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第4章 魔術学園奮闘編
第284話 アカデミーにもアーティファクトはあるのでしょうか?
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「アーティファクトですか。アカデミーにもアーティファクトはあるのでしょうか?」
「さすがにこんな人の出入りが多い所にはありませんね。そうでしょうとも」
「ははあ。そういうものですか?」
学園の創成期にはそれらしいものもあったらしい。
何もない空中に巨大な映像を映し出す投影機とか……。
しかし、盗難の恐れがあるという理由で王都の魔道具庁が管理することになったのだそうだ。
「魔道具庁という役所があるんですか?」
「知りませんでしたか? 庶民の生活とは関係ないですからね。馬鹿にしてはいませんよ? 生活の場が違うのですね」
魔道具とは金を出せば買えるものではないらしい。金持ちであろうと、平民が簡単に所有できるものではなかった。
「魔道具の中には魔術というよりもギフトに近い機能を持つ物もありますからね。平民にはふさわしくないという考え方があるのでしょう」
特にアーティファクトともなると、その力は強く、魔力がなくても使える物もある。そうなると、魔道具の所有者はギフト持ちと変わらないことになってしまう。
「すべての魔道具がそれ程強力なわけではありませんけれどね」
「アカデミーにはほかにどんな魔道具がありますか?」
「ごく一般的なものですね。部屋を照らす灯り、風を送る道具、火起こしの道具などです」
アリステアが例に挙げた物は、初級魔術のそのまた初歩に習う術であった。
「そのくらいだったら平民に持たせても問題なさそうですが……」
「ふむ。もう少し強い火は良いのか悪いのか? さらに少し強い火は? 一部を許すと線引きが難しくなるのですよ」
ルールを作ったとしても、抜け道を作る奴が必ず出る。過去にそう言う事例があったのかもしれない。
「難しい問題ですね。国全体を豊かにするような道具を広く平民に持たせたら……。事前に認定を通った物を、免許制で許すという方法は考えられないでしょうか?」
「ほう。理屈は通っているように聞こえますね。安全な物なら……可能性はあるかもしれません」
これまではそんな基準を必要とするほど魔道具の数が多くなかった。もっとたくさん魔道具が作られるようになれば、ルールを定める価値があるかもしれない。
「君は魔道具作りに興味があるのですか?」
「まだ魔道具と決めたわけではありません。錬金術師か、薬師を目指すかもしれません。アカデミーで自分に合った物作りのテーマを見つけたいと思っています」
「そうですか。それは楽しみなことですね」
(この人は「求めるものに学問の機会を与える」というアカデミーの理念を信じているんだな)
ステファノはアリステアの言葉に背中を押される思いがした。
◆◆◆
アリステア教務長の許可をもらい、ステファノは簡単な魔道具のいくつかを見せてもらえることになった。
道具を持ち出してくれたのはマードックである。
「ありがとうございます」
「礼には及ばんさ。魔道具といっても、こいつらはありふれた類だからな」
マードックが持って来てくれたのは「魔灯火」「魔トーチ」「魔風器」と呼ばれるごく初歩の魔道具であった。
ステファノは右端にあった魔灯火を手に取る。手に取る前から薄っすらと光属性の魔力を感じるそれに、許しを得て魔力を流してみた。魔道具の使用は魔術行使とはみなされないので、規則上も問題ないらしい。
燈心がないランプの形をした魔灯火は、魔力を受けると全体から光を発した。直接見詰めると眼が痛くなるほどの明るさは、灯油ランプの性能を超えていると思われる。
もちろん煙やすすを出さないので、灯油ランプよりも使いやすい。
魔力を止めれば明かりが消える。「光属性を持っていない魔術師」にとっては便利な道具であった。
ステファノが次に試したのは「魔トーチ」であった。筒のような形をしたその道具は、種火を発して薪や炭に着火するために使われる。
ステファノはマードックと共に建屋の外に出た。
燃える物がない場所で魔力を流してみると、魔トーチは筒先から小さな種火を吹き出した。この道具も魔力を供給し続ける間は炎を吐き出し続けるという機能らしい。
ちょろちょろと噴き出す炎は小さく、とても武器になる代物ではない。
「これなら平民に持たせても問題ないだろうに」
ステファノは経験豊富だが、火起こしにはコツがある。慣れない人間は何回やっても着火ができない。
「こんな道具があれば、子供でも炊事の手伝いができる」
「放火も増えることだろうがな」
マードックが顎髭を撫でながら言った。
確かに簡単に火を起こせる道具は、放火にも使える。しかし、それは包丁があれば強盗ができるのと何も変わらない。道具自体の問題ではなかった。
魔力の供給を止めてやると、魔トーチから噴き出る炎も止まった。
(流す魔力の属性に関係なく、炎しか出て来ないところが面白いな)
流した魔力は「きっかけ」に過ぎない。炎を起しているのは、道具に籠められた魔力であった。
(「きっかけ」を魔力以外に設定してやれば、一般人でも魔道具を使えるということだ)
ステファノが作った拡声器では「音」をトリガーに設定した。圧印器では「ことば」と「光」であった。
(俺にできることが聖スノーデンや、アーティファクト製作者たちにできなかったとは思えない。きっと理由があって封印していたんだろう)
やはり身分制度を固定化するため、平民に魔術を持たせたくなかったのか?
