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第4章 魔術学園奮闘編
第224話 ステファノの棒は陰陽自在に気を操る魔道具と化した。
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スールー、サントスと別れてステファノは魔術訓練場に向かった。
まだドリーとの約束までは30分ほど時間がある。6時まで訓練室で、イドを練ることにした。
監視の係員に意図を告げ、「気」を練りながら棒や縄を振って鍛錬を行うことを説明した。丹田法の一派には似たような修行方法が伝わっていたので、係員はあっさりとステファノの鍛錬を許可した。
「それから」
と、ステファノはある物をポケットから取り出して見せた。
「これを発動体として、魔力を籠める練習をしてみても良いですか?」
「こんな物にか? 構わないが、攻撃魔術の発動は禁止だぞ」
「はい。魔力は籠めるだけで発動しません」
籠める魔力は生活魔法レベルの弱いものであることを、係員はしっかり確認した。
人から離れて練習しなさいと言われ、ステファノは人のいない奥の片隅を練習場所とした。
先ずは套路、そして鉄壁の型で体をほぐす。魔視脳が覚醒してからというものステファノのイドは薄くしなやかでありながら、同時に密度の濃いものになって行った。
今ではイドを観るギフト持ちが眺めたとしても、深い注意を向けない限りステファノがイドをまとっていることに気がつかないであろう。
訓練の仕上げにステファノは棒を振る。ここでは「型」のみを行って、「水餅」の能力を手になじませた。
動きの中で大きく棒を振り、人気のない壁に向かって水餅を飛ばしても見た。
仮想の敵目掛けて宙で5本の足を広げる赤い水餅を、「紫」のイメージで打ち消す。
「陽」で発し、「陰」で滅する。ステファノの棒は陰陽自在に気を操る魔道具と化した。
頭上でくるりと取り回せば、陰気と陽気は相追い、相巡って太極図の絵柄を示した。
その中心は、すなわちステファノであった。
ぴたりと目の前の敵を抑えて、ステファノの棒は止まった。
残心のままステファノは足を引き、棒を収めた。
棒を置いたステファノは今度は「蛟」を手に取った。
墨染の綿ロープである。
雷魔術の媒体として使うなら水気を帯びさせるところなのだが、今は稽古なのでそのまま振る。
初めはイドを通して棒として振った。最前までの型をなぞって動く。打ち込みの動きの中で、イドの質を変え縄本来の動きに戻す。敵が武器で受け止めようとすれば、縄は受け止めたつもりの先の部分で敵を打つであろう。
あるいは敵の打ち込みを誘い、縄を絡めて武器を巻き取る。
縄には剣や棒にはない、「引く」という攻撃方法があった。
これを棒の動きの中に取り込み、破綻なく一連の流れとして繋いでいく。
両手で振り、片手で振るう。飛ばし、絡め、引き落とす。
左手が右上から左下に引き落とされた直後、交差するように右手が閃いた。
(双頭の蛇)
ステファノの右手には道着からほどいた黒帯が握られている。イドを通して小刀のように振り抜いた。
そこからステファノは両手の武器に套路の極意を載せて動いた。
振るい、撃ち、突いて、斬る。絡めて引き、撃って縛った。
そこに実体を持つ相手がいたならば、絡んだ縄は雷気を発し、撃ちすえた帯は陽気を飛ばしたことであろう。
ステファノは構えを戻し、呼吸を静かに整えた。
縄を置いて帯を締め直すと、手拭いを取り出して汗を抑えた。
(両手で2つの武器を使うのは難しいな。無理をするとバランスが崩れる)
ステファノが試みているのは剣術で言う二刀流のような技であった。それを「縄」と「帯」という頼りない道具で行う。
(「慣れ」が必要だな。棒として使う場面と、縄に戻す場面を意識せずに切り替えなければ。難しいのは縄での使い方だから、まずは縄として使いこなせるように稽古するか?)
