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第4章 魔術学園奮闘編
第275話 ギフトの限界。
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いくらギフトがノーコストで発動できるとしても、それを受け止め実現するのは生身の体である。肉体にはおのずと限界がある。一定の力、一定の速度を超えて動かすことはできない。
動かせば壊れる。
自己保存本能として、これ以上は使わないというリミッターがかけられているのではないか? それが、ステファノが想像する1つの答えであった。
精神活動系のギフトについても肉体制御系と同じことが言えよう。活動の担い手が筋肉から脳に変わるだけである。実際にドイルはギフトの使い過ぎで倒れたことがあるらしい。
意識が飛んでしまう恐れがある分、精神活動系ギフトの方が肉体制御系ギフトよりも危険かもしれない。
最後に残ったのが「魔力視」系のギフトである。これは一見使用リミットがないようにも見える。どちらかというと受動的な能力なので、使っているという感覚が薄いせいかもしれない。
現実には「見える範囲の限界」が存在する。それが能動的ギフトにおける使用限界に相当するのだろうか。限界を超えて見ようとすると、何か害があるというのか?
肉眼で太陽を見てしまった子供のように。
(『観えていない物』、『観えにくい物』を考えてみよう。ドリーさんは魔力が観えてもイドは見えない。サントスさんやトーマはイドの一部が観えるが、魔力が観えない)
ステファノ自身は魔力とイドが観えるが、イデアはまだ十分に見えない。
(でも『観えにくい物』に眼を向けたからといって、目が痛いとか、どこかが苦しいという声は聞かないな)
自分の場合でも「ただ観えないだけ」であって、まぶしさやつらさを感じたことはない。
(能動系のギフトとは何かが違うのだろうか?)
逆から考えてみた。もし、すべてが観えたらどうなるか?
(イデア界には距離も時間もない。過去から現在に至るすべての事物と、未来の可能性が1カ所に重なって見えるとしたら……。人間の脳では処理しきれないだろう)
「魔力視系」ギフトにリミッターは存在しない。観るべき「対象」が脳の限界を超えているのだ。
ドイルは「シェード」を手に入れるまではイデアを観ることはできないだろうと予言した。
そして、ステファノは「虹の王」こそがそのシェードであると確信した。
虹の王の言葉を信じるならば、48の魔力行使型を我が物とすればイデアを自在に操れるようになるはずであった。その時にステファノは虹の王を真に従えるのだと。
脳で処理しきれないものを、自分に変わって処理させる。虹の王とはステファノの代理人に他ならない。
(48の型は、脳での処理を省略するためのパターンだ。阿吽に挟まれた世界を48に分割するものじゃないか?)
無限の事象を48のパターンに当てはめて処理する。虹の王とは通訳者である。
ステファノはその仮説をチャレンジに対する回答としてまとめ上げることにした。
◆◆◆
「おっ。珍しく1人だな」
「冷やかさないでくださいよ。好きで他人を連れて来ていたわけじゃないんで」
マリアンヌ教科長、チャンと2日連続で女性を同伴したステファノをドリーは茶化した。
ステファノとしては自ら望んだ結果ではないので、大分居心地が悪い。
「ああ、すまん、すまん。こんなところに籠っていると娯楽がなくてな。つい、からかってしまった」
「いえ、それほどのことではありません」
改めて詫びられて、ステファノはかえって恐縮した。
チャンとトーマには釘を刺したので、これ以上話が広まることはないだろう。弟子入り志願者が増えるのは勘弁してもらいたいと、ステファノは閉口していた。
「しかし、お前の弟子は熱心で感心する」
「え? トーマとチャンのことですか?」
「うん。チャン女史はまだ魔術が発動できないから、ここに通うのはトーマだけだがな」
トーマは毎日通って瞑想と試射をしていると言う。
「あいつは才能がない割に熱心だな。もっと浮ついた奴かと思っていたので、意外だった」
「そうですね。印象で損するタイプかもしれません」
エンジニアというのは「技術」に対して一途なところがあるものだ。
「さて、今日はどうする?」
ドリーが訓練の内容を聞いて来た。
「その前にお願いがあります」
「改まってどうした?」
居住まいをただしたステファノに、何事かとドリーが問う。
「例の複合魔術の訓練について試験を受けさせていただけないかと」
ステファノはここに来るまで考えていたことを口にした。
