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第4章 魔術学園奮闘編
第238話 お見せしたいものがあります。
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「これで良いのか?」
ダイアンが席を辞した後、マリアンヌは憮然とした面持ちでステファノに尋ねた。
「ありがとうございます」
素知らぬ顔でステファノは礼を述べた。
元貴族や本物の王族と言葉を交わし、命の危機まで乗り越えてきた。ステファノは対人関係ごときで怯むやわな少年ではなくなっていた。
「それで、相談とは何だ?」
これからがステファノの正念場であった。
アカデミーでの生活を実りあるものにするためには、ある程度実力をアピールする必要がある。
常識知らず、学問知らずの自分が普通にやっていたのでは単位を集めるのも難しいはずだ。そこをギフトと魔法という異能で穴埋めする。
しかし、やりすぎれば「実験動物」か「戦場の犬」にされそうだ。
程よく特殊で、程よく優秀。そういう実力を示すのがステファノの狙いであった。
「今日の6時にお時間を頂けませんか?」
「今ではないのか?」
「お見せしたいものがあります」
「ここでは見せられないものなのだな?」
感情を写す魔道具の件がある。マリアンヌはステファノの申し出に食いついた。
「詳しくはそこでお話します。授業で示すべき能力と、研究報告向けに準備している『物』について」
「また今日のようなことを繰り返そうと言うのか?」
「やりすぎないため、事前にご相談したいと」
意味ありげなステファノの口振りに、マリアンヌはかすかに眉を寄せた。
「ふん。良かろう。体は空いている」
「ありがとうございます。それでは6時に魔術訓練場の試射場にお越しください」
「……魔術を実際に撃とうというのか。わざわざ足を運ばせる価値があるのだろうな?」
「それはご覧になって判断してください」
マリアンヌが掛けてくるプレッシャーを、ステファノは気負いなく受け流した。
「わかった。係員の……ドリーには私から話を通しておこう」
「助かります。それでは6時に」
ステファノは立ち上がり、頭を下げた。
「失礼します」
「……待て、ステファノ。お前、セイナッド氏について調べていたそうだな」
ドアに向かうステファノを、マリアンヌは呼び止めた。その言葉は質問というよりは断定するものであった。
「はい」
ステファノは肯定のみした。話がどこに向かうのか見えないからだ。
「理由は? なぜ、セイナッド氏を調べる?」
理由に意味があるのであろうか。マリアンヌの質問を受けながらステファノは考えを巡らせたが、情報が少なすぎて推測ができない。
正直に答えるしかないと、咄嗟に判断した。
「魔術史の授業でチャレンジの課題をもらいました。それに関連しているのではないかと思って」
「それだけか? 他に理由はないのだな?」
(他の理由とはどういうことだ? 調べられたくないことがあるのだろうか?)
「他の理由は特にありません」
ステファノは率直にそう答えた。
「そうか。わかった。帰って良いぞ」
「はい。失礼します」
今度こそステファノは応接間から退出した。
◆◆◆
マリアンヌ学長のところで思わぬ時間を費やした。幸い次の授業である「薬草の基礎」には間に合い、ステファノは胸をなでおろした。
(理由を話せば納得してもらえるだろうけど、そもそも面倒は避けたいからな)
「こんにちは。この講義を担当するクランドです。薬草の基礎ですよ? よろしいですね」
クランドは40歳前後の物腰が柔らかい男性だった。作業着とまでは言わないが、洒落っ気のない地味な服装をしている。
このクラスには30名の生徒が集まっていた。ステファノが初めて出会う大人数のクラスである。
魔術科の新入生からも4人が参加していた。トーマとデマジオの姿はない。
「このクラスでは文字通り薬草の基礎を勉強します。もちろん薬草にはたくさんの種類があります。とてもすべては紹介できません。代表的な薬草について生育地、植物としての特徴、採取方法、栽培方法、用途、精製法などを勉強してもらいます」
喋りながら、クランドは黒板に次々に説明内容を表示していった。大人数の生徒を相手にすることに慣れたやり方であった。
「本当はフィールド・ワークを行えると良いんですけどね。他の授業もあるので、ちょっと難しいですね。地図の情報も教えますので、興味のある方はまとまった休みにでも生育地に出かけてみてください」
(それはちょっと楽しそうかも)
ステファノは旅が好きだった。自然の中に入り込むのも苦にならない。
ヨシズミとの共同生活はさらにそれを後押しする結果になった。
単調だった飯屋の下働き生活に比べれば、たとえ不自由であっても旅の日々は変化に富んでいた。
今なら水にも火にも困らない。獣から身を守ることもできる。
旅とは魔法師のためにあるようなものだった。
(師匠がわざわざお茶の買い出しに行くのもわかるわ)
ステファノの口元に薄っすらと笑みが浮かんだ。
「さて、今日は手始めに薬草の分類を用途別に見ましょうか?」
そう言うと、クランドは手にした短杖をひと振りした。
黒板の表示が消え、別のリストが表示された。
(この黒板、一遍に内容を変更できるのか。便利だな。どういう使い方なのか、後で聞いてみよう。教務課で聞いてみたら良いかな?)
