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第4章 魔術学園奮闘編
第349話 さて、この教室で良いだろう。
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「実際に生徒同士で戦うわけじゃないんでしょう?」
「当たり前だ! お貴族様とか、時には王族まで参加する競技会で殺し合いなんかできるわけねえだろう?」
「そうですよね」
競技会とは言われているが、あくまでもデモンストレーションである。各選手が各々得意の魔術で標的を狙う試技を行い、その殺傷力でポイントを競うという内容であった。
多くは攻撃魔術であり、防御魔術などほかの分類の術を選ぶものはほとんどいない。
術としての華やかさに差があるのに加え、軍関係のスカウトたちは当然攻撃魔術を中心に評価するためであった。
「威力を競うのなら、1年生は不利ですね」
「魔力は育たねえと言われてるが、魔力の使い方は訓練次第だからな」
だからこそ魔術試射場は賑わいを見せているのだ。より効果の高い魔術使用法を目指して、生徒は切磋琢磨する。訓練を積み重ねた上級生が有利なことは言うまでもない。
「さて、この教室で良いだろう。予備室だからな。黒板は好きにいじって構わないぜ」
マードックは教室の1つにステファノを導き入れた。早速教壇に上がり、魔示板に近づいた。
「魔力を流させてもらいます」
一応断って、ステファノは魔核を起動する。ギフトを持たないマードックには見えないが、ステファノの足元に六芒星の魔術円が輝いた。
(さて、魔術発動具とペアリングするんだったな)
ステファノは携えていたヘルメスの杖を魔術円の上に立てた。
「ステファノの名において求める。魔示板よ、我が『ヘルメスの杖』とペアを結べ」
声に出しながら、ステファノは魔術円から杖へと魔力を流し、杖から黒板へと魔力を注いだ。
ぽーん。
のどかな音が1つ、黒板から響いた。黒板の中央から周りに向かって波紋が1つ広がる。
黒板の質感が黒い水面に変わっていた。
黒板の中央にテーブルクロスを広げたような長方形が開いた。白地に黒文字で「魔術発動具とのペアリング」というタイトルが掲げられている。
その下に「認識された魔術発動具」というタイトルで「長杖(ヘルメスの杖)」という項目が表示されていた。
「おお。出ましたね」
「その杖は『ヘルメスの杖』というのかい?」
ステファノの目の前で『ヘルメスの杖』はあっさりと認識された。
<どの魔術発動具とペアリングしますか? (リストの中から選んでください)>
黒板にはそう表示されていた。
(選ぶと言っても1つしかないが……)
「ヘルメスの杖とペアリング」
ステファノがそう言うと、ヘルメスの杖の項目が反転し、その下に「ヘルメスの杖とペアリング中……」という表示が現れた。
(よくできているな。まるで人間とやり取りしているようだ)
<ヘルメスの杖とのペアリングが完了しました>
<何をしますか?>
黒板には選択肢なのであろう、できることのリストが表示されていた。
(・プリセットモードへの移行)
・プリセットモードへの登録
・音声記録モードで使用する
「プリセットモードへの移行」の表示ははグレーになっていた。
(今は使えないということかな?)
「音声記録モードで使用する」
ステファノはそう発声した。
(これは……「知性」を相手にしているのだろうか?)
リスト一覧に選択肢を表示するのはおそらく何らかの論理制御なのだろう。その内どれを選んだかを「発声」を聞いて判断するのは難しいのではないか?
(声を聞き分け、意味を判別する。こども程度の「知性」を何かに持たせている?)
<表示させたい内容を選んでください>
・文章
・画像
(そう言えば、先生は声に出して発声していなかったな)
参考書にも「思念」を読み取らせると書かれていた。
(「文章」を選択)
<「文章」が選択されました。表示する内容を思考してください>
(おお。読み取ってくれたぞ。ええと、あの本によると文章を送る思考パターンは――)
(これを「雲」経由で黒板に投げる)
<文章を待機中……>
ステファノはテスト用の文章を思い浮かべた。
(「今日でアカデミーの1学期が終了した」)
<今日でアカデミーの1学期が終了した>
間を置かずに、黒板に文字が浮かび上がった。
(ほう。反応が速いな。文字の大きさは変えられるのかな?)
<文字の大きさを変えるには、「画面編集」と思考してください>
(うん? こっちの考えを読み取り続けているのか?)
思っている以上に魔示板の「知性」は賢いのかもしれないと、ステファノは考え直していた。
(指示しなくても俺の思念を先読みしている)
ステファノは試みに、表示された分の最初の1文字を拡大してみることにした。
(画面編集。最初の1文字を拡大)
1文字目が2倍の幅と高さに拡大された。
<拡大縮小の倍率は、「●●倍」や「△△パーセント」のような言い方であらわすことができます>
(ふうん。最後の文字を4倍に拡大)
ステファノは何度か文字の大きさを変える操作を繰り返した。
<編集した内容を取り消すには「元に戻す」と指示してください>
(なるほど。1手順前の状態を覚えているんだな)
<取り消した内容を復活させるには「やり直し」と指示してください>
(取り消しの取り消しができるということか。気遣いが細かい)
<対象の指定は魔力発動体で行うこともできます。画面を指しながら「ここからここまで」のように指示してください>
先生の中にはそうやって短杖を使っている人がいた。
やってみると思念だけで操作するよりも遥かに素早く、直感的に操作することができた。
(やっぱり手を使えるって便利だなあ)
ステファノは魔示板が魔力発動体をペアリング対象としている理由を改めて実感した。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第350話 読めるのに、意味がわからない。」
(さてと、あの本に書かれていたことを試してみよう)
ステファノは試しに書き込んでいた文章を抹消すると、あらためてヘルメスの杖を魔示板に向けた。
(ヘルプ)
思念を送ると、黒板に一連の文字が浮かび上がった。
<魔示板のヘルプ>
【____】[検索]
(これは……、調べたい言葉を「【____】」の中に入れるのだろうなあ。「遠距離」)
……
◆お楽しみに。
「当たり前だ! お貴族様とか、時には王族まで参加する競技会で殺し合いなんかできるわけねえだろう?」
「そうですよね」
競技会とは言われているが、あくまでもデモンストレーションである。各選手が各々得意の魔術で標的を狙う試技を行い、その殺傷力でポイントを競うという内容であった。
多くは攻撃魔術であり、防御魔術などほかの分類の術を選ぶものはほとんどいない。
術としての華やかさに差があるのに加え、軍関係のスカウトたちは当然攻撃魔術を中心に評価するためであった。
「威力を競うのなら、1年生は不利ですね」
「魔力は育たねえと言われてるが、魔力の使い方は訓練次第だからな」
だからこそ魔術試射場は賑わいを見せているのだ。より効果の高い魔術使用法を目指して、生徒は切磋琢磨する。訓練を積み重ねた上級生が有利なことは言うまでもない。
「さて、この教室で良いだろう。予備室だからな。黒板は好きにいじって構わないぜ」
マードックは教室の1つにステファノを導き入れた。早速教壇に上がり、魔示板に近づいた。
「魔力を流させてもらいます」
一応断って、ステファノは魔核を起動する。ギフトを持たないマードックには見えないが、ステファノの足元に六芒星の魔術円が輝いた。
(さて、魔術発動具とペアリングするんだったな)
ステファノは携えていたヘルメスの杖を魔術円の上に立てた。
「ステファノの名において求める。魔示板よ、我が『ヘルメスの杖』とペアを結べ」
声に出しながら、ステファノは魔術円から杖へと魔力を流し、杖から黒板へと魔力を注いだ。
ぽーん。
のどかな音が1つ、黒板から響いた。黒板の中央から周りに向かって波紋が1つ広がる。
黒板の質感が黒い水面に変わっていた。
黒板の中央にテーブルクロスを広げたような長方形が開いた。白地に黒文字で「魔術発動具とのペアリング」というタイトルが掲げられている。
その下に「認識された魔術発動具」というタイトルで「長杖(ヘルメスの杖)」という項目が表示されていた。
「おお。出ましたね」
「その杖は『ヘルメスの杖』というのかい?」
ステファノの目の前で『ヘルメスの杖』はあっさりと認識された。
<どの魔術発動具とペアリングしますか? (リストの中から選んでください)>
黒板にはそう表示されていた。
(選ぶと言っても1つしかないが……)
「ヘルメスの杖とペアリング」
ステファノがそう言うと、ヘルメスの杖の項目が反転し、その下に「ヘルメスの杖とペアリング中……」という表示が現れた。
(よくできているな。まるで人間とやり取りしているようだ)
<ヘルメスの杖とのペアリングが完了しました>
<何をしますか?>
黒板には選択肢なのであろう、できることのリストが表示されていた。
(・プリセットモードへの移行)
・プリセットモードへの登録
・音声記録モードで使用する
「プリセットモードへの移行」の表示ははグレーになっていた。
(今は使えないということかな?)
「音声記録モードで使用する」
ステファノはそう発声した。
(これは……「知性」を相手にしているのだろうか?)
リスト一覧に選択肢を表示するのはおそらく何らかの論理制御なのだろう。その内どれを選んだかを「発声」を聞いて判断するのは難しいのではないか?
(声を聞き分け、意味を判別する。こども程度の「知性」を何かに持たせている?)
<表示させたい内容を選んでください>
・文章
・画像
(そう言えば、先生は声に出して発声していなかったな)
参考書にも「思念」を読み取らせると書かれていた。
(「文章」を選択)
<「文章」が選択されました。表示する内容を思考してください>
(おお。読み取ってくれたぞ。ええと、あの本によると文章を送る思考パターンは――)
(これを「雲」経由で黒板に投げる)
<文章を待機中……>
ステファノはテスト用の文章を思い浮かべた。
(「今日でアカデミーの1学期が終了した」)
<今日でアカデミーの1学期が終了した>
間を置かずに、黒板に文字が浮かび上がった。
(ほう。反応が速いな。文字の大きさは変えられるのかな?)
<文字の大きさを変えるには、「画面編集」と思考してください>
(うん? こっちの考えを読み取り続けているのか?)
思っている以上に魔示板の「知性」は賢いのかもしれないと、ステファノは考え直していた。
(指示しなくても俺の思念を先読みしている)
ステファノは試みに、表示された分の最初の1文字を拡大してみることにした。
(画面編集。最初の1文字を拡大)
1文字目が2倍の幅と高さに拡大された。
<拡大縮小の倍率は、「●●倍」や「△△パーセント」のような言い方であらわすことができます>
(ふうん。最後の文字を4倍に拡大)
ステファノは何度か文字の大きさを変える操作を繰り返した。
<編集した内容を取り消すには「元に戻す」と指示してください>
(なるほど。1手順前の状態を覚えているんだな)
<取り消した内容を復活させるには「やり直し」と指示してください>
(取り消しの取り消しができるということか。気遣いが細かい)
<対象の指定は魔力発動体で行うこともできます。画面を指しながら「ここからここまで」のように指示してください>
先生の中にはそうやって短杖を使っている人がいた。
やってみると思念だけで操作するよりも遥かに素早く、直感的に操作することができた。
(やっぱり手を使えるって便利だなあ)
ステファノは魔示板が魔力発動体をペアリング対象としている理由を改めて実感した。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第350話 読めるのに、意味がわからない。」
(さてと、あの本に書かれていたことを試してみよう)
ステファノは試しに書き込んでいた文章を抹消すると、あらためてヘルメスの杖を魔示板に向けた。
(ヘルプ)
思念を送ると、黒板に一連の文字が浮かび上がった。
<魔示板のヘルプ>
【____】[検索]
(これは……、調べたい言葉を「【____】」の中に入れるのだろうなあ。「遠距離」)
……
◆お楽しみに。
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