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第4章 魔術学園奮闘編
第175話 情報革命への3つのアプローチ。
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ステファノが思いついたのは3番目の方法論、魔術以外の原理で道具を作るというものであった。
火打石や火吹き竹の代わりを魔術ができるなら、その逆もできるのではないかと思ったのだ。
「魔術にできることは科学にもできる」
根拠はないが、そんな気がした。そうでなければヨシズミの世界が魔術なしに発展するはずがなかった。
「そう思うだろう? そうでなくっちゃあ」
「魔術師はイキリ過ぎ」
確かに魔術師は「特権階級」扱いだ。平民でも魔術の素質が芽生えたら、大出世するチャンスがある。
そう思ってステファノも家を出たのだ。
しかし、大出世とは戦争の犬になることだった。
それが魔術の理想形なのか? だとしたら、あまりにも悲しすぎる技術ではないか?
人を兵器に変える技術ではないか。
人殺しの道具に変える呪いではないか。
魔術を、魔法を使える身となって、ステファノは怯えている。人殺しの道具となることを恐れている。
自分の技は容易く人の命を奪えることを、ステファノは身に染みて知ってしまった。
「魔術に頼らない技術こそ、理想の技術だと思います」
ステファノは強い意思を持って、そう言い切った。
「魔術科の君がそう言うとはね。思い切ったもんだ」
「変態の天才」
「褒めてませんよね?」
ステファノの方でも2人をやや見直していた。「魔術で成果を上げることを」2人はステファノに期待しているのではないかと疑っていたのだ。
「お2人の方こそ、手段は魔術でなくても良いのですか?」
「舐めるなよ? 魔術師様がいないと使えない技術など、技術とは言えん」
「魔術はずるい」
ずるは怠けたいときに使うから気持ち良いのだと、サントスは自説を開陳した。
「なるほど。それで、お2人は俺に何をさせようと?」
「そこなんだがな。チームとして2つのアプローチを考えている」
「3人で2つを分担。スールーは数に入ってない」
そこは適材適所と言ってくれと、わけのわからない言い合いが2人の間で始まった。この人たちは仲が良いのか悪いのか、良くわからないなとステファノは呆気に取られた。
「1つめのアプローチは『魔術依存型』だ。とにかく結果を出すことを優先して、なりふり構わず魔術で情報革命の実験を行う」
「実用とは違うんですね」
「その通りだ。コストとかリソースとか、そういう制約を考えるとおそらく実用には耐えられないだろうが、『こういうことができる』という主張の裏づけになれば良い」
試作品とはそういうものだ。新しい料理を作り出す段階だと思えばよい。
「2つめのアプローチは『技術開発型』だ。基本的には魔術に頼らず、誰にでも使える技術で成果を出すことを追求する。これは難易度がとてつもなく高い」
「ちなみに僕の担当になっている」
世の中にないものを魔術に頼らず創り出すとなると、その難易度が高くなることは容易に想像できた。
「基本的には魔術に頼らないというのは、どういう意味ですか?」
「そこな? もちろん完成形の製品に魔術が入り込んではいかん。しかし、原型となるモデルに『魔術の考え方』を持ち込むのはあり得ると思っている」
「魔術の再現を技術で行うと言っても良い」
なるほどとステファノは思った。2人が言っていることは「魔法」の考え方に近いかもしれない。
自然法則を出来るだけ乱さない方法で因果を改変するのが魔法であるなら、魔法以外の方法で結果を得られる技術がある時はそちらを優先して使うことになるはずだ。
「3つめのアプローチがあるんじゃないでしょうか?」
「折衷案か? というか、途中経過では自然とそうなってしまうだろう。技術が足りない部分を魔術で補ってもらうことになるだろうな」
「ふうむ。全体像としては『折衷案』構造、つまりつぎはぎ型になるだろうと。パーツを見た時に、できるところは純粋技術で作り上げ、どうしてもできない部分を純粋魔術で補うと。そんな感じでしょうか?」
「うん。それで合っている。君の役割は……」
「純粋魔術部分の開発・運用と、折衷案での技術開発支援ということですか?」
「う、うん。一言で言えばそういうことだ」
平静を装いながら、スールーは内心でステファノの呑み込みの速さに舌を巻いていた。自分たちが1年考え抜いたことを、ほんの10分で理解するとは。
