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第4章 魔術学園奮闘編
第366話 どこまでも果てしなく映り込む合わせ鏡の像のようだ……。
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休養の2日め、ステファノは護身具の製作に着手した。
ネルソンが手配した装身具の類はまだ届いていない。とりあえず持参した手持ちの「鉄粉」に防御魔術「蛇の巣」を付与することにした。
「蛇の巣」の術式は記憶に新しいが、当初の術には「魔核混入」に対する防御が含まれていない。今回は魔核の侵入を検知したら、これを捕獲して排出する仕組みを追加する。
言わば「蛇の巣(改)」であった。
ステファノは術理に誤りがないことを確認しつつ、原型となる術式を構築した。完成した術式をインデックスに刻む。
護身具を作るならインデックスを呼び出し、術式を対象物のイドに書き込めばよい。
だが、今回ステファノは「護身具を作る魔術具」を製作しようとしていた。
「護身具メーカー」。
そう名づけて術式を設計しようと考えていた。しかし、どうもしっくりこない。
(護身具を作る護身具メーカーを作るなら、護身具メーカーを作る魔術具があっても良いよな)
そうすると籠める術式を新しくするたびに、メーカーとメーカー・メーカーを作る必要がある。
(何だか無駄な気がする。とにかく術式を持って来て、対象物に落とし込めば良いんだよね……)
「持って来て、落とし込む」
(うん? どこかで聞いた、いや、目にした気がする。図書館で……。魔示板の調査をした時か)
「引いて落とす」
魔示板のヘルプにはそう書いてあった。どうやら「元の内容」を別の場所に複写する操作のことを言っているらしいと見当をつけたのだが、こういう作業のことを言っているのか?
(そうか。「術式を複写する」という術式を作れば良いんだ! 元となる術式があれば何度でも複写ができる。しかも「複写」の術式自体も複写することができるじゃないか!)
「自分自身を再生産する魔道具」という概念に、ステファノはめまいを覚えた。
(どこまでも果てしなく映り込む合わせ鏡の像のようだ……)
湧き上がってくる興奮を抑えて、ステファノは術式の書き込みを始めた。
(先ずは「蛇の巣(改)」だ)
息が漏れないように手拭いで鼻と口をふさぎ、ステファノは鉄粉を1粒、ピンセットで摘まみ上げた。それを机の上の小皿に乗せる。その小皿を包むように両手をかざした。
「いろはにほへと、ちりぬるを~」
あえて声に出して成句を唱える。
小皿の上に魔核を抱き込んだ魔法円が浮かんだ。
「ステファノの名において虹の王に命ず。術式『蛇の巣(改)』をここに籠めよ」
一瞬魔核が青白く光り輝き、すぐに明るさを失った。代わりに皿の上の鉄粉がきらりと光る。
(できた。鉄粉から魔力を感じるぞ)
ステファノは小皿の上から拳を振り下ろした。拳は見えない力に遮られて、軌道を変えて小皿の脇に落ちる。
ごとん。
「つー……。いたたた。よし! 付与は成功したぞ」
ステファノははやる気持ちを抑えて、もう1つ小皿を並べて新しい鉄粉を2粒置いた。
(いろはにほへと、ちりぬるを~)
今度は念誦により魔法円を呼び出した。
(ステファノの名において虹の王に求める。ここに刻め、「術式複写」)
魔法円はぴかりと光ってステファノの思念に応えた。
(これで良いはずだ。さて、このままじゃ使いにくいから何かの道具に納めないと……)
机の上を眺めまわして、ステファノは1本の羽ペンを取り上げた。
(「書き込む」道具だし、これが良いだろう)
千枚通しで軸の部分に穴を開け、慎重に取り上げた鉄粉1粒をピンセットで納める。その上から蝋を溶かして封入した。
(さて、複写の魔術具ができた。ちゃんと同じものを複製できるかテストしないとね)
ステファノは「蛇の巣(改)」を書き込んだ鉄粉の横に、新しい鉄粉を2粒置いた。
「術式複写! これからこれへ」
