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第3章 魔術覚醒編
第140話 旅での修行。魔力の起こりを捉えて返せ。
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ヨシズミは旅の道中をステファノの修業に充てるつもりでサポリを出て来た。実際初日はそのように時間を費やした。
歩きながら隠形を行い、観相の訓練をする。夕方から早めに野営し、薪を囲んで套路の修練、イドの盾の修練、両手からの魔法発動、そして雷魔法「朽ち縄」の鍛錬を行った。
夜目の利く2人にとって、夜は貴重な訓練時間であった。
套路の修練時には小石を拾って、ヨシズミが投げつけた。ある時はイドを纏わせ、ある時は魔法を掛ける。
それを観相で観定めてはステファノが巻き落とし、受け流す。
魔法については打ち消し、あるいは逆位相に撃ち返す。仕損じれば怪我をするので、礫の威力はイドの鎧で止められるレベルの物にしてあった。それでも狼を打ち倒せるほどの威力だったらしいが。
戦いのことをよく知らないステファノであったが、修練を重ねるにつれ、ヨシズミの実力は礫術だけでも数十人の兵士を相手取れるのではないかと思えた。
魔法を打ち消すことは慣れればさほど難しくなかったが、「逆位相」に撃ち返すのは困難だった。ヨシズミが与えたこの課題では飛んでくる礫に掛けられた魔法を見破り、それを逆転して相手に返さなければならない。
すなわち「火魔法」が掛けられていれば「氷魔法」で返し、「土魔法」であれば逆方向の引力を与える。「水魔法」には「乾燥」を返し、「風魔法」には「無風」を、そして「雷」には……。
「痛たたたた……!」
ステファノは雷魔法を返し損ねて手を痺れさせた。イドの盾がなければ大やけどを負うところであった。
「見極めが遅かッペ」
「いや、でも雷は速いですよ」
「そりゃァそうだッペ。来てから撃ち返そうッたって間に合いッコあンめェ」
魔力の起こり、すなわちイデアの呼び出しを感知してカウンターを撃てというのがヨシズミの教えであった。
そうは言っても、いざそうしようとするとヨシズミのイデア起動が速すぎてついていけないのだ。
「おめェのインデックスとおンなじで、いつも使う術には印サつけてあッからナ」
「それだけじゃありませんよ」
ヨシズミは雷の陰と陽を打ち分けるのだ。すなわち電荷のプラスとマイナスである。
これを読み違えてカウンターを取ろうとすると、猛烈な勢いで雷を引き込んでしまう。
ステファノが苦しんでいるのはこの陰陽の見極めであった。
「陰陽はイデアを呼び出す時に決まってんだァ。手の形見てじゃんけんすんのとおんなじことだッペ」
「それが難しいんです……」
動体視力が良ければ、相手の出すじゃんけんを見極めることは可能だ。だが、瞬時に「それに勝てる手」を作るのは思ったより難しい。それと似たようなことがステファノの脳内で起きていた。
そして風魔法の「無風」というカウンターも曲者であった。
「『無風』といっても『凪』ではないですもんね」
「当たり前ダ。『凪』サ返したって、攻撃にはなンめェ?」
「空気を止めるって難しいですよ」
ヨシズミの与えたお題は「空気を止めること」であった。つまり「動かない空気」の塊を作ることである。
これを行えば、相手は呼吸ができない。空気を吸おうと肺を膨らませても同じ力で大気が引っ張り返してくることになる。
「難しく考えすぎッと手が出なくなッペ。範囲を決めて適当に『負圧』にしてやるくらいでいかッペ」
敵の周りの大気圧を1気圧より下げてやれば、口を開けても空気は入って行かない。
「けンど、気をつけろヨ? やりすぎッと内臓破裂すッカンナ?」
「怖いこと言わないで下さい!」
釣り上げた深海魚のようなことが起こりえるのだ。
「使わねェのと使えねェのとは違うかンナ。おめェが使わなくとも相手が仕掛けて来ッかもしんねェ」
その時に慌てないように、そういう技があることを知り、咄嗟に使えるようにしておくことが大切だと言う。
そして最後の課題が「光魔法」のカウンターであった。光魔法に対しては「土魔法」で対抗しろと言われた。
「土魔法が光魔法に効く理屈がわかりません」
ステファノは素直に理解が及ばないことを吐露した。
「そりャそうだッペナ。詳しい理屈はわかんネくてイイ。強い『引力』は光でも引っぱり込んじまうってことだけ知っとけばいいンダ」
「引っ張り込んだら反射するんじゃないんですか?」
「極端に強い引力は時空を歪ませンノ。時の流れが遅くなったら光だって先に進めなくなッペ?」
「そんなに強い引力を呼び出したら危険ですよね?」
「だから、直接引力を呼び出すンでなくてその結果だけ取り出すンダ。相手の光も呼び出したもンだッペ? その分だけ光サ引き込む因果を持って来ればいいんダワ」
「そもそも光魔法で攻撃をされることってあるんですか?」
ステファノはそれも疑問であった。眩しいだけで、他の魔法ほど決め手にならないのではないか?