(聖スノーデンなら平民に魔道具を開放しようとしていたかもしれないが……)
実現する前に命を落としたのかもしれない。ステファノはそう想像してみた。
最後に試す魔道具は魔風器であった。これまでと同じように土属性の魔力を流してみる。
「あれ? 動かないな」
「何だと? 見せてみろ。ああ、こいつか」
マードックはステファノから取り上げた魔風器の取っ手部分を指さした。
「ここに赤く印がしてあるだろう? こいつは故障品だ」
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第285話 ステファノ、風を操る。」
「壊れているんですか?」
「そういうことだ。修理に出すはずだったんだが、レイチェルめ、忘れやがったな?」
マードックは忌々しそうに魔風器を振り回した。
「うん? もう一度見せてもらっても良いですか?」
「構わねえが、動かないぜ」
魔風器を受け取ったステファノは、イドの眼でそれを観直した。
先ほど、マードックが振り回した時、壊れているはずの魔風器にかすかな魔力の動きが観えたのだ。
魔風器は、棒状の取手の先に中空の輪をくっつけた形をしている。この輪から風が吹き出すのだとマードックが教えてくれた。輪の内側には矢印が描かれていて、風向きを示している。
(確かに風属性の魔力が籠められている。所有者宣言がされていないから、魔力を借りることはできるな)
……
◆お楽しみに。
「さすがにこんな人の出入りが多い所にはありませんね。そうでしょうとも」
「ははあ。そういうものですか?」
学園の創成期にはそれらしいものもあったらしい。
何もない空中に巨大な映像を映し出す投影機とか……。
しかし、盗難の恐れがあるという理由で王都の魔道具庁が管理することになったのだそうだ。
「魔道具庁という役所があるんですか?」
「知りませんでしたか? 庶民の生活とは関係ないですからね。馬鹿にしてはいませんよ? 生活の場が違うのですね」
魔道具とは金を出せば買えるものではないらしい。金持ちであろうと、平民が簡単に所有できるものではなかった。
「魔道具の中には魔術というよりもギフトに近い機能を持つ物もありますからね。平民にはふさわしくないという考え方があるのでしょう」
特にアーティファクトともなると、その力は強く、魔力がなくても使える物もある。そうなると、魔道具の所有者はギフト持ちと変わらないことになってしまう。
「すべての魔道具がそれ程強力なわけではありませんけれどね」
「アカデミーにはほかにどんな魔道具がありますか?」
「ごく一般的なものですね。部屋を照らす灯り、風を送る道具、火起こしの道具などです」
アリステアが例に挙げた物は、初級魔術のそのまた初歩に習う術であった。
「そのくらいだったら平民に持たせても問題なさそうですが……」
「ふむ。もう少し強い火は良いのか悪いのか? さらに少し強い火は? 一部を許すと線引きが難しくなるのですよ」
ルールを作ったとしても、抜け道を作る奴が必ず出る。過去にそう言う事例があったのかもしれない。
「難しい問題ですね。国全体を豊かにするような道具を広く平民に持たせたら……。事前に認定を通った物を、免許制で許すという方法は考えられないでしょうか?」
「ほう。理屈は通っているように聞こえますね。安全な物なら……可能性はあるかもしれません」
これまではそんな基準を必要とするほど魔道具の数が多くなかった。もっとたくさん魔道具が作られるようになれば、ルールを定める価値があるかもしれない。
「君は魔道具作りに興味があるのですか?」
「まだ魔道具と決めたわけではありません。錬金術師か、薬師を目指すかもしれません。アカデミーで自分に合った物作りのテーマを見つけたいと思っています」
「そうですか。それは楽しみなことですね」
(この人は「求めるものに学問の機会を与える」というアカデミーの理念を信じているんだな)
ステファノはアリステアの言葉に背中を押される思いがした。
◆◆◆
アリステア教務長の許可をもらい、ステファノは簡単な魔道具のいくつかを見せてもらえることになった。
