飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第4章 魔術学園奮闘編

第493話 その1本が命取りになるかもな。

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 2回戦第1試合は、ハンナ対ジェニーの女子対決だった。

 魔術師対弓使いの顔合わせである。

「1回戦ではどちらも作戦勝ちだったね」
「確かに上手かった。図抜けた力はねぇけどな」
「せこせこ同士」

 相変わらずサントスは容赦ない。

「手数と飛距離でジェニーが有利じゃねぇか?」

 トーマはこの戦いを弓が制すると見る。

「一方で、ハンナには防御魔術があるよ。『風陣』だったか」

 トーマがジェニーを推せば、スールーは負けじとハンナを擁護した。

「昼飯1食分賭けるか?」
「乗った!」
「聞いたな、サントス?」

 その場のノリ・・で、スールーとトーマは互いの推しの勝利に昼食を賭けることになった。

「始まる」

 サントスの声を聞き、2人は競技場に目を戻した。

「始めっ!」

 開始と同時に動いたのはジェニーだ。前回同様、自分の台車を自陣最後方までガラガラと下げる。
 ハンナは逆に最前線へと台車を動かした。

 エンドラインまで下がったジェニーの方は、台車を蹴りつけて横に走らせ、自分だけ最前線に向かって走り出した。ハンナの方は瞑想を続けている。

「2人とも、やっていることは1回戦と同じだね。ここからどうなるか?」
「それにしても、ハンナの瞑想はかったるいな。サクッと魔力を練れねぇもんか?」

 ジェニーがフロントラインに到達し、間髪入れず矢を飛ばし始めた。

「お? 今回は精神集中を省略しやがったな。慣れたのか?」
「トーマ、距離が違う。前回はベースラインからの撃ち合いが前提だった。今回はすぐに前に出ただろう?」

 最後方同士なら互いの距離30メートル、今回ジェニーから標的までの距離10メートルだ。その差は大きい。

 ジェニーの標的は無防備に揺れていた。それでもハンナは瞑想を続けている。攻撃よりもまず防御魔術を固めようとしていた。

 風陣の魔術が完成したのは、ジェニーが2本目の矢を突き立てようとした時だった。

「風陣が間に合ったね。当たったのは最初の1本だけだよ」

 ふふんと、スールーが鼻を鳴らした。

「その1本が命取りになるかもな。ジェニーにとって射程の短さが持つ意味はでかいぜ?」

 トーマの言葉は正しい。ジェニーは今回わずか10メートル先の的を相手にしている。命中精度と矢の威力が最大化していると言って良い。
 ハンナがジェニーの標的に相当なダメージを与えない限り、この試合に勝つことはできない。

「風魔術しか使えないハンナには不利な戦いじゃねぇか?」

 最前線に立つハンナから標的までの距離は20メートルある。通常、彼女の風魔術は10メートルまでしか効果がなかった。

「また、『風雪崩かぜなだれ』で逆転を狙うかね?」

 この先の展開を読んで、トーマはスールーに水を向けた。
 竜巻を押し出し、上空から雪崩のように襲い掛かる風雪崩であれば、射程不足を補うことができる。威力についても矢数本分のダメージを与えられるはずだ。

「……厳しいかもしれない。ジェニーの攻撃があと1、2本通って来たら……」

 風雪崩の破壊力では逆転できない。スールーはそう見積もった。
 今のところハンナの風陣はジェニーが放つ矢をはねのけている。しかし、竜巻の密度は均一ではない。風の弱い部分に当たれば、矢は竜巻を突き抜けて標的を捉えるだろう。

「だが、標的に当たらねぇな。どうしてだ?」

 ジェニーの優勢を信じるトーマだったが、あいにく矢が竜巻を通らない。前の試合で方向を変えられていた水球とは違い、文字通り弾き飛ばされてしまう。

「矢が軽すぎる」

 しばらく眺めていたサントスが言った。

 水球の質量と比べると、ジェニーの矢は軽すぎると言うのだ。そのために竜巻の横風を受けて、飛ばされてしまう。

「元々、遠くまで飛ばすために矢は軽く作られているから」

 軽く作られた矢柄や矢羽根が、この場合は貫通力を弱めていた。

「ふうむ。どうやらそれだけじゃねぇらしい」

 目を細めて風陣を見つめていたトーマが顔を上げた。

「ハンナの奴、竜巻を微妙に躍らせてるぜ」

 竜巻を目でとらえるのは難しい。霧や砂塵をまきこんでいれば周囲と色が異なるが、そうでなければただの風だ。はっきり肉眼に映るものではない。

 トーマはギフト「天降甘露てんこうかんろ」を駆使して、魔力的な現象として風陣を観察したのだ。

「竜巻を動かしているのか? 何のために?」
「弱点を塞ぐためだろうな」

 まだらに存在する「なぎ」のスポット、そこを狙われないようにあえて竜巻に揺らぎを与え、振動させる。それがハンナの作戦であった。

 ジェニーには魔視まじの能力がない。偶然にホットスポットを引き当てぬ限り、風陣を突破することができなかった。
 焦りを感じているかどうか、ジェニーの顔色は変わらない。淡々と3秒に1射のペースで、矢を放っていた。

 そのまま時間が経過し、試合時間は残り10秒となった。

「風よ、集いて敵を襲え! 風雪崩かぜなだれ!」

 この瞬間を待っていたハンナは、声高々と宣言した。結局、ジェニーの矢は最初の1本しか標的を捉えていない。

「どうなるんだ、これ?」

 スールーが小声でつぶやいた時、ジェニーが弓を引き絞った。

 ハンナが練り上げた魔力が大きくうねり、竜巻を高く押し上げる。限界まで伸びあがった竜巻は、雪崩のように頂点から崩落して標的を襲った。

 ひょう

 ジェニーの弓から矢が放たれた。竜巻に妨げられることなく、吸い込まれるように標的に突き刺さる。

「なぜ?」

 風陣が破られた光景を見て、スールーが疑問の声を上げた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第494話 ジローが頑張ってくれるほど、面白くなる。」

「竜巻のを狙ったのさ」

 したり顔でトーマが言う。

「竜巻の中心は比較的静かだからな。あれだけ風が濃くなれば、空気の流れが目に見える」

 風雪崩かぜなだれは続いていた。地面まで届いた鎌首を伸ばすように、竜巻は標的を飲み込んだ。

 ひょう

 またも風を切り裂き、新たな矢が飛んで行く。

 ……

◆お楽しみに。
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