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第4章 魔術学園奮闘編

第336話 どうせ次の研究報告会には出るのだろう?

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 魔術を捨てて、ステファノが向かう先にあるものは、もちろん魔法・・である。

「魔法とはそこまで自在なものか」
「俺はそう思っています」

 ステファノと出会い、ドリーの考えも変わった。以前は、魔術師として自分は優秀であるという自負があった。
 今はそのことに意味などないと考えている。

 かつてのドリーは先人が引いた線を、間違えないようになぞっているだけだった。新しい線を引く創意はおろか、線からはみ出す勇気さえ持たなかった。

 ステファノは違う。まっさらな白紙に自分だけの線を描こうとしている。

 それは何と心躍る想像であろうか。

「ステファノは来年の6月には卒業するのであろうな」

 6月になれば1学年が終わる。この少年は報告会のポイントとチャレンジ成功を積み重ね、修了に必要な単位を全うするだろう。

「今回の報告会で良いポイントが得られていれば、それを目指したいと思います」
「当然だな。得られるポイントは10ポイントなどというレベルではないはずだ」

 仮に20ポイントを得たとすれば、1学期の修了単位11と合わせて31単位となる。
 卒業に必要な合計54単位の半分を優に超えている。

 3月の研究報告会を度外視しても、2学期と3学期で12単位ずつを取れば足りるわけだ。

「講義での単位取得には問題あるまい。時間割さえうまく組めれば、無理なく残り2学期で必要単位に到達するはずだ」
「そういう意味では2学期にどの講義を取るかが大切ですね」
「魔道具学については確実に上級までのチャレンジ成功が見込めるな。後は応用系の魔術実技クラスか」
「実技の方が相性は良いですね」

 応用魔術となると「攻撃系」、「防御系」、「幻術系」、「複合魔術」、「魔術医療」などが存在する。
 ステファノのように新しい魔術を生み出そうとすれば、必然的に応用領域での実践となる。

「これまでお前がわたしの前でやって来たことを発表すれば、応用魔術の単位が5個や10個はすぐに取れるだろう」
「うーん。出し方を考えないと、騒ぎが起こりそうですね」
「まあな。大騒ぎは避けられんだろう。ギルモアの威光を最大限に利用させてもらうのだな」

 ステファノとしてはギルモア家の権威に頼るのは本意でなかったが、背に腹は代えられない。

「物は考えようと言う。どうせ次の研究報告会には出るのだろう? ならば、目立つことは避けられないさ」
「そうなりますかね? チームの報告は『印刷機』の発明になりそうです。これは正に情報革命そのものですね」

 情革研の思想に染まっていないドリーには、印刷機がどれほど画期的な発明であるか理解しきれない。同じ文書を何枚も作れるということにそれほど大きな価値があるのだろうかと、ぼんやりとした想像しかできないのだ。

 だが、ステファノの熱量を見て、これは一大事なのに違いないとドリーは確信した。この少年は空騒ぎをしない。自分の力についてはむしろ過小評価しすぎなくらいだ。
 ステファノが「革命だ」と言うのであれば、それは世の中を変えるほどのものに違いない。

「お前自身は何を研究するつもりだ? さっき話していた黒板の通信機化か?」
「そうですね。それはやるつもりです。でも、きっと秘匿案件になりますね」
「まあな。軍事的な価値が大きそうだからな」

 もし携帯可能なサイズで再現できるものであれば、軍隊運用の概念を覆す。鐘やラッパでの命令伝達は終わりを告げることになる。

「『魔術具』の発明を報告するかどうかで迷っています」
「それは……大事だな」

 一般人が魔術を使えるようになる。そんな道具を発表すれば、魔術界に嵐が吹き荒れることは間違いない。

「本当の目的は『生活魔道具』の普及なんです。普通の人たち、大多数の人間を幸せにするのは日々の生活に役立つ道具なので」
「それは魔術具とは違うのだな?」
「生活魔道具を生産するために『魔術具』を使うんです」

 ステファノなら魔術具でも、魔道具でも作り出せる。しかし、自分1人で社会が必要とするすべての道具を作り出せるはずがない。
 量産化のプロセスが必要であった。

「魔術具があれば、魔道具の量産化が可能です」
「魔道具を作る魔術具を発明するのか!」
「それだけではありません。魔術具自体・・・・・も魔術具で作ります」

 魔道具Aを作る魔術具AAを作り、その魔術具AAを作る魔術具AAAを作る。
 魔術具AAAで魔術具AAを1日100個作れるとすれば、100個の魔術具AAで魔道具Aを1日1万個作れる。

 魔道具B、魔道具Cにも同じことをすれば、ステファノは魔道具の種類に見合うだけの魔術具を作れば世の中を魔道具で埋め尽くすことができる。

「……途方もない想像だな。頭がくらくらしてきた」
「これを形にして報告すれば、俺はアカデミーにいられなくなるでしょう」
「いかにギルモア家の庇護があったとしても、それだけのことを為せばとてもかばい切れないだろうな」

 かばうというのもおかしな話ではある。社会全体に対する功労者としてほめたたえられてよい。
 だが、社会とはそれほど単純なものではない。ましてや善良なものでもなかった。

「既得権の持ち主たちがな……。騒ぐだろうな」
「そうでしょうね。下手をすれば命を狙われます」
「わかっていてもやるのだな?」

 目立つことを避け、狙われることを恐れて来たステファノが勝負に出ようとしていた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第337話 虹の王よ、来りて身を守れ! 蛇の巣!」

「そのままアカデミーを卒業するつもりで、すべてを3月の研究報告会でぶち上げます」

 言葉は勇ましいものだったが、ステファノの様子は静かだった。興奮も、葛藤も、怒りもなかった。

「そうか。それはまたせわしないな」
「たかだか3カ月のことですから」
「3カ月の大変さだと考えるか、3カ月経てば終わると考えるかだな」
「もう少しゆっくり勉強してみたかったし、魔術の訓練も続けたかったですね」

 ステファノは老人のような諦観を見せて、微笑んだ。

「どちらもここでしかできないということはない。続けたら良いさ」
「そうですね」

 ……

◆お楽しみに。
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