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第4章 魔術学園奮闘編
第353話 これが物になったら、いろいろ面白いことになりそうです。
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「まさしく別人格だな。お前が意識しなくても、化身はお前を守り、お前のために戦うというのか」
「そうですね。俺の無意識ですから。考えなくても働くのは当然だと思います」
「はは。当然か」
ステファノが言ったのは「無意識とは本来考えないということでしょう?」と言う意味であったが、ドリーは「ステファノの無意識なら考えなくても働くのは当然だ」と受け取った。
「これが物になったら、いろいろ面白いことになりそうです」
「それはそうだろう。これだけの新発見だ。術に与える可能性は想像を絶するな」
「いえ。それとはちょっと違って……。化身は分身だって言ったじゃないですか?」
ドリーは何やらきな臭い匂いを嗅いだ。ステファノがこういう言い方をするときは、とんでもないことを持ち出す前兆だ。
「ちょっと待て。落ちついて話を聞こう。化身は確かに術者の分身と言えるだろうな」
「でしょう? そうするとですね。分身なんだから、1つとは限らないんじゃないかって」
「あん?」
話が無邪気すぎる。無邪気な発想なのに、どうしてこうも物騒に聞こえるものか?
ドリーは混乱した。
「化身にはいくつもの種類がありうるということか?」
「それは当然ですが、同時に複数の化身を使うことができるんじゃないかと」
「何を言う。虹の王が何匹も出現するだと?」
それではまるで化け物の軍団ではないか。喉まで出かかった言葉を、ドリーは無理やり飲み込んだ。
「虹の王が完全に自律動作できればですけど」
「そうか。流石に複数の化身を同時に手動操作するのは難しいだろうな」
「ですから、先ずは1体を鍛えて使いこなすことが課題です」
こいつのやることにはいつも明確なゴールがある。ただやみくもに努力しているわけではないのだ。
ドリーは改めてステファノの生きざまを見て、感心した。
間違うこともあるのだろうが、行く末を考えて行動を続けることで失敗の可能性を大幅に減らしていると言えた。
「真似させてもらっても良いかな、メシヤ流」
「え? 化身のことですか?」
「まあ、そうだ。それだけではないがな。何と言うか、メシヤ流の『行動原理』をだ」
「はあ。参考になるようなことがあれば、どうぞお好きなように」
戸惑いながらもステファノは自分が助けになれることがあればと、首を縦に振った。
「本当なら俺の師匠に会ってもらう方が早いんですが……」
指導ならヨシズミ師の方が適役であろう。ステファノはそう思った。
「いや。それはまだ早かろう。今自分でできることがあるからな。見せられる基礎を作ってから、お前の師匠には教えを請いたいと思う」
「なるほど。師匠の指導は厳しいですから、ある程度準備をしておいた方が良いですね」
「うむ。この休み中はこの目で見て来たメシヤ流をわたしなりに咀嚼してみようと思う。2学期になれば、お前はまた新しい段階に進むだろうからな」
ギフトの成長により魔術行使の限界を引き上げ、魔術行使の鍛錬によりギフトの成長を促す。
ドリーは、そんなことが可能だなどと想像したこともなかった。
しかし、ステファノはドリーの目の前でそれを実現して見せた。
(まだまだ、なすべきことがある)
ふさがれていたはずの上級魔術師への道が、大海のように目の前に広がっていることを感じる。虹はそこにあるのだ。
(後は、それを掴み取る勇気があるかどうかだけだ)
「わたしだってまだ成長したい。お前に負けてばかりはいられないのだ」
「……元々勝ったつもりもありませんけど?」
