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第4章 魔術学園奮闘編
第481話 魔力の大小だけで勝敗が決まるわけではないんだね。
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第一試合の結果は、いろいろと示唆に富んでいた。
単純な術の優劣で言えば、少年の方が上であったろう。
少女は呪文を声に出して詠唱しなければ魔力を練ることができなかったし、術式構築にかかる時間も長かった。
しかし、それを踏まえた上で戦い全体の流れを支配していたのは、少女の方であった。
「あんな戦い方もあるのだね。自分の欠点を知った上で、持っている力を最大限に生かす戦略か」
「確かに作戦勝ち」
「男の方に油断があったのは間違いないが、それを誘ったのは女の方だったな」
自分の欠点を隠さず、あえて晒して見せることで敵を自分の土俵に引きずり込んだ。
「例えるなら、『酒場の殴り合い』にしちまったわけだ」
ノーガードで、かわりばんこにパンチをぶつけ合う。力自慢同士の、工夫のない喧嘩。
少年の方は、「殴り合い」なら自分が有利だと考えていた。
「まず、防御魔術の質が違う。相手の風魔術は固定式だ。自分は氷の鎧だから自由に動ける」
明らかに不利な風属性の防御を使用しているのは、少女に水属性を使いこなす能力がないからだ。少年はそう読んだ。
攻撃も風魔術一本で来るだろうと予想がつく。
「竜巻は強力だが、飛ばすことができない。風魔術なら風刃あたりが攻撃の王道だ。氷の鎧は『並の風刃』なら寄せつけなかったろう。風刃ならばな」
しかし、少女は飛ばない竜巻を押し出して来た。チェーンソーを圧しつけるようなものだ。その使い方は少年の意表を突くものだった。
「射程が短くて、発動に時間がかかるという自分の弱点を理解し、相手の油断を誘う罠に変えた。博打には違いないが、大した勇気さ」
「ふうむ。少年の方は、まんまとそれに乗せられたわけか」
「肉を切らせて骨を断つ」
トーマが解説する通り、少女の大胆な作戦が功を奏したのであった。
「なるほどねぇ。魔力の大小だけで勝敗が決まるわけではないんだね」
「まあな。魔術も、言わば1つの武器だ。使い方次第という所もあるだろうな」
「ということは、ステファノも油断をすると危ないということか」
「それはどうかな」
スールーの疑問に、トーマは否定的であった。
「実力差の度合いにもよるんじゃないか? 今の試合は、言ってみたら五十歩百歩だった。相手がステファノとなると、作戦を練ったくらいじゃ通用しないと思うがね」
「トーマから見て、ステファノの実力はそんなに抜きんでているのか?」
「あいつが見せている部分だけでも、他の生徒とは大人と子供ほどの差があると思う。見せていない部分のことを考えると、空恐ろしいくらいだぜ」
トーマは他人の魔力の片りんを感じることができる。それだけにステファノとそれ以外の生徒との違いについては、実感として大きな隔たりを感じていた。
「トーマがそう言うなら、ステファノについては安心していいのかな」
「うーん。そうとばかりも言えない。『精神攻撃系ギフト』の件があるからな」
「ステファノは対抗手段を編み出したのかな?」
何しろ初見の相手ということになる。対抗手段がなければ、いくらステファノでも苦戦することになりそうだった。
「精神攻撃を使われても、見ている人間にはわからないだろうね」
「それはそうだな。ステファノ本人にしか、その存在はわからないだろう」
「けど、あれだね。ステファノの精神を攻撃したところでポイントにはならないわけだ」
「ああ、確かに。ポイントのカウントはあくまでも標的に与えたダメージに対して与えられるからな」
仮にステファノが気絶したとしても、標的さえ無事であればポイントを奪われることはないのであった。
「ステファノなら、標的に攻略不可能な防御魔法をかけておくことができるんじゃないか?」