「うむ。そろそろ単一魔術では物足りなくなったか」
「もちろん個別の術を磨く意味はあるのですが、それ以上に自分の伸びしろは複合魔術にあります」
ステファノは全属性持ちである。複合魔術で技の可能性が大きく開けることは言うまでもない。
「例の『型』を究めたいのだな?」
ステファノが套路の「手」に魔力行使の「型」を当てはめていることを、ドリーは知っている。
「はい。48の『型』を究めることでイデア界に近づけるはずです」
「うむ。中級以上の実力を持つとマリアンヌ女史にも認められたからな。試験を受ける資格は十分だろう」
ドリーのような専門職員を含む、魔術学科の専門家が推薦すれば資格試験は受けられる。
「明日申請をするとして、試験は月曜日のこの時刻でどうだ。問題ないな?」
「大丈夫です。どんなことをするのか聞いても?」
「ああ、2属性の魔術を同時に発動してもらうだけだ」
それならばステファノには問題がない。虹の王の型から1つを選んで披露するだけだ。
「合格に必要なレベルとかありますか?」
「いや、技の巧拙は関係ない。2属性を安定して操れるかどうかを見るだけだ」
「なるほど。安全上の審査であって、能力測定ではないのですね?」
下手だから使えないと言われたら、試射場の意味がない。
「でも、それなら単一魔術用と複合魔術用の試射場を併設したらどうなんでしょう?」
ステファノには、その方が管理しやすいように思える。
「それも安全上の配慮だ」
ドリーはそう言って、複合魔術用試射場が隔離されている理由を説明した。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第276話 熱意なきところに進化はない。」
「ここの利用者は学生だ。皆若く、向上心に燃えている。隣で複合魔術を撃たれてみろ? 自分でも撃ちたくなるに決まっている」
ドリーは当然のことだと言った。
「実際、以前は複合魔術を目につくところで練習させていた結果、真似をした生徒が事故を起こすことが多かったらしい」
術を暴走させた生徒が傷害事故を起こしたのをきっかけに、複合魔術は一般生徒から隔離して訓練することになった。
……
◆お楽しみに。
動かせば壊れる。
自己保存本能として、これ以上は使わないというリミッターがかけられているのではないか? それが、ステファノが想像する1つの答えであった。
精神活動系のギフトについても肉体制御系と同じことが言えよう。活動の担い手が筋肉から脳に変わるだけである。実際にドイルはギフトの使い過ぎで倒れたことがあるらしい。
意識が飛んでしまう恐れがある分、精神活動系ギフトの方が肉体制御系ギフトよりも危険かもしれない。
最後に残ったのが「魔力視」系のギフトである。これは一見使用リミットがないようにも見える。どちらかというと受動的な能力なので、使っているという感覚が薄いせいかもしれない。
現実には「見える範囲の限界」が存在する。それが能動的ギフトにおける使用限界に相当するのだろうか。限界を超えて見ようとすると、何か害があるというのか?
肉眼で太陽を見てしまった子供のように。
(『観えていない物』、『観えにくい物』を考えてみよう。ドリーさんは魔力が観えてもイドは見えない。サントスさんやトーマはイドの一部が観えるが、魔力が観えない)
ステファノ自身は魔力とイドが観えるが、イデアはまだ十分に見えない。
(でも『観えにくい物』に眼を向けたからといって、目が痛いとか、どこかが苦しいという声は聞かないな)
自分の場合でも「ただ観えないだけ」であって、まぶしさやつらさを感じたことはない。
(能動系のギフトとは何かが違うのだろうか?)
逆から考えてみた。もし、すべてが観えたらどうなるか?
(イデア界には距離も時間もない。過去から現在に至るすべての事物と、未来の可能性が1カ所に重なって見えるとしたら……。人間の脳では処理しきれないだろう)
「魔力視系」ギフトにリミッターは存在しない。観るべき「対象」が脳の限界を超えているのだ。
ドイルは「シェード」を手に入れるまではイデアを観ることはできないだろうと予言した。
そして、ステファノは「虹の王」こそがそのシェードであると確信した。
虹の王の言葉を信じるならば、48の魔力行使型を我が物とすればイデアを自在に操れるようになるはずであった。その時にステファノは虹の王を真に従えるのだと。
脳で処理しきれないものを、自分に変わって処理させる。虹の王とはステファノの代理人に他ならない。
(48の型は、脳での処理を省略するためのパターンだ。阿吽に挟まれた世界を48に分割するものじゃないか?)
