必中の槍を投げ続けた。ガンガンとデズモンドのタワーシールドを打ちつける音が競技場にこだました。

 デズモンドは「霹靂へきれきの杖」から雷撃を発する。恐るべき速度で宙を飛んだプラズマは、鉄製のタワー・シールドに引きつけられて着弾する。激しい火花を散らし、大音響を響かせるが、標的は無傷のままだった。

「……退屈だね」

 スールーはあくびをかみ殺した。

「デズモンドはどうしようもねぇな。雷撃は全部盾に吸い寄せられちまう。それに比べりゃあ、イライザの方にチャンスがありそうだが……」
「無理筋。隙間は10センチも空いてない」

 サントスが言う通り、デズモンドの盾はやや短いため、上方10センチほどの空間を通せば標的に槍が届きそうに見える。だが、当たらない。

「あ、惜しい」

 スールーが間延びした声で言った。

 今しもイライザが投じた大槍が、タワー・シールドの上端に弾かれていた。

 そして1分の試合時間が終わりを告げた。

「やっと終わった」
「1分がこんなに長く感じるとはね」
「無駄な時間だったからな」

 3人の感想は、おおよそ観客たちの気持ちを代弁していた。もやもやした空気が漂う中、審判が試合結果をアナウンスする。

「ただいまの試合、有効打がなかったため引き分けといたします。大会規定に従い、30秒のサドンデスに入ります」

 延長戦が行われることになった。

「サドンデスって何だい?」
「1本先行勝ちってことだぜ。どちらかが有効打を決めた時点で勝者となるわけだ」
「それは良いね。今度は早く終わりそうだ」

「盾があったら、同じこと」
「よしてくれ、サントス。もう泥仕合はたくさんだよ」

 審判の裁量で、延長戦では盾の使用が禁止された。

「うん。それならすっきりする」
「イライザの方はいつも通り、質量攻撃だな。デズモンドがどう動くか?」
「サドンデス。守らないと死ぬ」

 イライザは槍を携えて開始線に立つようだ。あの投擲スピードは、デズモンドの魔術攻撃よりも早く標的に到達するだろう。

「初撃さえ防げれば、デズモンドは勝ちが見込めそうだね」
「イライザには防御手段がねぇからな」
「早撃ち対決。わくわく」

 先ほどまでとは打って変わり、3人は前のめりに試合を見つめた。

「始めっ!」

 審判の声がかかるや、その余韻が消えぬうちにイライザは槍を持って走った。

「何する気だ?」

 スールーの疑問をよそに、イライザは自分の標的の前に立った。穂先を真上に向けて槍を立て、思い切り石突きを地面に突き刺した。

「え? あれで盾の代わりかい?」

 そうしておいて、イライザは槍を取りに荷車へと走る。その間に魔力を練り終わったデズモンドは、霹靂へきれきの杖を突きあげた。

「行け、いかずち!」

 チリチリと空中の埃を焼きながら、雷気の玉が飛んだ。イライザがようやく荷車についた瞬間、雷撃が標的を襲った。
 まばゆい光が観客の目を捉える。

 ごうっ!

 一瞬遅れて、空気を揺るがす爆音が轟いた。

「それまでっ!」

 審判の号令が響き渡る。
 検分を始める審判の行く手を見れば、無傷の標的が揺れていた。

「ぬ? イライザの標的に傷がないぞ。確かに雷撃が当たったように見えたが」
「見ろ! 槍が――」

 トーマが指さす先には、穂先を失った槍が柄だけの姿で立っていた。

「……避雷針」
「そうか! 雷撃を槍の方に引きつけたんだね、サントス!」

 雷は鉄などの金属、そして「尖ったもの」に落ちやすい。イライザは雷避けとして大槍を標的の前面に突き立てたのだった。

「デズモンドの標的を見ろ」
「おお、いつの間に……!」
「雷と入れ違いに投げつけやがったのか!」

 デズモンドの標的は大槍に突き刺され、揺れ動いていた。

「勝者、イライザ!」

 審判が告げると、観客は競技場を揺るがす拍手喝さいを送った。

「今度は文句なしの勝利だね」
「ちげぇねぇ。槍を雷避けに使うとは、よく考えたもんだぜ」
「デズモンドが他の魔術で攻撃していたら、勝敗は入れ替わっていたね」

 スールーが言うように、槍を立てただけでは火球や風刃を防げない。デズモンドが避雷針の意味を悟っていれば、勝負の行方はひっくり返っていた。

「サドンデス」
「何だい、サントス?」
「先手必勝のサドンデスだからこそ、デズモンドは一番自信のある雷撃に頼った」

 最も速く、そして強力な攻撃。先手必勝というぎりぎりの状況に立たされた時、デズモンドはためらいなく霹靂へきれきの杖を選んだ。
 それを浅慮と呼ぶのは酷なことであろう。

 サントスはそう言いたかったのだ。

「脳筋じゃなかった」
「うん、今度は何だ。イライザのことかい、サントス?」
「タワー・シールドは、初めから雷撃対策」
「そうか! 鉄の盾だからな」

 パワー一辺倒の脳筋に見えたイライザは、霹靂の杖に対策を立てていた。タワー・シールドは標的を覆い隠す防壁に見えて、実は避雷針だったのだ。

「これはイライザにしてやられたね」
「うん。脳筋は脳筋でも、ある肉」
「そいつぁ、ある意味最強だなぁ」

 スールー、トーマもイライザを見直した。今後の戦いで台風の目になるかもしれないと。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第499話 くそぅ、良い宣伝の場を逃したぜ。」

 2回戦4試合目は、アニー対トマスであった。

 付与魔術を使えるアニーであったが、魔術そのものの射程は短かった。魔術を矢に載せて飛ばすしかなかったが、試合場狭しと動き回るトマスの標的に当てる腕が足りなかった。

 防御魔術も炎の壁だったため、トマスが撃ち込む火球を完全に止めることができない。

 結局手数が物を言い、トマスの優勢勝ちとなった。

 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
Amebloにて研究成果報告中。小説情報のほか、「超時空電脳生活」「超時空日常生活」「超時空電影生活」などお題は様々。https://ameblo.jp/hyper-space-lab
感想 4

あなたにおすすめの小説

裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹
ファンタジー
 初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で双子の王子が生まれた。  一人には勇者の証が。  もう片方には証がなかった。  人々は勇者の誕生を心から喜ぶ。人と魔族との争いが漸く終結すると――。  しかし、勇者の証を持つ王子は魔力がなかった。それに比べ、持たない王子は莫大な魔力を有していた。  それが判明したのは五歳の誕生日。  証を奪って生まれてきた大罪人として、王子は右手を斬り落とされ魔獣が棲む森へと捨てられた。  これは、俺と仲間の復讐の物語だ――

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...