394 / 694
第4章 魔術学園奮闘編
第394話 ステファノ、それは間違いだ。
しおりを挟む
「しかし、魔術や魔道具というものはそんなに簡単に作れるものなのでしょうか?」
「マルチェル、疑問はもっともだが今更だぞ。ステファノがこの4カ月で何をしてきたか、思い返してみたまえ」
マルチェルもまた常識の人であった。
何を聞いても驚かないのは、1人ドイルのみであった。
「着火、照明、送風、洗濯、掃除か。これだけでも随分生活が楽になるな。ステファノ、他にも魔道具のネタはあるかね?」
「えーと、これまで作ったもので言えば水瓶と竈でしょうか」
「それは水を作り出し、熱を生み出すということかね?」
学者の顔をしたドイルが、ステファノに尋ねた。
「正確に言うと、水は空気から集めるという感じですね」
「ふむ。ならば、物を温めたり、冷やしたりすることはお手の物というわけだね」
「それに、重さを軽減する背嚢を作りました」
「重力への干渉か。これもまた興味深い現象だ」
ステファノが生み出してきた魔道具の数々。ドイルの頭脳はそれらをカタログ化し、分類評価を開始した。
「整理してみよう。熱を操れるということは、部屋を暖めたり、冷やしたりできるということだ」
「そうですね。竈の術を応用すれば暖炉も魔道具にできるでしょう」
「うん。そうだろうとも。世の中にはないものだが、部屋を涼しくすることもできるな」
「……できますね。暖炉の反対ですか。空気を冷たくしながらかき混ぜたら、夏でも涼しくなりそうです」
ドイルの示唆を受けてステファノは「冷房魔具」の術式を想像してみた。それは「魔冷蔵庫」の応用でしかなく、簡単に実現可能に違いなかった。
「水が作れるなら、湯もできるな。風呂に湯を張ることもできるだろう」
「確かに。風呂かあ。それは考えなかったな」
湯を沸かすには水をくみ、燃料を焚く必要がある。庶民にはできない贅沢であった。ステファノが生活魔道具の対象として考えていなかったことも無理はない。
「さて、重力への干渉ができるなら運送用の魔道具が作れるね」
「それは考えました。背嚢よりも荷車の方が運送魔道具に向いているなと」
荷車ごと荷物の重量を軽減すれば、動かす力はよほど軽くなるに違いない。
「ステファノ、それは間違いだ」
「えっ?」
しかし、ドイルはステファノの考えを否定した。
「君が魔術で操るのは『重力』だろう? 物体の質量を変えるわけではない。『重量』が軽減されようとも、100キロの質量を持つ物体は100キロの質量のままだ」
最初に動き出す際、すなわち加速度が働く際には「100キロの荷物を動かす力」が必要になる。
動き出してしまえば、摩擦力大幅に軽減されるが。
「意味がないとは言わないが、荷車で大変なのは初めの動き出しだ。常時荷物を支え続ける荷担ぎ人にこそ重量軽減は意味がある」
「そうかあ。重さと質量は違うものなんですね」
ステファノは思わず顔をしかめた。
「なあに。がっかりする必要はないよ。動きにくいなら動かしてやれば良いのさ」
ドイルはにやりと笑みを浮かべた。
「『荷車を動かす魔術』ということですか?」
「そうだね。『馬のいない荷馬車』――それなら『自走車』か? そういう車を作れば良いのさ」
「そうか。土魔術を進む力に使うんですね?」
ドイルの示唆を受けて、ステファノは想像を膨らませた。
馬のいない荷馬車は頭の中で不格好に見えたが、馬がなくともすいすいと動いた。
「自動車だッペ」
唐突にヨシズミが声を発した。
「そういう名だったのかい?」
すぐにドイルが反応する。
「君の世界ではその名で呼ばれる機械が走り回っていたんだね?」
「ああ、そうダ。自動車は文明のあり方を一変させたッペ」
「馬のいらない荷馬車が走り回っていたら、それは世の中が豊かになるだろうね」
「自動車は物流革命を起こすッペ。財貨の偏在を解消すンダ」
ステファノたち情報革命研究会は情報伝達こそ文明の要と考えた。彼らは情報伝達の質、量、速度を変革しようと努力してきたが、おそらくそれだけでは文明を進歩させるには足りない。
財貨の移動を伴ってこそ、情報の移動が意味を持つ。
自動車はそれを可能とする発明品になるかもしれなかった。
「そんなにすごいものなんですか? 魔道具としては割と簡単にできそうですけど……」
その社会的価値とは裏腹に、ステファノから見た魔術的なチャレンジはそれほど大きくなかった。
「君にとってはそうかもしれない。科学と魔術には得手不得手の差があるからね」
「魔術だけに頼り切る文明はいびつな気がします。科学でできることは科学で実現するべきなのでしょうか?」
「難しく考える必要はないんじゃないか? 残念ながらこの世界において科学はまだまだ未発達だ。ひとまず魔道具で文明を発達させながら、科学の進歩を促せばよいだろう」
せっかちな性癖のドイルであったが、文明の進化のような大きなテーマに関しては巨視的な視野から見つめていた。科学とは個人の利益のために探求するものではない。
社会全体とその未来のために、個人が宇宙と対峙する。
ドイルにとっての科学者とは、そういう存在であった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第395話 荷物を運ぶだけなら空の上に上がるのは無駄な動きですね。」
「そうですね。そういう部分が俺には判断しかねます。先生たちの知恵で適切な行動をアドバイスしてください」
「任せたまえ。我々には科学者もいれば、戦略家もいる。こういうことを判断するには最適なメンバーだろう」
研究開発において少なからずマッドな性癖を持つドイルであったが、開発品のリリースについて無謀な考えを持っているわけではない。
むしろ世の中へのリリースには興味がない。そういうことは商売人なり為政者が良きに取り計らってくれれば良いという考えであった。
……
◆お楽しみに。
「マルチェル、疑問はもっともだが今更だぞ。ステファノがこの4カ月で何をしてきたか、思い返してみたまえ」
マルチェルもまた常識の人であった。
何を聞いても驚かないのは、1人ドイルのみであった。
「着火、照明、送風、洗濯、掃除か。これだけでも随分生活が楽になるな。ステファノ、他にも魔道具のネタはあるかね?」
「えーと、これまで作ったもので言えば水瓶と竈でしょうか」
「それは水を作り出し、熱を生み出すということかね?」
学者の顔をしたドイルが、ステファノに尋ねた。
「正確に言うと、水は空気から集めるという感じですね」
「ふむ。ならば、物を温めたり、冷やしたりすることはお手の物というわけだね」
「それに、重さを軽減する背嚢を作りました」
「重力への干渉か。これもまた興味深い現象だ」
ステファノが生み出してきた魔道具の数々。ドイルの頭脳はそれらをカタログ化し、分類評価を開始した。
「整理してみよう。熱を操れるということは、部屋を暖めたり、冷やしたりできるということだ」
「そうですね。竈の術を応用すれば暖炉も魔道具にできるでしょう」
「うん。そうだろうとも。世の中にはないものだが、部屋を涼しくすることもできるな」
「……できますね。暖炉の反対ですか。空気を冷たくしながらかき混ぜたら、夏でも涼しくなりそうです」
ドイルの示唆を受けてステファノは「冷房魔具」の術式を想像してみた。それは「魔冷蔵庫」の応用でしかなく、簡単に実現可能に違いなかった。
「水が作れるなら、湯もできるな。風呂に湯を張ることもできるだろう」
「確かに。風呂かあ。それは考えなかったな」
湯を沸かすには水をくみ、燃料を焚く必要がある。庶民にはできない贅沢であった。ステファノが生活魔道具の対象として考えていなかったことも無理はない。
「さて、重力への干渉ができるなら運送用の魔道具が作れるね」
