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第4章 魔術学園奮闘編
第401話 あれが分身だと? そんなわけねェベ!
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ヨシズミは全身から汗を滴らせていた。
(あれは何もんダ?)
七頭の蛇神ナーガ。その「形」を取ったアバターのはずだった。
化身とはすなわちステファノの分身であり、あくまでも形を備えた「イメージ」である。
(それにしては……生々しすぎッペ)
細長い舌でなめられた時、生臭い息をヨシズミは感じた。全身を貫く戦慄の中、彼は確信した。
もし信を得られなければ、その瞬間に頭から食われると。
(あれが分身だと? そんなわけねェベ!)
あれは違う。単なる術のイメージでも、ギフトの具現化でもない。
この世界の住人ではない、別の何か――。
戦場で無敵と言われた男が、闇におびえる幼児のように震えていた。
(ステファノ! おめェ、どっからアレを引っ張ってきた?)
虹の王が分身でないとしたら何だ? とても使役できるような存在には思えなかった。
(むしろ、ステファノに憑りついているンでねェベか?)
ナーガはステファノに服従しているように見える。その協同関係は一体どこから来ているのか?
もし、その協調が崩れたら。
(ステファノ、おめェ……)
ヨシズミにはステファノが今にも崩れ落ちそうながれきの上に立っているように思えた。
◆◆◆
瞑想していたステファノは虹の王が身じろぎする動きを感じた。
(接続希望者、名はヨシズミ。許すや否や?)
(うん? ヨシズミ師匠? 魔道具ネットにつながろうとしている?)
(許すや否や?)
一瞬状況がわからず戸惑ったステファノであったが、すぐ我に返り、ナーガに返事をした。
(ヨシズミの接続を許す)
(了)
その後、一瞬の間を開けて魔道具ネットにヨシズミの気配が加わった。
(きっと師匠は瞑想して、魔道具ネットを感知しようと意識を向けたんだな。他人の接続が可能とは思っていなかったよ。虹の王がそれを管理するとも思わなかった)
ヨシズミの魔道具ネット接続によって、複数人が同時にネット接続できることが確認された。
もし双方が魔示板を使っていれば、両者間で通信を交わすことができるかもしれない。それこそステファノが情報伝達の新手段として模索していたものであった。
(これは魔示板の再現にも取り組まなくちゃ)
次々と課題が出現するステファノの冬休みであった。
◆◆◆
「荷物を置くのはここでいいか?」
木箱を抱えたジョナサンが開け放たれた戸口から言った。
「すみません。入り口の横で結構です。わざわざ運んでもらってありがとうございました」
「重いもんじゃねえしな。どうってことはないぜ。それじゃあな」
頭を下げてジョナサンを見送ったステファノは、部屋に運び込まれた木箱の中身を見下ろした。
送風魔具の原型はアカデミーで見たものをできるかぎり正確に再現していた。レンズのない虫眼鏡のような形状は収束した風を送り出すのに適した形状である。
着火魔具と同じように、取っ手の根元に回せるつまみがついている。大きくひねればそれに応じて風が強くなる仕掛けであった。
魔冷蔵庫に使う「調整ダイアル」は舵輪を小さくしたような形状に、壁に取りつけるための台座が付いていた。
魔掃除具は小さなほうきとちり取りのペアだった。ほうきを掃除したい面に向けてつまみを回すと、風が塵を集めて1つにまとめる術式を籠めてあった。
丸薬のように固まったゴミは部屋の中央に転がるので、ほうきとちり取りで集めるのだ。
術式は床面だけでなく、壁や天井に向けても働く。普段掃除が行き届かない天井の埃や蜘蛛の巣も簡単に取り除くことができる。
魔動車に使う舵輪と速度調整桿も木箱の中に入っていた。これらを使い古した荷馬車に取りつければ、魔動車の試作品が誕生する。
最後に木箱そのものも魔道具の原型である。魔洗具のベースとなるものであった。
木箱の内側には金網が張ってあり、その下の空洞部分は引き出しになっていた。ふたを開けて洗濯物を入れ、ふたを閉めてつまみを回すと、中の衣類に魔洗浄の魔法が働く。
落とした汚れは金網を通して底の引き出しに落ちる。引き出しを取り出してゴミを捨てれば洗濯完了だ。
魔洗具の長所は水やせっけんを必要とせず、衣類に負担をかけないところである。一瞬できれいになる点も圧倒的なメリットであった。
ステファノはその日1日、原型への魔法付与と出力調整を繰り返した。それぞれ納得の行く性能となったところで術式を固定し、インデックスを記憶に刻んだ。
(今日の夕食では、魔道具のお披露目をしよう。誰にでも使える魔法を籠めたから、「魔法具」と呼ぶべきかな)
今のところヨシズミとステファノ以外は魔力を制御できない。魔法具の有効性を実感してもらうなら今のタイミングが良いだろう。
(昨日は話しそびれたけれど、イドン観測の方法論について師匠たちの意見も聞きたいな)
アバターの開放と魔法具ネットの成立。この2つによってステファノは邸内の物体や人物のイドを「立体的に」観測できるようになった。
この視点があれば、対象イドの内面、すなわちイドンの裏側を観測することが可能になるのではないか。ステファノはその期待を抱いていた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第402話 それが進歩というものであり、我々が望む文明の姿でもある。」
「魔道具の試作品を見せたいそうだな」
「はい。どれも魔力のない人が使えるようにしました」
ネルソンの許しを得て、夕食後の食卓にステファノは魔法具の試作品を持ちこんだ。
「これからは自分の作る道具を『魔法具』と呼ぶことにしました」
ステファノはテーブルに道具を並べながら言った。
……
◆お楽しみに。
(あれは何もんダ?)
