上 下
290 / 624
第4章 魔術学園奮闘編

第290話 ステファノ魔道具製作を志す。

しおりを挟む
「いつでもというわけにはいきませんが、材料さえ揃えれば料理はできますよ」
「良いねえ、手料理。憧れるぞ!」

 スールーは依然としてノリノリだった。

「落ちつけ、スールー。報告が先」

 さすがにサントスはスールーの扱いに慣れていた。それ以上スールーが舞い上がる前に話を戻した。

「いつものように俺から。土管が届いた」

 注文していた土管が10本届いていた。小屋の隅にロープで縛って置いてある。

「伝声管としての使い道と気送管としての使い道。両方を試験できる」
「そのためには拡声器の改良版が必要ですね」

 サントスとトーマが図面を引き直した拡声器はまだ出来上がっていない。今のところは10本の土管をつないで音の減衰状況を観測することしかできない。

 サントスは基準となる音を発生させる道具としてベルに鉄球を落とす仕掛けを用意していた。同じ高さから鉄球を落とし、何秒後まで音が聞こえるかで音の減衰状況を比較する予定であった。

「10メートル先まで行ったり来たりはやってられない。トーマたちに手伝ってもらう」
「何だか楽しそうですね」

 ステファノは他人と協力して仕事をするという経験がない。親方との仕事を除いては。
 料理以外で仕事を分担するということに、少なからず興味を覚えていた。

「実験てのは同じことの繰り返しが多いからな。そんなに楽しいもんじゃねえぞ?」

 職人の手伝いをさせられたことのあるトーマは、顔をしかめた。

 しかし、同じことの繰り返しをステファノ以上に経験して来た人間はこの場にいない。飯屋の下働きに比べれば、実験の単調さなどたかが知れている。

「音の伝わり方を測るとなると、雑音がない時間にやる必要があるな。丁度土曜日だ。今日の深夜に集まらないか?」

 トーマの発案で、深夜12時に再集合し、野外で実験することになった。

「鉄管はまだ届かない。つき次第同じ実験をやる」
「了解です。連日夜更かしはきついですが、たまになら問題ないでしょう」

 サントスの提案にステファノが同意した。

「気送管としての実験。圧縮機はまだできないから、ステファノの魔術で風を送ってほしい」
「俺は良いんですが、アカデミーの規則で魔術は勝手に使えません。試射場に持ち込むか、それとも……」

 ステファノは考え込んだ。

「いちいち試射場に土管を運ぶのは大変だな。第一迷惑だろう? 他に方法はないのか?」

 スールーはステファノとトーマの顔を交互に見た。

「魔道具を使いますか?」

 ステファノは代案を口にした。
 魔道具の使用は魔術行使とはみなされない。その規則を逆手にとって、送風の魔道具を自作しようというのだ。

「自分で作るつもりか?」
「そんなに簡単にできるのか?」

 スールーとサントスが口々に驚きの言葉を発した。

「風を送るだけですからね。この際生活道具一式を魔道具で作ってみましょうか?」

 ステファノが考えているのは種火の術や灯の術を籠めた簡単な生活道具である。その程度のものならさほど珍しくもない。

「生徒の中にも魔道具製作を志している人がいるんじゃありませんか?」
「うん。数は少ないが、聞いたことはある」

 さすがにスールーは顔が広かった。

「魔道具師になるには随分と苦労するものだと聞いたよ? 魔力を安定させたり、物に伝えるのは特殊な訓練を要するとか」
「俺も仕事柄聞いたことがあるぜ。まず、中級レベルの魔力がなければなれないし、トップクラスの魔力操作ができないと道具に魔力を籠めることはできないそうだ」

 トーマも魔道具師と会話したことがあった。1万人に1人の中級魔術師の中でも、ほんの一握りしか魔道具師の資質を持つ者はいないと。

「そんなに珍しいんですか? じゃあ、値段の方も高いんでしょうか?」
「それはな。希少価値というのはいつでも高値を生むものさ」
「ええー、そうですか。教室で使っている拡声器を見本として手に入れられないかと思ったんですが……」

 そんなに高価なものとあっては、試しに買ってみることもできない。

「さすがに魔道具には手を出せないよ。借りるのが精いっぱいかな」
「ああ、やっぱり。教務課で貸してもらえたのはラッキーでした」
「といっても見るだけだろう? 分解するわけにはいかないからな」

 ステファノの言葉に反応したトーマであったが、やはり興味の中心は道具としての材質や構造にあるようだった。

「そう言えば、送風機を見せてもらいました。あいにく故障中でしたが原理はわかりましたよ」
「ほう? 気送管用の魔道具に応用できるのか?」
「いけると思います。実物はこんな形をしていたんですが、それはきっとこういう理由じゃないかと……」

 ステファノは中空の虫眼鏡に似た構造の送風機について、絵を描きながら自分の考えを披露した。

「なるほど。送り出す風の方向を定めるために風を起こす部分が輪になっているというわけか」
「たしかにまっすぐに風が進みそう」

 だが、気送管の用途では風の直進性はあまり考えなくてもよさそうだった。

「初めから管で進む方向が決められていますからね。風さえ起こせれば問題ないと思います」
「確かにそう。構造は簡単で良いか」
「それじゃあ俺たちの出番はあまりないのか?」
「いや、そんなことはないよ」

 ステファノは首を振った。

「1方向にのみ風を送るためには反対方向に通じる穴をふさぐ必要がある。終点では風は抜けるがカプセルは止める仕掛けが必要だし」
「そういう工夫は発明の最初から考えてる」

 そう言ってサントスは原理構造図の束を持ち出した。

(あ、これはまたアレ・・が始まるな)

「ちょっと見せてくれ。うーん、ここのヒンジが弱そうに見える」
「そこは力が掛からないから」
「そうは言っても、繰り返し開け閉めする部分だろう? 耐久性ってものが……」
「なら、こっちの図面を見てくれ。こっちはスライド式にしてある」
「圧が掛かることを考えるとスライド式が本命だろう? 空気漏れの対策はどうなってる?」

(構造のことはこの2人に任せておけば良いね。楽しそうだし)

 ステファノはにこにこと2人のやりとりを眺めていた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第291話 楽な仕事をさせたら、スールーは天下一品。」

 その日は土曜日だったので、夜中にもう一度集まろうということになった。伝声管の実験を行うためである。

「始まる前から申し訳ないんですが、明日は『薬草の基礎』のチャレンジに集中したいので夜は1時間くらいで抜けても良いですか?」
「そういう事情なら最初から参加しなくても良いぞ?」

 スールーはまったく気にしない様子であった。

「幸い、男手は足りているのでね。土管の両側に人がいれば足りるのだろう?」
「男手である必要はない。3人いれば十分」

 サントスも気にする必要はないと後押ししてくれた。
 
 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

処理中です...