上 下
368 / 655
第4章 魔術学園奮闘編

第368話 好き好んでそう思ってるわけじゃねェよ?

しおりを挟む
「3つめの可能性は、ぐっと確率が下がる。宇宙からの知性体がこの世界に住みついているという考えだ」
「宇宙を移動できる知性体が、こんな世界に留まる意味がわからんね」
「そうだッペナ。ありそうもないが、一応可能なシナリオではある」

 ヨシズミは話を続けた。

「4つめは、『神そのもの』または『神に準ずる』超自然知性体である可能性だ」
「自然を超越しているという定義自体が、僕の理論体系と反発するね。それが存在するなら『自然』の一部であると僕は考える主義だ」
「好き好んでそう思ってるわけじゃねェよ? 可能性の話だ。長寿命と超常能力の説明がつきやすいんでね」

 そう言ってヨシズミは息を継いだ。

「5つめ。異次元の存在である可能性だ。この場合は『時間軸』を共有しない。ここでの600年がそいつにとっては6年に当たるような場合のことを言っている」
「本能的に気に入らないな。ガラス箱に入れた蟻の巣を観察している奴みたいなものか?」
「そのイメージで良い。そいつにとってすべては顕微鏡の中の出来事というわけだ。この世界は実験か、ゲームであるという可能性だ」

 ネルソンがピクリと反応した。

「世界を丸ごと1つ作り上げ、殺し合いをさせておいて『遊戯ゲーム』かね?」
「オレのいた場所では『仮想現実』が『現実』と見分けがつかないところまで進化していた。世界を作ることも不可能ではないだろう」

 ヨシズミの語る「元の世界」が異質すぎで、さしものドイルでもついて行くのがやっとだった。

「君の世界は余程に余裕があったと見える。現実だけで飽き足らず、わざわざ仮想の世界を作り出すとは」
「そうだナ。ゲームを職業にしている人間がいたくらいだからナ」
「いや、それでは遊戯にならないだろう? おかしなことをするものだ」
「この世界にいンのか知らねェけど……『剣闘士』みたいなもんだッペ」
 
 要するに戦うことを生業なりわいにしている人間だと、ヨシズミは説明した。

「オレが思いつく可能性はざっくり言うとそんなところだッペ」
「どれも突拍子もない仮説ではあるが、その中では2番目の人工知性というケースが一番無難であろうか?」
「今まで『科学的なアーティファクト』というものは見つかったことがない。人工知性があるとすれば魔術的に作られたものだろうな」

 ネルソンの評価にドイルが意見を加えた。それを聞いてステファノの胸に疑問がわいてきた。

「『聖しゃく』とか『神器じんぎ』というのは、魔術的なアーティファクトなんでしょうか?」
「古臭い物を持ち出したね。ネルソンと僕は聖笏を見たことがあるが、ギフトを授けられるまさにその時に見ただけだからねえ。魔術的な面は評価できなかったよ」
「ああ。外見しかわからなかった。黒い、太めの短杖ワンドのようで、先端が銀色に光っていたな。覚えているのはそれだけだ」

 法王の前に跪き、目をつぶらされたことは覚えている。後は急に明るい光を感じたことくらいしか覚えていないと、ドイルとネルソンは口をそろえた。

「見た目の様子では魔視鏡とは違うみてェだナ」
「そもそも魔視鏡というのはどんな形の物かね?」
「すっぽり頭にかぶる帽子みてぇなもんだッペ」
「そりゃあ全然違うな。少なくとも外観はまったくの別物だ」

 神器に関しては王国草創期に聖教会から王室が取り上げ、秘匿してしまった。どのような外見なのかさえ伝わっていない。

「叙爵式に使われているんじゃないんですか?」

 図書館で調査した記憶からステファノが質問した。

「王国の草創期には使われていたそうだ。今は新しい世襲貴族を任じていないのだ。戦功を挙げてもせいぜい一代限りの名誉男爵に任じられる程度だな」
「それでは神器は使われていないんですね」
「文字通り秘蔵されているということになるな」