縄を棒に括りつけ直して片づけると、ステファノはポケットから「糸巻き」を取り出した。
「音を拡大する魔道具」として考えたものの1つであった。
本当は「製版器」を先に作り始めたかったが、光と土という複合魔術の調整に時間がかかりそうだった。それならば、すぐに結果が出そうな「拡声器」を先に試してみようと思い立ったのだ。
糸を使うことに格別の理屈はない。声も振動であるからには「糸」と相性が良いだろうと思ったまでだ。
ギターや三味線が糸を震わせて音を奏でる楽器だということは知っている。
今日はとりあえず身近で手に入る一番太い糸を探して来た。木綿の糸であった。
それを背嚢から取り出した木の小箱に縛りつける。小箱はふたを開けたものを楽器の「胴」代わりにしたつもりだ。音が響いてくれることを期待している。
道具の用意ができたなら、いよいよ魔力を籠める番だ。
籠める魔力は「風」である。
受けた振動を増幅して返す働きをイメージする。
(音を受けて糸が震えるのは自然なことだ。魔力が手助けするのはその「振り幅」を大きくすることだ)
1の強さで受けたものを5にして返す。震えを大きくする。揺れを大きくする。
振り子の揺れを増やすように。ブランコの振り幅を増やしていくように。
1揺れごとに押してやる。揺り戻す力を強めてやる。
押してやるタイミングだ。振れ幅が最大になって戻り始めた時、ぐっと背中を押してやる。
繰り返すイメージだ。徐々に、確実に大きくする。
ステファノは箱の両脇に手のひらを添えて、意識の中で糸が発する振動を押し返すイメージを高めた。
糸と木箱が、やがて藍色の光をまとい始めた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第225話 ただ動けない。離さない。それだけの技だ。」
「『い』の型、『水餅』!」
ステファノは技名を宣言すると、頭上で棒を1回転させてから袈裟斬りの軌道で振り下ろした。
瞬間、ドリーの「蛇の目」に棒の先からほとばしる水しぶきが確かに観えた。
棒がまとっていた陽気は赤い玉となって宙を飛んだ。20メートルの空間を重力を無視して一直線に飛び、標的に届こうとしていた。
「縛れ、『蛇尾』!」
ステファノが命ずると、陽気玉は5本の腕を伸ばした。細長く蛇の尾のように腕を伸ばした姿は、正にクモヒトデそのものであった。
……
◆お楽しみに。
まだドリーとの約束までは30分ほど時間がある。6時まで訓練室で、イドを練ることにした。
監視の係員に意図を告げ、「気」を練りながら棒や縄を振って鍛錬を行うことを説明した。丹田法の一派には似たような修行方法が伝わっていたので、係員はあっさりとステファノの鍛錬を許可した。
「それから」
と、ステファノはある物をポケットから取り出して見せた。
「これを発動体として、魔力を籠める練習をしてみても良いですか?」
「こんな物にか? 構わないが、攻撃魔術の発動は禁止だぞ」
「はい。魔力は籠めるだけで発動しません」
籠める魔力は生活魔法レベルの弱いものであることを、係員はしっかり確認した。
人から離れて練習しなさいと言われ、ステファノは人のいない奥の片隅を練習場所とした。
先ずは套路、そして鉄壁の型で体をほぐす。魔視脳が覚醒してからというものステファノのイドは薄くしなやかでありながら、同時に密度の濃いものになって行った。
今ではイドを観るギフト持ちが眺めたとしても、深い注意を向けない限りステファノがイドをまとっていることに気がつかないであろう。
訓練の仕上げにステファノは棒を振る。ここでは「型」のみを行って、「水餅」の能力を手になじませた。
動きの中で大きく棒を振り、人気のない壁に向かって水餅を飛ばしても見た。
仮想の敵目掛けて宙で5本の足を広げる赤い水餅を、「紫」のイメージで打ち消す。
「陽」で発し、「陰」で滅する。ステファノの棒は陰陽自在に気を操る魔道具と化した。
頭上でくるりと取り回せば、陰気と陽気は相追い、相巡って太極図の絵柄を示した。
その中心は、すなわちステファノであった。
ぴたりと目の前の敵を抑えて、ステファノの棒は止まった。
残心のままステファノは足を引き、棒を収めた。
