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第4章 魔術学園奮闘編
第187話 魔術発動体はどんぐり。
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「普通はな? 水を作り出しながら圧縮し、それを一気に開放して前に飛ばすのだ。中距離の水魔術とは打撃技だ」
つまり、相手に当ててダメージを与える物理攻撃だと言う。
「20メートルの距離となると、それができる奴はそうはおらん。中級魔術師の中から上だな」
氷魔術となるとさらに難しくなる。
「氷は基本的に近距離の術だ。20メートル飛ばそうとする方がおかしい。風呂桶一杯の水で200キロだぞ? お前それを投げ飛ばそうと思うか?」
「そう言われると、無茶ですね」
「言われる前に、考えろ。お前はおとなしそうな顔をして、やることが極端だぞ」
ステファノが工夫した「神渡り」も馬鹿みたいに無駄が多すぎるという。
「手元の氷からその先へと、氷が氷を生んで連鎖するという発想は良い。しかし、この距離でそれを連ねるとなると途中のロスが半端ではないぞ。やるとしてもせいぜい5メートルまでだ」
「結局最後は力技のごり押しになっただろう? やってることが無駄ばかりだ」
「そうですか。あの、逆に普通はどうやるものでしょう?」
考えて工夫したつもりだったが、ステファノの努力はドリーによって一刀両断された。
「そうだな。先ず、自分の魔術が素直に20メートル飛ぶものかどうか、そのポテンシャルをチェックする必要がある」
「無理なんだがな。大半の人にとって」
(そうか。前回「雷」と「火」を選んだのは飛ばしやすい属性だからだった)
(飛ばさずに、何とかできないか? 標的に当たれば良いはずだ)
「やってみます!」
「工夫ができたか? 良し。5番、水魔術だ。発射を許可する。任意に撃て」
(「う」の型)
「氷獄霰落とし!」
標的を渦巻く冷気が襲った。冷気を更に上昇気流が攪拌し、上方に雲が生まれる。
そして雲から音を立てて降り注いだのはそら豆大の霰であった。
霰粒は標的を撃ち、右に左にと揺さぶった。
不思議なことに当たった霰粒は床に落ちることなく、標的に貼りついている。
見る間に標的は白い氷に覆われて凍結した。
「どうでしょう?」
ステファノは自信なさそうにドリーに問い掛けた。
「ふうむ。発動場所を標的地点に固定したのか。それは高度な技だな」
今回はいきなり否定されることはなかった。
ドリーは標的を土魔術で手元に引き寄せる。
「ふむ。氷の厚さは2センチくらいか。これなら敵の動きを封じることができるな。殺傷力は低いので威力的には手ごろだろう」
「ありがとうございます」
「難点は発動に必要な時間だな。雲を起し、霰を降らせて、標的を固める。3つの段階を踏まねばならん」
そこはステファノももどかしく感じた部分であった。
実戦であれば、敵に回避や反撃の時間を与えることになる。
(もっと直接的に攻撃できないか? ……あれを使ってみるか)
「ドリーさん、道具を使ってもいいですか?」
「発動体か? 見せてみろ。 ん? これか? これで魔術を使うだと、本気か?」
「標的が遠いので、こいつで届かせようと思いまして」
「ふん、良かろう。やってみせろ。5番、水魔術。発射を許可する。任意に撃て」
(「う」)
「氷獄弾!」
ステファノの右手から放られた小さな物体が水しぶきを上げて加速した。
礫は標的の右肩に当たると、そこに貼りついて白い冷気を爆発させた。
すぐさま冷気は氷となって、人型の標的を閉じ込めた。
「当たった!」
ぶっつけ本番で20メートル先の的に何とか礫を当てることができたステファノは、ほっと胸をなでおろした。
(師匠なら簡単にやってのけるんだろうけど、俺にはまだこれが精一杯だ)
「お前はつくづく変わり者だな。こんな魔術発動体は見たことがないぞ」
標的を引き寄せたドリーはまだ凍りついている「どんぐり」をしげしげと眺めた。
「普通のどんぐりだな?」
「はい。俺の師匠は山の中に籠っていたので、どんぐりで術を教わりました」
「変わった術式だな。発動体を投げるというのも珍しい。ダガーを使う奴にそういう者がいるそうだが」
「これは『反則』ではないんですね?」
「発動体が杖でなければならんという規則はないからな。問題ないぞ」
「良かった。これを使えれば、的を狙いやすくなります」
どんぐりは使い捨てられるので懐にも優しい。ステファノは顔を綻ばせた。
