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第4章 魔術学園奮闘編
第370話 なければ自分で作るしかないよね?
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(さて、リミッターはできた。いよいよ魔視鏡の出番だ)
残念ながらこの世界に魔視鏡はない。少なくともステファノの手が届くところには存在しなかった。
(なければ自分で作るしかないよね?)
リミッターは自作の魔道具で再現できた。魔視脳の場所、魔術的な干渉方法は確立できている。
後は魔視脳が完全覚醒するだけの「適切な刺激」を与えれば良いだけだ。
太極玉を前頭葉に捧げるだけでは足りなかった。おそらく「密度」が不足している。
(もっとピンポイントに魔視脳を刺激しなくては)
レンズで太陽光を集めるように、太極玉のパワーを1点に集中させる。どうすればそれができるかをステファノは考えた。
(「火球違い」を飛ばした時は、威力のつもりで大きさを圧縮してしまった。ああいうことを意図的にやれば良いのか?)
しかし、「太極玉の大きさ」というものを想像することができなかった。そもそも物質として存在するものではないからである。
「大きさ」が存在しないものに、どうやって密度を設定したら良いのか。ステファノは悩んでいた。
(ちょっと発想を変えてみようか。「あっちの世界」には魔視鏡が実在する。だから魔視脳に集中的な刺激を与えることは可能だということだ。つまり、答えは存在する)
できないことをやろうとしているわけではない。答えは確実に存在するのだ。
(そもそも、魔視鏡が発明される前にも魔視脳を覚醒させる人たちがいた。「宇宙飛行士」だ)
ヨシズミは言った。宇宙に出た人の中でイドに対する知覚を獲得する人が出現したと。
そのきっかけとなる刺激を与えたのは「宇宙線」だと言った。
(宇宙線を再現すれば魔視脳に十分な刺激を与えられる。魔視鏡とはそういう機械であるはずだ)
宇宙線とは何か? 次の課題はその問いに答えることである。
ヨシズミはこうも言った。
「宇宙線は『紫の外』に含まれる」と。
目に見える範囲を超えた光。そこにはさまざまな種類が存在するが、人体にとって危険なものが含まれていた。
(「紫の外」は禁術だ。手を出すわけにはいかない。つまり「手詰まり」か……)
ステファノの思考はそこで行き止まりに突き当たった。
(糞っ! ここまでか。何か策はないのか?)
だが、引っかかる。答えはどこかにあるはずだと、ステファノの直感が告げている。
(答えがあるはずなんだ! 現実に俺は瞑想によってイドの知覚に目覚めた。ギフトを発現させたじゃないか!)
限定的にではあるが、ミョウシンやドリーもイドを知覚するに至っている。
それ以外だって――。
(そうだ! 「セイナッドの猿」がいたじゃないか。彼らは独自の修行で魔力を獲得した!)
彼らはどういう修業をしたのだったか? 五穀を断って瞑想にふけった。
山中を駆け巡り、滝に打たれた……。
(山岳宗教をベースとして高山に籠って修行したと伝わっている。その修行にヒントがある?)
修行の目的は魔視脳の覚醒である。その一点に効果がある修行内容を拾いだせれば、魔視鏡を再現する方法が見つかるかもしれない。
(太極玉に一定の効果があることはわかっている。「セイナッドの猿」たちも太極玉を利用していたのか? 宇宙線との共通点は……「紫」か?)
終焉の紫こそ太極玉を構成する「陰気」であった。「陰気」の中に多少なりとも宇宙線が含まれているとしたらどうだ? それが魔視脳を刺激するとしたら?
(そうか! 宇宙に少しでも近づくために、高山で修業したのか?)
高い山に登れば地表付近よりは宇宙線が多く到達するかもしれない。ステファノも山に登れば良いのか?
(待て待て。俺は何年も山籠もりするわけにはいかない。「高山に登ったような効果」を再現することが目標なのであって、「高山に登ること」がゴールではないぞ)
ステファノは一歩答えに近づけた気がした。進む方向は間違っていない。宇宙線を、陰気を濃くすれば魔視鏡を再現できるはずだ。
(どうすれば陰気を濃くできる? 陰気……宇宙線……紫の外……虹……。これは「光魔術」か?)
光であれば収束させる術があったではないか。ほんの少し前に道具に籠めたばかりではなかったか。
「光龍の息吹」
その術があった。
(きっとそうだ! 答えはここにある。後はどの程度の強さで陰気を当てたら良いか、程度を探るだけだ)
ドリーの術は標的に穴を開けることができる。あれでは強すぎる。
(籠める魔力の量と、それから「折り返す回数」で調整したら良い。初めは弱いところから開始して、徐々に強めて行こう)
合わせ鏡で反転させる回数を繰り返すほど、術の威力が増す。反転させる時間の長さをコントロールすることで術の強さを変えられるはずであった。
ステファノは紙や、水、自分の腕などを対象に実験を繰り返し、「安全な強さ」の陰気レーザーを開発することに成功した。
でき上がった術式を、「禁忌付与具」と同じように手作りの鉢巻に籠める。
今回は「人に向けたら使えない」というリミッターは、あえて組み込まない。自分に向けて使うことが目的である。
その代わり、別の安全策を今回は組み込んだ。「冷却機能」である。
陰気の照射を受ける魔視脳が過熱しないよう、同時に風魔術で冷却する。
ステファノは「高山修行」のポイントは宇宙線量の多さのほかに、空気の冷たさ、断食や滝行による体温低下にもあると考えたのだ。
でき上がった「太陰鏡」を手に取り、ステファノはためらいもなく頭に巻いた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第371話 第三の眼は開き、宇宙は俺の前にその姿を現す。」
満天に星が光っていた。空にはこれほどの星があったのか。
俺は初めて見る夜空をひたすら眺めていた。
足元は暗く、月の光だけでは自分の手さえ定かに見えない。
それよりも俺は上空の星たちに魅入られていた。
星は真上だけで光っているわけではなかった。見上げていた顔を降ろしても星が見える。
どういうわけか見下ろす位置にさえ星が瞬いている。
俺は余程高い山の頂にいるらしい。
天空を滑り落ちるように、つうっと星が尾を引いて流れた。
……
◆お楽しみに。
残念ながらこの世界に魔視鏡はない。少なくともステファノの手が届くところには存在しなかった。
(なければ自分で作るしかないよね?)
リミッターは自作の魔道具で再現できた。魔視脳の場所、魔術的な干渉方法は確立できている。
後は魔視脳が完全覚醒するだけの「適切な刺激」を与えれば良いだけだ。
太極玉を前頭葉に捧げるだけでは足りなかった。おそらく「密度」が不足している。
(もっとピンポイントに魔視脳を刺激しなくては)
レンズで太陽光を集めるように、太極玉のパワーを1点に集中させる。どうすればそれができるかをステファノは考えた。
(「火球違い」を飛ばした時は、威力のつもりで大きさを圧縮してしまった。ああいうことを意図的にやれば良いのか?)
しかし、「太極玉の大きさ」というものを想像することができなかった。そもそも物質として存在するものではないからである。
「大きさ」が存在しないものに、どうやって密度を設定したら良いのか。ステファノは悩んでいた。
(ちょっと発想を変えてみようか。「あっちの世界」には魔視鏡が実在する。だから魔視脳に集中的な刺激を与えることは可能だということだ。つまり、答えは存在する)
できないことをやろうとしているわけではない。答えは確実に存在するのだ。
(そもそも、魔視鏡が発明される前にも魔視脳を覚醒させる人たちがいた。「宇宙飛行士」だ)
ヨシズミは言った。宇宙に出た人の中でイドに対する知覚を獲得する人が出現したと。
そのきっかけとなる刺激を与えたのは「宇宙線」だと言った。
(宇宙線を再現すれば魔視脳に十分な刺激を与えられる。魔視鏡とはそういう機械であるはずだ)
宇宙線とは何か? 次の課題はその問いに答えることである。
ヨシズミはこうも言った。
「宇宙線は『紫の外』に含まれる」と。
目に見える範囲を超えた光。そこにはさまざまな種類が存在するが、人体にとって危険なものが含まれていた。
(「紫の外」は禁術だ。手を出すわけにはいかない。つまり「手詰まり」か……)
ステファノの思考はそこで行き止まりに突き当たった。
(糞っ! ここまでか。何か策はないのか?)
だが、引っかかる。答えはどこかにあるはずだと、ステファノの直感が告げている。
(答えがあるはずなんだ! 現実に俺は瞑想によってイドの知覚に目覚めた。ギフトを発現させたじゃないか!)
限定的にではあるが、ミョウシンやドリーもイドを知覚するに至っている。
それ以外だって――。
(そうだ! 「セイナッドの猿」がいたじゃないか。彼らは独自の修行で魔力を獲得した!)
彼らはどういう修業をしたのだったか? 五穀を断って瞑想にふけった。
山中を駆け巡り、滝に打たれた……。
(山岳宗教をベースとして高山に籠って修行したと伝わっている。その修行にヒントがある?)
修行の目的は魔視脳の覚醒である。その一点に効果がある修行内容を拾いだせれば、魔視鏡を再現する方法が見つかるかもしれない。
(太極玉に一定の効果があることはわかっている。「セイナッドの猿」たちも太極玉を利用していたのか? 宇宙線との共通点は……「紫」か?)
終焉の紫こそ太極玉を構成する「陰気」であった。「陰気」の中に多少なりとも宇宙線が含まれているとしたらどうだ? それが魔視脳を刺激するとしたら?
(そうか! 宇宙に少しでも近づくために、高山で修業したのか?)
高い山に登れば地表付近よりは宇宙線が多く到達するかもしれない。ステファノも山に登れば良いのか?
(待て待て。俺は何年も山籠もりするわけにはいかない。「高山に登ったような効果」を再現することが目標なのであって、「高山に登ること」がゴールではないぞ)
ステファノは一歩答えに近づけた気がした。進む方向は間違っていない。宇宙線を、陰気を濃くすれば魔視鏡を再現できるはずだ。
(どうすれば陰気を濃くできる? 陰気……宇宙線……紫の外……虹……。これは「光魔術」か?)
光であれば収束させる術があったではないか。ほんの少し前に道具に籠めたばかりではなかったか。
「光龍の息吹」
その術があった。
(きっとそうだ! 答えはここにある。後はどの程度の強さで陰気を当てたら良いか、程度を探るだけだ)
ドリーの術は標的に穴を開けることができる。あれでは強すぎる。
(籠める魔力の量と、それから「折り返す回数」で調整したら良い。初めは弱いところから開始して、徐々に強めて行こう)
合わせ鏡で反転させる回数を繰り返すほど、術の威力が増す。反転させる時間の長さをコントロールすることで術の強さを変えられるはずであった。
ステファノは紙や、水、自分の腕などを対象に実験を繰り返し、「安全な強さ」の陰気レーザーを開発することに成功した。
でき上がった術式を、「禁忌付与具」と同じように手作りの鉢巻に籠める。
今回は「人に向けたら使えない」というリミッターは、あえて組み込まない。自分に向けて使うことが目的である。
その代わり、別の安全策を今回は組み込んだ。「冷却機能」である。
陰気の照射を受ける魔視脳が過熱しないよう、同時に風魔術で冷却する。
ステファノは「高山修行」のポイントは宇宙線量の多さのほかに、空気の冷たさ、断食や滝行による体温低下にもあると考えたのだ。
でき上がった「太陰鏡」を手に取り、ステファノはためらいもなく頭に巻いた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第371話 第三の眼は開き、宇宙は俺の前にその姿を現す。」
満天に星が光っていた。空にはこれほどの星があったのか。
俺は初めて見る夜空をひたすら眺めていた。
足元は暗く、月の光だけでは自分の手さえ定かに見えない。
それよりも俺は上空の星たちに魅入られていた。
星は真上だけで光っているわけではなかった。見上げていた顔を降ろしても星が見える。
どういうわけか見下ろす位置にさえ星が瞬いている。
俺は余程高い山の頂にいるらしい。
天空を滑り落ちるように、つうっと星が尾を引いて流れた。
……
◆お楽しみに。
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