言葉を発しながら羽ペンで複写元と複写先の鉄粉を撫でるようにする。すると小皿の上で魔法円が光り、新しく置いた鉄粉2粒がきらりと輝いた。
先ほどと同様に殴りつけて試すと、見事攻撃はそらされた。
(よし! 複写の性能に間違いない。同時に複数の複写先にも書き込めるぞ)
魔術具製作成功の喜びに浸りながら、ステファノは100粒の鉄粉に「蛇の巣(改)」の術式を複写した。
直接装身具に書き込むこともできるのだが、さすがに100個となるとかさばるので取り扱いが面倒になる。
術式を書き込んだ鉄粉をネルソンに渡し、信頼できる細工物師を使って装身具に埋め込んでもらうことにしたのだ。
◆◆◆
「昨日の話と違うんじゃないか?」
「術式複写」魔術具の説明を聞いたドイルは、そう言って顔をひきつらせた。
「これは……表に出せないだろう?」
「そうだな。あまりにも危険すぎる」
ドイルの不安そうな声にネルソンも同調した。
「危険とはどういうことでしょう?」
影響力の大きいものを作り出してしまったと自覚はしていたが、ステファノには「危険」という言葉の意味がわからなかった。
「これを使えば、どんな魔道具でも複製できるのだろう?」
「あ!」
「たとえ、国宝級のアーティファクトでもな」
アーティファクトの中には上級魔術クラスの殺傷力を有する武器もある。そんなものを大量に複製できるとなったら軍事バランスが崩壊してしまう。
「ステファノがいなくても使えるというところが最悪だ。魔術具を奪った上でステファノを殺してしまえということになるだろうなあ」
「ああ!」
ドイルの追い打ちにステファノは殴られたような衝撃を受けた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第367話 ステファノ、アカデミーに信頼できる大人はいるか?」
「すぐに気づいて良かった。『術式複写』はこの場限りのこととして封印しよう」
ネルソンはそう言い渡した。ステファノに異論はなかった。
「俺の考えが浅くて、申し訳ありませんでした」
「謝る必要はない。どこかに出す前に止められたからな。実害はない」
「その通りだ、ステファノ。発明にのめり込んだら周りが見えなくなるのはよくあることさ。そのために第三者のチェックが必要なんだ」
こういったことは経験済みなのであろう。ドイルが言い聞かせるように語った。
……
◆お楽しみに。
ネルソンが手配した装身具の類はまだ届いていない。とりあえず持参した手持ちの「鉄粉」に防御魔術「蛇の巣」を付与することにした。
「蛇の巣」の術式は記憶に新しいが、当初の術には「魔核混入」に対する防御が含まれていない。今回は魔核の侵入を検知したら、これを捕獲して排出する仕組みを追加する。
言わば「蛇の巣(改)」であった。
ステファノは術理に誤りがないことを確認しつつ、原型となる術式を構築した。完成した術式をインデックスに刻む。
護身具を作るならインデックスを呼び出し、術式を対象物のイドに書き込めばよい。
だが、今回ステファノは「護身具を作る魔術具」を製作しようとしていた。
「護身具メーカー」。
そう名づけて術式を設計しようと考えていた。しかし、どうもしっくりこない。
(護身具を作る護身具メーカーを作るなら、護身具メーカーを作る魔術具があっても良いよな)
そうすると籠める術式を新しくするたびに、メーカーとメーカー・メーカーを作る必要がある。
(何だか無駄な気がする。とにかく術式を持って来て、対象物に落とし込めば良いんだよね……)
「持って来て、落とし込む」
(うん? どこかで聞いた、いや、目にした気がする。図書館で……。魔示板の調査をした時か)
「引いて落とす」
魔示板のヘルプにはそう書いてあった。どうやら「元の内容」を別の場所に複写する操作のことを言っているらしいと見当をつけたのだが、こういう作業のことを言っているのか?
(そうか。「術式を複写する」という術式を作れば良いんだ! 元となる術式があれば何度でも複写ができる。しかも「複写」の術式自体も複写することができるじゃないか!)
