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第4章 魔術学園奮闘編
第303話 魔核は6つの属性の間で「振動」する。
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(「魔力」と呼ぶからそれが「力」であると誤解してしまうんだ)
太極玉はイデアのリンクを呼び出す核であって、魔術的現象を引き起こす「力」などではない。
どこか他所で起きるはずだった事象を借りて来て、世界的にはエネルギーの総量を一定に保つのだ。
(俺はこれを「魔核」と呼ぼう。魔核は6つの属性の間で「振動」する)
6つの属性は6つの「極」でもある。6極の間での魔核の振動こそ魔術的現象の本質であった。
(魔核が極相を変えて振動することによって、その性質が変わり、呼応する因力を呼び出すんだ)
現代科学をアナロジーとすれば、魔核は励起状態の性質によって「電場」や「電磁場」、「重力場」を形成し、物理現象を引き起こすとも考えられる。
選択した対象にユニークに紐ついた場を呼び出すことが魔法の神髄と言えた。
ステファノは「場」の理論を知らない。知らないながらも、魔核の状態が対象にのみ影響を与える「状況」を作り出すというところまで想像した。
この想像はこれまでの経験と一致し、魔術的現象を上手く説明できるとステファノは考えた。
(だいぶ魔法のフォーマット化ができたぞ。虹の王は世界を48のパターンに分類することを要求する。さらにそれは6つの極にグルーピングされ、最終的に陰と陽に大別される。それを1つに凝縮したものが魔核だ)
この思索が魔法行使のフォーマット化を促進したため、ステファノは遠隔魔法の発動方法を視覚化して考えることができた。
(標的鏡に対象を捉えることができればその周りに魔法円を描ける)
そのイメージ的投影により、対象と「場」との紐つけができる。ステファノの感覚がそう理解した。
複合魔法であれば複数の極を励起すればよい。
(今日の審査がやり易くなった。距離は5メートル。風と雷を組み合わせよう)
ステファノは試技のイメージを固めた。早速いつものノートに新しい発動方法を記録していく。
発見をした歓びにペンが踊った。
◆◆◆
「おっ、早いな、ステファノ」
2番目にやって来たのは今回もトーマであった。意外に時間に正確らしい。
「ちょうど良かった。これを渡しておこう」
トーマがごそごそと鞄から取り出したのはずしりとした小瓶であった。
「鉄粉だ。実家に頼んだ分とは別口だ。呪タウンでも買えるものだからな」
鉄板と一体化させる加工はキムラーヤ商会に頼んだが、トーマ自身が鉄粉を買い出して来たのだ。
鉄粉は金属加工で使用する以外にも用途がある。薬種として調合されることもあるのだ。
トーマが買ってきたのは粒径が0.1ミリメートル以下の鉄粉であった。
「細かすぎると舞い上がってしまうだろうと思ってな。取り扱う時は火気厳禁だ。念のため布で鼻と口を覆ってくれ」
本来は目も保護するべきであるが、ガラスが貴重な社会ではゴーグルは特殊で高価なものであった。
「万一目に入ったら、擦らずにすぐ水で洗い流せ」
「わかった。気をつけて扱うよ」
ステファノは見た目以上に重い小瓶を受け取った。ほんの一握りであるが、500グラムはある。
「こいつは俺のお守りにするつもりだ」
「お守りにしちゃ物騒じゃないか? 中級魔術の多重攻撃だろう?」
「籠めるのは『遁術』さ」
数粒の鉄粉に五遁の術を籠めて常備するつもりであった。
「例えば目くらましの炎を燃え上がらせる狐火の術。そいつをばらまいておいて逃げ出すとかね」
その都度術を行使することもできるが、同時に複数の場所で発動させるとなったら魔術具を使う必要がある。
時間差で発動させれば、多数の味方がいるように偽装することもできる。
「逃げることに随分ご執心だな」
ステファノの意図を聞いて、トーマが冷やかした。
「殺しに来る相手から逃げるのは大変だろう? 念には念を入れないとね」
おとなしそうなステファノが語るにしてはおどろおどろしい内容であった。
「お前、そんな修羅場を……」
経験したことがあるのかと聞こうとして、トーマはふとためらった。
(こいつは、本当に修羅場をくぐったことがあるのかもしれない)
ふとした時に透けて見える暗い影。そして、両手に残った醜い傷跡……。
「虫のいい話だとわかっているが、殺さずに逃げたいんだよ、俺は」
ステファノの声に痛みが伴っているように、トーマには聞こえた。
◆◆◆
「試作品のレンズが届いた」