「しかし、どんぐりかあ。人を食った奴だ」
「変、でしょうか?」
ステファノはおずおずと尋ねた。良い歳をしてどんぐりを拾い、持ち歩いているのはどうなのかと思われるのではないかと、懸念していたのだ。
「いや、あの威力を見てはな。馬鹿になどできんさ。こっちが馬鹿にされているような気持ちになるがな」
それよりも術理の話をしようと、ドリーはステファノを座らせた。
「どんぐりが飛んで行く勢いだが、手で投げただけではああはならんだろう?」
「はい。水魔術で飛ばしました」
「そうか。ここでの規則を守ったのだな?」
ただどんぐりを飛ばすだけなら「土魔術」を使った方が良い。引力の操作でどんぐりは勢いよく飛んで行くであろう。
水魔術の縛りがあったために、水魔術で飛ばした。ドリーが言うように水を圧縮して、その圧力でどんぐりを押し出したのである。
「初めてのことなので、的に当たるかどうかひやひやしました」
「あれは途中も制御したのか?」
「いえ。撃ち出しっぱなしです」
「良くそれで当たったものだな」
外れたら外れたで、ステファノには考えがあった。
「当たらない場合は的に近いところで爆発させるつもりでした」
「爆発とは、氷魔術のことか?」
的の近くで爆発させれば、「氷獄」は十分に的を閉じ込められる。
どんぐりはステファノ自身の身代わりのような存在であった。
「そこの部分なんだがな。どんぐりに属性魔術を載せて打ち出しているのか?」
「というよりも魔力ですね。術としての発動は当たった時に起きるようにしています」
「そこだなあ、不思議なのは。手元にない発動体に遠隔で術式を行わせるとはな」
ステファノにはそこの不思議さ加減がわからない。ヨシズミは当たり前にやっていたことであった。
「師匠は鼻歌交じりにやっていたんですが……」
「お前の師匠は化け物だな」
「はあ。20年前は戦場で二つ名持ちだったそうです」
「それは……凄まじいな」
「はい。底が知れない人です」
検討が一区切りしたところで、次は風魔術を見せろということになった。
(風魔術か。ジローがこだわっていた術だな)
普通に考えれば、つむじ風かかまいたちを飛ばして標的を切りに行くところだろうが……。
(つむじ風では失敗したからなあ……。そうだ、「無風」を試してみるか?)
「藍」のモノトーンである「め」の型があった。
(それにしても、標的が遠い)
20メートルという距離は一筋縄ではいかない距離であった。
ステファノの術理、そのイメージは両手で対象を包み込むというものだ。
ステファノの腕に20メートルの長さはない。術を届かせる工夫が必要であった。
(こいつに頼るか……)
「やってみます」
「良し。5番、風魔術。発射を許可する。任意に撃て」
(「め」の型)
「無風陣」
ステファノは今度も礫を放った。今回のどんぐりは風に乗り、空気を切って飛んで行く。
最後は吸い込まれるように加速して標的を打った。
どんぐりは胸に当たって、弾けて落ちた。
「うん? 何も起こらんようだが」
「そうですね」
2人で遠くの標的を見詰めていると、何やら標的が震えていた。
すると、突然標的が膨れ上がった。
「むっ? 『風の盾』!」
危険を感じて、ドリーはシューティングレンジとブースの間に渦巻く風の盾を作り出した。
だが、標的は卵型に膨れ上がったものの破裂することはなかった。
やがて魔術の効力が切れると、音を立てて萎んで行った。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第188話 古来、魔術とは常に『戦争の道具』であった。」
「調べるなら『魔術』についてではなく、王国創建の過程とか、『戦の歴史』とかを見に行った方が良さそうだな。古来、魔術とは常に『戦争の道具』であったから」
「戦史ですか……」
マルチェルやヨシズミの顔が、ステファノの目の前にちらつく。600年前の戦争のことだとわかっていても、2人の師と戦を切り離して考えることがステファノにはできない。
「お前は逃げれば良い」と言ってくれる人たちを否応もなく巻き込んだ戦場という怪物が恐ろしい。
しかし、避けてばかりもいられないだろう。相手を知らないことには逃げようもない。
「アドバイスありがとうございます。原始魔術と戦について調べてみます」
「そうか。勉強については大して役に立てんが、お前よりは魔術について知っている。行き詰ったら相談に来い」
「そうさせてもらいます」
……
◆お楽しみに。