「相手が普通の魔術師だったらそうだッペナ。眩しくてちかちかするくれェで収まっぺ。したけど、目が焼けるほどの光サ出されたら危ねぇど」
「それは確かに……」
「それとな。敵が『禁術』サ使って来るかもしンねェ」
「『紫の外』ですか?」
「そッダ」
UV光だけでなく、放射線を使われたら遮光しても防げない。ましてや宇宙線を使う術者がいたら……。
「この世界の人間ではあり得ねぇと思うけンど、オレみてェな『迷い人』がいたらナ……」
「『禁術』を使ってくるかもしれないと……」
「そういうこッタ。用心しとくに越したこたァねェ」
目に見えない光を咄嗟に防げるか? それには確かに「魔力の起こり」であるイデアの発動を捉える必要があった。
それはすべての武道に通じる極意なのかもしれない。マルチェルも技の起こりを察知して攻撃をかわすと言っていた。
それもこれも「観相」のテーマであった。結局すべては「観る」ことに帰って来る。
「観て考える者」、それが自分なのであろうとステファノは納得した。
◆◆◆
初日の夜はそんな風に考えるべきことがたくさんあった。が、2日めは病人騒ぎに巻き込まれて修行どころではなくなってしまった。
何よりもステファノの精神が疲れ果て、イドを働かせられる状態ではなかったのだ。
「今日は大変な思いサしたナ。修業は一旦休みにすッペ」
魔法が使えないステファノは薪を拾い、普通に火を起こした。干し肉と乾燥野菜でスープを作り、パンをあぶって夕食にした。
「さすがに飯屋のせがれだナ。魔法がなくても、手際がいいワ」
「師匠はこの世界に来る前、どんな仕事をしていたんですか?」
「俺か? 俺は『魔法取締官』ってのをやってたんだァ」
ヨシズミはスープを啜りながら言った。
「それはどんな仕事でしょう?」
「一言で言ったら、魔法の悪用を取り締まる役人だナ。先ず魔法サ喧嘩に使ったら一発で逮捕だカラ」
「逮捕」とは犯人を捕縛することだと、ヨシズミはステファノに説明した。
「もちろん盗みも、詐欺に使うのも罪になる。それから『因果律乱用罪』ナ?」
数日前までのステファノがやろうとしていた「その場に存在しえない因果の再現」は禁止行為として犯せば罪になる。
「それから『禁術行使罪』だナ」
「『紫の外』ですか?」
「ああ、そうダ。他にもあッけド、おめェに教えンのはまだ早ぇナ」
初心者は知らぬ方が良い術もあるのだと言う。
「その『魔法取締官』は危険な職業ではないんですか?」
「うん、危険がないこともねェナ。街の衛兵と似たようなもんだッペ。犯人サ取り押さえることもあったナ」
一般人ならまだしも、プロの犯罪者が相手の時は恐ろしいと言う。因果律を無視したり、禁術を行使して来られると対応が難しい。
その経験から、ステファノに早い内から「カウンター」のやり方を教えているのだった。
「したけど、大方の場合は素人相手ダ。『隠形』サしっかりやっといて不意を突けば、危ねェこともなかったヨ」
ヨシズミが「神隠し」に遭ったのは、犯罪組織と対決している最中であった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第141話 ステファノは雷魔法「牛角」を得た。」
型の終盤、蹴りから受け、払い、撃ち、受け流し、投げと変化する場面で目まぐるしくイドの盾を変化させながら、ステファノは空中に雷気を蓄えた。
今回は、火と水のイデアに加え、風のイデアで渦の動きを加えてみる。
風を使うと、なぜか「牛」のイメージが頭に閃く。仕方がないので、「牛角」という名をインデックスに刻んだ。
両手の盾を雷雲に変化させ、氷の粒に頭上で起こした雷気を移す。バチバチと音を立てながら何本ものアークが空中と両手の間で禍々しく光った。
……
◆お楽しみに。
歩きながら隠形を行い、観相の訓練をする。夕方から早めに野営し、薪を囲んで套路の修練、イドの盾の修練、両手からの魔法発動、そして雷魔法「朽ち縄」の鍛錬を行った。
夜目の利く2人にとって、夜は貴重な訓練時間であった。
套路の修練時には小石を拾って、ヨシズミが投げつけた。ある時はイドを纏わせ、ある時は魔法を掛ける。