七頭の蛇神ナーガ。その「形」を取ったアバターのはずだった。
化身とはすなわちステファノの分身であり、あくまでも形を備えた「イメージ」である。
(それにしては……生々しすぎッペ)
細長い舌でなめられた時、生臭い息をヨシズミは感じた。全身を貫く戦慄の中、彼は確信した。
もし信を得られなければ、その瞬間に頭から食われると。
(あれが分身だと? そんなわけねェベ!)
あれは違う。単なる術のイメージでも、ギフトの具現化でもない。
この世界の住人ではない、別の何か――。
戦場で無敵と言われた男が、闇におびえる幼児のように震えていた。
(ステファノ! おめェ、どっからアレを引っ張ってきた?)
虹の王が分身でないとしたら何だ? とても使役できるような存在には思えなかった。
(むしろ、ステファノに憑りついているンでねェベか?)
ナーガはステファノに服従しているように見える。その協同関係は一体どこから来ているのか?
もし、その協調が崩れたら。
(ステファノ、おめェ……)
ヨシズミにはステファノが今にも崩れ落ちそうながれきの上に立っているように思えた。
◆◆◆
瞑想していたステファノは虹の王が身じろぎする動きを感じた。
(接続希望者、名はヨシズミ。許すや否や?)
(うん? ヨシズミ師匠? 魔道具ネットにつながろうとしている?)
(許すや否や?)
一瞬状況がわからず戸惑ったステファノであったが、すぐ我に返り、ナーガに返事をした。
(ヨシズミの接続を許す)
(了)
その後、一瞬の間を開けて魔道具ネットにヨシズミの気配が加わった。
(きっと師匠は瞑想して、魔道具ネットを感知しようと意識を向けたんだな。他人の接続が可能とは思っていなかったよ。虹の王がそれを管理するとも思わなかった)
ヨシズミの魔道具ネット接続によって、複数人が同時にネット接続できることが確認された。
もし双方が魔示板を使っていれば、両者間で通信を交わすことができるかもしれない。それこそステファノが情報伝達の新手段として模索していたものであった。
(これは魔示板の再現にも取り組まなくちゃ)
次々と課題が出現するステファノの冬休みであった。
◆◆◆
「荷物を置くのはここでいいか?」
木箱を抱えたジョナサンが開け放たれた戸口から言った。
「すみません。入り口の横で結構です。わざわざ運んでもらってありがとうございました」
「重いもんじゃねえしな。どうってことはないぜ。それじゃあな」
頭を下げてジョナサンを見送ったステファノは、部屋に運び込まれた木箱の中身を見下ろした。
送風魔具の原型はアカデミーで見たものをできるかぎり正確に再現していた。レンズのない虫眼鏡のような形状は収束した風を送り出すのに適した形状である。
着火魔具と同じように、取っ手の根元に回せるつまみがついている。大きくひねればそれに応じて風が強くなる仕掛けであった。
魔冷蔵庫に使う「調整ダイアル」は舵輪を小さくしたような形状に、壁に取りつけるための台座が付いていた。
魔掃除具は小さなほうきとちり取りのペアだった。ほうきを掃除したい面に向けてつまみを回すと、風が塵を集めて1つにまとめる術式を籠めてあった。
丸薬のように固まったゴミは部屋の中央に転がるので、ほうきとちり取りで集めるのだ。
術式は床面だけでなく、壁や天井に向けても働く。普段掃除が行き届かない天井の埃や蜘蛛の巣も簡単に取り除くことができる。
魔動車に使う舵輪と速度調整桿も木箱の中に入っていた。これらを使い古した荷馬車に取りつければ、魔動車の試作品が誕生する。
最後に木箱そのものも魔道具の原型である。魔洗具のベースとなるものであった。
木箱の内側には金網が張ってあり、その下の空洞部分は引き出しになっていた。ふたを開けて洗濯物を入れ、ふたを閉めてつまみを回すと、中の衣類に魔洗浄の魔法が働く。
落とした汚れは金網を通して底の引き出しに落ちる。引き出しを取り出してゴミを捨てれば洗濯完了だ。
魔洗具の長所は水やせっけんを必要とせず、衣類に負担をかけないところである。一瞬できれいになる点も圧倒的なメリットであった。
ステファノはその日1日、原型への魔法付与と出力調整を繰り返した。それぞれ納得の行く性能となったところで術式を固定し、インデックスを記憶に刻んだ。
(今日の夕食では、魔道具のお披露目をしよう。誰にでも使える魔法を籠めたから、「魔法具」と呼ぶべきかな)
今のところヨシズミとステファノ以外は魔力を制御できない。魔法具の有効性を実感してもらうなら今のタイミングが良いだろう。
(昨日は話しそびれたけれど、イドン観測の方法論について師匠たちの意見も聞きたいな)
アバターの開放と魔法具ネットの成立。この2つによってステファノは邸内の物体や人物のイドを「立体的に」観測できるようになった。
この視点があれば、対象イドの内面、すなわちイドンの裏側を観測することが可能になるのではないか。ステファノはその期待を抱いていた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第402話 それが進歩というものであり、我々が望む文明の姿でもある。」
「魔道具の試作品を見せたいそうだな」
「はい。どれも魔力のない人が使えるようにしました」
ネルソンの許しを得て、夕食後の食卓にステファノは魔法具の試作品を持ちこんだ。
「これからは自分の作る道具を『魔法具』と呼ぶことにしました」
ステファノはテーブルに道具を並べながら言った。
……
◆お楽しみに。
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