「かなり俺の負担が大きいですね。いや、ずるいとか、非道だと言っているわけではありませんよ? 魔術の開発と技術開発の支援という一人二役は現実的には厳しいんじゃありませんか?」
「そう思うか……。もう一人魔術師を勧誘すべきかなあ」
話を聞いていてわかったが、スールーもサントスも魔術師ではない。スールーに至っては技術屋ですらない。
ステファノが加わったとしても、人手不足感は払しょくできないだろう。
魔法を知っている自分は恐らく「存在しない魔術を創造する」という仕事に向いているであろう。これまでも「想像」を基本に術を練って来たのだ。
一方で、技術に関して知ることは少ない。ドイルから教えてもらった自然法則の基礎くらいしか知識がない。
サントスの考えや技術課題を、自分では理解しきれないだろうと想像された。
「魔術を知る技術者か、技術に詳しい魔術師か。そんな人材がアカデミー生徒にいないかなあ?」
「1年探しても見つからなかったよ」
「絶滅種」
そもそもそういう人材が生まれる余地がないのかもしれない。それもこの世界の歪みなのか?
ステファノには気になる疑問の1つであった。
「条件を出しても良いでしょうか?」
顔色の腫れないスールーとサントスに、ステファノは提案した。
「お金ならないよ?」
「違いますよ。今日のところは、僕の返事は保留させてもらいます。但し、もし『もう一人の人材』が見つかったらお2人の研究チームへの参加を考えても良いです」
「1人誘ったら、もう1人誘えと言われた」
「魔術を知る技術者」か「技術に詳しい魔術師」。それがこのチームが成り立つかどうかのカギになる。
ステファノはそう言っているのだった。
「上級生の間では望み薄でしょうから、俺の方でも新入生に目を配っておきます」
「おお! それは助かる。有望なやつがいたらぜひ声を掛けてみてくれ」
1年探して見つからなかったのだ。2年め以降の生徒にはふさわしい人材がいないか、いても相手にされないということだろう。
1年生の中から見つかる可能性の方がはるかに高かった。期待できるほどに高いとは思えなかったが。
「うん。非常に有意義な打ち合わせだったよ。ありがとう、ステファノ。僕らの話を聞いてくれて」
「お前は良い変態」
語り合うべきことは一通り話ができた。ステファノは上級生2人にカリキュラムを見てもらうことを思いついた。
「1つお願いがあるんですが?」
「何だね。お金以外なら言ってみたまえ」
「聞くだけはタダ」
ステファノは先程自室で作り上げた履修計画を2人に見せた。
「1学期のカリキュラムをこんな風にしてみたんですが、見た感じどうでしょうか?」
「どれどれ? ふうむ……」
「ステファノは顔の割に慎重」
「顔は関係ないでしょう」
テーブルの上に身を乗り出してカリキュラム表を睨んでいた2人であったが、2人から見るとステファノの履修計画は随分おとなしく見えたらしい。
「これだと魔術科の必修科目が5講座しか取れないね。後々苦しくならないか?」
「一般学科の比率が高すぎ」
「うーん。やっぱりそう見えるかなあ?」
ステファノは事情を説明した。
「俺は田舎の飯屋に生まれたんで、学校というものに行ったことがないんです」
「家庭教師……も、その分だとついたことがないよね?」
「ありません。店のお客さんがご厚意で勉強を教えてくれたことはありましたが」
勉強の話になるとステファノは居心地が悪くなる。まともな教育というものを受けたことのない自分の生い立ちが恥ずかしくなるのだ。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第176話 再会は突然に。」
スールーとサントスのやり取りをうわの空で聞きながら、ステファノは武術訓練についてあれこれ考えていた。
「やあ、ステファノ。アカデミー初日はどうだった?」
自然に声を掛けて隣に座ったのは、小柄な少女だった。目立つ容貌、服装ではなかったが、どこかで見たような顔立ちである。
(それにこの声は聞き覚えがある)
「ええー?」
……
◆お楽しみに。
火打石や火吹き竹の代わりを魔術ができるなら、その逆もできるのではないかと思ったのだ。
「魔術にできることは科学にもできる」
根拠はないが、そんな気がした。そうでなければヨシズミの世界が魔術なしに発展するはずがなかった。
「そう思うだろう? そうでなくっちゃあ」
「魔術師はイキリ過ぎ」
確かに魔術師は「特権階級」扱いだ。平民でも魔術の素質が芽生えたら、大出世するチャンスがある。
そう思ってステファノも家を出たのだ。
しかし、大出世とは戦争の犬になることだった。
それが魔術の理想形なのか? だとしたら、あまりにも悲しすぎる技術ではないか?