「気にするな。気持ちの問題だ。私自身のな。ははは」
「光龍の息吹」は上級魔術師と肩を並べるために苦心して編み出したドリーの奥の手であった。ステファノは初見でそれを無効化してのけた。
いや、ステファノは指一本動かしてすらいない。ドリーの術を見る前にただ1度放った防御魔術で完璧に防いで見せたのだ。
おそらくこれが上級魔術師とドリーとの間に横たわる格差であろう。
近づいたと思っていた距離はまったく縮まっていなかった。格差の大きさにドリーは打ちのめされたが、おかしなことに未だかつてないすっきりとした気分であった。
(初めて「差」がどこにあるのかが見えた)
ステファノの探求によって、上級魔術師という者の輪郭が掴めかけていた。
(形さえわかれば……手が届く)
ギフトとイド。この2つを磨き上げれば、上級魔術師の世界に立つことができる。
ドリーはそれを確信していた。
そしてギフトとイドは誰にでも備わっている。ステファノはそう言うのだ。
(この小心者の少年は、誰よりも勇敢だ)
無理だと言われようと、無茶だと罵られようとステファノは耳を貸さない。「やってみなければわからない」と前を向き続ける。
無駄だと言われても気にかけない。「それがどうした」と受け流す。
「この世に無駄なものなど、何1つない」
ステファノは相手の目を見て、そう言うことができる。それが彼の強さだ。
(わたしは今の今まで、内心ではステファノを下に見ていた)
たまたまギフトに恵まれた変わり者の少年。どこかでそうやって真実から目をそらしていた。
優れているのはステファノではない。彼のギフトだと。
(真実は、残酷だ。ステファノは自分を信じて努力を続けただけだ。たったそれだけのことだった)
「新しい年に、わたしも新しいスタートを切ろう。メシヤ流魔術師ドリーとしてな」
ドリーは屈託のない笑顔をステファノに向けた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第354話 ふうん。ジョージュツってそんな杖を使うんだ。」
「お帰りなさい、ステファノ!」
明るい声でステファノを迎えてくれたのは、プリシラであった。ほぼ4カ月ぶりに顔を合わせたことになる。
「ただいま。元気そうだね、プリシラ」
「ステファノは背が伸びたみたい? 体も鍛えていたみたいね。服が小さくなって来てる」
「そうかな? この服は入学試験の日に来て以来初めて袖を通したからね。自分ではよくわからないや」
プリシラも少しだけ身長が高くなったような気がする。女性の肉体的変化は下手に口にすると大変な目に合わされることがある。
「メイド服が小さくなっている」などとは口が裂けても言えない。ステファノにもそれくらいの分別はあった。
……
◆お楽しみに。
「そうですね。俺の無意識ですから。考えなくても働くのは当然だと思います」
「はは。当然か」
ステファノが言ったのは「無意識とは本来考えないということでしょう?」と言う意味であったが、ドリーは「ステファノの無意識なら考えなくても働くのは当然だ」と受け取った。
「これが物になったら、いろいろ面白いことになりそうです」
「それはそうだろう。これだけの新発見だ。術に与える可能性は想像を絶するな」
「いえ。それとはちょっと違って……。化身は分身だって言ったじゃないですか?」
ドリーは何やらきな臭い匂いを嗅いだ。ステファノがこういう言い方をするときは、とんでもないことを持ち出す前兆だ。
「ちょっと待て。落ちついて話を聞こう。化身は確かに術者の分身と言えるだろうな」
「でしょう? そうするとですね。分身なんだから、1つとは限らないんじゃないかって」
「あん?」
話が無邪気すぎる。無邪気な発想なのに、どうしてこうも物騒に聞こえるものか?
