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第4章 魔術学園奮闘編
第300話 自分にできることをしなさい。
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「ステファノ、どうかしましたか?」
論文を書き終えた帰り、カウンターで荷物を受け取るステファノに、ハンニバルが声をかけた。
「自分の思い上がりに気づかされました」
何と言って良いかわからず、ステファノはそう答えた。
「そうですか。……良かったですね」
「えっ?」
思いがけぬ言葉にステファノは顔を上げた。
「気づかぬよりは気づいた方がましだ。そうは思いませんか?」
「……はい。そうかもしれません」
「うむ。考えることは必要だが、考えすぎるのもよろしくない。わかりますか?」
「はい」
ハンニバルはステファノを気遣ってくれていた。
「自分にできることをしなさい。それで良いのです」
「俺にできることですか? 俺には……料理くらいしかできませんが」
「ならば、余計なことを考えず、この鍋で旨い料理を作りなさい」
「旨い料理……」
そう言えばしばらく料理など作ったことがなかった。仕事以外で料理をすることなど、考えたこともない。
「ステファノ。図書館は悩みを抱えて来る場所ではない。ここは夢の国です。知識を集めた宝石箱なのです。暗い顔は似合わない」
ハンニバルは笑った。その言葉を心から信じていることが、ステファノにはわかった。
『何だその面は? 折角の料理がまずくなるぜ!』
へこたれた自分をどやしつけるバンスの声が聞こえる。
『うじうじしてねえで、こいつを食ってみろ! しみったれた気分なんぞ、ふっ飛んじまわあ!』
実際、旨い料理を頬張ればくだらない悩みなど忘れてしまうのだった。
「そうだ。少しは良い顔になったじゃないか」
「ありがとうございます。帰ります!」
「ああ。いつでもまた来なさい」
(よし! 今日の夕飯は研究室で作ろう。材料を仕入れなくちゃ)
ステファノは再び売店を訪れ、献立を考えながら必要な買い出しをするのだった。
◆◆◆
「トーマ! いるか?」
「ステファノか? 入れ」
「今日の夜なんだが、研究室で食わないか? 俺が料理を作る」
「ああん? どうした、急に? 別に構わんが」
トーマはステファノの勢いに押されて、首を縦に振った。
「よし! じゃあ、すまんがサントスさんとスールーさんにも声をかけてくれ。時間はそうだな、7時にしよう」
「おう。7時に研究室だな? 何か必要なものはあるか?」
「それじゃあ、ワインでも持って来てくれ」
「任せろ。ちょうど良い奴があるぞ」
「じゃあ頼む。またあとでな」
(さて、仕込みにかかるぞ。時間は十分にある。丁寧にやろう)
ステファノは台車を借りて、道具と材料を研究室に持ち込んだ。
途中何人かの生徒、教師とすれ違ったが、もはやステファノの奇行を気にする人はいない。台車を押し歩くくらいは日常風景であった。
荷物を運ぶステファノの足取りは軽かった。
◆◆◆
月曜日。2度目の魔術学入門は、論文の回収から始まった。
魔力がどこから来たものかというチャレンジ・テーマに対して答えをまとめよという課題であった。
蓋を開けて見ると、論文を提出したのはステファノだけであった。
他の生徒は無理をしてチャレンジに挑むよりも、きちんと学科を学んだ方がためになると判断したようだ。
審査の結果は後日連絡する、とダイアン先生は言った。もちろんそれはクラスへの建前であり、ステファノの合格は既に決定している。
「さて、それでは今日は魔力の属性について学びましょう」
(本当に基礎から教えるんだな。何も知らない俺にとっては助かる話だ)
「えー? 今更属性の講義ですかあ?」
クラスのあちこちからは失望の声が上がった。既に家庭教師や魔術教室で手ほどきを受けて来た生徒たちであろう。
同じことをまたやらされるのかと、うんざりする気持ちはわからないでもなかった。
(わかるけど、ここは我慢しようよ……)
「属性については勉強済みだという人がいるようですね? あなたもそうですか?」
ダイアン先生は先程不満の声を上げていた前列の生徒を指名した。
「……はい。やったことのある内容なので、つい」
不平を漏らしたことに気まずい気持ちはあるのだろう、口をとがらせながらも言葉では謝った。
「すみませんでした」
「気にしていませんよ。おさらいのつもりで一緒に勉強してください。さて、属性の種類を言ってみてくれますか?」
「はい? 火、水、風、雷、土、光の6種類です」
生徒は何を当たり前のことをという顔で答えた。
「間違いありませんね? 異論がある人はいますか?」
(これはどういう狙いだろう? 6属性以外の魔力が存在するのか?)