人を兵器に変える技術ではないか。
人殺しの道具に変える呪いではないか。
魔術を、魔法を使える身となって、ステファノは怯えている。人殺しの道具となることを恐れている。
自分の技は容易く人の命を奪えることを、ステファノは身に染みて知ってしまった。
「魔術に頼らない技術こそ、理想の技術だと思います」
ステファノは強い意思を持って、そう言い切った。
「魔術科の君がそう言うとはね。思い切ったもんだ」
「変態の天才」
「褒めてませんよね?」
ステファノの方でも2人をやや見直していた。「魔術で成果を上げることを」2人はステファノに期待しているのではないかと疑っていたのだ。
「お2人の方こそ、手段は魔術でなくても良いのですか?」
「舐めるなよ? 魔術師様がいないと使えない技術など、技術とは言えん」
「魔術はずるい」
ずるは怠けたいときに使うから気持ち良いのだと、サントスは自説を開陳した。
「なるほど。それで、お2人は俺に何をさせようと?」
「そこなんだがな。チームとして2つのアプローチを考えている」
「3人で2つを分担。スールーは数に入ってない」
そこは適材適所と言ってくれと、わけのわからない言い合いが2人の間で始まった。この人たちは仲が良いのか悪いのか、良くわからないなとステファノは呆気に取られた。
「1つめのアプローチは『魔術依存型』だ。とにかく結果を出すことを優先して、なりふり構わず魔術で情報革命の実験を行う」
「実用とは違うんですね」
「その通りだ。コストとかリソースとか、そういう制約を考えるとおそらく実用には耐えられないだろうが、『こういうことができる』という主張の裏づけになれば良い」
試作品とはそういうものだ。新しい料理を作り出す段階だと思えばよい。
「2つめのアプローチは『技術開発型』だ。基本的には魔術に頼らず、誰にでも使える技術で成果を出すことを追求する。これは難易度がとてつもなく高い」
「ちなみに僕の担当になっている」
世の中にないものを魔術に頼らず創り出すとなると、その難易度が高くなることは容易に想像できた。
「基本的には魔術に頼らないというのは、どういう意味ですか?」
「そこな? もちろん完成形の製品に魔術が入り込んではいかん。しかし、原型となるモデルに『魔術の考え方』を持ち込むのはあり得ると思っている」
「魔術の再現を技術で行うと言っても良い」
なるほどとステファノは思った。2人が言っていることは「魔法」の考え方に近いかもしれない。
自然法則を出来るだけ乱さない方法で因果を改変するのが魔法であるなら、魔法以外の方法で結果を得られる技術がある時はそちらを優先して使うことになるはずだ。
「3つめのアプローチがあるんじゃないでしょうか?」
「折衷案か? というか、途中経過では自然とそうなってしまうだろう。技術が足りない部分を魔術で補ってもらうことになるだろうな」
「ふうむ。全体像としては『折衷案』構造、つまりつぎはぎ型になるだろうと。パーツを見た時に、できるところは純粋技術で作り上げ、どうしてもできない部分を純粋魔術で補うと。そんな感じでしょうか?」
「うん。それで合っている。君の役割は……」
「純粋魔術部分の開発・運用と、折衷案での技術開発支援ということですか?」
「う、うん。一言で言えばそういうことだ」
平静を装いながら、スールーは内心でステファノの呑み込みの速さに舌を巻いていた。自分たちが1年考え抜いたことを、ほんの10分で理解するとは。
「かなり俺の負担が大きいですね。いや、ずるいとか、非道だと言っているわけではありませんよ? 魔術の開発と技術開発の支援という一人二役は現実的には厳しいんじゃありませんか?」
「そう思うか……。もう一人魔術師を勧誘すべきかなあ」
話を聞いていてわかったが、スールーもサントスも魔術師ではない。スールーに至っては技術屋ですらない。