棒を置いたステファノは今度は「蛟」を手に取った。
墨染の綿ロープである。
雷魔術の媒体として使うなら水気を帯びさせるところなのだが、今は稽古なのでそのまま振る。
初めはイドを通して棒として振った。最前までの型をなぞって動く。打ち込みの動きの中で、イドの質を変え縄本来の動きに戻す。敵が武器で受け止めようとすれば、縄は受け止めたつもりの先の部分で敵を打つであろう。
あるいは敵の打ち込みを誘い、縄を絡めて武器を巻き取る。
縄には剣や棒にはない、「引く」という攻撃方法があった。
これを棒の動きの中に取り込み、破綻なく一連の流れとして繋いでいく。
両手で振り、片手で振るう。飛ばし、絡め、引き落とす。
左手が右上から左下に引き落とされた直後、交差するように右手が閃いた。
(双頭の蛇)
ステファノの右手には道着からほどいた黒帯が握られている。イドを通して小刀のように振り抜いた。
そこからステファノは両手の武器に套路の極意を載せて動いた。
振るい、撃ち、突いて、斬る。絡めて引き、撃って縛った。
そこに実体を持つ相手がいたならば、絡んだ縄は雷気を発し、撃ちすえた帯は陽気を飛ばしたことであろう。
ステファノは構えを戻し、呼吸を静かに整えた。
縄を置いて帯を締め直すと、手拭いを取り出して汗を抑えた。
(両手で2つの武器を使うのは難しいな。無理をするとバランスが崩れる)
ステファノが試みているのは剣術で言う二刀流のような技であった。それを「縄」と「帯」という頼りない道具で行う。
(「慣れ」が必要だな。棒として使う場面と、縄に戻す場面を意識せずに切り替えなければ。難しいのは縄での使い方だから、まずは縄として使いこなせるように稽古するか?)
縄を棒に括りつけ直して片づけると、ステファノはポケットから「糸巻き」を取り出した。
「音を拡大する魔道具」として考えたものの1つであった。
本当は「製版器」を先に作り始めたかったが、光と土という複合魔術の調整に時間がかかりそうだった。それならば、すぐに結果が出そうな「拡声器」を先に試してみようと思い立ったのだ。
糸を使うことに格別の理屈はない。声も振動であるからには「糸」と相性が良いだろうと思ったまでだ。
ギターや三味線が糸を震わせて音を奏でる楽器だということは知っている。
今日はとりあえず身近で手に入る一番太い糸を探して来た。木綿の糸であった。
それを背嚢から取り出した木の小箱に縛りつける。小箱はふたを開けたものを楽器の「胴」代わりにしたつもりだ。音が響いてくれることを期待している。
道具の用意ができたなら、いよいよ魔力を籠める番だ。
籠める魔力は「風」である。
受けた振動を増幅して返す働きをイメージする。
(音を受けて糸が震えるのは自然なことだ。魔力が手助けするのはその「振り幅」を大きくすることだ)
1の強さで受けたものを5にして返す。震えを大きくする。揺れを大きくする。
振り子の揺れを増やすように。ブランコの振り幅を増やしていくように。
1揺れごとに押してやる。揺り戻す力を強めてやる。
押してやるタイミングだ。振れ幅が最大になって戻り始めた時、ぐっと背中を押してやる。
繰り返すイメージだ。徐々に、確実に大きくする。
ステファノは箱の両脇に手のひらを添えて、意識の中で糸が発する振動を押し返すイメージを高めた。
糸と木箱が、やがて藍色の光をまとい始めた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第225話 ただ動けない。離さない。それだけの技だ。」
「『い』の型、『水餅』!」
ステファノは技名を宣言すると、頭上で棒を1回転させてから袈裟斬りの軌道で振り下ろした。
瞬間、ドリーの「蛇の目」に棒の先からほとばしる水しぶきが確かに観えた。
棒がまとっていた陽気は赤い玉となって宙を飛んだ。20メートルの空間を重力を無視して一直線に飛び、標的に届こうとしていた。
「縛れ、『蛇尾』!」
ステファノが命ずると、陽気玉は5本の腕を伸ばした。細長く蛇の尾のように腕を伸ばした姿は、正にクモヒトデそのものであった。
……
◆お楽しみに。
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