435 / 668
第4章 魔術学園奮闘編
第435話 ふうん、そうか……ってならんだろう!
しおりを挟む
試射場の壁を蹴り、天井を蹴り、床を蹴って、雷丸はその名の通り稲妻のように跳び回った。
肉眼では尾を引く赤い閃光にしか見えない。
「ピーーーッ!」
ひときわ高い声を発しながら、雷丸は標的の1つに向かって宙を飛んだ。赤い閃光が標的の胸を撃つ。
「あれ?」
「何だと!」
標的の胸にはブスブスと煙を上げる小さな穴が開いていた。標的を貫通した雷丸は反対側の壁を蹴り、天井や床で跳ねながら宙を飛んで戻って来る。
「おっと! ハウス!」
ビシっという擬音が見えるほどの唐突さで雷丸が静止し、ちょろちょろと床を走ってステファノの頭頂部まで戻って来た。
「いや、待て。いろいろ言いたいことがあるが、何だその『ハウス』という掛け声は?」
「昔、犬を連れた大道芸人が店に来たことがありまして。その人が犬をかごに入れる時に、そう命令していたんです」
「ふうん、そうか……ってならんだろう! どうして雷丸に意味が伝わる?」
「何か、主人と使役獣とのキズナみたいなこと? 通じたみたいです」
随分といい加減な話だなとドリーは憤慨したが、魔術の世界はイメージ次第。意志の強さが事象を左右することは、魔術師にとって当たり前のことであった。
「大体、お前の頭がなぜハウスなんだ? ……いや、いい。アホくさくなった。それより今の威力が問題だ」
最後はドリーの声が真剣味を帯びた。
標的を引き寄せてみれば、やはり親指の太さで貫通した穴が開いていた。背中の射出孔も真っ黒に炭化している。
「これは……。範囲が集中しているが、威力で言ったらお前の遠当てに匹敵するんじゃないか?」
「そうですね。少なくとも授業で見せた術とは肩を並べそうです」
破壊困難な標的を引きちぎる術に匹敵する威力があると、2人は改めて命中痕を見つめた。
「秘伝のマッサージが効いたようです」
「ふざけるな、馬鹿者!」
雷丸の体当たりは、ドリーの秘術光龍の息吹にも負けない威力であった。
「こんなちっぽけなネズミがあんな魔術を使えるはずないだろう! いや、そんなに物騒な魔獣をお手軽に生徒に譲るわけがないだろうが!」
「ですよね。つないでおかなくても危なくないって言われましたし」
「放し飼いどころか自在に跳び回ってたろう! どこが主人に依存しているだ!」
雷丸の見た目とその威力のアンバランスが、激しくドリーの常識を揺さぶった。
その時ドリーは、自分が怒鳴りつけている相手がステファノであることを思い出し、急速に萎えた。
「はぁあ……。お前に常識を期待したわたしが馬鹿だった」
「えぇ~?」
「まあ座ろう」
2人は椅子に腰かけて、息を整えた。
「お前がこいつに何をしたのかは聞かん。うすうす察しはつくがな」
「はあ、すいません」
「ふん。いちいち謝るな。話が進まん」
ドリーはステファノの頭頂部にちょこんと座った雷丸に、ちらりと目をやった。
「あれはただの雷魔術ではなかった」
「そうですね」
「お前の魔力でもない。その動きはなかったからな」
「その通りです」
「ということはだ」
ドリーは言いにくいことを口にするように、どっかと踏みしめた膝の上に両手をついて顔を突き出した。
「たった今こいつは複合魔術を使ったことになる」
「そうだと思います」
はあーとため息をつき、ドリーは肩を落とした。
「魔術界のエリートたちがどれだけ苦労して複合魔術を身につけていると思う? ……いや、言わなくていい。答えを聞きたくない」
やってみたらできましたの少年にする質問ではなかった。
「よし! こいつは『特殊個体』だ!」
「はい?」
「お前が何かしたとなると、話がややこしくなる。たまたまこいつがレアでアレな特殊個体だった。そういうことにしよう! いや、そうだった!」
「は、はい」
ドリーは両手で顔を覆いながら、「こいつは特殊個体」「こいつは特殊個体」と口の中で繰り返した。
最後の方は「特殊個体はステファノ」と聞こえた気がしたが、定かではない。
「えー、そういうことで切り替えよう。こいつが使った複合魔術だが、雷属性は当然として、あの勢いだ。土属性で加速しているな」
「あの、土属性はジャンプの瞬間だけですね」
「何?」
「引力で自分の体を加速させ続けるのはとても困難です。うちの師匠くらいでないとできません」
新能力「式神使い」を開花させたヨシズミをしてようやく飛行術を安定制御できるようになったくらいである。
「では、どうやって加速したと言うんだ?」
「それには雷気を使っていました」
