上 下
240 / 624
第4章 魔術学園奮闘編

第240話 これでお前も情革研メンバーだ。

しおりを挟む
「それは結構だが、ステファノ個人には得がないな。情革研はグループだ。それにお前が貢献した分は、評価委員会がお前の功績として査定するしな」
「結局得するのは本人」

 メンバーとして3人それぞれも得る部分はあるのだが、サントスの言葉は誇張ではない。一番得をするのはトーマ本人に違いない。

「それ以外でもステファノの便宜を図ってやれる。実家うちは魔術発動具を作れるしな」

 そう言ってトーマは右手中指にはめた指輪を示した。オニキスらしい石を入れた幅広の指輪であった。

「はっ。お前の手柄とは言えないが、ないよりはましか? まあいい。誠意があることはわかったよ」

 トーマの実家キムラーヤ商会では武器防具の他に、魔術発動具の製造販売を行っていた。トーマ自身の力ではなかったが、商会の工房が持つ製作能力は大きな魅力である。

「別に見返りは要らないけど、いずれトーマの家の工房に物作りを頼めると助かる」

 ステファノはそう言って、話に決着をつけた。

「では、サントス、ステファノ。トーマの加入に異論はないな?」
「ない」
「異論ありません」

「良いだろう。僕も異論ない。良かったな、トーマ。これでお前も情革研メンバーだ」

 スールーはトーマに右手を差し出した。おずおずとそれを握ったトーマは、続いてサントス、ステファノとも握手を交わした。

「良し。新メンバー加入式は以上だ。続けて、状況を確認するぞ。まずはサントス!」
「スールーの報告がないのはわかってる。俺の分から行く」

 土曜日から2日しか経っていないが、その間に進めて来たことについてサントスは報告を始めた。

「伝声管。進捗なし。スールーの土管待ち」
「ああ、そっちはもうすぐ届くそうだ。10本頼んでおいた」

 鉄管と違い、土管は市販品を買って来るだけですむ。その分入手の手間も、コストも小さかった。

「拡声器と組み合わせてテストするためには100本以上必要になるでしょう。いずれ保管場所が要りますね」
「拡声器とは何だ?」

 サントスが話す間に伝声管とはこういうものだと横でステファノがトーマに教えたが、拡声器については今初めて聞いた。鉄管や土管は聞かなくともわかるが、拡声器とは何かが気になった。

「まあ待て、トーマ。話には順がある。それより保管場所か。確かに考えなければいかんな」

 できれば学園内に保管したい。すぐに持ち出せる場所に置いておきたいからだ。

「僕の方で教務課と話をつけよう。空き倉庫の1つや2つ、探せばどこかにあるだろう」

 言いながらスールーは素早くメモを取った。

「次は気送管。これも鉄管と土管待ち」
「鉄管の方は追加製作中だ。10日かかると言われた」
「待て。鉄管とはどういう仕様だ?」

 物の製作と聞いてトーマが口を挟んだ。

「外径5センチ、内径4センチ、長さ1メートル」
「ふーん。それなら鋳物か? 肉厚だな」
「試作だから、それくらい厚みを取らないと湯が回らないと言われた」

 湯とは溶かした鉄のことである。流し込む隙間があまり狭いと途中で固まってしまい、製品に「」ができてしまう。空洞ができる不良である。

「ふん、腕が悪いな。うちなら厚3ミリで作れる。どうする?」

 サントスは唇をかんで考えた。

「手配分はそのままにする。キムラーヤで3ミリ厚品を試作できるか?」
「やれるさ。何本作る?」
「性能差を検証したい。まず2~3本。木型は残してくれ」
「わかった。手配する。現物か、図面を後で見せてくれ」

 技術屋同士の会話があっという間に交わされた。サントスの口下手はどこかに行ってしまったようだ。

「スールー、注文していいか?」
「良いとも。手続き上、うちの店からキムラーヤへの発注という形にする」
「こっちもそれでいい」

 ステファノは圧倒されていた。3人の間でポンポンと話が決まって行く。まるでプロの商売人同士のようであった。

「そう言えば、研究会の費用ってどうやって捻出するんですか?」
「ああ、僕の実家から予算をもらってある。気にしなくて良いぞ」

 スールーは何でもないことのように片づけた。

「言ってみれば僕に対する投資だよ。商売のタネを持って帰れば、何百倍、何千倍の儲けを生む。そのくらいの期待はされているんでね」

(この人はすぐにでも商会を回せるんじゃないか? アカデミーで勉強する必要がないんじゃ?)

「金のことは気にしなくて良いよ? 僕もこの会から見返りを得ているからね。具体的には人脈と経験さ」

 アカデミーに来なければこのメンバーで研究開発などできない。既存の技術者からはこれほど自由な発想は出て来なかったであろう。ステファノの異能については言うまでもない。

「金持ちと貧乏人が2対2になって丁度良い」

 サントスが皮肉に笑った。だが、サントスの実家とて染め物商会だ。
 純粋な貧乏人・・・・・・は、この場でステファノ1人であった。

(ていうか、アカデミー全体を見渡しても俺が一番貧乏なんじゃない? 当たり前だな)

 本来貧乏人が来られるような場所ではないのだ。お貴族様が学ぶ場所なのだから。
 ステファノは王族と侯爵家という後ろ盾が持つ意味、その大きさを改めて実感していた。

「それから気送管に使う圧縮機。これは原理試作図を描いた」
「それはどういう物だ。教えてくれ」

 そこからは図面を広げたサントスとトーマの熱気を帯びた会話になった。

(これは真剣勝負だな。トーマが別人のようだ)

 事物作りに関しては、トーマに浮ついた部分は一切なかった。図面を指さしてあいまいな部分を問いただす様子には、プロのみが持つ迫力がある。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第241話 自慢じゃないが、俺に図面は引けん!」

「何だこの形状は? こんなものどうやって加工するんだよ?」
「だが、この動きをさせるためには……」
「それがおかしいってんだよ。こんな動き方させなくても空気は送れるって!」

 唾を飛ばし合いながら議論した結果、圧縮機の図面は全面的に書き換えることになった。
 サントスが。

「そんなに言うならお前が自分で描け」
「自慢じゃないが、俺に図面は引けん!」

 トーマの異能は「見ればわかる」という眼力であった。自分ではできないが、人にやらせることはできるのだ。
 スールーの才覚と良い勝負かもしれなかった。
 
 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...