「ここでは対象を医療用に絞ります。錬金術用などを含めると、内容が複雑すぎますのでね」
黒板のリストは3つのグループに分かれていた。
「1つめのグループは健康維持、滋養強壮剤ですね。特に病気や障害がなくても健康を保つために服用するものです」
第1のグループがハイライトされ、リストの項目が拡大される。クランドは、代表的な薬草について説明した。
「2つめは病気治療用です。外傷や火傷、ねんざ、打ち身なども病気に含まれますよ。悪いところがある時に使用するものですね」
第2のグループがハイライトされた。
「3つめは毒薬です。皆さんが使用することはたぶんないでしょう。しかし、こういうものが存在することは知っておいた方が良いでしょう」
毒薬については毒の特性を紹介するところまでにとどめ、生育地や栽培法などに踏み込むことはなかった。
「毒薬の利用法に関しては特別な資格を得たものだけが教育を受けられるようになっています。危険を防止するためですので、ご理解ください」
その代わり、解毒剤の存在とその用法が付随情報として紹介された。
教室には終始、カリカリとノートを取る音が響いていた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第239話 クランドのチャレンジ。」
「はいはい。安心してください。皆さんに医師になれというわけではありませんよ? 何百種類もある薬種をすべて対象にすることはしません。限られたリストの中で、適切な薬草を選べるかというチャレンジです」
クランドが「チャレンジ」という言葉を口にした。思わず生徒達がノートから顔を上げる。
「ふふ。それではお待ちかねのチャレンジ・テーマを発表しましょうか。黒板をご覧ください」
短杖を振ると、黒板に「症例」が表示された。隣には50種類の薬草が並んでいる。
「この症例に対してどの薬草を組み合わせて処方すればよいかという問題です。出題内容はシンプルですね?」
……
◆お楽しみに。
ダイアンが席を辞した後、マリアンヌは憮然とした面持ちでステファノに尋ねた。
「ありがとうございます」
素知らぬ顔でステファノは礼を述べた。
元貴族や本物の王族と言葉を交わし、命の危機まで乗り越えてきた。ステファノは対人関係ごときで怯むやわな少年ではなくなっていた。
「それで、相談とは何だ?」
これからがステファノの正念場であった。
アカデミーでの生活を実りあるものにするためには、ある程度実力をアピールする必要がある。
常識知らず、学問知らずの自分が普通にやっていたのでは単位を集めるのも難しいはずだ。そこをギフトと魔法という異能で穴埋めする。
しかし、やりすぎれば「実験動物」か「戦場の犬」にされそうだ。
程よく特殊で、程よく優秀。そういう実力を示すのがステファノの狙いであった。
「今日の6時にお時間を頂けませんか?」
「今ではないのか?」
「お見せしたいものがあります」
「ここでは見せられないものなのだな?」
感情を写す魔道具の件がある。マリアンヌはステファノの申し出に食いついた。
「詳しくはそこでお話します。授業で示すべき能力と、研究報告向けに準備している『物』について」
「また今日のようなことを繰り返そうと言うのか?」
「やりすぎないため、事前にご相談したいと」
意味ありげなステファノの口振りに、マリアンヌはかすかに眉を寄せた。
「ふん。良かろう。体は空いている」
「ありがとうございます。それでは6時に魔術訓練場の試射場にお越しください」
「……魔術を実際に撃とうというのか。わざわざ足を運ばせる価値があるのだろうな?」
「それはご覧になって判断してください」
マリアンヌが掛けてくるプレッシャーを、ステファノは気負いなく受け流した。
「わかった。係員の……ドリーには私から話を通しておこう」
「助かります。それでは6時に」
ステファノは立ち上がり、頭を下げた。
「失礼します」
「……待て、ステファノ。お前、セイナッド氏について調べていたそうだな」
ドアに向かうステファノを、マリアンヌは呼び止めた。その言葉は質問というよりは断定するものであった。
「はい」
ステファノは肯定のみした。話がどこに向かうのか見えないからだ。
「理由は? なぜ、セイナッド氏を調べる?」
理由に意味があるのであろうか。マリアンヌの質問を受けながらステファノは考えを巡らせたが、情報が少なすぎて推測ができない。
正直に答えるしかないと、咄嗟に判断した。
「魔術史の授業でチャレンジの課題をもらいました。それに関連しているのではないかと思って」
「それだけか? 他に理由はないのだな?」
(他の理由とはどういうことだ? 調べられたくないことがあるのだろうか?)
