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第4章 魔術学園奮闘編
第179話 初めての授業、初めての課題。
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ステファノは寮へ戻ると中庭の井戸で体の汗を流した。ついでに拾ってきたどんぐりも水洗いして汚れを落とす。
洗って絞った手拭いを袋代わりにしてどんぐりを包み、さっぱりした体で部屋に戻る。
湿ったどんぐりを窓際に並べて乾燥させ、自分は服を外着に着替えた。もっとも「部屋着」「外着」とはステファノの中だけにある区別で、服のデザインや品質は似たり寄ったりの古着であった。
どちらを惜しむ必要もなく、順繰りに着回せば良いだけのことだ。オシャレに無頓着なステファノにとってはきわめて自然なワードローブであった。
ステファノは脱ぎ捨てた汚れ物と水瓶を持って再び井戸まで行き、洗濯と水汲みを済ませてしまう。水仕事が生活の中心だったステファノにはこの程度の日課は苦にならない。顔を洗うのと同じレベルで無意識にこなせる。
堅く絞った洗濯物を持ち帰り、部屋に張ったロープに干しておく。
簡単に部屋の掃除をしてゴミを集積場に出してしまえば、ステファノの家事は終了だ。
朝食までに余裕をもって終わらせることができた。
(稽古で筋肉がついたし、イドの繭を纏っていると力が補強されるから、家事が随分楽になった)
今ならあれほど大変だった飯屋の水汲みも、楽にこなせるかもしれない。
逞しくなった今の体で嫌いだった重労働をやってみたいなどと思ってしまう。
贅沢な話だとステファノは思った。
◆◆◆
水曜日の今日から授業が始まる。教科書というものがないので生徒はノートと筆記用具のみを持参して教室に集合する。
水曜日の1限目は「魔術の歴史(基礎編)」であった。
広い教室に、1年生のほとんどと、数名の上級生が座っていた。
目の良いステファノは最後列に席を取って教室全体が見渡せるようにした。他生徒の様子からも「学校」というものを学べるかもしれないと思ったのだ。
授業開始時刻から10分後、ゆっくりと教室に姿を現したのは全身黒づくめのスーツを着た高齢の男性だった。
「おはよう。授業を始める。名簿の用紙を回すので全員自分の名前を記入しなさい」
講師は最前列の生徒に用紙を渡して教壇に戻った。
教壇の中央には教卓が置かれており、講師はその後ろに立つ。その背中には壁面一杯に「黒板」が広がっている。ステファノにとっては初めて見る物であった。
「私の名はポンセだ」
老人講師がそう言って手を振ると、後ろの黒板に「ポンセ」と文字が浮かび上がった。どうやら講師の魔術に反応して文字が浮かび上がる仕掛けになっているようだ。
(あれは単なる魔術ではないな? 黒板の方に魔力に反応する仕掛けがありそうだ)
さすがは魔術の総本山とも言える「王立アカデミー」であった。
(ああいうものを作れるのが「技術に詳しい魔術師」なのかな? 確かにすごいけど……)
「あれ」では世の中は変わらない。ステファノはそう考えた。
あの魔力に反応する黒板を利用できるのは「魔術師」だけだ。100人に1人の特殊能力者しか使えない技術が、社会全体を変えることはできないだろう。
スールーとサントスは、その壁を壊そうとしている。それだけでも大した志だとステファノは思った。
「念のために確認しておきます。この授業は『魔術の歴史(基礎編)』です。もし受けたい授業と違っている場合は、今のうちに教室を出て正しい教室に移動して下さい」
講師のポンセはそう言って、教室を見渡した。席を立つ生徒はおらず、全員がこの授業を受けようとやって来たことが確認できた。
「よろしい。さて、初回の本日はこの講座の目的についてお話したいと思う。なぜ魔術の歴史について学ぶ必要があるのか?」
腰が悪いので座って話をさせてもらうと言い、ポンセ講師は教壇の椅子に座った。
「皆さんのほとんどは新入生だと思います。この授業は基礎編なのでね? なぜ歴史を学ぶのか? それはね、先人の轍を踏まぬためです」
「言い換えれば、同じ失敗を繰り返さないためであります」
それからポンセは魔術の歴史において生まれた数々の失敗について、面白おかしく紹介を行った。
「洗濯物を乾かそうとして、家を燃やした人間」の話。「水瓶を満たそうとして、部屋を水で満たしてしまった人間」の話。「洗濯物を乾かそうとして、屋根を飛ばしてしまった人間」の話。
1番めと3番めは同じ1人の人間らしい。
「このような数々の失敗の上に、先人は魔術理論を築いたのです。魔術の歴史を知ることは、魔術の基本を知ることでもあるのです」
言っていることは良くわかると、ステファノは思った。だが、本当に理論が築けているのだろうか?