ステファノが加わったとしても、人手不足感は払しょくできないだろう。
魔法を知っている自分は恐らく「存在しない魔術を創造する」という仕事に向いているであろう。これまでも「想像」を基本に術を練って来たのだ。
一方で、技術に関して知ることは少ない。ドイルから教えてもらった自然法則の基礎くらいしか知識がない。
サントスの考えや技術課題を、自分では理解しきれないだろうと想像された。
「魔術を知る技術者か、技術に詳しい魔術師か。そんな人材がアカデミー生徒にいないかなあ?」
「1年探しても見つからなかったよ」
「絶滅種」
そもそもそういう人材が生まれる余地がないのかもしれない。それもこの世界の歪みなのか?
ステファノには気になる疑問の1つであった。
「条件を出しても良いでしょうか?」
顔色の腫れないスールーとサントスに、ステファノは提案した。
「お金ならないよ?」
「違いますよ。今日のところは、僕の返事は保留させてもらいます。但し、もし『もう一人の人材』が見つかったらお2人の研究チームへの参加を考えても良いです」
「1人誘ったら、もう1人誘えと言われた」
「魔術を知る技術者」か「技術に詳しい魔術師」。それがこのチームが成り立つかどうかのカギになる。
ステファノはそう言っているのだった。
「上級生の間では望み薄でしょうから、俺の方でも新入生に目を配っておきます」
「おお! それは助かる。有望なやつがいたらぜひ声を掛けてみてくれ」
1年探して見つからなかったのだ。2年め以降の生徒にはふさわしい人材がいないか、いても相手にされないということだろう。
1年生の中から見つかる可能性の方がはるかに高かった。期待できるほどに高いとは思えなかったが。
「うん。非常に有意義な打ち合わせだったよ。ありがとう、ステファノ。僕らの話を聞いてくれて」
「お前は良い変態」
語り合うべきことは一通り話ができた。ステファノは上級生2人にカリキュラムを見てもらうことを思いついた。
「1つお願いがあるんですが?」
「何だね。お金以外なら言ってみたまえ」
「聞くだけはタダ」
ステファノは先程自室で作り上げた履修計画を2人に見せた。
「1学期のカリキュラムをこんな風にしてみたんですが、見た感じどうでしょうか?」
「どれどれ? ふうむ……」
「ステファノは顔の割に慎重」
「顔は関係ないでしょう」
テーブルの上に身を乗り出してカリキュラム表を睨んでいた2人であったが、2人から見るとステファノの履修計画は随分おとなしく見えたらしい。
「これだと魔術科の必修科目が5講座しか取れないね。後々苦しくならないか?」
「一般学科の比率が高すぎ」
「うーん。やっぱりそう見えるかなあ?」
ステファノは事情を説明した。
「俺は田舎の飯屋に生まれたんで、学校というものに行ったことがないんです」
「家庭教師……も、その分だとついたことがないよね?」
「ありません。店のお客さんがご厚意で勉強を教えてくれたことはありましたが」
勉強の話になるとステファノは居心地が悪くなる。まともな教育というものを受けたことのない自分の生い立ちが恥ずかしくなるのだ。
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ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第176話 再会は突然に。」
スールーとサントスのやり取りをうわの空で聞きながら、ステファノは武術訓練についてあれこれ考えていた。
「やあ、ステファノ。アカデミー初日はどうだった?」
自然に声を掛けて隣に座ったのは、小柄な少女だった。目立つ容貌、服装ではなかったが、どこかで見たような顔立ちである。
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