上 下
427 / 624
第4章 魔術学園奮闘編

第427話 手間はそんなに変わらないぜ。

しおりを挟む
 ステファノの苦情など、どこ吹く風。サントスとトーマは、お馴染みとなったエンジニア・トークを繰り広げた。
 試作品と図面に手直しの書き込みが、ビシビシと加えられた。

「よし。形状はこんなもんだろう。ここには布でカバーをつけようぜ。ここの突起は針金が良いだろう」
「うん。肉抜きできたから大分軽くなる」
「じゃあ、例によって図面起し頼みます、先輩」
「こういう時だけ先輩言うな」

 あっという間に改良版の仕様が決定した。

「結構だ。図面化はサントスに任せる。でき上がったら、トーマに渡してくれ」
「兄貴、カーボンを使って2枚にしてくれ。1枚はうちの工房に回す。もう1枚は俺の手元に置いて、2号機を手作りするからよ」

 スールーがプロデューサーとして全体を仕切る。トーマは既に量産化を視野に入れているようだ。

「俺の方は図面をもらったら、2号機を4台手作りするぜ」

 トーマはなぜか2次試作機を4台作ると言う。

「トーマ、4台作るのは何のためだい?」

 手作りには手間がかかる。1セット2台は当然として、なぜ2セットも作ろうと言うのか、スールーは疑問に思った。

「メンバー1人に1台ずつさ。ステファノ、通話相手を切り替えることはできるだろう?」
「切り替えつまみをつけてくれればできます」
「だったらメンバーの連絡用に使えるじゃないか。2台作るのも4台作るのも、手間はそんなに変わらないぜ」

 試作機であっても魔耳話器まじわきが使用できれば、メンバー間の連絡がとてつもなく便利になる。
 相手を探して構内をうろつき回らなくても済むのだ。

「それはいい。迷子のスールーを探すのはいつも大変」
「何を言う。ボクの活動にはいつも意味がある。引きこもりのキミが表に出る良い機会を作っているとも言えるぞ」
「ああ言えばこう言うな。スールーさんのことはまあ良いや。とにかく試作2号機はできるだけ目立たない外観にするぜ」

 手作りを買って出たトーマは言う。

「悪目立ちしないのは良いことだと思うが、トーマにしては気を使うじゃないか?」
「だって考えてみてくれよ。ステファノはあの格好に魔耳話器まじわきが追加されるんだぜ? これ以上目立ってどうするんだよ?」

 トーマの懸念ももっともだった。ただでさえアカデミー構内で浮き上がっているステファノが、変人としての許容範囲を超えてしまうかもしれない。

「……会話する時はできるだけ人目を避けよう。特にキミは気をつけるように、ステファノ」

 相手もいないのに「変なもの」を耳につけてぶつぶつ呟いている男。

「俺だけじゃないでしょうに。みんな同じですよ」
「同じわけないだろう!」

 3人の声が揃った。

 ◆◆◆

「俺の方の進捗だけど、実家で動力機構について事例を集めたぜ」

 ステファノをボコボコに突っ込みまくった後、気を取り直してトーマは自分の担当について話し始めた。

「印刷機用の動力機構に使える仕組みを絞り込んでる。水車か風車って考えたが、常時稼働させるためには水車が良いかなと」
「まあそうだ。風は吹かない日もある」

 サントスはトーマの案に同意した。染色業を営む実家で生まれ、川に近いところでの仕事を見て来ている。
 水車小屋の中にももちろん入ったことがあった。

「歯車とカムの組み合わせが基本だな。普通は石臼を回したり、杵を上下させたり。スピードの変化はギヤ比で調整する」

 トーマは図面を広げて各部の構造と動作を説明した。サントスは「うんうん」と頷いている。

「ポイントは回転運動を機械の動作に変えるという機構だな」
「原理は想像通り。実用化はトーマに任せる。俺は回転力を利用した印刷機構を考えた」

 木版の表面にインクを塗り、紙を押し付けてから取り出すからくりを試行錯誤した。

「ローラーで木版にインクを載せる。紙を重ねて置く台の下にばねを入れて、木版を押し付ける力を程よく吸収。印刷済みの紙は四隅を吸いつけて持ち上げ、横に運ぶ」
「うん。各部の動きは図面でわかる。水車の力で仕掛けが壊れないようにばねを入れているんだな?」
「そうだ。理屈は正しいと思うが、まだうまく行かない」

 試行錯誤してみたが、冬休み中にはまともに動く実験機はできなかった。

「紙送りが激ムズ。ふいごの応用で用紙を吸着しようとしたが、失敗が多すぎる」
「吸着部の気密と、四隅に密着させるタイミングが難しそうだな」
「そういうこと。材質や寸法の精度を上げないと無理。金属化すると良さそうなんだが、時間がかかる」

 サントスの実家は染色業で、機織り機などには知見があったが、印刷機の紙送り機構は難易度が高かった。

「最初から上手くはいかないさ。ある程度形にしただけでも上等だ。ここからはキムラーヤうちの工房に引き継がせようぜ」
「すまんが、頼む。機構の金属化は実家では無理だ。その代わり、インクの方はめどがつきそうだ」

 染色屋のプライドをかけて、サントスはインクの開発をリードした。筆記用のインクとは異なり、粘りのあるインクの方が木版刷りに向いていると考え、にかわやワニスを木炭に混ぜて黒色のインクを工夫してみた。

「使い物にはなると思う」

 サントスの実家では今も改良版インクの開発が続いている。ムラなく、乗りの良い、乾きが早いインクが目標であった。

「そんな状況。そこでステファノに頼みがある」

 サントスが真剣な声を出した。

「印刷済みの用紙をこの4つの突起部分に吸い付かせる魔術を付与してくれないか?」

 サントスの願いはあい路・・・箇所を魔法具に置き換えることであった。

「すみませんが、それはできません」

 ステファノはサントスの頼みを断った。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第428話 逆に言えば『時間さえかければできる』ってことです。」

「何だって? どういうことだ?」
「ステファノ……」

 ステファノの拒絶を聞いて、サントスより先にトーマが声を上げた。

「自動印刷機にめどがつきそうだって時に、協力できないとはどういうことだ?」
「めどがつきそうだから、断るんだよ」

 ステファノは真っ直ぐにトーマの視線を受け止めて言った。

「ステファノ……」

 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...