それはこれから確かめる必要があった。
「魔術の歴史はもちろん『聖スノーデン』にまで遡ります。ギフトと魔術を発見し、聖教会の礎を築いた王祖スノーデンの登場を以て魔術史の原点とするのが学会の通説となっています」
(初代国王か。偉い人だったんだろうけど、その人が今の魔術を作り上げたんだよね)
ヨシズミが間違いだと言ってはばからないこの国の魔術体系はなぜ生まれてしまったのだろうか? ステファノの興味はそこにあった。
「通説の傍ら、『聖スノーデン以前にも魔術は存在した』と主張する学者も存在します。彼らはなぜそのような説を主張するに至ったのか? 彼らの主張に根拠はあるのか? もしそうだとすれば、聖スノーデン以前の魔術とはどのようなものだったのか?」
「次回の授業までに各人この3つの疑問について調べて来なさい。調べた内容と、自分の考えをまとめ、レポートにして次回提出してもらいます。レポートの長さに決まりはありません」
「3つすべてについて調べて来ても良いですし、2つか1つに絞っても構いません。なぜそのテーマを選び、なぜその結論に至ったのか? 自分の考えを加えるように心掛けて下さい」
「最後にですが、レポートの内容が優秀であると認められた学生は当講座の修了単位を認定いたします。これは本当のことですよ? ですから、しっかりとレポートを書いて来て下さい。以上で本日の講義を終わります」
こうしてステファノにとって初めての授業が終わった。
◆◆◆
(どうしよう? レポートってどうやって書くものなんだろうか?)
初めての授業での初めての課題に、ステファノは当惑していた。何をどうすればよいのか、勝手が知れないのだ。
(わからないことは人に聞くしかないか?)
アカデミーでステファノが相談できる相手と言えば、スールーとサントスの2人組、ミョウシン、そしてドリー女史くらいだった。
(ジローに相談するのは気が引けるもんな)
そういえば1年生のほとんどが出席していた今の授業に、ジローの姿はなかったようだ。今学期魔術科の単位を凍結されることになったので、授業を放棄したのであろうか?
関係性で言えばドイルに相談したいところだが、今や教授側の人間になってしまった。教える側の人からヒントをもらうのは知人であることを利用しているようで気が引ける。それくらいならポンセ先生に聞きに行く方が素直であろう。
(レポートの書き方はスールーさんが得意そうだな。魔術に関することはドリーさんに聞いてみるしかないか)
ドリーも学校側の人間であったが、教授陣ではないので問題はあるまい。ステファノはそう腹積もりをした。
次の授業は午後の3時限目、美術入門であった。昨日の言葉通りステファノは寮に戻って「道着」に着替えることにした。
道着は昨日の帰り、例のモップ棒と一緒に買っておいた。雨の日のことも考えて3着上下を購入した。
道着の上下を帯でまとめて棒に通すと、天秤棒で担ぎ売りをする物売りのような格好になった。「庶民服」を身に着けたステファノが天秤棒を担いでいても、すれ違う生徒たちは誰も振り向かなかった。
お貴族様とお金持ちにとって物売りなどは注意を向ける対象ではないのであった。
(ほら、やっぱり誰も気にしないや)
ステファノは内心にそう思ったのだった。それなら美術の授業に道着姿で出たところで、どうということはないだろう。ステファノの心はそういう働きをした。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第180話 初めてのデッサン。」
心に自然と「念誦」を行い、体にイドの繭を纏う。それはステファノが集中する姿であった。
ヴィオネッタは道着を着た風変わりな少年の雰囲気が、何か静謐な物に変わったことを芸術家なりの感性で感じ取っていた。
唇の端に不思議なほほえみを浮かべたまま、ステファノは迷いもなく木炭を使って行く。目は画用紙だけを見詰め、もう石膏像を見やることはしない。見る必要がなかった。
「イメージ」はステファノの中に存在し、石膏像はいわばそのインデックスにしか過ぎない。
本質は石膏像が指し示す「その先」にある。
石膏像は「写し」に過ぎない。「その先」に「オリジナル」がある。
「理想形」と呼んでも良い「オリジナル」こそ、ステファノが再現しようとイメージすべきものであった。
……
◆お楽しみに。