ぶっきらぼうな言い方だが、サントスは喜んでいた。その感情が読み取れるほどには、ステファノもサントスとのつきあいが長くなっていた。
「大きな感光板に光を当てるには、普通の凸レンズでは上手く行かなかった」
「それはそうだ。光を集めてしまったら像が小さくなるもんな」
「そういうこと。だから後ろに凹レンズを入れた」
レンズ構成以外は極めて単純な構造で「撮影器」は実現できた。レンズから感光板までの距離を適切に調節することによって焦点を合わせる。余計な光が入らないよう、レンズ部に蛇腹構造の覆いをつけた。
撮影の開始と終了はレンズ覆いの脱着で行う。
撮影時の映像確認は感光部に暗幕をかぶせ、撮影者がその中に潜り込んで目視する。
「試し撮りの結果がこれ」
サントスは分厚い封筒をスールーに渡した。中には10枚の風景画像が入っていた。
「これが撮影器で写した風景画かい?」
「そういうこと。失敗作は除いたが」
日曜1日をかけた成果がこれであった。
オレンジがかった黄色の単色画は、お世辞にも明瞭とは言えなかった。しかし、絵筆で描く像とはまるで異なる正確さで風景が映し出されている。
「ぼんやりしているが、使い道次第では役に立つな。10秒でこれが写せるとはたいしたものだ」
「最初にしちゃあ上出来じゃないか? 職人に改良させればもっとくっきりした絵になるかもしれん」
スールーとトーマが口々に感想を述べた。
サントスは言わなかったが、1枚写しては焦点距離を調整し、露光時間を変えるという試行錯誤を繰り返した結果であった。この10倍の感光紙を使ったのだ。
「これが科学か」
ステファノは絵の1枚を手にしたまま、感動していた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第304話 ステファノの常識は世間の非常識!」
「サントスさん、4人で記念の肖像画を写しませんか?」
「おっ? ステファノ、良いことを言うじゃねぇか? そうしよう!」
ステファノの提案をトーマも後押しした。
「サントス、できるかね?」
「できる」
4人は撮影のために戸外に出た。室内では露光時間が長くなってしまうためだ。
サントスは櫓のような台に撮影器を載せて準備した。ステファノとトーマは持ち出した椅子を並べる。
「椅子は1つで良い。スールーが座って、ステファノとトーマは後ろに立つ」
暗幕に首を突っ込んだまま、サントスがくぐもった声を出した。
……
◆お楽しみに。
太極玉はイデアのリンクを呼び出す核であって、魔術的現象を引き起こす「力」などではない。
どこか他所で起きるはずだった事象を借りて来て、世界的にはエネルギーの総量を一定に保つのだ。
(俺はこれを「魔核」と呼ぼう。魔核は6つの属性の間で「振動」する)
6つの属性は6つの「極」でもある。6極の間での魔核の振動こそ魔術的現象の本質であった。
(魔核が極相を変えて振動することによって、その性質が変わり、呼応する因力を呼び出すんだ)
現代科学をアナロジーとすれば、魔核は励起状態の性質によって「電場」や「電磁場」、「重力場」を形成し、物理現象を引き起こすとも考えられる。
選択した対象にユニークに紐ついた場を呼び出すことが魔法の神髄と言えた。
ステファノは「場」の理論を知らない。知らないながらも、魔核の状態が対象にのみ影響を与える「状況」を作り出すというところまで想像した。
この想像はこれまでの経験と一致し、魔術的現象を上手く説明できるとステファノは考えた。
(だいぶ魔法のフォーマット化ができたぞ。虹の王は世界を48のパターンに分類することを要求する。さらにそれは6つの極にグルーピングされ、最終的に陰と陽に大別される。それを1つに凝縮したものが魔核だ)
この思索が魔法行使のフォーマット化を促進したため、ステファノは遠隔魔法の発動方法を視覚化して考えることができた。
(標的鏡に対象を捉えることができればその周りに魔法円を描ける)
そのイメージ的投影により、対象と「場」との紐つけができる。ステファノの感覚がそう理解した。
複合魔法であれば複数の極を励起すればよい。
(今日の審査がやり易くなった。距離は5メートル。風と雷を組み合わせよう)
ステファノは試技のイメージを固めた。早速いつものノートに新しい発動方法を記録していく。
発見をした歓びにペンが踊った。
◆◆◆
「おっ、早いな、ステファノ」
2番目にやって来たのは今回もトーマであった。意外に時間に正確らしい。
「ちょうど良かった。これを渡しておこう」
トーマがごそごそと鞄から取り出したのはずしりとした小瓶であった。
「鉄粉だ。実家に頼んだ分とは別口だ。呪タウンでも買えるものだからな」