筒状の空間に雷気を帯びさせ、自らは電磁砲弾となってその中を飛翔する。ヨシズミならば電磁加速砲と呼んだであろう。
「聞いたこともない術だ」
「着弾の瞬間には身の回りの空気を灼熱化していましたね」
「雷と火だと?」
プラズマ放電。ヨシズミならその現象をこう呼んだはずである。
「何てことだ。そんな勢いでぶつかって、そいつはどうして無事なんだ」
「体の周りにイドの鎧をまとっていましたね。めちゃめちゃ器用に……」
「器用にどうした?」
「あの……俺の真似をしたようです」
「ああ……そうか。なら仕方ないな」
ドリーはその瞬間、憑き物が落ちたような顔になった。
「飼い主の責任だ。そいつにきちんとしつけることだな。命令があるまで術を使うなと」
内心でドリーは「お前をしつけるのはどこの誰の責任だ?」と、叫びたかった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第436話 お前が凶暴な性格じゃなくて良かったよ。」
ドリーはそれ以上雷丸の「性能」について突っ込むことはなかった。
部屋に戻ってから落ちついて観察してみると、ステファノはいくつかのことに気がついた。
1.雷丸の魔視脳が開放されていること。
2.雷丸が自分自身で魔核を練れること。
3.その魔核は虹の王の分身であること。
4.ステファノ同様、全属性の魔力を使いこなせること。
5.ステファノの魔核には最早依存していないこと。
6.それでもステファノの命令には従うこと。
……
◆お楽しみに。
肉眼では尾を引く赤い閃光にしか見えない。
「ピーーーッ!」
ひときわ高い声を発しながら、雷丸は標的の1つに向かって宙を飛んだ。赤い閃光が標的の胸を撃つ。
「あれ?」
「何だと!」
標的の胸にはブスブスと煙を上げる小さな穴が開いていた。標的を貫通した雷丸は反対側の壁を蹴り、天井や床で跳ねながら宙を飛んで戻って来る。
「おっと! ハウス!」
ビシっという擬音が見えるほどの唐突さで雷丸が静止し、ちょろちょろと床を走ってステファノの頭頂部まで戻って来た。
「いや、待て。いろいろ言いたいことがあるが、何だその『ハウス』という掛け声は?」
「昔、犬を連れた大道芸人が店に来たことがありまして。その人が犬をかごに入れる時に、そう命令していたんです」
「ふうん、そうか……ってならんだろう! どうして雷丸に意味が伝わる?」
「何か、主人と使役獣とのキズナみたいなこと? 通じたみたいです」
随分といい加減な話だなとドリーは憤慨したが、魔術の世界はイメージ次第。意志の強さが事象を左右することは、魔術師にとって当たり前のことであった。
「大体、お前の頭がなぜハウスなんだ? ……いや、いい。アホくさくなった。それより今の威力が問題だ」
最後はドリーの声が真剣味を帯びた。
標的を引き寄せてみれば、やはり親指の太さで貫通した穴が開いていた。背中の射出孔も真っ黒に炭化している。
「これは……。範囲が集中しているが、威力で言ったらお前の遠当てに匹敵するんじゃないか?」
「そうですね。少なくとも授業で見せた術とは肩を並べそうです」
破壊困難な標的を引きちぎる術に匹敵する威力があると、2人は改めて命中痕を見つめた。
「秘伝のマッサージが効いたようです」
「ふざけるな、馬鹿者!」
雷丸の体当たりは、ドリーの秘術光龍の息吹にも負けない威力であった。
「こんなちっぽけなネズミがあんな魔術を使えるはずないだろう! いや、そんなに物騒な魔獣をお手軽に生徒に譲るわけがないだろうが!」
「ですよね。つないでおかなくても危なくないって言われましたし」
「放し飼いどころか自在に跳び回ってたろう! どこが主人に依存しているだ!」
雷丸の見た目とその威力のアンバランスが、激しくドリーの常識を揺さぶった。
その時ドリーは、自分が怒鳴りつけている相手がステファノであることを思い出し、急速に萎えた。
「はぁあ……。お前に常識を期待したわたしが馬鹿だった」
「えぇ~?」
「まあ座ろう」
2人は椅子に腰かけて、息を整えた。
「お前がこいつに何をしたのかは聞かん。うすうす察しはつくがな」
「はあ、すいません」
「ふん。いちいち謝るな。話が進まん」
ドリーはステファノの頭頂部にちょこんと座った雷丸に、ちらりと目をやった。
「あれはただの雷魔術ではなかった」
「そうですね」
「お前の魔力でもない。その動きはなかったからな」
「その通りです」
「ということはだ」
ドリーは言いにくいことを口にするように、どっかと踏みしめた膝の上に両手をついて顔を突き出した。
「たった今こいつは複合魔術を使ったことになる」