ダイアンの問いかけに応える生徒はいなかった。
「よろしい。現代の魔術学では6つの属性を唯一無二の分類方法としています。あなたのいう通りですね」
一旦言葉を切ってダイアンはクラスを見渡した。ゆっくりと短杖を取り出し、黒板に向けて一振りする。
そこに描き出されたのは「六芒星」であった。一番上の頂点に「水」、両隣に「火」と「風」、一番下に「光」、両隣に「雷」と「土」が配されていた。
「よく見られる属性図です。この図について知っていることはありますか?」
先ほどの生徒が手を挙げて答えた。
「上半分の火、水、風は『熱』に関連しており、下半分の雷、光、土は『見えない力』が関わっています」
「他の皆さんもそれでよろしいですか? はい、ありがとうございました」
ダイアン先生が口中で何事か唱え、短杖を振ると、六芒星に「熱」と「力」が書き入れられた。
(おお! 黒板は魔力で書き込み自由なんだな。今まで見た魔道具の中で、一番不思議だ。声だけではなく、考えまで読み取らせるのか?)
どうしてもステファノは魔道具に関心を寄せてしまう。どうやったら再現できるかと考えてしまうのだ。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第301話 これは『魔術円』と呼ばれ古来、魔力を象徴するシンボルとされています。」
「火、水、風の3属性と『熱』が深くかかわっているという点は理解できますか? 火は熱が起こす現象であり、自ら熱を生み出しますね。空気から熱を奪えば水が得られます。風は熱い空気と冷たい空気が存在することにより流れます」
ダイアン先生の説明を聞きながら、ステファノの考えはさまよう。
(熱とは振動であり、運動だ。火、水、風の3属性は「運動」という1つの属性と言い換えることもできるか?)
「魔術において『土』とは形のある『泥』を指したものではなく、『土』が持つ引力を象徴しているということは理解できますか? 結構です」
……
◆お楽しみに。
論文を書き終えた帰り、カウンターで荷物を受け取るステファノに、ハンニバルが声をかけた。
「自分の思い上がりに気づかされました」
何と言って良いかわからず、ステファノはそう答えた。
「そうですか。……良かったですね」
「えっ?」
思いがけぬ言葉にステファノは顔を上げた。
「気づかぬよりは気づいた方がましだ。そうは思いませんか?」
「……はい。そうかもしれません」
「うむ。考えることは必要だが、考えすぎるのもよろしくない。わかりますか?」
「はい」
ハンニバルはステファノを気遣ってくれていた。
「自分にできることをしなさい。それで良いのです」
「俺にできることですか? 俺には……料理くらいしかできませんが」
「ならば、余計なことを考えず、この鍋で旨い料理を作りなさい」
「旨い料理……」
そう言えばしばらく料理など作ったことがなかった。仕事以外で料理をすることなど、考えたこともない。
「ステファノ。図書館は悩みを抱えて来る場所ではない。ここは夢の国です。知識を集めた宝石箱なのです。暗い顔は似合わない」
ハンニバルは笑った。その言葉を心から信じていることが、ステファノにはわかった。
『何だその面は? 折角の料理がまずくなるぜ!』
へこたれた自分をどやしつけるバンスの声が聞こえる。
『うじうじしてねえで、こいつを食ってみろ! しみったれた気分なんぞ、ふっ飛んじまわあ!』
実際、旨い料理を頬張ればくだらない悩みなど忘れてしまうのだった。
「そうだ。少しは良い顔になったじゃないか」
「ありがとうございます。帰ります!」
「ああ。いつでもまた来なさい」
(よし! 今日の夕飯は研究室で作ろう。材料を仕入れなくちゃ)
ステファノは再び売店を訪れ、献立を考えながら必要な買い出しをするのだった。
◆◆◆
「トーマ! いるか?」
「ステファノか? 入れ」
「今日の夜なんだが、研究室で食わないか? 俺が料理を作る」
「ああん? どうした、急に? 別に構わんが」
トーマはステファノの勢いに押されて、首を縦に振った。
「よし! じゃあ、すまんがサントスさんとスールーさんにも声をかけてくれ。時間はそうだな、7時にしよう」
「おう。7時に研究室だな? 何か必要なものはあるか?」
「それじゃあ、ワインでも持って来てくれ」