道具を持ち出してくれたのはマードックである。
「ありがとうございます」
「礼には及ばんさ。魔道具といっても、こいつらはありふれた類だからな」
マードックが持って来てくれたのは「魔灯火」「魔トーチ」「魔風器」と呼ばれるごく初歩の魔道具であった。
ステファノは右端にあった魔灯火を手に取る。手に取る前から薄っすらと光属性の魔力を感じるそれに、許しを得て魔力を流してみた。魔道具の使用は魔術行使とはみなされないので、規則上も問題ないらしい。
燈心がないランプの形をした魔灯火は、魔力を受けると全体から光を発した。直接見詰めると眼が痛くなるほどの明るさは、灯油ランプの性能を超えていると思われる。
もちろん煙やすすを出さないので、灯油ランプよりも使いやすい。
魔力を止めれば明かりが消える。「光属性を持っていない魔術師」にとっては便利な道具であった。
ステファノが次に試したのは「魔トーチ」であった。筒のような形をしたその道具は、種火を発して薪や炭に着火するために使われる。
ステファノはマードックと共に建屋の外に出た。
燃える物がない場所で魔力を流してみると、魔トーチは筒先から小さな種火を吹き出した。この道具も魔力を供給し続ける間は炎を吐き出し続けるという機能らしい。
ちょろちょろと噴き出す炎は小さく、とても武器になる代物ではない。
「これなら平民に持たせても問題ないだろうに」
ステファノは経験豊富だが、火起こしにはコツがある。慣れない人間は何回やっても着火ができない。
「こんな道具があれば、子供でも炊事の手伝いができる」
「放火も増えることだろうがな」
マードックが顎髭を撫でながら言った。
確かに簡単に火を起こせる道具は、放火にも使える。しかし、それは包丁があれば強盗ができるのと何も変わらない。道具自体の問題ではなかった。
魔力の供給を止めてやると、魔トーチから噴き出る炎も止まった。
(流す魔力の属性に関係なく、炎しか出て来ないところが面白いな)
流した魔力は「きっかけ」に過ぎない。炎を起しているのは、道具に籠められた魔力であった。
(「きっかけ」を魔力以外に設定してやれば、一般人でも魔道具を使えるということだ)
ステファノが作った拡声器では「音」をトリガーに設定した。圧印器では「ことば」と「光」であった。
(俺にできることが聖スノーデンや、アーティファクト製作者たちにできなかったとは思えない。きっと理由があって封印していたんだろう)
やはり身分制度を固定化するため、平民に魔術を持たせたくなかったのか?
(聖スノーデンなら平民に魔道具を開放しようとしていたかもしれないが……)
実現する前に命を落としたのかもしれない。ステファノはそう想像してみた。
最後に試す魔道具は魔風器であった。これまでと同じように土属性の魔力を流してみる。
「あれ? 動かないな」
「何だと? 見せてみろ。ああ、こいつか」
マードックはステファノから取り上げた魔風器の取っ手部分を指さした。
「ここに赤く印がしてあるだろう? こいつは故障品だ」
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第285話 ステファノ、風を操る。」
「壊れているんですか?」
「そういうことだ。修理に出すはずだったんだが、レイチェルめ、忘れやがったな?」
マードックは忌々しそうに魔風器を振り回した。
「うん? もう一度見せてもらっても良いですか?」
「構わねえが、動かないぜ」
魔風器を受け取ったステファノは、イドの眼でそれを観直した。
先ほど、マードックが振り回した時、壊れているはずの魔風器にかすかな魔力の動きが観えたのだ。
魔風器は、棒状の取手の先に中空の輪をくっつけた形をしている。この輪から風が吹き出すのだとマードックが教えてくれた。輪の内側には矢印が描かれていて、風向きを示している。
(確かに風属性の魔力が籠められている。所有者宣言がされていないから、魔力を借りることはできるな)
……
◆お楽しみに。
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