「厚さ1メートルの氷で覆うとかね。そうすれば本人が気絶しても標的を守れるか。あいつならやれそうだ」
「やれるな」
どちらも有効な攻撃ができなければ、試合は引き分けとなる。ステファノは初めに万全の守りを固めれば、負けがないということになるだろう。しかし――。
「やらないな」
サントスは、ステファノならやれると言っておきながら、ステファノはやらないと言う。
「勝ち方にこだわると言った。うまい勝ち」
「必勝法があるっていうのに、贅沢な話だぜ」
「まったくだね。まあ、それもステファノらしいと言えば、ステファノらしい」
力づくではなく、うまさで勝つ。トーマが言う通り、確かに贅沢な目標である。
3人の関心は、ステファノが勝つかどうかではなく、どんな勝ち方をするかだった。
メシヤ流の評判を上げるような勝ち方。それはどんなものだろうかと3人が想像を膨らませる間に、次の試合が始まろうとしていた。
「ジェニー対アキ!」
会場に進み出たのは2人の少女だった。
「ほう。今度は女同士か?」
興味を引かれたようにスールーが言った。
「しかも、どうやらどちらも非魔術師らしいぜ」
2人の手には弓が握られていた。同じく背中には矢筒を背負っている。
「武器を持っているだけでノーマルとは限らないのじゃないか?」
スールーは眉毛を持ち上げた。
「……魔力の揺らぎが見えねぇ」
トーマは目を細めながら言う。ギフト「天降甘露」を磨き上げ、トーマは魔力の動きを感知できるようになっていた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第482話 弓では不都合があるのかい?」
「そういうことか。武術同士の戦いってわけだね。それはそれで面白そうだ」
「弓の射程は魔術より長い」
「普通はそうだな。だが、30メートル離れたら当てるのは大変だぜ?」
日本における弓道競技では「近的競技」で28メートル、「遠的競技」で60メートル先の的を狙う。
使用される和弓は全長約2メートルもある長弓である。
ここで少女たちが使用するのは狩弓とか半弓と呼ばれるサイズのものだ。
……
◆お楽しみに。
単純な術の優劣で言えば、少年の方が上であったろう。
少女は呪文を声に出して詠唱しなければ魔力を練ることができなかったし、術式構築にかかる時間も長かった。
しかし、それを踏まえた上で戦い全体の流れを支配していたのは、少女の方であった。
「あんな戦い方もあるのだね。自分の欠点を知った上で、持っている力を最大限に生かす戦略か」
「確かに作戦勝ち」
「男の方に油断があったのは間違いないが、それを誘ったのは女の方だったな」
自分の欠点を隠さず、あえて晒して見せることで敵を自分の土俵に引きずり込んだ。
「例えるなら、『酒場の殴り合い』にしちまったわけだ」
ノーガードで、かわりばんこにパンチをぶつけ合う。力自慢同士の、工夫のない喧嘩。
少年の方は、「殴り合い」なら自分が有利だと考えていた。
「まず、防御魔術の質が違う。相手の風魔術は固定式だ。自分は氷の鎧だから自由に動ける」
明らかに不利な風属性の防御を使用しているのは、少女に水属性を使いこなす能力がないからだ。少年はそう読んだ。
攻撃も風魔術一本で来るだろうと予想がつく。
「竜巻は強力だが、飛ばすことができない。風魔術なら風刃あたりが攻撃の王道だ。氷の鎧は『並の風刃』なら寄せつけなかったろう。風刃ならばな」
しかし、少女は飛ばない竜巻を押し出して来た。チェーンソーを圧しつけるようなものだ。その使い方は少年の意表を突くものだった。
「射程が短くて、発動に時間がかかるという自分の弱点を理解し、相手の油断を誘う罠に変えた。博打には違いないが、大した勇気さ」
「ふうむ。少年の方は、まんまとそれに乗せられたわけか」
「肉を切らせて骨を断つ」
トーマが解説する通り、少女の大胆な作戦が功を奏したのであった。
「なるほどねぇ。魔力の大小だけで勝敗が決まるわけではないんだね」
「まあな。魔術も、言わば1つの武器だ。使い方次第という所もあるだろうな」
