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第4章 魔術学園奮闘編
第455話 そいつは魔術師のはずなんだがなァ。
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ステファノの師匠と思われるヨシズミという男について、ダニエルは聞き込みを続けた。食料品屋の情報で山に籠っていたらしいと知り、生活必需品を買い込みそうな店を回ってみた。
その結果、ヨシズミはちょっとした有名人で正体不明のよそ者として扱われていることがわかった。
時々、貴石や薬草など珍しい物を持ちこんで来るので、いくつかの店では買取に応じているそうであった。
(金には困っていないようだな。もっとも、山の中では金の使い道がないだろうが)
稼いだ金は生活用品や嗜好品に換えているようだった。
(余程人間嫌いなのか? 山の中では何の楽しみもないだろうに)
若いダニエルには山に引き籠った暮らしなど想像がつかない。とても自分には耐えられないだろうと思った。
どうやら、聞いてみるとヨシズミがサポリの山に籠って10年以上がたつようだった。10年の山暮らしとはどんなものであろうか。
(病気にならないのが不思議なくらいだ。その前に頭がおかしくなりそうだな)
ヨシズミについての情報はそこまでであった。サポリに来る前までのことは、さすがにわからない。
それでも何とか手掛かりを得ようと、ダニエルは人の集まるような所で聞き込みを続けた。飯屋、酒場、売春宿……。
酒場で飲んでいるところを見掛けたという声はあったが、そこから先に広がる情報はなかった。
「参ったな。そのオヤジが魔術を使っているところを見たことねェかい?」
「記憶にねェな。魔術の話もしてなかったと思うぜ」
「うーん。そいつは魔術師のはずなんだがなァ」
手掛かりに行き詰まり、ダニエルは髪を掻きむしった。
「この町はちいせェからな。魔術師なんぞ寄りつかねェのさ。ああ、1人いるにはいるが……」
「ヨシズミって奴じゃねェんだな?」
「違うよ。別の爺さんだ」
魔術師だろうとヨシズミ以外の人間に、ダニエルは興味がなかった。うわの空で聞き流そうとしたが、相手の男はそれに気づかず、言葉を重ねた。
「去年どこからか流れてきた爺さんだがね。昔は名のある魔術師だったそうだぜ? 本人がそう言ってるだけだがね」
「何ていう奴だ?」
興味はなかったが、他にたどるべき手掛かりもない。ダニエルは自称魔術師の爺さんを探してみることにした。
「『疾風』のマランツという爺さんさ。疾風どころかよぼよぼだけどな」
「何? 二つ名持ちだと? そいつは剛毅だな」
二つ名持ちと言われると、ダニエルの血が騒ぐ。「武勇伝」には目がないのだ。
「本当かウソか、知らねェぜ? 本人が言うことだからな」
会いたいなら住処を教えてやると、親切にも酒場の男は地図まで書いてくれた。
「すまねェな。こいつで一杯やってくれ」
ダニエルは男の手に素早く銀貨を握らせた。
◆◆◆
町はずれの農家、その敷地に建てられた納屋のような小屋にマランツは住んでいた。
「マランツさんはいるかい?」
半開きの扉からひょいと顔を突っ込んで、ダニエルは室内に声をかけた。
返事はなかったが、奥の部屋からガサゴソと物音がする。どうやらベッドに入っていたらしい。
(おいおい。もう昼前だぜ? 体でも壊していやがるのか)
「マランツさんか? 悪いが、邪魔するぜ」
高めの声をかけ、ダニエルはずかずかと小屋に入り込んだ。奥の部屋まで進み、ドアを叩く。
「マランツさん、休み中悪いがちょっと話を聞かせてくれ。良いかい? 入るぜ?」
図々しいと言うのか、人擦れしているというのか。ダニエルは当たり前の顔でドアを開け、寝室と思われる部屋に入った。
頭髪がまばらになった老人が、小さなベッドに腰掛けていた。
「誰だ、お前は?」
「あんたがマランツさんかい? 俺はダニエルっていう薬屋だ。ちょっと話を聞かせてもらいたいと思ってね」
