飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

文字の大きさ
上 下
349 / 672
第4章 魔術学園奮闘編

第349話 さて、この教室で良いだろう。

しおりを挟む
「実際に生徒同士で戦うわけじゃないんでしょう?」
「当たり前だ! お貴族様とか、時には王族まで参加する競技会で殺し合いなんかできるわけねえだろう?」
「そうですよね」

 競技会とは言われているが、あくまでもデモンストレーションである。各選手が各々得意の魔術で標的を狙う試技を行い、その殺傷力でポイントを競うという内容であった。

 多くは攻撃魔術であり、防御魔術などほかの分類の術を選ぶものはほとんどいない。

 術としての華やかさに差があるのに加え、軍関係のスカウトたちは当然攻撃魔術を中心に評価するためであった。

「威力を競うのなら、1年生は不利ですね」
「魔力は育たねえと言われてるが、魔力の使い方・・・・・・は訓練次第だからな」

 だからこそ魔術試射場は賑わいを見せているのだ。より効果の高い魔術使用法を目指して、生徒は切磋琢磨する。訓練を積み重ねた上級生が有利なことは言うまでもない。

「さて、この教室で良いだろう。予備室だからな。黒板は好きにいじって構わないぜ」

 マードックは教室の1つにステファノを導き入れた。早速教壇に上がり、魔示板マジボードに近づいた。

「魔力を流させてもらいます」

 一応断って、ステファノは魔核マジコアを起動する。ギフトを持たないマードックには見えないが、ステファノの足元に六芒星の魔術円が輝いた。

(さて、魔術発動具とペアリングするんだったな)

 ステファノは携えていたヘルメスの杖を魔術円の上に立てた。

「ステファノの名において求める。魔示板マジボードよ、我が『ヘルメスの杖』とペアを結べ」

 声に出しながら、ステファノは魔術円から杖へと魔力を流し、杖から黒板へと魔力を注いだ。

 ぽーん。

 のどかな音が1つ、黒板から響いた。黒板の中央から周りに向かって波紋が1つ広がる。
 黒板の質感が黒い水面に変わっていた。

 黒板の中央にテーブルクロスを広げたような長方形が開いた。白地に黒文字で「魔術発動具とのペアリング」というタイトルが掲げられている。
 その下に「認識された魔術発動具」というタイトルで「長杖(ヘルメスの杖)」という項目が表示されていた。

「おお。出ましたね」
「その杖は『ヘルメスの杖』というのかい?」

 ステファノの目の前で『ヘルメスの杖』はあっさりと認識された。

<どの魔術発動具とペアリングしますか? (リストの中から選んでください)>

 黒板にはそう表示されていた。

(選ぶと言っても1つしかないが……)

「ヘルメスの杖とペアリング」

 ステファノがそう言うと、ヘルメスの杖の項目が反転し、その下に「ヘルメスの杖とペアリング中……」という表示が現れた。

(よくできているな。まるで人間とやり取りしているようだ)

<ヘルメスの杖とのペアリングが完了しました>
<何をしますか?>

 黒板には選択肢なのであろう、できることのリストが表示されていた。

(・プリセットモードへの移行)
 ・プリセットモードへの登録
 ・音声記録モードで使用する

「プリセットモードへの移行」の表示ははグレーになっていた。

(今は使えないということかな?)

「音声記録モードで使用する」

 ステファノはそう発声した。

(これは……「知性」を相手にしているのだろうか?)

 リスト一覧に選択肢を表示するのはおそらく何らかの論理制御ロジックなのだろう。その内どれを選んだかを「発声」を聞いて判断するのは難しいのではないか?

(声を聞き分け、意味を判別する。こども程度の「知性」を何か・・に持たせている?)

<表示させたい内容を選んでください>
 ・文章
 ・画像

(そう言えば、先生は声に出して発声していなかったな)

 参考書にも「思念」を読み取らせると書かれていた。

(「文章」を選択)

<「文章」が選択されました。表示する内容を思考してください>

(おお。読み取ってくれたぞ。ええと、あの本によると文章を送る思考パターンは――)
 
(これを「雲」経由で黒板に投げる)

<文章を待機中……>

 ステファノはテスト用の文章を思い浮かべた。

 (「今日でアカデミーの1学期が終了した」)

<今日でアカデミーの1学期が終了した>

 間を置かずに、黒板に文字が浮かび上がった。

(ほう。反応が速いな。文字の大きさは変えられるのかな?)

<文字の大きさを変えるには、「画面編集」と思考してください>

(うん? こっちの考えを読み取り続けているのか?)

 思っている以上に魔示板マジボードの「知性」は賢いのかもしれないと、ステファノは考え直していた。

(指示しなくても俺の思念を先読みしている)

 ステファノは試みに、表示された分の最初の1文字を拡大してみることにした。

(画面編集。最初の1文字を拡大)

 1文字目が2倍の幅と高さに拡大された。

<拡大縮小の倍率は、「●●倍」や「△△パーセント」のような言い方であらわすことができます>

(ふうん。最後の文字を4倍に拡大)

 ステファノは何度か文字の大きさを変える操作を繰り返した。

<編集した内容を取り消すには「元に戻す」と指示してください>

(なるほど。1手順前の状態を覚えているんだな)

<取り消した内容を復活させるには「やり直し」と指示してください>

(取り消しの取り消しができるということか。気遣いが細かい)

<対象の指定は魔力発動体で行うこともできます。画面を指しながら「ここからここまで」のように指示してください>

 先生の中にはそうやって短杖ワンドを使っている人がいた。
 やってみると思念だけで操作するよりも遥かに素早く、直感的に操作することができた。

(やっぱり手を使えるって便利だなあ)

 ステファノは魔示板マジボードが魔力発動体をペアリング対象としている理由を改めて実感した。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第350話 読めるのに、意味がわからない。」

(さてと、あの本に書かれていたことを試してみよう)

 ステファノは試しに書き込んでいた文章を抹消すると、あらためてヘルメスの杖を魔示板マジボードに向けた。

(ヘルプ)

 思念を送ると、黒板に一連の文字が浮かび上がった。

魔示板マジボードのヘルプ>
【____】[検索]

(これは……、調べたい言葉を「【____】」の中に入れるのだろうなあ。「遠距離」)

 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

処理中です...