「そうだと思います」
はあーとため息をつき、ドリーは肩を落とした。
「魔術界のエリートたちがどれだけ苦労して複合魔術を身につけていると思う? ……いや、言わなくていい。答えを聞きたくない」
やってみたらできましたの少年にする質問ではなかった。
「よし! こいつは『特殊個体』だ!」
「はい?」
「お前が何かしたとなると、話がややこしくなる。たまたまこいつがレアでアレな特殊個体だった。そういうことにしよう! いや、そうだった!」
「は、はい」
ドリーは両手で顔を覆いながら、「こいつは特殊個体」「こいつは特殊個体」と口の中で繰り返した。
最後の方は「特殊個体はステファノ」と聞こえた気がしたが、定かではない。
「えー、そういうことで切り替えよう。こいつが使った複合魔術だが、雷属性は当然として、あの勢いだ。土属性で加速しているな」
「あの、土属性はジャンプの瞬間だけですね」
「何?」
「引力で自分の体を加速させ続けるのはとても困難です。うちの師匠くらいでないとできません」
新能力「式神使い」を開花させたヨシズミをしてようやく飛行術を安定制御できるようになったくらいである。
「では、どうやって加速したと言うんだ?」
「それには雷気を使っていました」
筒状の空間に雷気を帯びさせ、自らは電磁砲弾となってその中を飛翔する。ヨシズミならば電磁加速砲と呼んだであろう。
「聞いたこともない術だ」
「着弾の瞬間には身の回りの空気を灼熱化していましたね」
「雷と火だと?」
プラズマ放電。ヨシズミならその現象をこう呼んだはずである。
「何てことだ。そんな勢いでぶつかって、そいつはどうして無事なんだ」
「体の周りにイドの鎧をまとっていましたね。めちゃめちゃ器用に……」
「器用にどうした?」
「あの……俺の真似をしたようです」
「ああ……そうか。なら仕方ないな」
ドリーはその瞬間、憑き物が落ちたような顔になった。
「飼い主の責任だ。そいつにきちんとしつけることだな。命令があるまで術を使うなと」
内心でドリーは「お前をしつけるのはどこの誰の責任だ?」と、叫びたかった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第436話 お前が凶暴な性格じゃなくて良かったよ。」
ドリーはそれ以上雷丸の「性能」について突っ込むことはなかった。
部屋に戻ってから落ちついて観察してみると、ステファノはいくつかのことに気がついた。
1.雷丸の魔視脳が開放されていること。
2.雷丸が自分自身で魔核を練れること。
3.その魔核は虹の王の分身であること。
4.ステファノ同様、全属性の魔力を使いこなせること。
5.ステファノの魔核には最早依存していないこと。
6.それでもステファノの命令には従うこと。
……
◆お楽しみに。
1
Amebloにて研究成果報告中。小説情報のほか、「超時空電脳生活」「超時空日常生活」「超時空電影生活」などお題は様々。https://ameblo.jp/hyper-space-lab
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ
井藤 美樹
ファンタジー
初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で双子の王子が生まれた。
一人には勇者の証が。
もう片方には証がなかった。
人々は勇者の誕生を心から喜ぶ。人と魔族との争いが漸く終結すると――。
しかし、勇者の証を持つ王子は魔力がなかった。それに比べ、持たない王子は莫大な魔力を有していた。
それが判明したのは五歳の誕生日。
証を奪って生まれてきた大罪人として、王子は右手を斬り落とされ魔獣が棲む森へと捨てられた。
これは、俺と仲間の復讐の物語だ――
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動
志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。
むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。
よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!!
‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。
ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる