上 下
172 / 624
第4章 魔術学園奮闘編

第172話 スールーを待ちながら、ステファノは魔法を編む。

しおりを挟む
 苦労した結果、ステファノの1学期はこのような時間割になった。

 ・月曜日: 1時限目=魔術学入門、2時限目=薬草の基礎
 ・火曜日: 1時限目=呪文詠唱の基礎、3時限目=調合の基本
 ・水曜日: 1時限目=魔術の歴史(基礎編)、3時限目=美術入門
 ・木曜日: 1時限目=魔力操作初級、3時限目=工芸入門
 ・金曜日: 1時限目=魔術発動体の基礎知識、3時限目=商業簿記入門
 ・土曜日: 1時限目=スノーデン王国史初級、2時限目=神学入門、4時限目=万能科学総論

 1時限目は午前8時から9時50分まで、2時限目は10時から、3時限目は午後1時から、4時限目は午後3時から4時50分までという時間割であった。

 どうやら「体が汚れる」実技の講義は午後に配置するよう配慮されているようだった。

 月曜日から土曜日まで講義を配置した結果、ステファノの履修科目は全部で13科目になった。
 学位修了単位にカウントされる専門科目は5単位とかなり控えめである。

「少なめだけど仕方ないね。何しろすべての学科で初心者なんだから」

 焦っても仕方がない。学校というものを知らない自分は、1学期を使ってまず学校に慣れる所から始めようと、ステファノは開き直った。

 履修科目の登録用紙を埋めていると時刻が夕方5時になった。ステファノは、2階にある部屋を出て1階のロビーに移動し、スールーたちを待つことにした。

 朝の内や昼前後はロビーで待ち合わせや談笑をする生徒の姿がちらほら見られる。しかし、午後も夕方になるとロビーにたむろしている人影はまばらであった。

 わかりやすいようにとステファノは玄関入り口に近い側のソファに座って、スールーたちを待った。
 もちろんイドの繭を纏っている。

「何もしなくても良い」休憩時間は、「虹の王ナーガ」の型を練習するのに持って来いであった。

 橙+橙の「り」の型で強力な「火球」を生み出せることがわかった。明日からはドーリーの指導を受けながら、「威力」を制御する訓練を行おう。

 その他の「同色揃えモノトーン」についても型の研究を優先的に行おうと、ステファノは考えていた。

(同じ色を揃えると術の威力は強まるんだな。それを制御できるようになれば、「2色混合ツートーン」の型も自然と使いこなせるようになるだろう)

 そうステファノは期待していた。

「い」の型、赤+赤は「赤の外」で「熱」魔法であった。
 紫+紫の「ん」は「虹の王」そのものの構えである。残るモノトーンは4種類。
 
「れ」の型である黄+黄は「純粋な雷魔法」と考えて良いだろう。それなら2匹の蛇が絡み合う「ヘルメスの杖」を当てはめるのがイメージとして丁度良い。
 2匹の蛇が逆向きの「波」として共に進む。ステファノは知らなかったが、それを科学は「2相交流」と呼ぶ。

 山と谷が逆向きになることにより、電圧は単独の時の2倍となる。導電ロープ「朽ち縄」を固めた杖に2匹の雷蛇らいじゃが絡みつくイメージを、ステファノは「ヘルメスの杖」とした。
「雷魔術とは本来接触した相手に使うもの」というドリーの言葉はステファノのイメージに影響を与えた。

 ステファノの中では「ヘルメスの杖」は相手に突きつけて使う接触型の武器となった。

「う」の型、緑+緑は「水魔法」の極致である。「外法」のイデア「津波」を呼んでしまったことのあるステファノであったが、ここでは「ありうべき因果」を誘導して術とすることを考える。

 空気中には至るところに「水」がある。冷やせば「液体」となって「結露」する。グラスについた水滴がそれだ。
 ならば「水魔法」とは「冷却魔法」に他ならない。空気を冷やし「水」を得て、尚それを冷やせば「氷」となる。

 ステファノが目指す魔法は「不殺の術」。モノトーンの緑は凍らせて相手を「縛る」術となる。

氷獄コキュートス

 そのイメージをステファノはイドに記録した。

「ふ」の型、青+青のモノトーンは「土魔法」の極致である。すなわち両手の「引力」で敵を縛る。
 仮想の2つの半球の内部に敵を封じれば、内部の引力は全方向について均等となり、結果「無重力」を得る。

 重力なき空間に敵を閉じ込めて無力化する「空の檻スフィア」をステファノは構想した。

「め」の型、藍+藍は「風魔法」のモノトーンである。「風」とは気圧の差による大気の動きだ。「負圧」の半球2つで敵を囲めば、大気は常に外側に引かれ敵から遠ざかる風となる。
 その中では呼吸はできず、敵は意識を失うだろう。

無風陣スタシス

 かつてヨシズミに与えられた「風魔法のカウンター」という課題に対して、ステファノは風を止める無風陣を答えとした。

 モノトーンの型はイメージが固まっただけで、まだ使えるかどうかわからない。しかし、両手に属性を持たせてイデアを誘導するという方法論はステファノに違和感を抱かせない。
 違和感なきイメージは魔法の成功に欠かせない要素であり、それだけでも術の成功に大きく近づいたと言えた。

 「い」、「り」、「れ」、「う」、「ふ」、「め」、「ん」。

 7つの文字が7つの型と結びつくよう、ステファノは繰り返し脳裏で「文字」と「色」そして「イデア」をイメージする。

 どの文字でも瞬時にインデックスを呼び出せるほど、型を我が物としたところにスールーとサントスが帰って来た。

「お帰りなさい」

 ステファノは立ち上がって挨拶した。下級生としてはこのくらいは当たり前であろう。
 
「うおお、びっくりした。僕たちはそういうのに慣れていないんだよ」
「ムズムズするが、悪くはない。中型犬にお尻の匂いを嗅がれた時みたい」
「サントスさん、ちょっと残念です」

 少し距離を置いた方が良いのかもしれないと、ステファノは警戒心を抱いた。

「まあまあ、座ろうか。せっかく待っていてくれたんだし」
「お尻がムズムズするし」
「それは気の迷いでしょう」
 
 3人はロビーのソファーに腰を下ろして、顔を見合わせた。
 半日ぶりの対面ではあったが、スールーはステファノの心境に変化があったことを目敏く読み取った。

「何かあったのかな? 大人の階段を上った?」
「何言ってるか、わかりませんが……」
「今朝の君より落ちついて見えるね。何があったか、お姉さんに話してごらん?」

 スールーに詰め寄られて、ステファノは魔術訓練所での1件について、核心をぼかしながら打ち明けることにした。

「午後に魔術訓練所を見学して、ドリーさんという係員とお話したんです」
「むむ。彼女がタイプだったか……。強めのおねえが好みだったんだね?」
「それは置いといて、田舎で覚えた癖のある魔術を矯正してもらうことになりました」

 ステファノは大分説明を端折はしょったが、言っていることは嘘ではない。
 「田舎で覚えた魔術」であるし、「癖が強い」のも間違いない。矯正の内容は「威力を絞ること」であるが、そこまでは言う必要がない。

「時間が許せば、毎日夕方訓練場が閉まってから指導してくれることになったんです」
「お、お姉さまと1対1で手取り足取りかい?」
「魔術の指導で、どうやったら手取り足取りになるのかわかりませんが」
「そこは、気がついたらそんなことになっていたりするんじゃないのか?」

 どうやらスールーには妄想癖があるようだった。

「ドリーさん、滅茶苦茶強そうなので無理だと思いますよ?」
「うん。告白したら殴られた」
「えっ?」

 なんと、サントスは「勇者」だった。

「正確には右手によるビンタ。『ご褒美』として悪くはなかった」

 私生活面では一線を画そう。ステファノはサントスとのつき合い方を心に決めた。

「先輩たちからはチームへのお誘いを頂いたので、俺の『事情』としてお話しました。ですが、他の人には内緒にしてください。いろいろ面倒なことになりそうですので」
「そうだな。ドリーさんの個人授業と言っただけで、5人や10人は君を刺しに来るかもしれない」
「15人はいける」

 ますます秘密を守る理由が強くなった。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第173話 スールーとサントス、世紀の大発明。」

「大発明ですか?」

 ステファノも思わず声を抑える。

「ああ。世の中を根底からひっくり返すような大発明だ」
「びっくり発明だ」
「俺が聞いても大丈夫なんですか?」

 本当だとすれば重大な秘密だ。まだ仲間になるかどうかも決まっていない自分が聞いてしまっても良いのだろうかと、ステファノは心配になった。

「大丈夫だ。まだ見当もついていないから」
「影も形もない」
「えぇ~?」
  
 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...