無限の事象を48のパターンに当てはめて処理する。虹の王とは通訳者である。
ステファノはその仮説をチャレンジに対する回答としてまとめ上げることにした。
◆◆◆
「おっ。珍しく1人だな」
「冷やかさないでくださいよ。好きで他人を連れて来ていたわけじゃないんで」
マリアンヌ教科長、チャンと2日連続で女性を同伴したステファノをドリーは茶化した。
ステファノとしては自ら望んだ結果ではないので、大分居心地が悪い。
「ああ、すまん、すまん。こんなところに籠っていると娯楽がなくてな。つい、からかってしまった」
「いえ、それほどのことではありません」
改めて詫びられて、ステファノはかえって恐縮した。
チャンとトーマには釘を刺したので、これ以上話が広まることはないだろう。弟子入り志願者が増えるのは勘弁してもらいたいと、ステファノは閉口していた。
「しかし、お前の弟子は熱心で感心する」
「え? トーマとチャンのことですか?」
「うん。チャン女史はまだ魔術が発動できないから、ここに通うのはトーマだけだがな」
トーマは毎日通って瞑想と試射をしていると言う。
「あいつは才能がない割に熱心だな。もっと浮ついた奴かと思っていたので、意外だった」
「そうですね。印象で損するタイプかもしれません」
エンジニアというのは「技術」に対して一途なところがあるものだ。
「さて、今日はどうする?」
ドリーが訓練の内容を聞いて来た。
「その前にお願いがあります」
「改まってどうした?」
居住まいをただしたステファノに、何事かとドリーが問う。
「例の複合魔術の訓練について試験を受けさせていただけないかと」
ステファノはここに来るまで考えていたことを口にした。
「うむ。そろそろ単一魔術では物足りなくなったか」
「もちろん個別の術を磨く意味はあるのですが、それ以上に自分の伸びしろは複合魔術にあります」
ステファノは全属性持ちである。複合魔術で技の可能性が大きく開けることは言うまでもない。
「例の『型』を究めたいのだな?」
ステファノが套路の「手」に魔力行使の「型」を当てはめていることを、ドリーは知っている。
「はい。48の『型』を究めることでイデア界に近づけるはずです」
「うむ。中級以上の実力を持つとマリアンヌ女史にも認められたからな。試験を受ける資格は十分だろう」
ドリーのような専門職員を含む、魔術学科の専門家が推薦すれば資格試験は受けられる。
「明日申請をするとして、試験は月曜日のこの時刻でどうだ。問題ないな?」
「大丈夫です。どんなことをするのか聞いても?」
「ああ、2属性の魔術を同時に発動してもらうだけだ」
それならばステファノには問題がない。虹の王の型から1つを選んで披露するだけだ。
「合格に必要なレベルとかありますか?」
「いや、技の巧拙は関係ない。2属性を安定して操れるかどうかを見るだけだ」
「なるほど。安全上の審査であって、能力測定ではないのですね?」
下手だから使えないと言われたら、試射場の意味がない。
「でも、それなら単一魔術用と複合魔術用の試射場を併設したらどうなんでしょう?」
ステファノには、その方が管理しやすいように思える。
「それも安全上の配慮だ」
ドリーはそう言って、複合魔術用試射場が隔離されている理由を説明した。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第276話 熱意なきところに進化はない。」
「ここの利用者は学生だ。皆若く、向上心に燃えている。隣で複合魔術を撃たれてみろ? 自分でも撃ちたくなるに決まっている」
ドリーは当然のことだと言った。
「実際、以前は複合魔術を目につくところで練習させていた結果、真似をした生徒が事故を起こすことが多かったらしい」
術を暴走させた生徒が傷害事故を起こしたのをきっかけに、複合魔術は一般生徒から隔離して訓練することになった。
……
◆お楽しみに。
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