 ステファノは神器に関する自分の仮説を披露した。

「見かけによらず大胆な仮説を立てたものだ。血統因子を操作する魔道具とはね」

 ドイルが楽しそうにコメントする。

「オレの元いた世界ではそういうのを『遺伝子操作』と呼んでいたッペ」
「名前があるということは、それをやっていた・・・・・ということだな?」

 ヨシズミの注釈を聞くと、ドイルは敏感に反応した。

「これまた神を恐れぬ所業じゃないかね? 科学とはそうでなければいけない」
「先生……」

 ステファノが想像する以上に、ドイルは黒い闇を心に飼っているようだった。

「ステファノよ、『遺伝子操作』は危険だ。決して真似しようなどと思うなよ?」

 珍しくヨシズミが真顔で忠告した。

「そもそも生まれて来る子や孫に特定の性質を与えようという行為だからな。既に存在する人間が変わるわけではない」
「それは……人間に使うわけにはいきませんね」

 生まれてくる子供たちを危険な目に会わせるわけにはいかない。

「病気はどうでしょう? 流行り病の病魔退散祈願に神器を使った形跡がありますが」
「なるほど。伝染病を引き起こす細菌やウイルスと呼ばれる微生物は短い期間に世代交代して、感染を広げていく。その遺伝情報を書き換えれば、無害化させたり死滅させることが可能だ」
「何と。病気そのものを変化させるだと? 医学とは途方もないレベルまで進化するのだな」

 ヨシズミの言葉はネルソンにも衝撃を与えた。その道は目に見えぬ彼方まで果てしなく続いていた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第369話 まだまだ人は神になれぬということだな。」

「わかっていると思うが、病気に対して遺伝子操作を試みることも危険だ。一歩間違えば人類を絶滅させる病気を作り出してしまう可能性がある」
「はい。何も知らない俺が手を出して良いことではありませんね」
「おめェだけでねェ。この世界の誰であってもダ」

 少なくとも600年の研究を重ねるまでは、遺伝子操作は禁忌とするべきだとヨシズミは言った。

「それが理由かもしれませんな」
「何だね、マルチェル?」
「王家が神器を秘匿した理由です。正しい知識を持たないものが遺伝子操作に手を出さぬよう、封印したのかもしれません」

 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

神々に天界に召喚され下界に追放された戦場カメラマンは神々に戦いを挑む。

黒ハット
ファンタジー
戦場カメラマンの北村大和は,異世界の神々の戦の戦力として神々の召喚魔法で特殊部隊の召喚に巻き込まれてしまい、天界に召喚されるが神力が弱い無能者の烙印を押され、役に立たないという理由で異世界の人間界に追放されて冒険者になる。剣と魔法の力をつけて人間を玩具のように扱う神々に戦いを挑むが果たして彼は神々に勝てるのだろうか

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~

あめり
ファンタジー
ある日、相沢智司(アイザワサトシ)は自らに秘められていた力を開放し、魔神として異世界へ転生を果たすことになった。強大な力で大抵の願望は成就させることが可能だ。 彼が望んだものは……順風満帆な学園生活を送りたいというもの。15歳であり、これから高校に入る予定であった彼にとっては至極自然な願望だった。平凡過ぎるが。 だが、彼の考えとは裏腹に異世界の各組織は魔神討伐としての牙を剥き出しにしていた。身にかかる火の粉は、自分自身で払わなければならない。智司の望む、楽しい学園生活を脅かす存在はどんな者であろうと容赦はしない! 強大過ぎる力の使い方をある意味で間違えている転生魔神、相沢智司。その能力に魅了された女性陣や仲間たちとの交流を大切にし、また、住処を襲う輩は排除しつつ、人間世界へ繰り出します! ※番外編の「地球帰還の魔神~地球へと帰った智司くんはそこでも自由に楽しみます~」というのも書いています。よろしければそちらもお楽しみください。本編60話くらいまでのネタバレがあるかも。

処理中です...