つまり、相手に当ててダメージを与える物理攻撃だと言う。
「20メートルの距離となると、それができる奴はそうはおらん。中級魔術師の中から上だな」
氷魔術となるとさらに難しくなる。
「氷は基本的に近距離の術だ。20メートル飛ばそうとする方がおかしい。風呂桶一杯の水で200キロだぞ? お前それを投げ飛ばそうと思うか?」
「そう言われると、無茶ですね」
「言われる前に、考えろ。お前はおとなしそうな顔をして、やることが極端だぞ」
ステファノが工夫した「神渡り」も馬鹿みたいに無駄が多すぎるという。
「手元の氷からその先へと、氷が氷を生んで連鎖するという発想は良い。しかし、この距離でそれを連ねるとなると途中のロスが半端ではないぞ。やるとしてもせいぜい5メートルまでだ」
「結局最後は力技のごり押しになっただろう? やってることが無駄ばかりだ」
「そうですか。あの、逆に普通はどうやるものでしょう?」
考えて工夫したつもりだったが、ステファノの努力はドリーによって一刀両断された。
「そうだな。先ず、自分の魔術が素直に20メートル飛ぶものかどうか、そのポテンシャルをチェックする必要がある」
「無理なんだがな。大半の人にとって」
(そうか。前回「雷」と「火」を選んだのは飛ばしやすい属性だからだった)
(飛ばさずに、何とかできないか? 標的に当たれば良いはずだ)
「やってみます!」
「工夫ができたか? 良し。5番、水魔術だ。発射を許可する。任意に撃て」
(「う」の型)
「氷獄霰落とし!」
標的を渦巻く冷気が襲った。冷気を更に上昇気流が攪拌し、上方に雲が生まれる。
そして雲から音を立てて降り注いだのはそら豆大の霰であった。
霰粒は標的を撃ち、右に左にと揺さぶった。
不思議なことに当たった霰粒は床に落ちることなく、標的に貼りついている。
見る間に標的は白い氷に覆われて凍結した。
「どうでしょう?」
ステファノは自信なさそうにドリーに問い掛けた。
「ふうむ。発動場所を標的地点に固定したのか。それは高度な技だな」
今回はいきなり否定されることはなかった。
ドリーは標的を土魔術で手元に引き寄せる。
「ふむ。氷の厚さは2センチくらいか。これなら敵の動きを封じることができるな。殺傷力は低いので威力的には手ごろだろう」
「ありがとうございます」
「難点は発動に必要な時間だな。雲を起し、霰を降らせて、標的を固める。3つの段階を踏まねばならん」
そこはステファノももどかしく感じた部分であった。
実戦であれば、敵に回避や反撃の時間を与えることになる。
(もっと直接的に攻撃できないか? ……あれを使ってみるか)
「ドリーさん、道具を使ってもいいですか?」
「発動体か? 見せてみろ。 ん? これか? これで魔術を使うだと、本気か?」
「標的が遠いので、こいつで届かせようと思いまして」
「ふん、良かろう。やってみせろ。5番、水魔術。発射を許可する。任意に撃て」
(「う」)
「氷獄弾!」
ステファノの右手から放られた小さな物体が水しぶきを上げて加速した。
礫は標的の右肩に当たると、そこに貼りついて白い冷気を爆発させた。
すぐさま冷気は氷となって、人型の標的を閉じ込めた。
「当たった!」
ぶっつけ本番で20メートル先の的に何とか礫を当てることができたステファノは、ほっと胸をなでおろした。
(師匠なら簡単にやってのけるんだろうけど、俺にはまだこれが精一杯だ)
「お前はつくづく変わり者だな。こんな魔術発動体は見たことがないぞ」
標的を引き寄せたドリーはまだ凍りついている「どんぐり」をしげしげと眺めた。
「普通のどんぐりだな?」
「はい。俺の師匠は山の中に籠っていたので、どんぐりで術を教わりました」
「変わった術式だな。発動体を投げるというのも珍しい。ダガーを使う奴にそういう者がいるそうだが」
「これは『反則』ではないんですね?」
「発動体が杖でなければならんという規則はないからな。問題ないぞ」
「良かった。これを使えれば、的を狙いやすくなります」
どんぐりは使い捨てられるので懐にも優しい。ステファノは顔を綻ばせた。
「しかし、どんぐりかあ。人を食った奴だ」
「変、でしょうか?」
ステファノはおずおずと尋ねた。良い歳をしてどんぐりを拾い、持ち歩いているのはどうなのかと思われるのではないかと、懸念していたのだ。
「いや、あの威力を見てはな。馬鹿になどできんさ。こっちが馬鹿にされているような気持ちになるがな」
それよりも術理の話をしようと、ドリーはステファノを座らせた。