ドリーは混乱した。
「化身にはいくつもの種類がありうるということか?」
「それは当然ですが、同時に複数の化身を使うことができるんじゃないかと」
「何を言う。虹の王が何匹も出現するだと?」
それではまるで化け物の軍団ではないか。喉まで出かかった言葉を、ドリーは無理やり飲み込んだ。
「虹の王が完全に自律動作できればですけど」
「そうか。流石に複数の化身を同時に手動操作するのは難しいだろうな」
「ですから、先ずは1体を鍛えて使いこなすことが課題です」
こいつのやることにはいつも明確なゴールがある。ただやみくもに努力しているわけではないのだ。
ドリーは改めてステファノの生きざまを見て、感心した。
間違うこともあるのだろうが、行く末を考えて行動を続けることで失敗の可能性を大幅に減らしていると言えた。
「真似させてもらっても良いかな、メシヤ流」
「え? 化身のことですか?」
「まあ、そうだ。それだけではないがな。何と言うか、メシヤ流の『行動原理』をだ」
「はあ。参考になるようなことがあれば、どうぞお好きなように」
戸惑いながらもステファノは自分が助けになれることがあればと、首を縦に振った。
「本当なら俺の師匠に会ってもらう方が早いんですが……」
指導ならヨシズミ師の方が適役であろう。ステファノはそう思った。
「いや。それはまだ早かろう。今自分でできることがあるからな。見せられる基礎を作ってから、お前の師匠には教えを請いたいと思う」
「なるほど。師匠の指導は厳しいですから、ある程度準備をしておいた方が良いですね」
「うむ。この休み中はこの目で見て来たメシヤ流をわたしなりに咀嚼してみようと思う。2学期になれば、お前はまた新しい段階に進むだろうからな」
ギフトの成長により魔術行使の限界を引き上げ、魔術行使の鍛錬によりギフトの成長を促す。
ドリーは、そんなことが可能だなどと想像したこともなかった。
しかし、ステファノはドリーの目の前でそれを実現して見せた。
(まだまだ、なすべきことがある)
ふさがれていたはずの上級魔術師への道が、大海のように目の前に広がっていることを感じる。虹はそこにあるのだ。
(後は、それを掴み取る勇気があるかどうかだけだ)
「わたしだってまだ成長したい。お前に負けてばかりはいられないのだ」
「……元々勝ったつもりもありませんけど?」
「気にするな。気持ちの問題だ。私自身のな。ははは」
「光龍の息吹」は上級魔術師と肩を並べるために苦心して編み出したドリーの奥の手であった。ステファノは初見でそれを無効化してのけた。
いや、ステファノは指一本動かしてすらいない。ドリーの術を見る前にただ1度放った防御魔術で完璧に防いで見せたのだ。
おそらくこれが上級魔術師とドリーとの間に横たわる格差であろう。
近づいたと思っていた距離はまったく縮まっていなかった。格差の大きさにドリーは打ちのめされたが、おかしなことに未だかつてないすっきりとした気分であった。
(初めて「差」がどこにあるのかが見えた)
ステファノの探求によって、上級魔術師という者の輪郭が掴めかけていた。
(形さえわかれば……手が届く)
ギフトとイド。この2つを磨き上げれば、上級魔術師の世界に立つことができる。
ドリーはそれを確信していた。
そしてギフトとイドは誰にでも備わっている。ステファノはそう言うのだ。
(この小心者の少年は、誰よりも勇敢だ)
無理だと言われようと、無茶だと罵られようとステファノは耳を貸さない。「やってみなければわからない」と前を向き続ける。
無駄だと言われても気にかけない。「それがどうした」と受け流す。
「この世に無駄なものなど、何1つない」
ステファノは相手の目を見て、そう言うことができる。それが彼の強さだ。
(わたしは今の今まで、内心ではステファノを下に見ていた)
たまたまギフトに恵まれた変わり者の少年。どこかでそうやって真実から目をそらしていた。
優れているのはステファノではない。彼のギフトだと。
(真実は、残酷だ。ステファノは自分を信じて努力を続けただけだ。たったそれだけのことだった)
「新しい年に、わたしも新しいスタートを切ろう。メシヤ流魔術師ドリーとしてな」
ドリーは屈託のない笑顔をステファノに向けた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第354話 ふうん。ジョージュツってそんな杖を使うんだ。」
「お帰りなさい、ステファノ!」
明るい声でステファノを迎えてくれたのは、プリシラであった。ほぼ4カ月ぶりに顔を合わせたことになる。
「ただいま。元気そうだね、プリシラ」
「ステファノは背が伸びたみたい? 体も鍛えていたみたいね。服が小さくなって来てる」
「そうかな? この服は入学試験の日に来て以来初めて袖を通したからね。自分ではよくわからないや」
プリシラも少しだけ身長が高くなったような気がする。女性の肉体的変化は下手に口にすると大変な目に合わされることがある。
「メイド服が小さくなっている」などとは口が裂けても言えない。ステファノにもそれくらいの分別はあった。
……
◆お楽しみに。
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