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第4章 魔術学園奮闘編
第302話 我に太極玉あり。
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(さてと。3時の情革研会合まで時間が空いたな)
チャレンジ・テーマの論文作成は一通り終了した。
(今日は研究に集中しようかな。それなら研究室へ行こうか。そのまま会合に突入できるし)
昨日は急遽夕食会を催して、メンバーに手料理を振舞った。スープとチャーハン、そして簡単なソテーを作っただけだが、「手料理」に飢えていた3人にはいたく好評だった。
(ケントクさんにチャーハンのレシピを教わっておいて良かった。最高の餞別だったな)
ネルソン邸従業員一同から入学祝に何か贈ると言われた時、ステファノは迷わずケントクのレシピを望んだ。
(荷物にならないし、使ってもなくならない。餞別にはもってこいだ)
プリシラには呆れられたが、ケントクはまんざらでもなさそうだった。
スールーからもらった合鍵で研究室の扉を開ける。ステファノが一番乗りだった。
料理の臭いがかすかに残っている気がしたので、窓を開け放って空気を入れ替えることにした。
(そう言えば、今日は複合魔術審査の日だな。どんな術を見せようか?)
ドリーからは術の巧拙は関係ないと言われている。とはいえ、あまり無様な術を晒すわけにもいかない。
ドリーの顔を潰したくないし、ここにはいないヨシズミ師匠の名誉も守りたい。
(自分にこんな見栄があるとは思わなかったよ。ほどほどにしないとな)
いつものことだが、悪目立ちを避けるために術の威力は控えめにしよう。せいぜい相手を気絶させる程度の強さにとどめる。
(気絶かあ。気絶というと、やっぱり雷かな? 距離を短くしてもらうか)
ステファノの実力なら20メートル先の標的でも雷を当てられるが、それでは非常識な術になる。5メートルにしてもらえば普通っぽく見えそうな気がした。
(さて、どの属性と組み合わせるか? 風はないな。追加効果にならない)
風を吹かせて相手をかく乱しつつ雷を当てるくらいの使い道しか思いつかない。
(水は雷気を通すけど、威力を高めたいわけじゃないからなあ)
その意味では火属性もしっくりこない。威力が強くなりすぎるだろうと思われた。
(土か光の2択かなあ。どんぐりに雷気をまとわせて、土魔力で飛ばそうか?)
無難な組み合わせのように思われた。鎧武者を相手にするのに良い複合技だろう。
(光だとどうなるかなあ。やっぱり目つぶしか? ん? そう言えば、今日の授業で……)
魔術学の授業で学んだ魔術円が頭に浮かんだ。授業用ノートを引っ張り出して眺めてみる。ページをめくると、円で囲まれた六芒星がそこにあった。
(上半分に火、水、風。下半分に雷、光、土。「熱」と「力」か)
魔術円を「熱」と「力」という双極循環と見れば、それは太極図と一致する。
(陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転ず。熱と力は入れ替わる様相に過ぎない。2つで1つなんだ)
ステファノは「終焉の紫」が光属性の魔力であると考えていたのだが、そうではないのかもしれないと思い始めていた。陽気と陰気が2つで1つのものであるなら、陰気がそのまま光属性というのはおかしいのではないか?
(「始原の赤」と「終焉の紫」、陽気と陰気を合わせて1組で魔力の基礎を表わすのか?)