「ということは、ステファノも油断をすると危ないということか」
「それはどうかな」
スールーの疑問に、トーマは否定的であった。
「実力差の度合いにもよるんじゃないか? 今の試合は、言ってみたら五十歩百歩だった。相手がステファノとなると、作戦を練ったくらいじゃ通用しないと思うがね」
「トーマから見て、ステファノの実力はそんなに抜きんでているのか?」
「あいつが見せている部分だけでも、他の生徒とは大人と子供ほどの差があると思う。見せていない部分のことを考えると、空恐ろしいくらいだぜ」
トーマは他人の魔力の片りんを感じることができる。それだけにステファノとそれ以外の生徒との違いについては、実感として大きな隔たりを感じていた。
「トーマがそう言うなら、ステファノについては安心していいのかな」
「うーん。そうとばかりも言えない。『精神攻撃系ギフト』の件があるからな」
「ステファノは対抗手段を編み出したのかな?」
何しろ初見の相手ということになる。対抗手段がなければ、いくらステファノでも苦戦することになりそうだった。
「精神攻撃を使われても、見ている人間にはわからないだろうね」
「それはそうだな。ステファノ本人にしか、その存在はわからないだろう」
「けど、あれだね。ステファノの精神を攻撃したところでポイントにはならないわけだ」
「ああ、確かに。ポイントのカウントはあくまでも標的に与えたダメージに対して与えられるからな」
仮にステファノが気絶したとしても、標的さえ無事であればポイントを奪われることはないのであった。
「ステファノなら、標的に攻略不可能な防御魔法をかけておくことができるんじゃないか?」
「厚さ1メートルの氷で覆うとかね。そうすれば本人が気絶しても標的を守れるか。あいつならやれそうだ」
「やれるな」
どちらも有効な攻撃ができなければ、試合は引き分けとなる。ステファノは初めに万全の守りを固めれば、負けがないということになるだろう。しかし――。
「やらないな」
サントスは、ステファノならやれると言っておきながら、ステファノはやらないと言う。
「勝ち方にこだわると言った。うまい勝ち」
「必勝法があるっていうのに、贅沢な話だぜ」
「まったくだね。まあ、それもステファノらしいと言えば、ステファノらしい」
力づくではなく、うまさで勝つ。トーマが言う通り、確かに贅沢な目標である。
3人の関心は、ステファノが勝つかどうかではなく、どんな勝ち方をするかだった。
メシヤ流の評判を上げるような勝ち方。それはどんなものだろうかと3人が想像を膨らませる間に、次の試合が始まろうとしていた。
「ジェニー対アキ!」
会場に進み出たのは2人の少女だった。
「ほう。今度は女同士か?」
興味を引かれたようにスールーが言った。
「しかも、どうやらどちらも非魔術師らしいぜ」
2人の手には弓が握られていた。同じく背中には矢筒を背負っている。
「武器を持っているだけでノーマルとは限らないのじゃないか?」
スールーは眉毛を持ち上げた。
「……魔力の揺らぎが見えねぇ」
トーマは目を細めながら言う。ギフト「天降甘露」を磨き上げ、トーマは魔力の動きを感知できるようになっていた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第482話 弓では不都合があるのかい?」
「そういうことか。武術同士の戦いってわけだね。それはそれで面白そうだ」
「弓の射程は魔術より長い」
「普通はそうだな。だが、30メートル離れたら当てるのは大変だぜ?」
日本における弓道競技では「近的競技」で28メートル、「遠的競技」で60メートル先の的を狙う。
使用される和弓は全長約2メートルもある長弓である。
ここで少女たちが使用するのは狩弓とか半弓と呼ばれるサイズのものだ。
……
◆お楽しみに。
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