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第3章 魔術覚醒編
第130話 ステファノは瞑想によりイドの制御に至らんとす。
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それは突然の知らせだった。
「なあ。俺、明後日村出るわ」
「は? 何言ってんの?」
この異世界に転生してから、8年。
ずっと一緒に過ごして来た、まさとさんが村を出ると言った。
たしかに、アルソン村の様な田舎では15歳になると成人扱いされる。
実際、王国で定められた年齢は17歳だから、制限はつくけど。
高校生だった僕は、通り魔に刺されて死んだ。
あの時は、周囲に居た人達も斬りつけられていたから、もしかしたら他にも犠牲者は出ていたのかもしれない。
産まれて直ぐは理解出来なかったけど、目が見える様になってからは、異世界だと気付いた。
ファンタジー映画に出てきそうな妖精が飛んでいたり、不思議と文字が読めたり。
学校で流行ってた“異世界転生”って言うのは、こういう事なんだろうなと。
ただ、運は僕に味方していた。
隣に住む一家に、同じ転生者が居たんだ!
しかも日本人の。
どれだけ救われたか。年齢にそぐわない行動や言動も、常識や文化の違いに戸惑う自分も。全部まさとさんは、僕より先に体験していて、僕が困らない様に助けてくれた。
彼は直ぐに僕の憧れになった。
だから、言葉が上手く発声出来ない時も、感謝や好意を伝えたくて、必至で声を出した。
そうしているうちに、僕等は親よりも一緒の時間を過ごす様になったんだ。
笑ったら右にだけ出来るエクボ。
困った様に眉毛を下げて笑う姿。
落ち着いたトーンで寄り添ってくれる声。
雪みたいに真っ白で、全然日焼けしない肌。
サラサラと絹糸の様に、頬に落ちてくる琥珀色の髪。
シャンパン色にキラキラ光る、おっとりした瞳。
手を繋ぐ度に、ほっそりした指が折れないかドキドキした。
全部全部、魅力的で。気付けば、僕は彼の虜だった。
人前では「ルーカス兄」と、兄の様に慕い。2人だけの時は「まさとさん」と、僕の甘ったるい気持ちを込めて、何度も呼んだ。
両親や村長は、再三王都の学校へ行かないかと勧めてきたけど、断り続けた。
だって村を出たら、まさとさんに会えない。
きっと彼はずっと村に居る。
知識が豊富で、優秀な彼を人々の目から隠すのは大変だったけど、大丈夫。
僕が目立ち続ければ良い。
誰も彼の凄さに気付かない。
まさとさんがどんどん自信をなくしていく姿は、気の毒だったけど、同時に安心した。
ーー何も出来ない。
そう思わせれば、外になんか出て行かない。
この村には、僕より魅力的な奴なんか居ない。
だから、まさとさんは絶対に僕を選ぶ。
そうなるはずだった。
なのに、なのにーーーー
「何でっ! 何で急にっ」
「何でって、この前15になっただろ?
だから村を出て行くんだ」
「別にココで暮らせば良いじゃん!」
「えー、だって田舎だし。
それに去年だって、薪割りオヤジのとこの息子が旅に出たろ。
そんなもんだって」
「ムリ。絶対嫌だ。
だいたい、まさとさんがどうやってココ以外で暮らすの。
そんなに外が見たいなら、僕が連れてってあげる。だから待って」
床に寝そべって、テキトーに返事をしながら本を読む姿に腹が立って、乱暴に本を取り上げた。
ちゃんと僕を見ろ!
「おい、何すんだよ。ったく。
あのなぁ。お前を待ってたら、あと7年も辛坊しなくちゃならねーんだぞ?
待てるかよ」
「じゃあ2年!
僕が10歳になるまで待って」
「はあ? 10歳で親元を離れたら危ないだろ。おばさんが悲しむから、やめなさい」
「…んで、なんでっ!
まさとさんは、僕と離れて平気なの?
僕を捨てるの!?」
ダメだ。こんな言い方しても、説得出来るわけないのに。
もっと彼が苦手に思ってる事を指摘しなきゃ。じゃないと。
「翔」
「えっ」
「いいか。お前はムカつくぐらい良く出来たヤツだ。
俺がなるはずだった、転生チートも全部持ってきやがって。
……だから、ちょっとは周りも見た方がいい。お前はすごいんだから。
俺ばっかりに執着しないで。な?」
「チートなら僕と一緒にいた方が良いじゃん。お金だって稼ぐ。まさとさんに贅沢させるよ。何もしなくて良い。隣にいてくれたら、それでーーー」
それで僕は幸せになれるのに。
「ごめんな。
明後日は盛大に見送ってもらう事になってんだ。お前もしっかり見送ってくれよ?」
うそつき。嘘つき嘘つき嘘つき!!!
「おはよう、テオドール」
「ミル……」
「あの人、今日出て行くんですってね。
今あちこち挨拶に回ってたわ」
「そう」
「ひどいクマだわ。寝てないの?」
「……」
あの日から、毎晩まさとさんと一緒に寝て、ずっと起きて見張ってた。
こっそり夜中に出て行くんじゃないかと思って。
「まあ、まだ時間もあるし、仮眠でもしたら? あとこれ、パパから。いつでも婿にきて良いからな、だって」
渡されたのは、この辺では滅多に手に入らない焼き菓子の詰め合わせ。
まさとさん、甘い物好きだから喜ぶだろうな。
そうだ。一緒に食べよう。呼んで来なくちゃ。
「何処へ行くの?」
「別に関係ないだろ」
「ダメよ。挨拶回りを邪魔しちゃ。
それに大事な話もあるの。来月の農作物の割当よ」
「そんなの村長に言ってくれ」
「村長なら、もうすぐ此処へ来るわ」
「は?」
「テオドールの家で会議する事になってるの。私は内容が分からないから、パパの手紙を渡して返事をもらうだけだけど。
貴方は必要よ。精霊についての話らしいから、テオドールが居なきゃ話にならないでしょ?」
「……くそっ」
断ったら、アルソン村は窮地に立たされる。そうなれば、まさとさんの両親が困ってしまう。
「じゃあ、よろしくね」
早く、まさとさんに会わなきゃ。
最悪、魔法を使ってでも阻止する。
彼が村に居ないなら、一切村の為に力を使わないと宣言しよう。
そうすれば、村の大人だけでなく、村長自らも動くはずだ。
やっと終わった。
出立時刻まで、あと1時間。
急がないとっ!
「おばさんっ! ルーカス兄はっ」
「あらいらっしゃい。
ごめんなさいねぇ。あの子ったら、急にお別れするのが寂しくなっちゃったみたいで。
2時間くらい前に出てったのよ」
「………ぇ」
「まったく、ご近所に謝りに行かなきゃいけないのは、私なのに。困った子よねぇ」
「うそつき」
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Amebloにて研究成果報告中。小説情報のほか、「超時空電脳生活」「超時空日常生活」「超時空電影生活」などお題は様々。https://ameblo.jp/hyper-space-lab
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