飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

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第4章 魔術学園奮闘編

第491話 術だけじゃないとすれば何だ?

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「マーフィーには勝ち目がないって? そりゃまた、どうして?」

 トーマは問題の2人を試射場で見かけたことがある。しかし、2人の実力を深く知るほどの接触はなかった。

「デズモンドは伯爵家出身だが、マーフィーの方は子爵家だからね」
「家の格で強さが決まるってことか?」

 スールーの物言いに、トーマが首をひねった。

「戦でもしようっていうのなら家の格が決め手になるのもわかるが……。魔術の優劣は個人の実力じゃねぇのか?」
「純粋に術を競うなら、な」

 トーマの疑問にサントスが意味ありげな言葉を発した。

「待ってくれ。術だけじゃないとすれば何だ? 大きな家の方が強いもの? ……武器か?」
「悪くない推測だね。武器は武器でも魔術師が使う武器さ」

 教室で生徒を回答にいざなう教師のように、スールーがトーマにヒントを出した。

「そうか! 魔道具! デズモンドは魔道具を使うんだな?」
「正解だ。あいつは父親である伯爵から強力な魔道具を与えられている」
「その名は『霹靂へきれきの杖』」

 サントスがしたり顔で合いの手を入れた。

 それを聞いてトーマは考え込んだ。
 霹靂というからには雷を飛ばすのだろう。しかし――。

「射程距離はどうなっているんだ? 雷魔術は至近距離しか届かないはずだぞ」

「雷神ガル」の魔術雷電でさえ、届くのは5、6メートルと言われている。20メートルを超える距離に届くのか?

「良い質問だね、トーマ君。届くんだな、これが。それがこの杖を聖遺物アーティファクトと呼ぶ理由だ」
「雷のようで雷でない。雷属性の玉が飛ぶ」

 トーマの疑問は正しい。雷魔術は本来短距離専用だ。
 ところが、霹靂の杖は雷そのものではなく雷気の塊を標的目掛けて飛ばせる。

 言わば、「プラズマ砲」であった。

「十分な魔力を籠めれば、30メートル飛ばすこともできるんだよ」
「デズモンドはあの杖の使い手」

「威力も大きいってことだな?」

 ごくりと唾を飲み込みながら、トーマが尋ねた。

「もちのろん」
「デズモンドは去年の試技会にあの杖を持って参戦し、優勝したそうだ」
「あいつが去年の優勝者か?」

 魔道具の力で優勝したというなかれ。戦士がより良い武器を求めるのは当然のことだ。
 魔道具が手元にあるならば、魔術師たる者これを使いこなして何が悪いか?

「戦場では家柄も力になるっていうことだな」
「ふむ。家柄だけではない。財力や人脈もな。総力戦とはそういうことだろう」

 スールーのリアリズムが言わせる。戦いとはそういうものだと。

「けっ。文句はねぇが、いけすかねぇ。平民にはとことん不利だぜ」
「ふふふ。その通りだ、トーマ。その上で、ステファノがどうその不利をひっくり返してくれるのか? 楽しみとは思わないか?」

 トーマの目から見れば、この魔術試技会は平民にとってハンデ戦だった。最初から不利にでき上がっている。
 それが世の中だと言われれば、その通り。だが、気に入らないものは気に入らなかった。

「ああ、楽しみだぜ。どいつもこいつもステファノを知らねぇ。家柄も財力も持たねぇあいつが、体ひとつでどれだけのことをやってのけるか。お代は見てのお帰りだぜ」

 トーマの目が光を帯び、その唇は挑戦的に引きつった。

「体ひとつ違う。頭ひとつ・・・

 サントスがぽつりと言う。

「そうだね、サントス。ステファノが頼むものは『知力ひとつ』だ」

 トーマと異なり、スールーの笑みに邪念はなかった。彼女は心底この状況を楽しんでいたのだ。

 情革研の3人が見守る中、マーフィーとデズモンドの試合が始まろうとしていた。

 ◆◆◆

 試合開始早々、双方の選手は「氷結鎧ひょうけつがい」の魔術で標的を氷で覆った。

「どちらも素早いな」

 スピーディな試合展開に、スールーはどこか嬉しそうだ。

「デズモンドは土、火、水の3属性を使いこなすからね。マーフィーの方は、水と風の2属性使いだ」
「属性の数でもデズモンドが有利か」
「あいつには才能もある。魔道具だけが取り柄じゃない」

 スールーとサントスの見方は、あくまでもデズモンドの優勢であった。

 そのデズモンドは氷結鎧を完成させると、するすると自分の台車を後退させた。その間も口元を動かして、何かの成句を無声詠唱している。

 マーフィーは一瞬遅れて台車を前に押し出した。

「マーフィーの方は魔術の射程に自信がないのかな?」
「20メートルを超えるとなると、アカデミーのトップレベルじゃないと厳しいぜ」

 スールーの見立て通り、マーフィーの攻撃魔術は20メートルが限界だった。もちろんトーマにもできないことだ。

「間合いに関する主導権はデズモンドのものだね」
「スピードは互角ってところかな?」

 氷結鎧が完成したタイミングは、2人ともほぼ同時だった。トーマはそれを見て、スピードの面では両者は互角と判断したが――。

 マーフィーが動きを起こす前に、デズモンドが杖を振りかざした。

「飛べ、霹靂!」

 杖の先端が光り、まばゆく輝く塊が杖の先から飛び出した。

 バリバリッ……ゴオン!

 火花を飛ばしながら飛んだ光の塊は、マーフィーの標的に命中し、ひと際まばゆく広がった。

「これはっ! すごいな」

 霹靂の杖が振るわれる瞬間を始めて目撃し、スールーはその迫力に揺さぶられた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第492話 ステファノは矛盾の塊。」

 霹靂へきれきの光が収まると、標的を覆っていたはずの氷はどこにも見当たらなかった。そればかりか、標的の表面がまだらに焼け焦げている。

「氷結鎧を一撃で吹き飛ばしたのか?」
「いや、雷撃の高温で蒸発した」

 サントスが低い声でトーマの推測を修正した。プラズマは瞬間的に超高温となる。あの程度の氷なら、一気に蒸発させることができるのだ。

 ……

◆お楽しみに。
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Amebloにて研究成果報告中。小説情報のほか、「超時空電脳生活」「超時空日常生活」「超時空電影生活」などお題は様々。https://ameblo.jp/hyper-space-lab
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