「薬は間に合っておる。話など何もないが……腹が減ったな。お前、母屋に行ってパンとハムでももらって来い。そしたら聞きたいことを話してやろう」
マランツはベッドから立ち上がり、よろよろと歩き出した。居間に移動するらしい。
「飯をもらってくるくらい構わねェが、あんた大丈夫か? ふらふらしてるぜ?」
「馬鹿にするな! 手足が弱ってるが、家の中で動くくらい不自由はない。良いから早く行って来い!」
言葉通りマランツはよろけることもなく、今のソファまでたどりつき、腰を下ろした。
「わかったよ。ちょっと行って来るから、そこで待っててくれ」
ダニエルはこの土地の持ち主と思われる母屋を訪れ、パンとハムを分けてもらえないかと頼んだ。マランツに言われて来たと言うと、でっぷりと太った農家の妻は聞こえよがしに舌打ちした。
返事もせずに室内に戻って行くので、分けてくれないのかと思うと、やがてパンと小さな包みを入れたバスケットを持って戻って来た。
「すまねぇ。助かるぜ」
ダニエルはバスケットを受け取ろうと手を伸ばした。
「……」
女は黙って手のひらを突き出した。
「あん? 何だ?」
ダニエルが当惑すると、女は顔を背けてまた舌打ちした。
「ちっ! 出しなよ」
「何?」
女はいらいらと足を踏み鳴らし、手のひらを動かした。
「金だよ、金! ただで飯を食わせるわけないだろ!」
金を取るとは聞いてねェぞと思いながらも、ダニエルは文句を飲み込んだ。黙ってポケットをまさぐる。
「ほらよ。これで良いか?」
女の手に銀貨を乗せてやると、なぜか女はまたもや舌打ちした。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第456話 ふん、あの豚女、けちけちしおって!」
「持って来たぜ。パンとハムだ」
「おう。すまぬ。今、コーヒーを入れる」
ダニエルが母屋に行っている間に、マランツは湯を沸かしていた。
「ついでだ。コーヒーくらい俺が入れてやる」
そういうことは店で慣れていた。ダニエルはカップを見つけて自分の分もコーヒーを入れた。
「俺は薬屋だ。薬草を煎じ慣れているからな」
……
◆お楽しみに。
その結果、ヨシズミはちょっとした有名人で正体不明のよそ者として扱われていることがわかった。
時々、貴石や薬草など珍しい物を持ちこんで来るので、いくつかの店では買取に応じているそうであった。
(金には困っていないようだな。もっとも、山の中では金の使い道がないだろうが)
稼いだ金は生活用品や嗜好品に換えているようだった。
(余程人間嫌いなのか? 山の中では何の楽しみもないだろうに)
若いダニエルには山に引き籠った暮らしなど想像がつかない。とても自分には耐えられないだろうと思った。
どうやら、聞いてみるとヨシズミがサポリの山に籠って10年以上がたつようだった。10年の山暮らしとはどんなものであろうか。
(病気にならないのが不思議なくらいだ。その前に頭がおかしくなりそうだな)
ヨシズミについての情報はそこまでであった。サポリに来る前までのことは、さすがにわからない。
それでも何とか手掛かりを得ようと、ダニエルは人の集まるような所で聞き込みを続けた。飯屋、酒場、売春宿……。
酒場で飲んでいるところを見掛けたという声はあったが、そこから先に広がる情報はなかった。
「参ったな。そのオヤジが魔術を使っているところを見たことねェかい?」
「記憶にねェな。魔術の話もしてなかったと思うぜ」
「うーん。そいつは魔術師のはずなんだがなァ」
手掛かりに行き詰まり、ダニエルは髪を掻きむしった。
「この町はちいせェからな。魔術師なんぞ寄りつかねェのさ。ああ、1人いるにはいるが……」
「ヨシズミって奴じゃねェんだな?」
「違うよ。別の爺さんだ」
魔術師だろうとヨシズミ以外の人間に、ダニエルは興味がなかった。うわの空で聞き流そうとしたが、相手の男はそれに気づかず、言葉を重ねた。
