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第2章 魔術都市陰謀編
第85話 時間を稼げ。
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「こいつ、ネルソンの館であたしを見ていたに違いない」
「何だと?」
「ここから外に出す訳にはいかないね」
エバは鋭い目でむせ返るステファノを睨んだ。
「だがよ。ってことはネルソンはあれが俺たちの仕業だと知っているってことか?」
口入屋の顔色が変わった。
「何てこった! お前がこのやり方なら絶対バレないって言ったんだろうが?」
元締めの威厳はどこへやら、口入屋は唾を飛ばしてエバに詰め寄った。
「騒がないで頂戴。世の中に絶対なんて手口があるわけないだろう。バレちまったもんはしょうがない。早いこと身を隠すことだね。あたしは抜けさせてもらうよ」
そう言うと、エバは戸口に向かった。
「何だと? ふざけるな! 大金をはたいて雇ってやったんだ。勝手な真似はさせないぜ」
元締めに促されて、下っ端の男がエバとドアの間に先回りした。
「元締め、これは何の真似です? あたしはあんたの手下じゃない。仕事は終わったんだ。通してもらいますよ」
足を停めたエバは、険のある声で口入屋に文句をつけた。
「待て待て。言い方が悪かったようだ。ここでバラバラになったら、1人ずつ狙われるぜ。ここは力を合わせて助け合おうじゃないか」
「調子の良いことを言うのね。あたしを盾にするつもりだろう? その手は食わないよ」
エバは手に持った煙管を、下っ端の胸に突き立てて力を加えた。
「どきな。邪魔すると殺すよ」
この男も王子暗殺の陰謀に一役買った一員である。エバが殺しのプロであることは知っていた。
「元締め~」
下っ端はすっかり怯えて、元締めに助けを求めた。魔術師というのは何をするかわからない。
「くっ、クソッ。通してやれ!」
元締めは顔を背けて、言葉を吐き出した。
「その代わり、お前との縁もこれっきりだ、エバ。2度とこの街で仕事ができると思うなよ!」
振り返りもせずエバは戸口に向かい、ノブに手を掛けた。
「ふん。言われなくてもこの街とはおさらばするけど、あんたは生き残れるつもりかい?」
その言葉を捨て台詞に、エバは去って行った。
やり取りを聞きながらステファノは必死に考えていた。
どうやらこの口入屋は思慮の足りない人間だ。そうでなければネルソン商会の地元で王子暗殺の仕事を引き受けたりはしないだろう。ネルソンの背後にギルモア侯爵家がいることも知らないのではないか?
エバは自分が見張りをして毒風魔術を目撃したことを見破ったが、詳しい説明はしなかった。口入屋にははっきり伝わっていないのではないか? だったら、しらばっくれて時間を稼ぐことくらいはできそうだ。
マルチェルさんは金貸しジェドーを先に退治すると言っていた。そうなると、こちらへ助けに来てくれるのは早くても夜中か、明日になってからになるだろう。
夜まで長引かせれば何とかなる。夜まで生き残ることを目標にしよう。
ステファノはそう考えをまとめた。
目標があれば人間は頑張れる。
「このガキは一体どこまで知ってやがるんだ?」
エバがいなくなると、口入屋はもう一度ステファノから状況を聞き出せないかと思い直した。ネルソンは本当にエバが犯人であることを突き止めており、自分が依頼人であることを知っているのか?
「おい。痛い目に遭いたくなければ素直に吐け。お前は何を見たんだ?」
「な、何をって言われても……。エバさんを、み、見掛けただけなんで」
「とぼけるな! それが何でうちの店の前なんだ?」
エバが店を出る瞬間に、そこに通りかかる。そんな偶然がありうるか?