「自分自身を再生産する魔道具」という概念に、ステファノはめまいを覚えた。
(どこまでも果てしなく映り込む合わせ鏡の像のようだ……)
湧き上がってくる興奮を抑えて、ステファノは術式の書き込みを始めた。
(先ずは「蛇の巣(改)」だ)
息が漏れないように手拭いで鼻と口をふさぎ、ステファノは鉄粉を1粒、ピンセットで摘まみ上げた。それを机の上の小皿に乗せる。その小皿を包むように両手をかざした。
「いろはにほへと、ちりぬるを~」
あえて声に出して成句を唱える。
小皿の上に魔核を抱き込んだ魔法円が浮かんだ。
「ステファノの名において虹の王に命ず。術式『蛇の巣(改)』をここに籠めよ」
一瞬魔核が青白く光り輝き、すぐに明るさを失った。代わりに皿の上の鉄粉がきらりと光る。
(できた。鉄粉から魔力を感じるぞ)
ステファノは小皿の上から拳を振り下ろした。拳は見えない力に遮られて、軌道を変えて小皿の脇に落ちる。
ごとん。
「つー……。いたたた。よし! 付与は成功したぞ」
ステファノははやる気持ちを抑えて、もう1つ小皿を並べて新しい鉄粉を2粒置いた。
(いろはにほへと、ちりぬるを~)
今度は念誦により魔法円を呼び出した。
(ステファノの名において虹の王に求める。ここに刻め、「術式複写」)
魔法円はぴかりと光ってステファノの思念に応えた。
(これで良いはずだ。さて、このままじゃ使いにくいから何かの道具に納めないと……)
机の上を眺めまわして、ステファノは1本の羽ペンを取り上げた。
(「書き込む」道具だし、これが良いだろう)
千枚通しで軸の部分に穴を開け、慎重に取り上げた鉄粉1粒をピンセットで納める。その上から蝋を溶かして封入した。
(さて、複写の魔術具ができた。ちゃんと同じものを複製できるかテストしないとね)
ステファノは「蛇の巣(改)」を書き込んだ鉄粉の横に、新しい鉄粉を2粒置いた。
「術式複写! これからこれへ」
言葉を発しながら羽ペンで複写元と複写先の鉄粉を撫でるようにする。すると小皿の上で魔法円が光り、新しく置いた鉄粉2粒がきらりと輝いた。
先ほどと同様に殴りつけて試すと、見事攻撃はそらされた。
(よし! 複写の性能に間違いない。同時に複数の複写先にも書き込めるぞ)
魔術具製作成功の喜びに浸りながら、ステファノは100粒の鉄粉に「蛇の巣(改)」の術式を複写した。
直接装身具に書き込むこともできるのだが、さすがに100個となるとかさばるので取り扱いが面倒になる。
術式を書き込んだ鉄粉をネルソンに渡し、信頼できる細工物師を使って装身具に埋め込んでもらうことにしたのだ。
◆◆◆
「昨日の話と違うんじゃないか?」
「術式複写」魔術具の説明を聞いたドイルは、そう言って顔をひきつらせた。
「これは……表に出せないだろう?」
「そうだな。あまりにも危険すぎる」
ドイルの不安そうな声にネルソンも同調した。
「危険とはどういうことでしょう?」
影響力の大きいものを作り出してしまったと自覚はしていたが、ステファノには「危険」という言葉の意味がわからなかった。
「これを使えば、どんな魔道具でも複製できるのだろう?」
「あ!」
「たとえ、国宝級のアーティファクトでもな」
アーティファクトの中には上級魔術クラスの殺傷力を有する武器もある。そんなものを大量に複製できるとなったら軍事バランスが崩壊してしまう。
「ステファノがいなくても使えるというところが最悪だ。魔術具を奪った上でステファノを殺してしまえということになるだろうなあ」
「ああ!」
ドイルの追い打ちにステファノは殴られたような衝撃を受けた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第367話 ステファノ、アカデミーに信頼できる大人はいるか?」
「すぐに気づいて良かった。『術式複写』はこの場限りのこととして封印しよう」
ネルソンはそう言い渡した。ステファノに異論はなかった。
「俺の考えが浅くて、申し訳ありませんでした」
「謝る必要はない。どこかに出す前に止められたからな。実害はない」
「その通りだ、ステファノ。発明にのめり込んだら周りが見えなくなるのはよくあることさ。そのために第三者のチェックが必要なんだ」
こういったことは経験済みなのであろう。ドイルが言い聞かせるように語った。
……
◆お楽しみに。
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