それを観相で観定めてはステファノが巻き落とし、受け流す。
魔法については打ち消し、あるいは逆位相に撃ち返す。仕損じれば怪我をするので、礫の威力はイドの鎧で止められるレベルの物にしてあった。それでも狼を打ち倒せるほどの威力だったらしいが。
戦いのことをよく知らないステファノであったが、修練を重ねるにつれ、ヨシズミの実力は礫術だけでも数十人の兵士を相手取れるのではないかと思えた。
魔法を打ち消すことは慣れればさほど難しくなかったが、「逆位相」に撃ち返すのは困難だった。ヨシズミが与えたこの課題では飛んでくる礫に掛けられた魔法を見破り、それを逆転して相手に返さなければならない。
すなわち「火魔法」が掛けられていれば「氷魔法」で返し、「土魔法」であれば逆方向の引力を与える。「水魔法」には「乾燥」を返し、「風魔法」には「無風」を、そして「雷」には……。
「痛たたたた……!」
ステファノは雷魔法を返し損ねて手を痺れさせた。イドの盾がなければ大やけどを負うところであった。
「見極めが遅かッペ」
「いや、でも雷は速いですよ」
「そりゃァそうだッペ。来てから撃ち返そうッたって間に合いッコあンめェ」
魔力の起こり、すなわちイデアの呼び出しを感知してカウンターを撃てというのがヨシズミの教えであった。
そうは言っても、いざそうしようとするとヨシズミのイデア起動が速すぎてついていけないのだ。
「おめェのインデックスとおンなじで、いつも使う術には印サつけてあッからナ」
「それだけじゃありませんよ」
ヨシズミは雷の陰と陽を打ち分けるのだ。すなわち電荷のプラスとマイナスである。
これを読み違えてカウンターを取ろうとすると、猛烈な勢いで雷を引き込んでしまう。
ステファノが苦しんでいるのはこの陰陽の見極めであった。
「陰陽はイデアを呼び出す時に決まってんだァ。手の形見てじゃんけんすんのとおんなじことだッペ」
「それが難しいんです……」
動体視力が良ければ、相手の出すじゃんけんを見極めることは可能だ。だが、瞬時に「それに勝てる手」を作るのは思ったより難しい。それと似たようなことがステファノの脳内で起きていた。
そして風魔法の「無風」というカウンターも曲者であった。
「『無風』といっても『凪』ではないですもんね」
「当たり前ダ。『凪』サ返したって、攻撃にはなンめェ?」
「空気を止めるって難しいですよ」
ヨシズミの与えたお題は「空気を止めること」であった。つまり「動かない空気」の塊を作ることである。
これを行えば、相手は呼吸ができない。空気を吸おうと肺を膨らませても同じ力で大気が引っ張り返してくることになる。
「難しく考えすぎッと手が出なくなッペ。範囲を決めて適当に『負圧』にしてやるくらいでいかッペ」
敵の周りの大気圧を1気圧より下げてやれば、口を開けても空気は入って行かない。
「けンど、気をつけろヨ? やりすぎッと内臓破裂すッカンナ?」
「怖いこと言わないで下さい!」
釣り上げた深海魚のようなことが起こりえるのだ。
「使わねェのと使えねェのとは違うかンナ。おめェが使わなくとも相手が仕掛けて来ッかもしんねェ」
その時に慌てないように、そういう技があることを知り、咄嗟に使えるようにしておくことが大切だと言う。
そして最後の課題が「光魔法」のカウンターであった。光魔法に対しては「土魔法」で対抗しろと言われた。
「土魔法が光魔法に効く理屈がわかりません」
ステファノは素直に理解が及ばないことを吐露した。
「そりャそうだッペナ。詳しい理屈はわかんネくてイイ。強い『引力』は光でも引っぱり込んじまうってことだけ知っとけばいいンダ」
「引っ張り込んだら反射するんじゃないんですか?」
「極端に強い引力は時空を歪ませンノ。時の流れが遅くなったら光だって先に進めなくなッペ?」
「そんなに強い引力を呼び出したら危険ですよね?」
「だから、直接引力を呼び出すンでなくてその結果だけ取り出すンダ。相手の光も呼び出したもンだッペ? その分だけ光サ引き込む因果を持って来ればいいんダワ」
「そもそも光魔法で攻撃をされることってあるんですか?」
ステファノはそれも疑問であった。眩しいだけで、他の魔法ほど決め手にならないのではないか?
