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第4章 魔術学園奮闘編

第462話 うーん。作戦を練り直さないと……。

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「催眠、混乱、感覚異常――驚愕や爆笑というギフトもあるらしいぞ」
「そうか……。敵の精神を操作するという戦い方もあるんですね」

 ステファノにとっては盲点であった。標的への攻撃をシャットアウトしたとしても、自身の精神を操作されたら手も足も出なくなる。

「精神攻撃は許されているのかな?」
「敵への直接攻撃は反則じゃないのか」
「精神攻撃は『直接攻撃』とは判定されない」

 例えば威圧のために大声を上げることがある。これも一種の精神攻撃であった。
 精神攻撃をすべて禁止にしたら、戦いが成立しないのだ。

「うーん。作戦を練り直さないと……。精神を守る魔法なんてないし」

 大会前に気がついて良かった。ステファノは、仲間がいることの大切さを、改めて感じた。

 ◆◆◆

「精神攻撃系のギフトだと? 聞いたことはあるぞ」

 その日の夕方、ステファノはドリーに懸念事項を相談してみた。

「わたしが聞いたのは、『硬直スタン』というギフトのことだ。数秒間、相手を硬直させることができるらしい」
「結構危険な能力ですね」
「そうだな。その間相手は無抵抗になるからな」

 肉体だけでなく精神も硬直するらしい。魔術も使えない状態にされてしまうわけであった。

「精神攻撃から身を守る方法ってあるんでしょうか?」
「わたしも詳しくは知らん。何でも精神攻撃が成立するためには『条件』があるらしい」
「どういうことでしょう」
「たとえば、相手に自分の声を聞かせる。相手と目を合わせる。相手の体に触れる。そういうことが条件になるそうだ」

 総じていえば、相手と自分の間に何らかの「関係性」を構築する。それがギフトの発動条件になる。

「ははあ。何となくイメージできました」
「わかるのか、お前?」

 ドリーは簡単に理解するステファノに驚かされた。

「自分と雷丸との関係に似ているなと思いまして」
「そういうことか!」

 屈服、魔力の提供、そして名づけ。3つの条件・・・・・を満たした結果、雷丸はステファノの使役獣となった。
 主と使役獣の間には精神的なリンクつながりが存在する。

 それはステファノが体験として実感したことだった。

「それなら、その類似性を逆に応用すれば精神攻撃系ギフトから身を守れるかもしれません」
「わたしには見当もつかんが、お前ならやれそうな気がするな」

 ドリーにとって、ステファノの破天荒振りはいつものことである。こいつが「できる」と思うなら、できるのであろう。そう信じるだけの実績が、ステファノにはあった。

「念のため、明日図書館に行って精神攻撃系ギフトについて調べてみます」
「うむ。情報は多ければ多いほど良いからな」

 そう言えば最近ハンニバルさんに会っていなかったなと、ステファノは頭の隅で考えていた。

「さて、今日は何を訓練する?」

 ドリーにとってステファノは「教材」のようなものである。毎日新しい取り組みを観るたびに、ドリーのギフトは磨かれていく。
 今日は何を見せてくれるかとわくわくするのも道理であった。

「こいつの飛行訓練をやろうかと」
「ピー」
「おいおい。また標的に穴を開けるつもりか?」
「ピー?」

 電磁加速砲レールガンで体当たりをかまされた記憶が、まだ生々しい。あんなものを何度もやられては、試射場がボロボロになってしまう。

「あれは何て言うか……勇み足でした。もう少し実用的な飛行術を試してみます」
「ふうん。機材を壊さないなら構わんが……。どんなものか、見せてもらうとするか」
「風と土の複合魔法マルチプルです」

「5番。風と土、複合魔法マルチプルによる飛行術。任意に撃って良し!」

 ステファノに発射の許可を与えると、ドリーは興味津々に雷丸の様子を見つめた。

「雷丸、飛行訓練だ。何も壊すなよ。よし、行け!」
「ピー―――!」

 ステファノの頭頂部から、雷丸が弾丸となって飛び出した。

 ひょうと音を立てて空気を切り裂き、滑空してあっという間に標的に到達する。すると、体を捻ってスピードを落とし、方向を変えた。
 標的から標的へとスラロームのように間を縫って飛びぬけて行く。

 一方の端まで到達すると、身を翻してUターンし、再び標的の間をスラロームの要領ですり抜ける。

 完全に一往復を終えた雷丸は、再び方向を変えてステファノの頭上に戻って来た。

「ピー!」

「よし! よくできた!」
「ほほう。先日の雷撃では一直線に飛んだが、今回は随分と自由自在だな」
「はい。今度の飛び方は滑空ですから、空中で方向転換ができます」
「イドの制御を行っていたようだ」
「翼代わりの膜をイドで作りました」

 魔法だけでは無理がある飛行術だが、イドで空力を利用し、滑らかな姿勢制御ができるようにした。研究報告会で発表しようとしているテーマ内容であった。

「お前のことだ。これを人間でもやれるのだな?」
「できます。雷丸ほど機敏には動けませんけど」
「ピー!」

 雷丸とステファノとの間には精神的なリンクがある。雷丸の経験はステファノの経験でもあった。

「雷丸が飛行を繰り返せば、その分俺も飛行訓練を積んだことになります」
「最早そのくらいのことでは驚かんが、常識破りなお前らしいことだな」

 ドリーは椅子の背に体を預けると、諦めたように脱力した。

「狭い試射場が飛行訓練場になるとは思わなかったよ。好きなだけ飛んで行くと良い」

 ドリーは第3の目を見開いて、ステファノ主従の一挙手一投足を見逃すまいと精神を集中した。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第463話 貴族の家とはそういうものだ。」

 図書館のハンニバル司書に会ったステファノは、上級魔術師「土竜もぐらハンニバル」卿に会ったことを告げた。

「そうか。兄に会ったか。それは災難・・だったな」

 開口一番、ハンニバル女史が口にしたのはステファノへの慰めであった。つまり、それ程いろいろとトラブルを招いて来たのであろう。

「ええと、何て言うか……。なかなか強烈なお兄さんですね」

 ……

◆お楽しみに。
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