「去年どこからか流れてきた爺さんだがね。昔は名のある魔術師だったそうだぜ? 本人がそう言ってるだけだがね」
「何ていう奴だ?」
興味はなかったが、他にたどるべき手掛かりもない。ダニエルは自称魔術師の爺さんを探してみることにした。
「『疾風』のマランツという爺さんさ。疾風どころかよぼよぼだけどな」
「何? 二つ名持ちだと? そいつは剛毅だな」
二つ名持ちと言われると、ダニエルの血が騒ぐ。「武勇伝」には目がないのだ。
「本当かウソか、知らねェぜ? 本人が言うことだからな」
会いたいなら住処を教えてやると、親切にも酒場の男は地図まで書いてくれた。
「すまねェな。こいつで一杯やってくれ」
ダニエルは男の手に素早く銀貨を握らせた。
◆◆◆
町はずれの農家、その敷地に建てられた納屋のような小屋にマランツは住んでいた。
「マランツさんはいるかい?」
半開きの扉からひょいと顔を突っ込んで、ダニエルは室内に声をかけた。
返事はなかったが、奥の部屋からガサゴソと物音がする。どうやらベッドに入っていたらしい。
(おいおい。もう昼前だぜ? 体でも壊していやがるのか)
「マランツさんか? 悪いが、邪魔するぜ」
高めの声をかけ、ダニエルはずかずかと小屋に入り込んだ。奥の部屋まで進み、ドアを叩く。
「マランツさん、休み中悪いがちょっと話を聞かせてくれ。良いかい? 入るぜ?」
図々しいと言うのか、人擦れしているというのか。ダニエルは当たり前の顔でドアを開け、寝室と思われる部屋に入った。
頭髪がまばらになった老人が、小さなベッドに腰掛けていた。
「誰だ、お前は?」
「あんたがマランツさんかい? 俺はダニエルっていう薬屋だ。ちょっと話を聞かせてもらいたいと思ってね」
「薬は間に合っておる。話など何もないが……腹が減ったな。お前、母屋に行ってパンとハムでももらって来い。そしたら聞きたいことを話してやろう」
マランツはベッドから立ち上がり、よろよろと歩き出した。居間に移動するらしい。
「飯をもらってくるくらい構わねェが、あんた大丈夫か? ふらふらしてるぜ?」
「馬鹿にするな! 手足が弱ってるが、家の中で動くくらい不自由はない。良いから早く行って来い!」
言葉通りマランツはよろけることもなく、今のソファまでたどりつき、腰を下ろした。
「わかったよ。ちょっと行って来るから、そこで待っててくれ」
ダニエルはこの土地の持ち主と思われる母屋を訪れ、パンとハムを分けてもらえないかと頼んだ。マランツに言われて来たと言うと、でっぷりと太った農家の妻は聞こえよがしに舌打ちした。
返事もせずに室内に戻って行くので、分けてくれないのかと思うと、やがてパンと小さな包みを入れたバスケットを持って戻って来た。
「すまねぇ。助かるぜ」
ダニエルはバスケットを受け取ろうと手を伸ばした。
「……」
女は黙って手のひらを突き出した。
「あん? 何だ?」
ダニエルが当惑すると、女は顔を背けてまた舌打ちした。
「ちっ! 出しなよ」
「何?」
女はいらいらと足を踏み鳴らし、手のひらを動かした。
「金だよ、金! ただで飯を食わせるわけないだろ!」
金を取るとは聞いてねェぞと思いながらも、ダニエルは文句を飲み込んだ。黙ってポケットをまさぐる。
「ほらよ。これで良いか?」
女の手に銀貨を乗せてやると、なぜか女はまたもや舌打ちした。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第456話 ふん、あの豚女、けちけちしおって!」
「持って来たぜ。パンとハムだ」
「おう。すまぬ。今、コーヒーを入れる」
ダニエルが母屋に行っている間に、マランツは湯を沸かしていた。
「ついでだ。コーヒーくらい俺が入れてやる」
そういうことは店で慣れていた。ダニエルはカップを見つけて自分の分もコーヒーを入れた。
「俺は薬屋だ。薬草を煎じ慣れているからな」
……
◆お楽しみに。
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