「他の理由は特にありません」
ステファノは率直にそう答えた。
「そうか。わかった。帰って良いぞ」
「はい。失礼します」
今度こそステファノは応接間から退出した。
◆◆◆
マリアンヌ学長のところで思わぬ時間を費やした。幸い次の授業である「薬草の基礎」には間に合い、ステファノは胸をなでおろした。
(理由を話せば納得してもらえるだろうけど、そもそも面倒は避けたいからな)
「こんにちは。この講義を担当するクランドです。薬草の基礎ですよ? よろしいですね」
クランドは40歳前後の物腰が柔らかい男性だった。作業着とまでは言わないが、洒落っ気のない地味な服装をしている。
このクラスには30名の生徒が集まっていた。ステファノが初めて出会う大人数のクラスである。
魔術科の新入生からも4人が参加していた。トーマとデマジオの姿はない。
「このクラスでは文字通り薬草の基礎を勉強します。もちろん薬草にはたくさんの種類があります。とてもすべては紹介できません。代表的な薬草について生育地、植物としての特徴、採取方法、栽培方法、用途、精製法などを勉強してもらいます」
喋りながら、クランドは黒板に次々に説明内容を表示していった。大人数の生徒を相手にすることに慣れたやり方であった。
「本当はフィールド・ワークを行えると良いんですけどね。他の授業もあるので、ちょっと難しいですね。地図の情報も教えますので、興味のある方はまとまった休みにでも生育地に出かけてみてください」
(それはちょっと楽しそうかも)
ステファノは旅が好きだった。自然の中に入り込むのも苦にならない。
ヨシズミとの共同生活はさらにそれを後押しする結果になった。
単調だった飯屋の下働き生活に比べれば、たとえ不自由であっても旅の日々は変化に富んでいた。
今なら水にも火にも困らない。獣から身を守ることもできる。
旅とは魔法師のためにあるようなものだった。
(師匠がわざわざお茶の買い出しに行くのもわかるわ)
ステファノの口元に薄っすらと笑みが浮かんだ。
「さて、今日は手始めに薬草の分類を用途別に見ましょうか?」
そう言うと、クランドは手にした短杖をひと振りした。
黒板の表示が消え、別のリストが表示された。
(この黒板、一遍に内容を変更できるのか。便利だな。どういう使い方なのか、後で聞いてみよう。教務課で聞いてみたら良いかな?)
「ここでは対象を医療用に絞ります。錬金術用などを含めると、内容が複雑すぎますのでね」
黒板のリストは3つのグループに分かれていた。
「1つめのグループは健康維持、滋養強壮剤ですね。特に病気や障害がなくても健康を保つために服用するものです」
第1のグループがハイライトされ、リストの項目が拡大される。クランドは、代表的な薬草について説明した。
「2つめは病気治療用です。外傷や火傷、ねんざ、打ち身なども病気に含まれますよ。悪いところがある時に使用するものですね」
第2のグループがハイライトされた。
「3つめは毒薬です。皆さんが使用することはたぶんないでしょう。しかし、こういうものが存在することは知っておいた方が良いでしょう」
毒薬については毒の特性を紹介するところまでにとどめ、生育地や栽培法などに踏み込むことはなかった。
「毒薬の利用法に関しては特別な資格を得たものだけが教育を受けられるようになっています。危険を防止するためですので、ご理解ください」
その代わり、解毒剤の存在とその用法が付随情報として紹介された。
教室には終始、カリカリとノートを取る音が響いていた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第239話 クランドのチャレンジ。」
「はいはい。安心してください。皆さんに医師になれというわけではありませんよ? 何百種類もある薬種をすべて対象にすることはしません。限られたリストの中で、適切な薬草を選べるかというチャレンジです」
クランドが「チャレンジ」という言葉を口にした。思わず生徒達がノートから顔を上げる。
「ふふ。それではお待ちかねのチャレンジ・テーマを発表しましょうか。黒板をご覧ください」
短杖を振ると、黒板に「症例」が表示された。隣には50種類の薬草が並んでいる。
「この症例に対してどの薬草を組み合わせて処方すればよいかという問題です。出題内容はシンプルですね?」
……
◆お楽しみに。
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