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第4章 魔術学園奮闘編

第352話 お前の術にはまるで自我があるようだと言ったのはわたしだ。

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「お前は虹の王ナーガに知性を与えたというのか?」
「うーん。知性を認めて・・・・・・、仕事を任せたという感じでしょうか」

 術に知性を与えるというとんでもない話を、「ありうる出来事」としてドリーは語っている。自分の常識は一体どうなってしまったのだとドリーは頭を抱えたい気持ちになった。

(すべてはこいつのせいか)

「確かにな。お前の術にはまるで・・・自我があるようだと言ったのはわたしだ。それは認めよう。しかし、知性となるとなあ……」

 さすがのドリーもステファノの言葉を素直には飲み込めなかった。

「完全に独立した人格というわけではないんです。自分の一部でありながら、分身であるような」
「それで化身アバターというわけか?」

 化身とは本来神が目的のために姿を変えてこの世に現れることである。創造神が破壊神の姿を取ることもある。

「行動は姿によって規定されるんです」

 ステファノは本来イデア界の住人ではない。イデアを利用するために虹の王ナーガという化身を使役することは理にかなった方法であった。

「これまでは虹の王ナーガという皮を自分がまとってイデアを使ってきました。しかし、虹の王ナーガが知性を持てるならいちいち直接操作する必要はないはずです」
「知性を持てるものならな」

 いかに目に見える形を取ろうと虹の王ナーガは「術」に過ぎない。ドリーには虹の王ナーガが知性を持つことを信じ切ることができなかった。

虹の王ナーガは、あるいは『ギフト』とは『無意識』ではないかと考えました」
「無意識だと?」
「通常の意識が利用できない脳の領域を動かしているものがあるとしたら、それは無意識であろうと」

 無意識もまた自我の一部ではある。「意識」の求めるものを知った「無意識」が、「意識」に代わって魔視脳を動かすのではないかと、ステファノは考えたのだった。

「意識にとっての化身アバターが無意識というわけか」
「無意識が強く形を持ったものがギフトだと思います」

 ステファノのギフトは早い段階から「人格」を示すようになった。それが虹の王ナーガである。

化身アバターとは無意識が発展した、その先にあるということだな」
「それが俺の仮説です。それが正しいとしたら、化身アバターは育てる必要があります」
化身アバターを育てる……」

 ステファノの仮説はドリーの想像をどんどん超えていく。術を鍛えるのでなく、知性として育てるなどという考え方は聞いたこともなかった。

「知性には情報が必要です。材料がなければ正しい行動ができません。料理人と一緒ですね」
「料理人の例えはよくわからんが、判断のための知識を積み上げる必要があるという理屈はわかる。『学習』だな?」
「そうそう! 学習させなければだめなんです」

 ステファノはドリーがふと口にした「学習」と言う言葉に強く反応した。

「学習を繰り返すことによってギフトは成長します。それがやがて化身アバターに発達するというわけです」

 前半の部分についてはドリーも納得した。ギフトとは、使えば使うほど育つと言われている。しかし、使い込んで行ったらギフトが人格を得たという話は聞いたことがない。

「人格を得るというのがなあ。何とも納得しがたいのだが」
「今のところは『仮説』ということにしておきます。目標を丸投げにして化身アバターに与え、術を発動させる。過不足のある所は、術者本人が補正してやる。その一連の流れを化身アバターに学習させてやるんです」

 補正を繰り返すことで化身アバターの行動パターンは正しい内容に収れんしていくのだ。

「術を使うことはそのまま化身アバターの教育になるのですが、意識して・・・・化身アバターにミッションを丸投げすることが大切です」
「それが本当なら、世界中のギフト持ちの中でお前のギフトだけが人格を得るだろうな」

 ステファノが術に与えるミッションは、ほぼすべてが今までにない新しいものであった。
 まったく新しいことに挑戦する時、人は多くのことを学習する。ギフトにとっても同じはずだった。

「俺はイドが制御できると知ってから、四六時中イドの繭をまとっています。そのまま授業を受け、武術の鍛錬をし、魔術を撃って来ました。眠る時もイドをまとったままです」
「お前のギフトは1日中学習を続けているわけだな」

 言われてみればギフトが成長する機会をこれ以上ないほどに与えているのだった。ドリーでもそこまでギフトを酷使したことはない。

「それを8月から続けて来たのか、お前は」
「俺が身を守りたい時どうしたいか、攻める時に何をしたいか。虹の王ナーガは誰よりも側で見てきました」

 側にいたことに間違いない。虹の王ナーガはステファノ自身であるのだから。

 すべてのを従え、すべての可能性を手の中に握るのはステファノ自身であった。

「ナーガとはお前自身が可能性の王となるための化身アバターだったのか」
「さっき俺は標的をイドで拘束するように、虹の王ナーガに命じました。術の詳細は丸投げです」

 対象である標的の足元に出現した魔法円から虹の王ナーガは顕現した。虹の王ナーガが選んだ術は、イドによる束縛であった。ステファノの意識と微妙にずれた部分は、直接介入して修正した。

「術の最中に手を動かしていたのは、化身アバターの実行結果を『修正』していたのか」
「はい。拘束の強さや密度を手の動きで表していました」

 そのためにステファノは杖を持たず、素手でブースに入っていた。

「慣れて来れば手を使わなくても、『思念』によって修正できると思います」
「やがては修正する必要もなくなると考えているのだな?」

 ドリーは行く先・・・にあるものを想像した。ステファノは行く末・・・にあるものを予期した。

「最後には……命令する必要さえなくなるでしょう」

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第353話 これが物になったら、いろいろ面白いことになりそうです。」

「まさしく別人格だな。お前が意識しなくても、化身アバターはお前を守り、お前のために戦うというのか」
「そうですね。俺の無意識・・・・・ですから。考えなくても働くのは当然だと思います」
「はは。当然か」

 ステファノが言ったのは「無意識とは本来考えないということでしょう?」と言う意味であったが、ドリーは「ステファノの無意識なら考えなくても働くのは当然だ」と受け取った。

これ・・が物になったら、いろいろ面白いことになりそうです」
「それはそうだろう。これだけの新発見だ。術に与える可能性は想像を絶するな」
「いえ。それとはちょっと違って……。化身アバターは分身だって言ったじゃないですか?』

 ドリーは何やらきな臭い匂いを嗅いだ。ステファノがこういう言い方をするときは、とんでもないことを持ち出す前兆だ。

 ……

◆お楽しみに。
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