洗って絞った手拭いを袋代わりにしてどんぐりを包み、さっぱりした体で部屋に戻る。
湿ったどんぐりを窓際に並べて乾燥させ、自分は服を外着に着替えた。もっとも「部屋着」「外着」とはステファノの中だけにある区別で、服のデザインや品質は似たり寄ったりの古着であった。
どちらを惜しむ必要もなく、順繰りに着回せば良いだけのことだ。オシャレに無頓着なステファノにとってはきわめて自然なワードローブであった。
ステファノは脱ぎ捨てた汚れ物と水瓶を持って再び井戸まで行き、洗濯と水汲みを済ませてしまう。水仕事が生活の中心だったステファノにはこの程度の日課は苦にならない。顔を洗うのと同じレベルで無意識にこなせる。
堅く絞った洗濯物を持ち帰り、部屋に張ったロープに干しておく。
簡単に部屋の掃除をしてゴミを集積場に出してしまえば、ステファノの家事は終了だ。
朝食までに余裕をもって終わらせることができた。
(稽古で筋肉がついたし、イドの繭を纏っていると力が補強されるから、家事が随分楽になった)
今ならあれほど大変だった飯屋の水汲みも、楽にこなせるかもしれない。
逞しくなった今の体で嫌いだった重労働をやってみたいなどと思ってしまう。
贅沢な話だとステファノは思った。
◆◆◆
水曜日の今日から授業が始まる。教科書というものがないので生徒はノートと筆記用具のみを持参して教室に集合する。
水曜日の1限目は「魔術の歴史(基礎編)」であった。
広い教室に、1年生のほとんどと、数名の上級生が座っていた。
目の良いステファノは最後列に席を取って教室全体が見渡せるようにした。他生徒の様子からも「学校」というものを学べるかもしれないと思ったのだ。
授業開始時刻から10分後、ゆっくりと教室に姿を現したのは全身黒づくめのスーツを着た高齢の男性だった。
「おはよう。授業を始める。名簿の用紙を回すので全員自分の名前を記入しなさい」
講師は最前列の生徒に用紙を渡して教壇に戻った。
教壇の中央には教卓が置かれており、講師はその後ろに立つ。その背中には壁面一杯に「黒板」が広がっている。ステファノにとっては初めて見る物であった。
「私の名はポンセだ」
老人講師がそう言って手を振ると、後ろの黒板に「ポンセ」と文字が浮かび上がった。どうやら講師の魔術に反応して文字が浮かび上がる仕掛けになっているようだ。
(あれは単なる魔術ではないな? 黒板の方に魔力に反応する仕掛けがありそうだ)
さすがは魔術の総本山とも言える「王立アカデミー」であった。
(ああいうものを作れるのが「技術に詳しい魔術師」なのかな? 確かにすごいけど……)
「あれ」では世の中は変わらない。ステファノはそう考えた。
あの魔力に反応する黒板を利用できるのは「魔術師」だけだ。100人に1人の特殊能力者しか使えない技術が、社会全体を変えることはできないだろう。
スールーとサントスは、その壁を壊そうとしている。それだけでも大した志だとステファノは思った。
「念のために確認しておきます。この授業は『魔術の歴史(基礎編)』です。もし受けたい授業と違っている場合は、今のうちに教室を出て正しい教室に移動して下さい」
講師のポンセはそう言って、教室を見渡した。席を立つ生徒はおらず、全員がこの授業を受けようとやって来たことが確認できた。
「よろしい。さて、初回の本日はこの講座の目的についてお話したいと思う。なぜ魔術の歴史について学ぶ必要があるのか?」
腰が悪いので座って話をさせてもらうと言い、ポンセ講師は教壇の椅子に座った。
「皆さんのほとんどは新入生だと思います。この授業は基礎編なのでね? なぜ歴史を学ぶのか? それはね、先人の轍を踏まぬためです」
「言い換えれば、同じ失敗を繰り返さないためであります」
それからポンセは魔術の歴史において生まれた数々の失敗について、面白おかしく紹介を行った。
「洗濯物を乾かそうとして、家を燃やした人間」の話。「水瓶を満たそうとして、部屋を水で満たしてしまった人間」の話。「洗濯物を乾かそうとして、屋根を飛ばしてしまった人間」の話。
1番めと3番めは同じ1人の人間らしい。
「このような数々の失敗の上に、先人は魔術理論を築いたのです。魔術の歴史を知ることは、魔術の基本を知ることでもあるのです」
言っていることは良くわかると、ステファノは思った。だが、本当に理論が築けているのだろうか?