「任せろ。ちょうど良い奴があるぞ」
「じゃあ頼む。またあとでな」
(さて、仕込みにかかるぞ。時間は十分にある。丁寧にやろう)
ステファノは台車を借りて、道具と材料を研究室に持ち込んだ。
途中何人かの生徒、教師とすれ違ったが、もはやステファノの奇行を気にする人はいない。台車を押し歩くくらいは日常風景であった。
荷物を運ぶステファノの足取りは軽かった。
◆◆◆
月曜日。2度目の魔術学入門は、論文の回収から始まった。
魔力がどこから来たものかというチャレンジ・テーマに対して答えをまとめよという課題であった。
蓋を開けて見ると、論文を提出したのはステファノだけであった。
他の生徒は無理をしてチャレンジに挑むよりも、きちんと学科を学んだ方がためになると判断したようだ。
審査の結果は後日連絡する、とダイアン先生は言った。もちろんそれはクラスへの建前であり、ステファノの合格は既に決定している。
「さて、それでは今日は魔力の属性について学びましょう」
(本当に基礎から教えるんだな。何も知らない俺にとっては助かる話だ)
「えー? 今更属性の講義ですかあ?」
クラスのあちこちからは失望の声が上がった。既に家庭教師や魔術教室で手ほどきを受けて来た生徒たちであろう。
同じことをまたやらされるのかと、うんざりする気持ちはわからないでもなかった。
(わかるけど、ここは我慢しようよ……)
「属性については勉強済みだという人がいるようですね? あなたもそうですか?」
ダイアン先生は先程不満の声を上げていた前列の生徒を指名した。
「……はい。やったことのある内容なので、つい」
不平を漏らしたことに気まずい気持ちはあるのだろう、口をとがらせながらも言葉では謝った。
「すみませんでした」
「気にしていませんよ。おさらいのつもりで一緒に勉強してください。さて、属性の種類を言ってみてくれますか?」
「はい? 火、水、風、雷、土、光の6種類です」
生徒は何を当たり前のことをという顔で答えた。
「間違いありませんね? 異論がある人はいますか?」
(これはどういう狙いだろう? 6属性以外の魔力が存在するのか?)
ダイアンの問いかけに応える生徒はいなかった。
「よろしい。現代の魔術学では6つの属性を唯一無二の分類方法としています。あなたのいう通りですね」
一旦言葉を切ってダイアンはクラスを見渡した。ゆっくりと短杖を取り出し、黒板に向けて一振りする。
そこに描き出されたのは「六芒星」であった。一番上の頂点に「水」、両隣に「火」と「風」、一番下に「光」、両隣に「雷」と「土」が配されていた。
「よく見られる属性図です。この図について知っていることはありますか?」
先ほどの生徒が手を挙げて答えた。
「上半分の火、水、風は『熱』に関連しており、下半分の雷、光、土は『見えない力』が関わっています」
「他の皆さんもそれでよろしいですか? はい、ありがとうございました」
ダイアン先生が口中で何事か唱え、短杖を振ると、六芒星に「熱」と「力」が書き入れられた。
(おお! 黒板は魔力で書き込み自由なんだな。今まで見た魔道具の中で、一番不思議だ。声だけではなく、考えまで読み取らせるのか?)
どうしてもステファノは魔道具に関心を寄せてしまう。どうやったら再現できるかと考えてしまうのだ。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第301話 これは『魔術円』と呼ばれ古来、魔力を象徴するシンボルとされています。」
「火、水、風の3属性と『熱』が深くかかわっているという点は理解できますか? 火は熱が起こす現象であり、自ら熱を生み出しますね。空気から熱を奪えば水が得られます。風は熱い空気と冷たい空気が存在することにより流れます」
ダイアン先生の説明を聞きながら、ステファノの考えはさまよう。
(熱とは振動であり、運動だ。火、水、風の3属性は「運動」という1つの属性と言い換えることもできるか?)
「魔術において『土』とは形のある『泥』を指したものではなく、『土』が持つ引力を象徴しているということは理解できますか? 結構です」
……
◆お楽しみに。
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