鉄板と一体化させる加工はキムラーヤ商会に頼んだが、トーマ自身が鉄粉を買い出して来たのだ。
鉄粉は金属加工で使用する以外にも用途がある。薬種として調合されることもあるのだ。
トーマが買ってきたのは粒径が0.1ミリメートル以下の鉄粉であった。
「細かすぎると舞い上がってしまうだろうと思ってな。取り扱う時は火気厳禁だ。念のため布で鼻と口を覆ってくれ」
本来は目も保護するべきであるが、ガラスが貴重な社会ではゴーグルは特殊で高価なものであった。
「万一目に入ったら、擦らずにすぐ水で洗い流せ」
「わかった。気をつけて扱うよ」
ステファノは見た目以上に重い小瓶を受け取った。ほんの一握りであるが、500グラムはある。
「こいつは俺のお守りにするつもりだ」
「お守りにしちゃ物騒じゃないか? 中級魔術の多重攻撃だろう?」
「籠めるのは『遁術』さ」
数粒の鉄粉に五遁の術を籠めて常備するつもりであった。
「例えば目くらましの炎を燃え上がらせる狐火の術。そいつをばらまいておいて逃げ出すとかね」
その都度術を行使することもできるが、同時に複数の場所で発動させるとなったら魔術具を使う必要がある。
時間差で発動させれば、多数の味方がいるように偽装することもできる。
「逃げることに随分ご執心だな」
ステファノの意図を聞いて、トーマが冷やかした。
「殺しに来る相手から逃げるのは大変だろう? 念には念を入れないとね」
おとなしそうなステファノが語るにしてはおどろおどろしい内容であった。
「お前、そんな修羅場を……」
経験したことがあるのかと聞こうとして、トーマはふとためらった。
(こいつは、本当に修羅場をくぐったことがあるのかもしれない)
ふとした時に透けて見える暗い影。そして、両手に残った醜い傷跡……。
「虫のいい話だとわかっているが、殺さずに逃げたいんだよ、俺は」
ステファノの声に痛みが伴っているように、トーマには聞こえた。
◆◆◆
「試作品のレンズが届いた」
ぶっきらぼうな言い方だが、サントスは喜んでいた。その感情が読み取れるほどには、ステファノもサントスとのつきあいが長くなっていた。
「大きな感光板に光を当てるには、普通の凸レンズでは上手く行かなかった」
「それはそうだ。光を集めてしまったら像が小さくなるもんな」
「そういうこと。だから後ろに凹レンズを入れた」
レンズ構成以外は極めて単純な構造で「撮影器」は実現できた。レンズから感光板までの距離を適切に調節することによって焦点を合わせる。余計な光が入らないよう、レンズ部に蛇腹構造の覆いをつけた。
撮影の開始と終了はレンズ覆いの脱着で行う。
撮影時の映像確認は感光部に暗幕をかぶせ、撮影者がその中に潜り込んで目視する。
「試し撮りの結果がこれ」
サントスは分厚い封筒をスールーに渡した。中には10枚の風景画像が入っていた。
「これが撮影器で写した風景画かい?」
「そういうこと。失敗作は除いたが」
日曜1日をかけた成果がこれであった。
オレンジがかった黄色の単色画は、お世辞にも明瞭とは言えなかった。しかし、絵筆で描く像とはまるで異なる正確さで風景が映し出されている。
「ぼんやりしているが、使い道次第では役に立つな。10秒でこれが写せるとはたいしたものだ」
「最初にしちゃあ上出来じゃないか? 職人に改良させればもっとくっきりした絵になるかもしれん」
スールーとトーマが口々に感想を述べた。
サントスは言わなかったが、1枚写しては焦点距離を調整し、露光時間を変えるという試行錯誤を繰り返した結果であった。この10倍の感光紙を使ったのだ。
「これが科学か」
ステファノは絵の1枚を手にしたまま、感動していた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第304話 ステファノの常識は世間の非常識!」
「サントスさん、4人で記念の肖像画を写しませんか?」
「おっ? ステファノ、良いことを言うじゃねぇか? そうしよう!」
ステファノの提案をトーマも後押しした。
「サントス、できるかね?」
「できる」
4人は撮影のために戸外に出た。室内では露光時間が長くなってしまうためだ。
サントスは櫓のような台に撮影器を載せて準備した。ステファノとトーマは持ち出した椅子を並べる。
「椅子は1つで良い。スールーが座って、ステファノとトーマは後ろに立つ」
暗幕に首を突っ込んだまま、サントスがくぐもった声を出した。
……
◆お楽しみに。
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