これまでは魔力を呼び出す素として、イドである陽気が基本だと思っていた。そうではなくて「太極玉」が魔力の素だったのかもしれない。
(それなら、魔力錬成はそもそも太極玉から始まることになる)
「色は匂えど、散りぬるを~」
言葉と共に、ステファノの眼前に太極玉が生まれた。真名を得た太極玉は、魔力そのものとしてそこに存在していた。
「ん~」
そして、太極玉は消え去った。
(魔力は1つ。熱と力の相互変換の中で属性を変えて発現するのか)
複合魔術とは複数の魔力を重ね合わせるものではなかった。元が1つである「魔力」の複数属性が顕現するだけのことだ。もちろん単一魔術よりも取り扱いは難しい。
(「諸行無常」とは生々流転する魔力の様相そのものを示しているのか。虹の王の48型も1つの魔力を変化させているだけなんだ)
だからこそ虹の王は言った。
「四十八体の眷属悉くを従えれば、即ち阿吽の間の道とならん」
当然であった。魔力は常に阿吽、すなわち太極玉そのものであったのだから。
「我に太極玉あり」
ステファノは太極玉を脳裏に呼び出した。即座に魔視脳が賦活状態に入る。そして、そのまま6属性を同時に顕現させた。
このままどの属性でも魔術を放てる状態であることが実感できる。
しかし、術には変えず、そのまま励起状態を維持する。
脳裏に魔術円を構成する。六芒星の頂点を1つずつ活性化させ、属性から属性へと移動させる。
切り替えが早くなり、すべての属性が同時に光っているように見えてきた。
今度は2属性の組み合わせに移行する。虹の王の型である。48パターンの点滅が高速になり、またも全属性が同時に光を放つ。魔術円がひときわ明るく浮かび上がった。
「いろはにほへと ちりぬるを~」
魔力の素である太極玉が、魔術円の中心で大きさを増し、ぐるぐると回り始めた。
魔術円がまばゆいまでに光輝いたところで、ステファノは集中を解いた。
「ん~」
(属性はなかった。魔力とは初めから1つであり、1つのままだったんだ)
それは秩序であり、様相であった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第303話 魔核は6つの属性の間で「振動」する。」
(「魔力」と呼ぶからそれが「力」であると誤解してしまうんだ)
太極玉はイデアのリンクを呼び出す核であって、魔術的現象を引き起こす「力」などではない。
どこか他所で起きるはずだった事象を借りて来て、世界的にはエネルギーの総量を一定に保つのだ。
(俺はこれを「魔核」と呼ぼう。魔核は6つの属性の間で「振動」する)
6つの属性は6つの「極」でもある。6極の間での魔核の振動こそ魔術的現象の本質であった。
(魔核が極相を変えて振動することによって、その性質が変わり、呼応する因力を呼び出すんだ)
……
◆お楽しみに。
チャレンジ・テーマの論文作成は一通り終了した。
(今日は研究に集中しようかな。それなら研究室へ行こうか。そのまま会合に突入できるし)
昨日は急遽夕食会を催して、メンバーに手料理を振舞った。スープとチャーハン、そして簡単なソテーを作っただけだが、「手料理」に飢えていた3人にはいたく好評だった。
(ケントクさんにチャーハンのレシピを教わっておいて良かった。最高の餞別だったな)
ネルソン邸従業員一同から入学祝に何か贈ると言われた時、ステファノは迷わずケントクのレシピを望んだ。
(荷物にならないし、使ってもなくならない。餞別にはもってこいだ)
プリシラには呆れられたが、ケントクはまんざらでもなさそうだった。
スールーからもらった合鍵で研究室の扉を開ける。ステファノが一番乗りだった。
料理の臭いがかすかに残っている気がしたので、窓を開け放って空気を入れ替えることにした。
(そう言えば、今日は複合魔術審査の日だな。どんな術を見せようか?)
ドリーからは術の巧拙は関係ないと言われている。とはいえ、あまり無様な術を晒すわけにもいかない。
ドリーの顔を潰したくないし、ここにはいないヨシズミ師匠の名誉も守りたい。
(自分にこんな見栄があるとは思わなかったよ。ほどほどにしないとな)
いつものことだが、悪目立ちを避けるために術の威力は控えめにしよう。せいぜい相手を気絶させる程度の強さにとどめる。
(気絶かあ。気絶というと、やっぱり雷かな? 距離を短くしてもらうか)
ステファノの実力なら20メートル先の標的でも雷を当てられるが、それでは非常識な術になる。5メートルにしてもらえば普通っぽく見えそうな気がした。
(さて、どの属性と組み合わせるか? 風はないな。追加効果にならない)
風を吹かせて相手をかく乱しつつ雷を当てるくらいの使い道しか思いつかない。
(水は雷気を通すけど、威力を高めたいわけじゃないからなあ)
その意味では火属性もしっくりこない。威力が強くなりすぎるだろうと思われた。
(土か光の2択かなあ。どんぐりに雷気をまとわせて、土魔力で飛ばそうか?)