「相手が普通の魔術師だったらそうだッペナ。眩しくてちかちかするくれェで収まっぺ。したけど、目が焼けるほどの光サ出されたら危ねぇど」
「それは確かに……」
「それとな。敵が『禁術』サ使って来るかもしンねェ」
「『紫の外』ですか?」
「そッダ」
UV光だけでなく、放射線を使われたら遮光しても防げない。ましてや宇宙線を使う術者がいたら……。
「この世界の人間ではあり得ねぇと思うけンど、オレみてェな『迷い人』がいたらナ……」
「『禁術』を使ってくるかもしれないと……」
「そういうこッタ。用心しとくに越したこたァねェ」
目に見えない光を咄嗟に防げるか? それには確かに「魔力の起こり」であるイデアの発動を捉える必要があった。
それはすべての武道に通じる極意なのかもしれない。マルチェルも技の起こりを察知して攻撃をかわすと言っていた。
それもこれも「観相」のテーマであった。結局すべては「観る」ことに帰って来る。
「観て考える者」、それが自分なのであろうとステファノは納得した。
◆◆◆
初日の夜はそんな風に考えるべきことがたくさんあった。が、2日めは病人騒ぎに巻き込まれて修行どころではなくなってしまった。
何よりもステファノの精神が疲れ果て、イドを働かせられる状態ではなかったのだ。
「今日は大変な思いサしたナ。修業は一旦休みにすッペ」
魔法が使えないステファノは薪を拾い、普通に火を起こした。干し肉と乾燥野菜でスープを作り、パンをあぶって夕食にした。
「さすがに飯屋のせがれだナ。魔法がなくても、手際がいいワ」
「師匠はこの世界に来る前、どんな仕事をしていたんですか?」
「俺か? 俺は『魔法取締官』ってのをやってたんだァ」
ヨシズミはスープを啜りながら言った。
「それはどんな仕事でしょう?」
「一言で言ったら、魔法の悪用を取り締まる役人だナ。先ず魔法サ喧嘩に使ったら一発で逮捕だカラ」
「逮捕」とは犯人を捕縛することだと、ヨシズミはステファノに説明した。
「もちろん盗みも、詐欺に使うのも罪になる。それから『因果律乱用罪』ナ?」
数日前までのステファノがやろうとしていた「その場に存在しえない因果の再現」は禁止行為として犯せば罪になる。
「それから『禁術行使罪』だナ」
「『紫の外』ですか?」
「ああ、そうダ。他にもあッけド、おめェに教えンのはまだ早ぇナ」
初心者は知らぬ方が良い術もあるのだと言う。
「その『魔法取締官』は危険な職業ではないんですか?」
「うん、危険がないこともねェナ。街の衛兵と似たようなもんだッペ。犯人サ取り押さえることもあったナ」
一般人ならまだしも、プロの犯罪者が相手の時は恐ろしいと言う。因果律を無視したり、禁術を行使して来られると対応が難しい。
その経験から、ステファノに早い内から「カウンター」のやり方を教えているのだった。
「したけど、大方の場合は素人相手ダ。『隠形』サしっかりやっといて不意を突けば、危ねェこともなかったヨ」
ヨシズミが「神隠し」に遭ったのは、犯罪組織と対決している最中であった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第141話 ステファノは雷魔法「牛角」を得た。」
型の終盤、蹴りから受け、払い、撃ち、受け流し、投げと変化する場面で目まぐるしくイドの盾を変化させながら、ステファノは空中に雷気を蓄えた。
今回は、火と水のイデアに加え、風のイデアで渦の動きを加えてみる。
風を使うと、なぜか「牛」のイメージが頭に閃く。仕方がないので、「牛角」という名をインデックスに刻んだ。
両手の盾を雷雲に変化させ、氷の粒に頭上で起こした雷気を移す。バチバチと音を立てながら何本ものアークが空中と両手の間で禍々しく光った。
……
◆お楽しみに。
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