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第4章 魔術学園奮闘編

第421話 道具とはそのために作られるものでしょう?

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「こんな馬鹿なことが……。わたしは夢を見ているのか?」
「大袈裟ですよ、先生。単なる生活魔法・・ですから」

 興奮する講師を落ちつかせようと、ステファノはのんびりした口調で話しかけた。

「単なる生活魔法って……。うん? 『魔法』とは何だね?」

 額の汗をハンカチで拭いながら、講師は疑問を口にした。

「魔法とは魔力を以てこの世の因果に干渉する技術です。しかるに、世界に対する影響をできるだけ小さく止めるために世界の法則を知り、法則に寄り添う。それが魔法の法たる所以ゆえんです」

 ステファノは師ヨシズミから受け継いだ魔法の概念を講師に披歴した。

「何のことか、さっぱりわからない。『メシヤ流』と言ったか? 君はその流派を学んでいるんだね?」
「その通りです。メシヤ流は魔法を教える流派であり、魔法具の作り方を探求する流派でもあります」
「さっきから魔法具、魔法具と口にしているな。それは『魔力を使わない魔道具』のことかね?」

 ステファノとの問答を繰り返すことで、講師は徐々に冷静さを取り戻した。

「おっしゃる通りです。『万人に魔法具を』が、我がメシヤ流における目標の1つです」
「そんなことがあり得るのだろうか? 魔力なき者が自在に魔術を操るだと?」
「道具とはそのために作られるものでしょう?」
「何?」

 講師にはステファノが当たり前のように言う言葉が理解できない。

「道具とは本来その者に足りない力を補うために作られ、使用されるものではありませんか?」

 ハンマーしかり、のこぎりしかり。

「だったら、魔力を補う道具があっても良いでしょう」
「それは不可能だ。いや、不可能とされてきた。……数少ないアーティファクトを例外として」
「先生、1つでも例外が存在するなら、それは可能なのです。実現可能な現象は、いつかは実現する」
「それがだと言うのかね、君は?」

 講師は足元が揺らぎそうな不安を感じた。

「いいえ。俺ではありません。『世界』が今それを受け入れているのです」

 そういうステファノの表情は、自信と安心に満ちあふれていた。

 ◆◆◆

「魔道具製作(初級)」合格。「魔道具製作(中級)」合格。「魔道具製作(上級)」合格。
 ステファノは3つの単位を修得した。

 ◆◆◆

 2限めの講義は「攻撃魔術(初級)」であった。

 チャレンジ・テーマは、「距離10メートルの標的を敵とみなし、戦闘不能となるダメージを与えること」であった。

「先生、質問があります」
「何ですか? 言ってみなさい」
「敵は抵抗したり、反撃してきますか?」

 ステファノは講師の目を真っ直ぐに見て質問した。

「今回の敵は逃げたり反撃したりしません。それで答えになるかな?」
「わかりました。ありがとうございます」
「ああ、もう1つだけ言っておこう。敵は手ごわい・・・・。相当に打たれ強いので、全力を以て叩くように」

 最後の一句はクラス全員に言い聞かせるものであった。

 講師の先導で第1試射場に移動したクラスは、1人ずつ試技を行うことになった。

「使用する魔術は単一魔術シングル。既に発射許可はクラス全体に対して得ている。呼ばれた順にブースにつき、使用魔術を申告した上で発射すること。危険と認めた場合、わたしか係官の裁量にて試技を中断させる場合がある。緊急の場合、魔力相殺などの強制的手段を取る場合があることを警告しておく」

 生徒全員に講師は注意事項を言い聞かせた。試技は真剣に行ってもらわなければ困る。
 実際の危険はほとんどあり得ない。所詮「初級者」のシングルである。暴発しようと対策は容易かった。

「チャン」

 最初に呼ばれたのはチャンであった。入学したての頃は魔力の発動がやっとだったが、日々努力を重ねた結果火魔術を発現できるようになっていた。

「火球を撃ちます!」

 己を奮い立たせるように宣言すると、チャンは両手を合わせて目を閉じた。ステファノに教えられた瞑想により、魔核マジコアを練る。

(練習したんだな。魔核の動きがスムーズになった)

 ステファノは第3の眼でチャンを観ていた。

「燃え盛れ、火球!」

 チャンはかっと目を見開き、合わせていた手を解いて右拳を突き出した。中指にはめた指輪が魔術発動体であるらしい。

 拳の先に卵大の火球が生じ、標的に向かって飛んだ。人が走るほどの速さで飛んだ火球は、狙いあやまたず、標的の胸に当たった。

 ぼうっ。

 一瞬炎が大きく上がり、すぐに消えた。
 標的は火球の当たった周囲が薄っすらとすすにまみれているだけだった。

「チャン、下がりなさい。次、スチュアート!」

 次々と生徒が入れ替わり、試射にチャレンジするが、結果は五十歩百歩であった。魔術が的に当たらない者も多い。
 初級クラスであることを思えば、それで当たり前であった。

「次、デマジオ!」

 商家の息子だというデマジオが短杖ワンドを片手に歩み出た。

「火球を使います!」

 じろりと犬猿の仲のトーマを睨みつけて、デマジオは短杖を振りかぶった。

「我、デマジオの名において求めん。火球よ、燃えて燃え上がれ。火球よ、矢のごとく飛び敵を撃て。火球よ、敵を包んで焼き尽くせ!」

 デマジオは長々と呪文を詠唱し、短杖を標的に向けて突き出した。

(長すぎる詠唱だが、今回は逃走も反撃もしない敵だ。時間の長さは減点の対象にはならない)

 ステファノはデマジオが意外にも冷静で、知恵を使っていると感心した。長い詠唱で魔力を練り上げて威力が増すのであれば、時間をかける価値があるのだ。

(実戦では詠唱している間に撃たれてしまうけどね)

 リンゴほどの火球が糸を引くように飛び出し、標的の腹に命中した。

(デマジオも随分上達している。以前とは大違いだ)

 デマジオは手のひら大の焦げ跡を標的に残して引き下がった。

「次、トーマ!」

「よし! 行くぞ!」

 にっこり笑って肩を回しながら、トーマがブースに進み出た。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第422話 蜂蜜、白桃、サトウキビ! とろけて甘き『天降甘露』!」

 ブースにつくや否やトーマはポケットから小さな包みを取り出した。リボンのように捻ってある両端を解き、中に包まれたものを口に入れる。

 それは黒糖と蜂蜜を煮詰めた飴玉だった。

(それがお前の工夫か、トーマ)

 ステファノは口中で飴を転がすトーマをじっと見ていた。

(俺に才能なんかない。頼れるのはギフトただ1つだ。ギフトを活かすにはどうすれば良いか?)

 トーマなりに考え抜いた結果が、この飴玉であった。

 ……

◆お楽しみに。
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