無難な組み合わせのように思われた。鎧武者を相手にするのに良い複合技だろう。
(光だとどうなるかなあ。やっぱり目つぶしか? ん? そう言えば、今日の授業で……)
魔術学の授業で学んだ魔術円が頭に浮かんだ。授業用ノートを引っ張り出して眺めてみる。ページをめくると、円で囲まれた六芒星がそこにあった。
(上半分に火、水、風。下半分に雷、光、土。「熱」と「力」か)
魔術円を「熱」と「力」という双極循環と見れば、それは太極図と一致する。
(陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転ず。熱と力は入れ替わる様相に過ぎない。2つで1つなんだ)
ステファノは「終焉の紫」が光属性の魔力であると考えていたのだが、そうではないのかもしれないと思い始めていた。陽気と陰気が2つで1つのものであるなら、陰気がそのまま光属性というのはおかしいのではないか?
(「始原の赤」と「終焉の紫」、陽気と陰気を合わせて1組で魔力の基礎を表わすのか?)
これまでは魔力を呼び出す素として、イドである陽気が基本だと思っていた。そうではなくて「太極玉」が魔力の素だったのかもしれない。
(それなら、魔力錬成はそもそも太極玉から始まることになる)
「色は匂えど、散りぬるを~」
言葉と共に、ステファノの眼前に太極玉が生まれた。真名を得た太極玉は、魔力そのものとしてそこに存在していた。
「ん~」
そして、太極玉は消え去った。
(魔力は1つ。熱と力の相互変換の中で属性を変えて発現するのか)
複合魔術とは複数の魔力を重ね合わせるものではなかった。元が1つである「魔力」の複数属性が顕現するだけのことだ。もちろん単一魔術よりも取り扱いは難しい。
(「諸行無常」とは生々流転する魔力の様相そのものを示しているのか。虹の王の48型も1つの魔力を変化させているだけなんだ)
だからこそ虹の王は言った。
「四十八体の眷属悉くを従えれば、即ち阿吽の間の道とならん」
当然であった。魔力は常に阿吽、すなわち太極玉そのものであったのだから。
「我に太極玉あり」
ステファノは太極玉を脳裏に呼び出した。即座に魔視脳が賦活状態に入る。そして、そのまま6属性を同時に顕現させた。
このままどの属性でも魔術を放てる状態であることが実感できる。
しかし、術には変えず、そのまま励起状態を維持する。
脳裏に魔術円を構成する。六芒星の頂点を1つずつ活性化させ、属性から属性へと移動させる。
切り替えが早くなり、すべての属性が同時に光っているように見えてきた。
今度は2属性の組み合わせに移行する。虹の王の型である。48パターンの点滅が高速になり、またも全属性が同時に光を放つ。魔術円がひときわ明るく浮かび上がった。
「いろはにほへと ちりぬるを~」
魔力の素である太極玉が、魔術円の中心で大きさを増し、ぐるぐると回り始めた。
魔術円がまばゆいまでに光輝いたところで、ステファノは集中を解いた。
「ん~」
(属性はなかった。魔力とは初めから1つであり、1つのままだったんだ)
それは秩序であり、様相であった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第303話 魔核は6つの属性の間で「振動」する。」
(「魔力」と呼ぶからそれが「力」であると誤解してしまうんだ)
太極玉はイデアのリンクを呼び出す核であって、魔術的現象を引き起こす「力」などではない。
どこか他所で起きるはずだった事象を借りて来て、世界的にはエネルギーの総量を一定に保つのだ。
(俺はこれを「魔核」と呼ぼう。魔核は6つの属性の間で「振動」する)
6つの属性は6つの「極」でもある。6極の間での魔核の振動こそ魔術的現象の本質であった。
(魔核が極相を変えて振動することによって、その性質が変わり、呼応する因力を呼び出すんだ)
……
◆お楽しみに。
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