店を見張っていてエバを見つけたと考える方が、理に適っている。だが……。
「と、通りかかったらちょうどエバさんが表に出てきたんです」
馬鹿の一つ覚えのように、ステファノは繰り返す。怯えた演技も忘れない。馬鹿なのかもしれないと迷ってくれたら、時間が稼げるのだ。
「嘘を吐くな! エバが毒を使うところを見たんだろう?」
口入屋はいらだってステファノを怒鳴りつけた。
ここが勝負どころだ。ここを乗り切れれば夜まで頑張れると、ステファノは胸の内で思った。
「何だと?」
「ここから外に出す訳にはいかないね」
エバは鋭い目でむせ返るステファノを睨んだ。
「だがよ。ってことはネルソンはあれが俺たちの仕業だと知っているってことか?」
口入屋の顔色が変わった。
「何てこった! お前がこのやり方なら絶対バレないって言ったんだろうが?」
元締めの威厳はどこへやら、口入屋は唾を飛ばしてエバに詰め寄った。
「騒がないで頂戴。世の中に絶対なんて手口があるわけないだろう。バレちまったもんはしょうがない。早いこと身を隠すことだね。あたしは抜けさせてもらうよ」
そう言うと、エバは戸口に向かった。
「何だと? ふざけるな! 大金をはたいて雇ってやったんだ。勝手な真似はさせないぜ」
元締めに促されて、下っ端の男がエバとドアの間に先回りした。
「元締め、これは何の真似です? あたしはあんたの手下じゃない。仕事は終わったんだ。通してもらいますよ」
足を停めたエバは、険のある声で口入屋に文句をつけた。
「待て待て。言い方が悪かったようだ。ここでバラバラになったら、1人ずつ狙われるぜ。ここは力を合わせて助け合おうじゃないか」
「調子の良いことを言うのね。あたしを盾にするつもりだろう? その手は食わないよ」
エバは手に持った煙管を、下っ端の胸に突き立てて力を加えた。
「どきな。邪魔すると殺すよ」
この男も王子暗殺の陰謀に一役買った一員である。エバが殺しのプロであることは知っていた。
「元締め~」
下っ端はすっかり怯えて、元締めに助けを求めた。魔術師というのは何をするかわからない。
「くっ、クソッ。通してやれ!」
元締めは顔を背けて、言葉を吐き出した。
「その代わり、お前との縁もこれっきりだ、エバ。2度とこの街で仕事ができると思うなよ!」
振り返りもせずエバは戸口に向かい、ノブに手を掛けた。
「ふん。言われなくてもこの街とはおさらばするけど、あんたは生き残れるつもりかい?」
その言葉を捨て台詞に、エバは去って行った。
やり取りを聞きながらステファノは必死に考えていた。
どうやらこの口入屋は思慮の足りない人間だ。そうでなければネルソン商会の地元で王子暗殺の仕事を引き受けたりはしないだろう。ネルソンの背後にギルモア侯爵家がいることも知らないのではないか?
エバは自分が見張りをして毒風魔術を目撃したことを見破ったが、詳しい説明はしなかった。口入屋にははっきり伝わっていないのではないか? だったら、しらばっくれて時間を稼ぐことくらいはできそうだ。
マルチェルさんは金貸しジェドーを先に退治すると言っていた。そうなると、こちらへ助けに来てくれるのは早くても夜中か、明日になってからになるだろう。
夜まで長引かせれば何とかなる。夜まで生き残ることを目標にしよう。
ステファノはそう考えをまとめた。
目標があれば人間は頑張れる。
「このガキは一体どこまで知ってやがるんだ?」
エバがいなくなると、口入屋はもう一度ステファノから状況を聞き出せないかと思い直した。ネルソンは本当にエバが犯人であることを突き止めており、自分が依頼人であることを知っているのか?
「おい。痛い目に遭いたくなければ素直に吐け。お前は何を見たんだ?」
「な、何をって言われても……。エバさんを、み、見掛けただけなんで」
「とぼけるな! それが何でうちの店の前なんだ?」
エバが店を出る瞬間に、そこに通りかかる。そんな偶然がありうるか?
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「嘘を吐くな! エバが毒を使うところを見たんだろう?」
口入屋はいらだってステファノを怒鳴りつけた。
ここが勝負どころだ。ここを乗り切れれば夜まで頑張れると、ステファノは胸の内で思った。
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