それはこれから確かめる必要があった。
「魔術の歴史はもちろん『聖スノーデン』にまで遡ります。ギフトと魔術を発見し、聖教会の礎を築いた王祖スノーデンの登場を以て魔術史の原点とするのが学会の通説となっています」
(初代国王か。偉い人だったんだろうけど、その人が今の魔術を作り上げたんだよね)
ヨシズミが間違いだと言ってはばからないこの国の魔術体系はなぜ生まれてしまったのだろうか? ステファノの興味はそこにあった。
「通説の傍ら、『聖スノーデン以前にも魔術は存在した』と主張する学者も存在します。彼らはなぜそのような説を主張するに至ったのか? 彼らの主張に根拠はあるのか? もしそうだとすれば、聖スノーデン以前の魔術とはどのようなものだったのか?」
「次回の授業までに各人この3つの疑問について調べて来なさい。調べた内容と、自分の考えをまとめ、レポートにして次回提出してもらいます。レポートの長さに決まりはありません」
「3つすべてについて調べて来ても良いですし、2つか1つに絞っても構いません。なぜそのテーマを選び、なぜその結論に至ったのか? 自分の考えを加えるように心掛けて下さい」
「最後にですが、レポートの内容が優秀であると認められた学生は当講座の修了単位を認定いたします。これは本当のことですよ? ですから、しっかりとレポートを書いて来て下さい。以上で本日の講義を終わります」
こうしてステファノにとって初めての授業が終わった。
◆◆◆
(どうしよう? レポートってどうやって書くものなんだろうか?)
初めての授業での初めての課題に、ステファノは当惑していた。何をどうすればよいのか、勝手が知れないのだ。
(わからないことは人に聞くしかないか?)
アカデミーでステファノが相談できる相手と言えば、スールーとサントスの2人組、ミョウシン、そしてドリー女史くらいだった。
(ジローに相談するのは気が引けるもんな)
そういえば1年生のほとんどが出席していた今の授業に、ジローの姿はなかったようだ。今学期魔術科の単位を凍結されることになったので、授業を放棄したのであろうか?
関係性で言えばドイルに相談したいところだが、今や教授側の人間になってしまった。教える側の人からヒントをもらうのは知人であることを利用しているようで気が引ける。それくらいならポンセ先生に聞きに行く方が素直であろう。
(レポートの書き方はスールーさんが得意そうだな。魔術に関することはドリーさんに聞いてみるしかないか)
ドリーも学校側の人間であったが、教授陣ではないので問題はあるまい。ステファノはそう腹積もりをした。
次の授業は午後の3時限目、美術入門であった。昨日の言葉通りステファノは寮に戻って「道着」に着替えることにした。
道着は昨日の帰り、例のモップ棒と一緒に買っておいた。雨の日のことも考えて3着上下を購入した。
道着の上下を帯でまとめて棒に通すと、天秤棒で担ぎ売りをする物売りのような格好になった。「庶民服」を身に着けたステファノが天秤棒を担いでいても、すれ違う生徒たちは誰も振り向かなかった。
お貴族様とお金持ちにとって物売りなどは注意を向ける対象ではないのであった。
(ほら、やっぱり誰も気にしないや)
ステファノは内心にそう思ったのだった。それなら美術の授業に道着姿で出たところで、どうということはないだろう。ステファノの心はそういう働きをした。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第180話 初めてのデッサン。」
心に自然と「念誦」を行い、体にイドの繭を纏う。それはステファノが集中する姿であった。
ヴィオネッタは道着を着た風変わりな少年の雰囲気が、何か静謐な物に変わったことを芸術家なりの感性で感じ取っていた。
唇の端に不思議なほほえみを浮かべたまま、ステファノは迷いもなく木炭を使って行く。目は画用紙だけを見詰め、もう石膏像を見やることはしない。見る必要がなかった。
「イメージ」はステファノの中に存在し、石膏像はいわばそのインデックスにしか過ぎない。
本質は石膏像が指し示す「その先」にある。
石膏像は「写し」に過ぎない。「その先」に「オリジナル」がある。
「理想形」と呼んでも良い「オリジナル」こそ、ステファノが再現しようとイメージすべきものであった。
……
◆お楽しみに。
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