「どんぐりが飛んで行く勢いだが、手で投げただけではああはならんだろう?」
「はい。水魔術で飛ばしました」
「そうか。ここでの規則を守ったのだな?」
ただどんぐりを飛ばすだけなら「土魔術」を使った方が良い。引力の操作でどんぐりは勢いよく飛んで行くであろう。
水魔術の縛りがあったために、水魔術で飛ばした。ドリーが言うように水を圧縮して、その圧力でどんぐりを押し出したのである。
「初めてのことなので、的に当たるかどうかひやひやしました」
「あれは途中も制御したのか?」
「いえ。撃ち出しっぱなしです」
「良くそれで当たったものだな」
外れたら外れたで、ステファノには考えがあった。
「当たらない場合は的に近いところで爆発させるつもりでした」
「爆発とは、氷魔術のことか?」
的の近くで爆発させれば、「氷獄」は十分に的を閉じ込められる。
どんぐりはステファノ自身の身代わりのような存在であった。
「そこの部分なんだがな。どんぐりに属性魔術を載せて打ち出しているのか?」
「というよりも魔力ですね。術としての発動は当たった時に起きるようにしています」
「そこだなあ、不思議なのは。手元にない発動体に遠隔で術式を行わせるとはな」
ステファノにはそこの不思議さ加減がわからない。ヨシズミは当たり前にやっていたことであった。
「師匠は鼻歌交じりにやっていたんですが……」
「お前の師匠は化け物だな」
「はあ。20年前は戦場で二つ名持ちだったそうです」
「それは……凄まじいな」
「はい。底が知れない人です」
検討が一区切りしたところで、次は風魔術を見せろということになった。
(風魔術か。ジローがこだわっていた術だな)
普通に考えれば、つむじ風かかまいたちを飛ばして標的を切りに行くところだろうが……。
(つむじ風では失敗したからなあ……。そうだ、「無風」を試してみるか?)
「藍」のモノトーンである「め」の型があった。
(それにしても、標的が遠い)
20メートルという距離は一筋縄ではいかない距離であった。
ステファノの術理、そのイメージは両手で対象を包み込むというものだ。
ステファノの腕に20メートルの長さはない。術を届かせる工夫が必要であった。
(こいつに頼るか……)
「やってみます」
「良し。5番、風魔術。発射を許可する。任意に撃て」
(「め」の型)
「無風陣」
ステファノは今度も礫を放った。今回のどんぐりは風に乗り、空気を切って飛んで行く。
最後は吸い込まれるように加速して標的を打った。
どんぐりは胸に当たって、弾けて落ちた。
「うん? 何も起こらんようだが」
「そうですね」
2人で遠くの標的を見詰めていると、何やら標的が震えていた。
すると、突然標的が膨れ上がった。
「むっ? 『風の盾』!」
危険を感じて、ドリーはシューティングレンジとブースの間に渦巻く風の盾を作り出した。
だが、標的は卵型に膨れ上がったものの破裂することはなかった。
やがて魔術の効力が切れると、音を立てて萎んで行った。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第188話 古来、魔術とは常に『戦争の道具』であった。」
「調べるなら『魔術』についてではなく、王国創建の過程とか、『戦の歴史』とかを見に行った方が良さそうだな。古来、魔術とは常に『戦争の道具』であったから」
「戦史ですか……」
マルチェルやヨシズミの顔が、ステファノの目の前にちらつく。600年前の戦争のことだとわかっていても、2人の師と戦を切り離して考えることがステファノにはできない。
「お前は逃げれば良い」と言ってくれる人たちを否応もなく巻き込んだ戦場という怪物が恐ろしい。
しかし、避けてばかりもいられないだろう。相手を知らないことには逃げようもない。
「アドバイスありがとうございます。原始魔術と戦について調べてみます」
「そうか。勉強については大して役に立てんが、お前よりは魔術について知っている。行き詰ったら相談に来い」
「そうさせてもらいます」
……
◆お楽しみに。
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Amebloにて研究成果報告中。小説情報のほか、「超時空電脳生活」「超時空日常生活」「超時空電影生活」などお題は様々。https://ameblo.jp/hyper-space-lab
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