「それは考えました。背嚢よりも荷車の方が運送魔道具に向いているなと」
荷車ごと荷物の重量を軽減すれば、動かす力はよほど軽くなるに違いない。
「ステファノ、それは間違いだ」
「えっ?」
しかし、ドイルはステファノの考えを否定した。
「君が魔術で操るのは『重力』だろう? 物体の質量を変えるわけではない。『重量』が軽減されようとも、100キロの質量を持つ物体は100キロの質量のままだ」
最初に動き出す際、すなわち加速度が働く際には「100キロの荷物を動かす力」が必要になる。
動き出してしまえば、摩擦力大幅に軽減されるが。
「意味がないとは言わないが、荷車で大変なのは初めの動き出しだ。常時荷物を支え続ける荷担ぎ人にこそ重量軽減は意味がある」
「そうかあ。重さと質量は違うものなんですね」
ステファノは思わず顔をしかめた。
「なあに。がっかりする必要はないよ。動きにくいなら動かしてやれば良いのさ」
ドイルはにやりと笑みを浮かべた。
「『荷車を動かす魔術』ということですか?」
「そうだね。『馬のいない荷馬車』――それなら『自走車』か? そういう車を作れば良いのさ」
「そうか。土魔術を進む力に使うんですね?」
ドイルの示唆を受けて、ステファノは想像を膨らませた。
馬のいない荷馬車は頭の中で不格好に見えたが、馬がなくともすいすいと動いた。
「自動車だッペ」
唐突にヨシズミが声を発した。
「そういう名だったのかい?」
すぐにドイルが反応する。
「君の世界ではその名で呼ばれる機械が走り回っていたんだね?」
「ああ、そうダ。自動車は文明のあり方を一変させたッペ」
「馬のいらない荷馬車が走り回っていたら、それは世の中が豊かになるだろうね」
「自動車は物流革命を起こすッペ。財貨の偏在を解消すンダ」
ステファノたち情報革命研究会は情報伝達こそ文明の要と考えた。彼らは情報伝達の質、量、速度を変革しようと努力してきたが、おそらくそれだけでは文明を進歩させるには足りない。
財貨の移動を伴ってこそ、情報の移動が意味を持つ。
自動車はそれを可能とする発明品になるかもしれなかった。
「そんなにすごいものなんですか? 魔道具としては割と簡単にできそうですけど……」
その社会的価値とは裏腹に、ステファノから見た魔術的なチャレンジはそれほど大きくなかった。
「君にとってはそうかもしれない。科学と魔術には得手不得手の差があるからね」
「魔術だけに頼り切る文明はいびつな気がします。科学でできることは科学で実現するべきなのでしょうか?」
「難しく考える必要はないんじゃないか? 残念ながらこの世界において科学はまだまだ未発達だ。ひとまず魔道具で文明を発達させながら、科学の進歩を促せばよいだろう」
せっかちな性癖のドイルであったが、文明の進化のような大きなテーマに関しては巨視的な視野から見つめていた。科学とは個人の利益のために探求するものではない。
社会全体とその未来のために、個人が宇宙と対峙する。
ドイルにとっての科学者とは、そういう存在であった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第395話 荷物を運ぶだけなら空の上に上がるのは無駄な動きですね。」
「そうですね。そういう部分が俺には判断しかねます。先生たちの知恵で適切な行動をアドバイスしてください」
「任せたまえ。我々には科学者もいれば、戦略家もいる。こういうことを判断するには最適なメンバーだろう」
研究開発において少なからずマッドな性癖を持つドイルであったが、開発品のリリースについて無謀な考えを持っているわけではない。
むしろ世の中へのリリースには興味がない。そういうことは商売人なり為政者が良きに取り計らってくれれば良いという考えであった。
……
◆お楽しみに。
1
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる