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第4章 魔術学園奮闘編

第348話 そうなったらこっちの思うつぼなんだけどな。

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 杖が縄になる「引っ掛け技」だと思い込んでくれれば、相手は「杖の受け止め方」に意識を集中するだろう。

(そうなったらこっちの思うつぼなんだけどな)

 みずちを受けてくれさえしたら、「金縛り」を浴びせることができる。敵が杖の場合鉄剣よりは雷気を流しにくいが、体を痺れさせるには十分だ。
 相手が動けなくなったところで縛るなり、叩くなり、ゆっくり料理すればよい。

(料理は段取りが命だからね)

「皆の者、くれぐれも他言無用である。今見せてもらった縄使いこそ『気功』の極致・・である。一瞬に止まらず、常に気を発して物体を御する。正に達人技と言える」

 ゲンドー師はじょう術の演舞に至極感銘を受けていた。

 どうやら「イド」の扱いに関して、既にステファノは武術界でなら達人といわれるレベルに達しているらしい。
 ステファノ本人にしてみれば、ギフト「諸行無常いろはにほへと」が為せる業であり、自分の手柄とは思えない。褒められるのは面はゆい気がする。

「お褒めの言葉ありがとうございます。ですが、俺の武術はまだまだ未熟ですから。むしろご指導をよろしくお願いします」

 ステファノはゲンドー師の賛辞を額面通りには受け取らず、謙虚な姿勢を示した。

「流儀は違っても等しく武術を志す者同士。相手が欲しくなったらいつでも当道場を訪れるが良い。杖の相手には事欠かぬ」
「それは願ってもないことです。またの機会にぜひ」

 1人稽古ではつかみにくい間合いや呼吸というものがある。稽古の相手と場所を提供してもらえるのはありがたいことであった。

「今日はこの後どうする?」

 問われてステファノは、時刻を思いやった。

「実はこの後、アカデミーで用事があります。この辺で失礼させていただきたいと思います」
「そうであったか。引止めて申し訳なかった。またの来訪を待っておる」
「こちらこそお世話になりました。ではまたの機会に」

 ステファノは自分なりの礼を籠めて頭を下げた。

「では、ミョウシンさん、俺は先に失礼します。ご兄妹きょうだいでごゆっくりお過ごしください。また2学期に会いましょう」
「ステファノ、ごきげんよう」
「ステファノ君、またいつか手合わせをよろしく頼む」

 ミョウシンとハーマンにも別れを告げ、ステファノは1人アカデミーに戻った。

 ◆◆◆

 ミョウシンと別れたステファノはその足でアカデミーの教務課に向かった。約束の5時になる5分前に、ステファノは教務課の入り口をくぐることができた。

「すみません。アリステア教務長にお約束を頂いたのですが」
「うん? ああ、聞いてるよ。黒の道着ってことはステファノだな? 案内するからついて来な」

 学期の最終日ということでどことなく弛緩した空気が漂う執務室を抜けて、ステファノはアリステアのデスクに通された。

「教務長、お約束のステファノを案内してきました」
「ふむ。ありがとう。戻って良いですよ。代わりにマードックを呼んでください」

 朝のうちに面会の約束を取った際、黒板の魔道具を調査させてほしいという願いは告げてある。ステファノと以前面識のあるマードックに立ち会わせるようだ。

魔示板マジボードを調べてどうするつもりでしょう。まさか、再現しようという考えですか?」
「できることなら、そうしたいと考えています」

 ステファノは包み隠さず意図を告げた。アリステアのことは公平な人間だと信頼している。

「なかなかの意気込みですね。あれでもアーティファクトの1つですからねぇ。簡単に真似できるものではありませんよ?」
「知っています。術理の一部でも読み取れれば発明の参考になると思うんです」
 
 アリステアはステファノの意気込みを試して、楽しんでいるように見えた。ステファノも簡単に答えが得られるとは思っていなかった。

「調べたところで壊れるようなものではないので、調査自体は差し支えありません。一応、マードックを立ち会わせますので、彼の指示に従いなさい」
「お手数をかけて恐縮です」

 マードックが2人の所にやって来た。

「マードック、ご苦労ですがこのステファノに魔示板マジボードを使わせてやってください。分解したり傷つけたりしない限りは自由にさせて構いません」
「はあ。また魔道具ですか? おめえは、随分魔道具が好きなんだな」

 呼び出されたマードックは、ステファノのことを覚えていたらしい。

「すみません。今日もよろしくお願いします」
「教務長、それではこいつを連れて行ってきます」
「頼みますよ。小1時間もつき合って上げれば十分でしょう。そうですね?」
「十分です。6時前には終わりにします」

 マードックに連れられてステファノは最寄りの教室へと移動した。

 ◆◆◆

「しかし、おめえは変わった奴だな」

 ステファノの前を歩きながら、マードックは首を左右に振った。

「その恰好も奇抜だが、研究報告会じゃ大講堂の天井に貼りついたそうじゃねえか?」
「はあ、術の実演でそういうことに」
「そんなヤモリみたいな魔術があるかねぇ」

 くすりとマードックが鼻を鳴らした。

「まあ、人殺しの技を競い合うよりかは親しみやすいがな」
「3月の研究報告会は魔術の競技会を含んでいるそうですね」
「そうさ。俺はあんまり好きじゃねえがな。誰が一番たくさん人を殺せそうかなんて競われてもな?」

 3月の報告会には魔術競技の部が含まれる。そこでは自ら攻撃魔術の披露が花形となっていた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第349話 さて、この教室で良いだろう。」

「実際に生徒同士で戦うわけじゃないんでしょう?」
「当たり前だ! お貴族様とか、時には王族まで参加する競技会で殺し合いなんかできるわけねえだろう?」
「そうですよね」

 競技会とは言われているが、あくまでもデモンストレーションである。各選手が各々得意の魔術で標的を狙う試技を行い。その殺傷力でポイントを競うという内容であった。

 多くは攻撃魔術であり、防御魔術などほかの分類の術を選ぶものはほとんどいない。

 術としての華やかさに差があるのに加え、軍関係のスカウトたちは当然攻撃魔法を中心に評価するためであった。

 ……

◆お楽しみに。
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